
【Event6】12/2(日)
(京都での一夜は、バケツ頭の心境に変化を齎した。それはラビリンスの探索から便利バケツを遠のかせ、それまでもお喋りとは言えなかった口数をますます少なくさせた。理想の世界を訪れたとしてもマイ・ルームに閉じ籠るばかりが続いた冬の初め、探索に誘ったのは友の一人である。)アイリーン、急に誘ったのについてきてくれてありがとう。わたしは最近あまり探索に出ていなかったから、アイリーンがいてくれて心強い。(その言葉は真実であったけれど、遭遇したシャドウに相対した折、自身のペルソナであるチェーザレに攻撃命じる言も覇気に欠けるままだった。倒れたシャドウをぼんやりと見送り、漫然と歩みを進めようとした矢先にガクンと頽れる。足に力が入らない。バケツごと頭を鷲掴みにされたかのように頭が締め付けられる。やっとの思いで地から視線を上げれば、自身のペルソナがこちらを見ているのが分かった。 ペルソナが こちらを見ている?消えもせずに?どうしてと問いたくとも声にならない。下等な生き物見つめるような温度のない眼差しがこちらを見つめるうちに、どんどんと彼の輪郭がぼやけていく。初めは瞳に張った涙の膜のせいだと思ったが、そうではなかった。そうであればよかったのに。)ーッ!!(姿変えたチェーザレは、もはやバケツ越しにでも正視ができるものではなかった。ほとんど這うようにして一番近くの扉の中へ転がり込む。大理石のような聖職者の顔が変化したのは、いつものように柔らかな笑み浮かべた青年の姿。真新しい制服身に纏った鵜飼倫央の姿だった。)
* 8/31(Sat) 23:47 * No.221
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(扉を閉ざそうとも俺には関係ないのに、なんて馬鹿なバケツだろう。返事がなかろうと容赦なく開け放つ扉をゆっくりと3回叩いたのは、哀れなバケツ頭へのせめてもの慈悲であった。これから自分によってお前は罰せられると、そうバケツに宣告する音が教会の鐘のように響く。ゆっくりと扉を開き、わざと足音立てて歩み寄りつつ自分がとうの昔に通り過ぎた背丈した囚人を見つめる。は、と乾いた笑いが漏れた。)そのご大層な被り物越しに見る世界はどうだった?仲間からは奇異の目で見られたか?人に好かれないためにバケツを被るなんて!!愚かな父と母から生まれたお前らしい浅知恵だな。それとも、仲間に嫌われたくはないお前の狡さがそうさせたのか?お前がどのように生まれてきたかを仲間に教えた方が、誰からも好かれずに済むだろうに。(影がバケツ頭の愚かしさをせせら笑い、蹲り首を振る小さな姿を冷たく見据える。現実の鵜飼倫央が決して人前で見せることのない表情だった。そのくせ、しゃがみ込んでまだ何も分からぬ子どもをあやすようにバケツ撫でる手はゆっくりで、いっそ優しいと言ってもいいぐらいの手つきである。)
* 8/31(Sat) 23:48 * No.222
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いいのよぉ、お誘いしてくれてお姉ちゃんとっても嬉しいわっ。ジャガちゃんと一緒に探索っていうのもなんだか久々ね!(――もう一人の自分を改めて受け入れて以降は、なんだか境界が曖昧になるような心地さえあった。しかし仲間の前では変わらず明々たる笑みを振り撒く。この場所に自身の身の上と感情ひとつで亀裂など入れられない。それよりも久々にエントランスに姿を見せた仲間との同行を喜ぶのも本懐であるが、戦闘に入ってもやはり精彩に欠いた様相は否めず。自身のペルソナを下げ、休むべきではないかと提言しようとした、その時。)ジャガちゃん!?(突如頽れる仲間に駆け寄り、その身を支えようと伸ばした手がぴたりと留まる。正面で蠢く気配を感じ、咄嗟に僅かに前に出ようとして――時が止まる。よくよく知った姿がそこにある衝撃に、駆けだした仲間に、声も失せたまま心を置き去りにされた数拍分の間を経てはたと我に返り、動かない足に鞭を打ってその後を追った。あれは、シャドウだ。であれば何を目的とするかは自明。ならば追いかけたその先で、蹲る仲間とそこへ触れる姿を見止めたならば、為すべきはひとつである筈だった。けれど、手を掲げても、再度ペルソナを呼び出そうとしても、声が出ないまま。だって、あの姿は、)……ッ、そ、の子に近付かないで!!(――傷付けられない。傷付けたくない。手元に現した武器を構え、弓を引き絞る。されど威嚇としてその脳天に狙い定めたこの一矢を、きっと打つことなど出来やしない。)……鵜飼、なの……?(柔く高いはしゃぎ声の面影もなく、微かな硬質さを伴ったその声は、現実の少女のトーンだった。)
* 9/1(Sun) 17:14 * No.224
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(バケツを撫でる手が持ち手に下り、つるりとした金属に隠されたものを暴き立てようとしたところで動きが止まる。立ち上がり、侵入者へと向き直る。矢が狙う先が己に向かおうとも気に留めず、まるで道端で知人に声かけられたような明朗さをもって挨拶が紡がれる。)こんにちは、アイリーン。俺たちがこんな所で遭うなんて珍しいね。そう、鵜飼だよ。君の 君たちの友人の鵜飼倫央だ。(胸に手を当てての仰々しい礼はかつて友と訪れた動物園でしたものと同じ。道路を汚すゴミ屑のように地に転がるバケツを一瞥し、にこやかに口を開く。)ちょうどいい、この嘘つきが本当はどんなやつかをお友達に教えてあげよう。(捨て置かれたバケツから弱々しい声が漏れる。影の足に縋り付くその姿は惨めなもので、恵まれた体躯を持たぬ理想世界の姿では到底青年を止められやしない。どころか、ゴール目掛けてボール蹴り込むような仕草であえなく壁に叩きつけられることになった。壁を背につけたままずるずると座り込むローブ姿に嘲りに満ちた視線やり、今宵の聞き手を見つめて口開く。話し始めはほとんど囁きに近い。)俺の母が俺を産んだのは十七のときだ。母を孕ませた相手は誰だと思う?不惑をとうに過ぎた妻子持ちの男だ。その上、聖職者とも呼ばれる職業に就いていた。 教師だったんだよ。その碌でなしは二度子を孕ませた。一度は十八年前、もう一度は八年前だ。己の立場も顧みず、肉欲に溺れる浅ましい獣とそれを十年以上にわたって受け入れる愚かな淫売が交わって生まれたのがこいつで、俺だ。(声量はどんどんと大きくなり、今ではもう小部屋中に響き渡るほどだ。芝居がかった仕草で両手を広げる。)これだけではまだ何故こいつがバケツ頭でいるのか分からないだろう。どうするアイリーン?このまま続きを聞くか?
* 9/1(Sun) 23:12 * No.227
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(顔貌を隠し、表情を悟らせないために被ったバケツにゆっくりと触れられているのを感じる。影が己を詰る声がバケツ中にガンガンと響く。いよいよ顔を暴かれそうになったそのとき、影の手がするすると離れていくのを感じる。天気のいい午後に友達に出くわしたみたいな挨拶は、バケツ頭をひどく恐慌させた。)……お願いだ、やめて………何も話さないで……(啜り泣き混じりの懇願も虚しく、気付けばふわりと身体が浮いた。金属が硬いものに当たって大きな音立て、もはや身体のどこが痛むのかも分からない。首元の布地が涙でとめどなく濡れていくのを感じながら、もはや小さなバケツ頭には影を止める術は見つからなかった。自らの生い立ちについて語られるのをどこか遠い国の出来事のように聞く。影が己に成り代わろうと、それすらもどうでもよいことのように思われた。)
* 9/1(Sun) 23:14 * No.228
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(――あの夜が蘇る。最後にはふたりで笑い合って、穏やかで、あたたかな記憶で塗り替えた一夜。だというのに思い起こすは体温の褪せていくような、あの瞬間。朗らかな声に手向けられる挨拶へ返せよう筈もなかった。よく知る姿。よくよく知る声。ならば、今、ここに居る仲間は。自然とその足元へと下がった瞳は、突如浮き上がり壁へと叩きつけられた身体によって見開かれる。)いや……ッ!ジャガちゃん!!(強張った声が鋭い悲鳴へと変わった。痛ましい姿なんて構わず好きに話し始める影により、瞠目する此方を他所に語って聞かされることとなろう。彼の出自。彼の家族。十個離れてるから、と過日に聞いた数字と合わさって、背筋に冷たい汗が流れる感覚があった。楽しく語られる兄妹の話の中に、思えば他の存在は殆ど混ざらなかった。朗々と響く声が途切れた後、今はただ、静かに武器をおろす。)……、この子が、話す必要はないと思っていることを、わたしが知る必要はないわ。(当人とは異なるものであると知っていても。仲間を害する光景を目しても。今や深く刻まれた親愛の情が判断を濁らせそうになる。視線を合わせずその傍らを通り過ぎて、仲間の傍へと歩みを寄せた。此方からは判別出来ない目線を合わせようと屈んで、それから。――どうしてあげたらいいのかな。過日に迷子の幼子に抱いたのと、同じ想いがよぎる。)……ジャガちゃん。大丈夫、大丈夫よ。怪我はなぁい?(努めてやわらげた声を降らせよう。濡れた首元を見遣る。便利なバケツだと思っていたが、涙さえ隠してしまって拭えもしない。案じる掌は、その身を支えようとおずおずと伸ばされた。)
* 9/2(Mon) 14:10 * No.230
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(共に戦ってきた仲間であれば、とりわけ皆の姉である彼女であればこちらを気遣う仕草は当然だろう。それなのに自分が特別に心配され、心寄せられているような思い上がり覚えそうになる。持つべきでないその感情は、バケツ頭を恐怖させた。何かを言わなければ優しい彼女はここにとどまってしまう。なんとか大丈夫であると示さなければ。バケツの縁から小さな手を入れて涙を拭い、歯の根が合わぬまま話し出す。時折鼻を啜る音で言葉は遮られた。)大丈夫、わたしは一人で大丈夫だから、アイリーンは 佐々礼は あいつの言うことを聞かないで。わたしは次に俺が何を言うのか分かる……、 だから、わたしのことはもう放っておいて。これまでもこれからも、わたしは一人で大丈夫だから。(身を支えようとする手をやんわりと押しのけ、一人で立ってみせる。ふらふらと頼りなげな足取りで影と向き合う。仲間に心配をかけないよう現実世界でのいつも通りににこやかな笑みを向けたつもりだが、それは便利なバケツに遮られ、彼女にはおそらく届かないだろう。)
* 9/3(Tue) 23:58 * No.236
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ふうん。つまらないの。(拒絶を聞き、影は途端に平坦な表情になる。道端に転がる石ころ蹴飛ばすような仕草をしつつ、身体の向きと話の矛先は立っているのがやっとの様子のバケツ頭へと向かう。)お前の仲間はお前がどんなやつかそれほど興味がないらしいね。そりゃそうか、ずっと顔を隠して本心も見せない仲間なんて、所詮そこまでの関係だよな。嘘つきに本当の仲間なんてできるはずがないもの。こんなふうに中途半端に秘密を明かしてそれ以上何も語らず、その後も何事もなかったかのように仲間に混ざるなんて裏切り者と言ってもいい振る舞いだと思わないか?(バケツがたじろいだ後に弱々しく首振ろうとも影の糾弾は止まらない。)……思わないか。お前は人の好意を疎ましく思うような薄情者だから。一人が好きだと嘯いて、性愛の衝動性を軽蔑して、そのくせ人のことを好きになってしまいかかっているなんて浅ましいやつ。行動に一貫性がないのは親譲りの愚かしさか?(違う、違うと首振るバケツを鼻で笑い、次の言葉はバケツ頭と共にある彼女に向かって吐かれた。それまでの嘲るような口調と違い、ほとんど懺悔のようにそれは響いた。バケツ頭が息を呑む。)この可哀想な鵜飼倫央は、佐々礼笑子のことをほとんど愛しかかっているんだよ。親愛や友愛だけでなく、恋愛や性愛の意味でも。
* 9/4(Wed) 00:00 * No.237
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(手が押しのけられ面持ちは痛ましく歪む。屈んだ姿勢のまま動けずにいれば、今度は此方が立ち上がった相手を見上げる形となろうか。小さな身体は頼りなく、その姿に彼はどんな理想を託したのだろう。何も出来ず、仲間もまたろくな抵抗も出来ず、影の独壇場と化す中――再度此方へと向く言葉に眼を瞠る。愛と名のつく情動。いずれも肌身に感じるような機会は少なくて、けれど貴ばれるものだとばかり思っていたのに。どうして懺悔のようにさえ聞こえるのだろう。否。それに足るだけの背景を、初めて知ったばかりだった。)……お姉ちゃん、本当にジャガちゃんのこと何も知らないね。でも仲間だから、全てを知らなければ、全てを明かさなければいけないなんて、思っていないのよ。だからね、隠し事はしていいわ。これからも。けど、……嘘、ついてほしくないな。(この身でさえ、求められぬ限り自ら他者に触れる事はなかったのは、佐々礼笑子の欠片なのだろうか。伸ばした手に今度は迷いはない。小さな手へと指先が触れる。濡れたその手を、細く長い手指が包み込んだ。)放っておけるわけないじゃない……!大丈夫に見えない。一人で、なんて、寂しいこと言わないで?……ね。あなたのことを知って、わたしがどう思うかがこわい?(指先に力が籠もる。“わたし”なのか。仲間か他者そのものか、そんな事さえもわからなくたって。)……その……どう思われているか、とか。どうしたいのかどうしてほしいのか、鵜飼倫央が持つ想いなら、なんだって……佐々礼笑子として、向き合いたいわ。あのね、佐々礼笑子も、アイリーンも、今更頼まれたってあなたたちのことを嫌いになんてなれないのよ。……大好き、だから。(“一緒にいたい”の気持ちをラベリングなんて出来ていなくて、それでもこの想いひとつは、透き通るまでに混じり気のない真心だった。)
* 9/4(Wed) 06:20 * No.238
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こわい。わたしがどういう人間かを君が知って、君がわたしから離れていくのが怖い。 でも、本当はもう ずっと大丈夫でなかった。(包まれた手の温かさにつられるように、バケツ頭はぽつりぽつりと話し出す。悔悛する信徒のような語り口だった。)わたしは父と母のしたことを知ってからずっと、彼らのことを憎んで、怒って、軽蔑していた。(半年前、父親にあたる人物が亡くなったので葬儀に参列するよう言われ、赴いた斎場で腹違いの兄から真実聞かされたときのことを思い出す。か細く息を吐き出し、声が震えそうになるのを堪える。)母は「あなたのお父さんは立派な先生だったんだから、倫央もお父さんのように優しい先生になってね」とよく言ったけれど、そいつは立派な人間なんかじゃなかった。本当に立派な人間は、生徒に子どもを産ませたりしないし、一人で子どもを育てさせたりしない。それなのに、母はずっとそいつのことを好きだったし、尊敬していた。わたしはそうやって母の目を曇らせる恋というものが恐ろしかったし、まだ子どもの母に出産させるような男の野蛮さも心の底から大嫌いだった。……今でも恐ろしいし、嫌いだし、自分は決して二人のようになりたくないと思っている。(一旦言葉を切る。影の様子を窺う。それはまだ何も言う気はないようだった。もう一度バケツの奥で口を開く。)俺は父と同じ男であることに嫌気がさしていたし、誰かに恋するのも恋されるのも恐ろしかった。鏡を覗いた中に父と母の面影が見える度に、自分の顔を別の誰かと取り替えたいような気持ちになった。だからこちらでは誰にも恋されないように、誰にも見られないように顔を隠したし、わたしが何かで我を忘れたとしても、誰も傷つけないように小さな子どもの背格好になった。……それが、アイリーンの仲間のジャガだよ。(明かす秘密の重さと裏腹に、話すうち心が少しずつだが軽くなっていくのを感じる。自分が一人だけで抱え込んでいた忌まわしい秘密を、本当は誰かに聞いてもらいたがっていたのかということに今になって気付く。)まだもう少しわたしの話を聞いてくれる?(問いかけはおずおずと。拒絶されなければいいなと祈りつつ、暖かく柔らかな手をこちらからそっと握った。)
* 9/4(Wed) 23:13 * No.240
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(溢れ出すように口を衝くその言葉たちに、ひととき唇を閉ざす。無理を押してはいまいかと最初こそ案ずる瞳が不安気に揺れていたが、口を挟む事はなかった。出生。どう足掻いても自らの手では儘ならぬもの。離れて暮らす父のことも、すれ違いから避けていた母のことも、家族として愛している。よく似たパーツを、流れる同じ血を、厭わしく感じられたことなど一度としてなかった。彼の抱えるそれは一体、どれだけ恐ろしいものなのだろう。)……鵜飼は、ずっと……そんな気持ち、抱えてたんだね。(理想の表皮が剥がれ落ちたように、はらりとアイリーンでない言葉が零れていく。少女の内で芽吹く、今はまだ不確かな想いの正体は、もしかすれば彼を傷付けうるものなのだろうか。微かによぎれども、離れてなどいくものかと懸念を振り払うように、問われる声には間髪入れず。)ええ。聞いている。ここにいる。(惑いなんて欠片もなく、宣誓のようにはっきりと告げられる。無理矢理に暴かれるのではなく、その唇から語られるものであるならば、遮るような理由はない。握り返された手を包むままじっと見つめて、静かに微笑みかける。その体躯は、過日の少年よりもいくらか大きいくらいだろうか。)……ジャガちゃんのペースでいいし、やっぱり話したくないことがあるなら黙っていてもいいの。でも、お話することで少しでも軽くなるものがあるとしたら……あなたの抱えているもの、わたしにも半分こさせてくれるなら、嬉しいわ。一緒にいたいって伝えた気持ち、今も変わらないし、わたしだってあなたの味方よ。(あなたがそうしてくれたように。今尚灯りのように照らしてくれるその言葉たちを、変わらず抱いて歩んでいる。彼が道に迷うなら、歩み出すのが怖いなら。灯りを点し、手を引いて、望む方へと共に往きたかった。)
* 9/5(Thu) 07:23 * No.243
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(もはや自分が鵜飼倫央として話しているのか、バケツ頭のジャガとして話しているのかも分からなくなる。そもそもの話、最初からジャガと倫央は不可分の存在であったので、どちらでもあってどちらでもないのかもしれなかった。ただ、静かに己の心を見つめる口ぶりはどちらかといえばジャガのものだった。仲間の了承得た後、もう一度話し出す。今度の声は震えてはいない。自分の心ごと、温かい言葉たちでそうっと大事に包まれているような心地になったからだった。)でも、二人のことを恨んでいるだけでもないんだ。二人がいなければあかりは生まれてこなかったし、母は間違いなく俺とあかりを愛していると思うから。(妹の存在は青年にとって救いであり、人生の標であった。それは今までもこれからも変わらない。母が与えてくれる愛も疑いようのないものではあった。死んでから初めて対面した男については分からないが、正妻の子でない自分たちに充分な財産を遺してくれたのは、もしかしたら愛の証だったのかもしれない。今となっては彼が本当はどう思っていたかなんて知る術はないけれど。)……わたしはたぶん、今とてもぐちゃぐちゃになってしまっているんだと思う。(バケツいっぱいに溜まった濁った色水が、今にも溢れて周りを汚してしまうんじゃないかとずっとはらはらしているような気持ちと、自分の中にある美しいものたちを貴びそうっと大事にしまっておきたい気持ちがずっと入り混じっていた。美しいものの中身は長いことずっと妹が大部分を占めていたけれど、友人との思い出が増えるにつれ、友の見せる様々な表情もそこに含まれるようになっていった。これからの道行を照らすもう一つの灯りを見つけたような気持ちにもなった。)こんなどうしようもないことを半分こにさせてごめん。楽しいことだけお裾分け出来ればよかったのに、 ……でも、半分こにしてくれるのが君でよかった。
* 9/6(Fri) 13:50 * No.245
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(例えばどれだけ美しい色ばかりであったとしても、いくつもいくつも混ぜ合わせてしまえば濁りもしよう。そこに一匙でも黒が滴れば、尚更に。抱える感情がただひとつであったならば、悩みも迷いもしなかったのかもしれない。吐露される想いが、自らと向き合っているとも俯瞰して見つめてるとも取れる響きを伴うのに気付けば、小さく頷き「……うん、」と短い音吐に万感を籠めて相槌を打つ。綯い交ぜになった情動の渦中で、謝罪の言葉が先行するならば、静かに首を横に振った。)いいのよ。だって、なんだって半分こに出来るんだって、教えてくれたのはあなただもの。……わたしの分ばかり持ってもらって、あなたがずっと重いままでいるのは、いやよ。(彼が抱えるはきっと終生降ろせやしない荷だ。起きたことは覆らない。抜本的な解決の手助けなど出来よう筈もないならば、せめてその心と向き合い寄り添える自分でいたかった。もう片方の手も取ってしまって、この世界での互いの手の大きさを比べるようにしてから、)こっちではジャガちゃんよりお姉ちゃんの方が大きいからねっ、全然なんてことないんだから!まだまだ持てちゃうってくらい。だってお姉ちゃんだもの!(明るく言い放つは、変わらぬことを示すように。けれど続く言葉は、あの夜の静謐のように。混ざっていく。運命みたいな一夜に受け入れた理想と現実とが、混ざり合う。)……でも。それがわかっているならやっぱり、こんなとこで負けちゃダメだよ。わかってるんでしょ、あかりちゃん置いていけないじゃん。……あたしとも、一緒にいてくれるんでしょ?(柔く笑いかける面差しはアイリーンのままで、けれど繋ぎ止めたいと願うは、現実の少女の想いだった。)
* 9/7(Sat) 00:38 * No.247
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(鮮やかな記憶残すあの夜、自分が友に渡した言葉を反復され、霧の中に光がさすような心地になる。曇った視界が晴れ始めるのを感じ、ぽつりと言葉が落ちた。)鵜飼倫央はもうずうっとお兄ちゃんだったから、どんなに重い荷物でも一人で持てるよ、誰にも頼らなくても一人で大丈夫だよって思ってたけど、そんなこともないんだね。(大きさ比べをしたてのひらは、確かにこの世界では自分のほうが小さい。語調の明るさにつられて小さく笑みが漏れた。現実の友思わせる話し方が、彼女が口にした妹の存在が、あの夜の約束が、どれもがバケツ頭の諦念を薄れさせた。言葉に力が宿る。)…そうだね。アイリーン、わたしの荷物を持つの、ちょっとだけ手伝ってもらってもいい?(そう前置きした後、無理がなければ協力して欲しいなの願い事を口にする。)ね、こんなこと頼んでもいいのか分からないんだけど、これからも一緒に俺と歩いて、俺が弱音吐きたくなったらちょっと立ち止まって話を聞いて、そうやって俺の助けになってくれる?(人に助けを求める経験に乏しいほうであるので、どれぐらいが友の負担にならないのかも分からないまま問いかけて、)もし、俺が佐々礼に恋愛感情を持っていたとして、それでも一緒にいてもいいならの話になるんだけど。(自分の中のごちゃごちゃの一因となる感情について明かさないのは、こちらに真摯に向き合ってくれる友に対して不誠実だと付け足した仮定には、そういうことを彼女に告げる申し訳なさと、嫌悪していると告白した感情を持ってしまったやるせなさと己への自嘲が含まれた。もしお願いを断られたとしても、これからずっと影から目を背けることなく生きていけるだろう。友が今までにくれた言葉や温もりたちは、鵜飼倫央が生涯を歩いて行くためのよすがとなるようなものだったから。)
* 9/7(Sat) 23:16 * No.248
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(彼のお願い事を跳ね退けるような理由などない。友人として過ごした時間も、あの一夜も、自身にとっては恩義とさえ呼べる事柄ばかりを齎してもらったのだから。もう震える声も、鼻を啜る音も、言葉を閊えさせるものは何もないのだという事に安堵と喜びとを胸に浮かべて、微笑みに中その問いかけに耳を傾けていた――が、最後に付随する条件にはたと瞬く。意識してか無意識か、思考の隅に追いやろうとしていたその情動の名に、改めて考えてしまうとじわりと頬に熱が滲むのが自覚出来た。)……っ、そ、れは、別に……や、でも持たれる側もダメ、なら……もしかしたら、ほ、本当にもしかしたらだけどっ、……鵜飼の方がヤダって、なることは、ある、かも、……かも……。(まごまごまごまごと口籠らせて、要領を得ない言葉は進展しないまま失速していく一方だった。この場面に於いて嘘も隠し立ても憚られ、しかし自分自身でさえ未だ向き合えていない情感は何ともくすぐったくいたたまれない。ましてや嫌悪感を明かされたばかりだ。羞恥やら情けなさやらに責め立てられる心地で、震える唇を一度真一文字に引き結んでから、)〜〜ッ、で、でもっ、関係ないから……!あた、し……お、お姉ちゃんは、ジャガちゃんのお手伝いするしこれからも助けになりたいってっ、決めたんだから!(結局少女に処理しきれないものはお姉ちゃんに押し付けてしまって、平生にはふんわり垂れ下がる眉を吊り上げる。ほのかに赤らんだままにせよ、真面目くさった面持ちを見せて向き合おう。)……あなたのお願い聞くのなんて当たり前!佐々礼笑子じゃ、頼りない事も多いだろうけど……でも、一緒に歩くのも立ち止まるのも、なんにも負担なんかじゃないの。最後にあなたが一緒に笑ってくれたら、それが一番嬉しいから。(その想いこそが結局のところ、今在る全てなのだ。)
* 9/8(Sun) 17:01 * No.249
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ずいぶんと虫のいい願いのくせに、叶えてもらえてよかったな。(それまで手持ち無沙汰に二人を眺めていた影が口を開く。バケツ頭を責める言葉が次々に飛び出す。)性愛が怖いと言っていたくせに、友人だと認識している相手に恋愛感情を抱くなんて、お前の浅ましさは両親譲りだな。結局はお前も父のように愛欲に溺れて女を犯すんじゃないのか?母のように理性も親類も安全な環境も、全てを失って恋心だけに縋って生きるようになるんじゃないのか?お前の一貫性のなさならもっと酷いことになるのかもしれないな。例えば妹を自分の願いを叶えるために差し出すとか。寄り添ってくれる彼女を手酷く裏切るだとか。(影が吐く呪いの言葉は恐ろしけれど、バケツ頭はもう揺らぎはしない。今度は影のほうが動揺したのか、続く言葉は嘲りよりも不安の色が濃くなった。)父と母の過ちは許さないのに、自分が信条に矛盾した行動を取るのは許すのか?潔癖なお前らしくもない。お前が失敗した時に、傷付くのはお前だけじゃなくなってしまうというのに。お前は何よりそれが恐ろしいんじゃないのか?(もはや青年の余裕はどこにも見当たらない。どうにかこっちを向いてほしいと泣く子どものような必死さが漂った。)
* 9/9(Mon) 20:48 * No.253
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(かも、…………かも?己の影が側にあるというのに、まごまごの中に含まれる希望の匂いを嗅ぎ取って場違いに心が浮き立つような気持ちになる。そういう自分を戒めて、なるたけ落ち着いた調子で話し出す。)ヤダってなること、あるかな?佐々礼やアイリーンがヤダってなるところは想像できるけど、俺がヤダってなるところ、自分じゃ想像できないな。(一人称がこの世界の仲間のものに戻れば、その愛らしさで笑いがこぼれるのをもう抑えきれなかった。)ありがとう、嬉しい。そう言ってもらえて、独りぼっちじゃないなと思って、独りぼっちがよかったはずなのに、すごく 安心した。本当にありがとう。(朗らかに紡ぐ一度目の感謝の言葉と、重ねた礼は真摯に響く。影がどんなに未来を呪ったって、これからの道行ほのかに照らす灯りは消えやしない。幸福に向かう道のりが暗くとも、積荷がどんなに重くとも、二人で歩むと決めたらもう怖くはなかった。己の影と向き合う。話し始めれば、影に縋りついた先ほどとは違い、思ったより落ち着いて言葉を続けられるようになっていた。)お前はわたしの臆病な心を映したものだから、わたしが間違いを起こすんじゃないかとずっと心配してくれているようにも聞こえるね。これからの人生の中で一度も過たないということはないだろうけれど、それを致命的なものにすることはないだろうとは思っているよ。わたしには、話を聞いて、時には一緒に立ち止まってくれる人がいるから。(共に歩んでくれる彼女はもちろんのこと、現実世界にも理想世界のどちらにもかけがえのない友人も仲間もいる。己が足踏み外しそうになった時には、彼らがきっと諌めてくれるだろう。)それに何より、俺にはお前がいる。俺が過ちを犯そうとしたら、さっきみたいにお前が俺を詰るだろう。臆病で慎重で怖がりなお前といれば、俺が父や母のように衝動に飲まれることはきっとない。だから、俺はお前と一緒にこれからも生きていくよ。……戻っておいで、わたしのシャドウ。わたしの一番近くにいる友人。(思いがけない言葉掛けられたようにたじろいだ後に、影は言葉に従いバケツ頭に近づいた。もう一度おいでと囁けば、青年の姿は玲瓏たる聖職者の姿に戻る。罪人を許す微笑みを浮かべて、彼はバケツ頭の小さな身体の中へ戻っていった。)
* 9/9(Mon) 20:51 * No.254
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う、……あたしも、なんない、し……、(しどろもどろ、どうにかこうにかと紡いだ吐露が掬い上げられて、此方が許されたような心地にさえなる。だってそんなものは同じなのだ。“ヤダ”に天秤が傾く想像なんて出来やせず、立ち昇る期待感を自覚してぐっと声を飲む。一度意識してしまえばその言葉が胸中に渦巻いて消えず、頬の赤みも引いてくれそうにもないので、都合良くバトンタッチされたお姉ちゃんとして咳払いひとつの後に。)……一緒に居てもいいのなら、お姉ちゃんも嬉しいわ。……だって、一人でいるのは、やっぱり寂しいもの。寂しい想い、してほしくないな。(望まざるとも一人で居た頃、孤独であれどいっそ“楽”だった。人付き合いの怖さから逃げていた日々がいつの間にか終わりを告げて、あたたかな場所を知ってしまった今となっては、もう戻れやしない。彼がその道を選ばずいてくれたことが嬉しい。だから、見守る。もう先程までの揺らぐ眼差しはなかった。その傍でただ信じて待っていられるからこそ、友人もお姉ちゃんも凪いだ心持ちで両者の姿を見つめる。そうして、心寄せる姿を纏う影との別れの時。口を衝く声は、彼の友として。)大丈夫だよ。少なくとも、あたしが鵜飼に傷付けられることはないから。鵜飼はそんなことしないもん。(いっそ妄信とさえ聞こえよう断言は深い確信を以て告げられる。彼によって齎される傷なんて、一筋だって想像出来ない。たったの一部分だとしても心配事のひとつなら、そんなものはこの理想の内に置いて行ってほしかった。――斯くして、季節を纏わぬ味気無い小部屋に、ふたりだけが残される。不思議と物寂しさはない。)……っあ、ジャガちゃん、平気?どっか違和感とか変なとこなぁい?……そうだ怪我、怪我も本当にない!?(どこか呆然とした心地から半ば無理矢理に引き戻し、その両肩へと手をやっては、案ずる眼差しが身体中を行ったり来たりを繰り返した。)
* 9/10(Tue) 06:08 * No.256
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(「なら俺たちおあいこだ」と、こぼした呟きは軽い。バケツのおかげで表情悟られることがないのはこちらにとっては好都合だった。今になってみれば、姉の顔した仲間の中にも友人の姿がそこかしこに見てとれる。彼女のうちに根付く優しさは、姿が変わろうとも隠しきれないものだった。口調や一人称が変わろうとも、同じ優しさがずっと息づいている。)自分が寂しがりだってことも知らないまま一人になりたがってたから、わたしって全然自分のこと分かってなかったんだなあ。そういうことに気付いたのも、佐々礼やアイリーンと仲良くなれたおかげだ。(人との交流避けたくてバケツを被ったはずなのに、結局のところ他者との会話が好きな自分は捨てきれなかった。臆病なくせして、孤独を楽しめやしなかったし、自分の作ったものを誰かに食べてもらう喜びは現実も夢の中でも変わらなかった。ここに現れた影もまた己の一部であるので、身のうちに戻ろうとする姿にあるべきものが収まるような心地になる。ふとバケツの下から一筋の涙がこぼれ落ちた。それは痛みや恐怖に満ちた涙ではなく、胸の内に感じた幸福と感謝があふれ出したものだった。彼女がくれた灯りはもはや一つといえず、数えきれないほどだ。それらは夏の部屋で二人でした花火のように、いつか闇夜を彩る光となるだろう。友の力強い言葉も、この上ない幸いとなった。それだけで一人きりで背負ってきた荷物に羽が生えるような気がした。)……わたしは長いこと、自分の腹を食い破って恐ろしい獣が現れて、泣きながら大切な人を食い荒らす夢を見ていたんだけど、……もうきっと、そういう夢を見ることはなくなっていくんだろう。(お守りみたいな彼女の言葉が、これからきっと悪夢を遠ざけてくれるだろうから。こちらを案ずる視線だって、この身をふわりと包んで守ってくれるような気がした。)大丈夫、怪我も痛いところももうないよ。理想の世界だから、もうすっかり治ってしまったみたいだ。アイリーンが心配することは何にもないよ。たくさんわたしたちの話を聞いてくれて、心配してくれてありがとう。
* 9/10(Tue) 15:54 * No.257
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(夜を照らす月のような満ち欠けなんてなく、絶えぬ希望でいっぱいであればいい。彼の内側へと帰っていく彼の一部分へ、そう祈りを込めて見送った。はらりと零れる一滴に一度はぎょっとするものの、告げる声に翳りがないならばそれすらもほのかな綻びとして表された。)そう、だったの。……ふふ、きっとそうよ、今日からは素敵な夢を見ましょうね。(と、穏やかに微笑みかけてから、はたと目を見開いて。)……でも!ならやっぱりあの時嘘ついてたのね!?現実でわたしが嫌な夢見てたって話した時!もうっ、あなたたちどっちも大丈夫?って聞くと大丈夫って嘘つくから、これからは違う言い方しますっ。(“鵜飼”も“ジャガちゃん”も両者にその実績が出来てしまったものだから、一変してお説教の様相だ。遺憾を表して頬を膨らませ、拗ねた素振りを見せるお姉ちゃんの面倒な事。ただ当たり前に頼って欲しいなんて稚拙な駄々である。しかし、もう案じるものもないともわかれば、ふっと面持ちを緩ませて。)……そっか。ジャガちゃんにとっては苦しいお話だったでしょうけど、お話してくれて、嬉しかったわ。よく頑張りました!……うん、よかった、(安堵し弛緩した身体は高い上背を支えるには心許無く、その場にぺたんと座り込んで息をつく。力が抜けて、気が緩んで、然して鼻の奥がつんと痛む。まずい、とよぎる刹那を悠々と追い越して、視界が滲んですぐに形を為した想いが次々と頬を濡らしていってしまうもので。)っう、……ほんとに、よかったよぉ〜……!び、びっくりした、し、心配したし、……ジャガちゃんもうかいも、負けないでくれてよかったあ゛……!(現実よりもずっと情動を露わにさせてしまう身体は耐えきれず、堰を切っては止まらない。その豊かな感情表現も理想のひとつであったというのに、今ばかりは抑えきれぬ不自由さが恨めしかった。拭ってもこすっても涙は溢れて止まず、ぐずぐずになった声で“よかった”だなんだと繰り返す情けない姿を、暫し晒す事となろうか。)
* 9/10(Tue) 22:53 * No.259
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あっ、 (しまったと言わんばかりにバケツが揺れる。バケツの中で視線が一瞬泳いで、すぐに彼女の元に舞い戻る。)嘘というか 嘘じゃなくて、あのときは心配かけるとよくないなと思ったし、大丈夫じゃないかもしれないけど今まで我慢できたから大丈夫だと思って、……いや結果的に大丈夫じゃなかったんだから嘘ついてたことになるな。ごめんなさい。これからはしんどくて助けてほしいときは素直にそう言います。(ぺこりと頭を下げて真摯な謝罪の意を示す。誰かに頼ることへの罪悪感も影と共に薄まったようだった。許しが得られれば、もう何度目か知れぬありがとうがまた紡がれることになるだろう。安心感で緩んだ空気纏って頷きつつ話聞く最中に、一瞬ぴりりと緊張感が走る。座り込む体を咄嗟に支えることは叶わず、差し出した手はほんの僅かな間だけふわふわ宙を彷徨ってから、彼女の背に着地する。しゃがみ込んでそっと背をさする小さな手はあの夜よりずっと躊躇いなく、そうするのが至極当然みたいに動く。)わたしのために心を砕いてくれて、涙を流してくれてありがとう。俺が負けないでいられたのは、今までもこれからも一緒にいてくれる人がいてくれるおかげ、俺を信じて、一緒に歩いて、一緒に笑おうって言ってくれる人がいるからだよ。(己の袖口は美しい涙を拭うに相応しいものではなく、こんなときにあったらいいのにと願うことで手元に現れた真っ白で清潔なハンカチはほのかに花の香りがする。この手で涙拭うことが叶うのか分からないまま、手巾持つ手が目元にゆっくりと近付いた。自分で拭けるよの意思表示に気付けば、どうぞお使いくださいと手渡されることになるだろう。)
* 9/11(Wed) 23:12 * No.261
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(弁明の口振りは今の姿よりも現実の青年の影が色濃く感じられる。此方では小さな体躯ゆえ元より挙動に愛らしさを感じる事が多かったが、彼の姿を重ねてみれば、また少し可愛く思えるのがおかしくて。じとりとした眼差しで出方を窺っていたつもりであったが、不満顔はいとも容易く崩れて笑みが溢れだす。)うんっ、なら約束!約束破ったら……怒っちゃうからね。その時は多分、現実のわたしの方が面倒よ。(他人事とも自認ともつかぬ奇妙さで告げて笑い、そんなすっかりと弛んだ糸が、まるでぷつりと途切れたような。泣きじゃくるお姉ちゃんと宥める小さな子なんて絵面は随分とちぐはぐだが、風ひとつそよがぬふたりきりの部屋では些末な事だ。)……っ、う゛ん……そんなの当たり前だもの〜……!わたしがそうじゃなきゃヤダって、思ったんだもの。……約束、守ってくれてありがとう。(涙声を絞り出して、変わらず“これからも”が続く事への謝意は言祝ぎにも似た。歪んだ眼界の中、伸ばされる手とそこに握られる真白の色に気付けば、甘えるよう目を閉じて受け入れてしまおう。この先を確かなものとして交わして、紛れもなく幸いだった。けれど、)……でも、あの……ほ、ほんとに平気?こっちは後出しみたいになっちゃった、けど……その、……れ、れんあい……かんじょう……とか、持ってるかも、しれないの。(躊躇いがたどたどしくさせた文言を改めて味わい、忙しなく朱が差し込む面持ちのまま。)……あの夜から、変なの。人と話す時はいつも緊張してるけど、それと全然違う……ドキドキ、みたいなの、鵜飼に感じること増えて。……そ、そういうことなの、かなって……、(吐露してみればするだけ羞恥が立ち昇り、左胸に痛みが伴って悲鳴をあげる。彼だけに向ける、特別な想いの名。そんなものもわかっていなかったくせに、言葉にしてみると次第に確信にさえ変わっていくような。)
* 9/12(Thu) 06:08 * No.262
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(現実世界が話題に出れば、自然と話し方は鵜飼倫央のものに戻る。バケツ頭の淡々とした話しぶりでなく、ちょっと面白がるような口調になった。)面倒ってどんな感じ?俺、佐々礼のこと面倒だって思う自分が想像つかない。……口聞いてもらえないとかだったら寂しがるけど。(冗談ですよの被り物してはいるが中身は本心からの言葉でもある。今までだって一度も面倒だなんて思ったことはなかった。「指切りする?」と小指立てて首傾げるこちらのほうがちょっぴり面倒かもしれない。)こちらこそ、ありがとう。(同じ言葉でしか感謝を表せないのがもどかしいが、回数増すごとにこの心を満たす温かさが伝わればいい。涙で湿った声が耳を打つ度、心の中でこの人がなるべくずっと幸せでいてほしいなの気持ちが募る。その祈りの表れである行動がひとまず受け入れられた喜び噛み締めながら、世界でたった一つの宝石をそうっと磨くような気持ちで丁寧に涙を拭った。平気?と問われて何が?と僅かに首傾げてそのまま動きが止まる。急にバケツを被るのって暑くなるしちょっと息苦しくもなるんだということを思い出す。ふわふわと飛んでいきそうな心と、それを重しをつけて地に止めようとする理性が戦っていて、先程までそこにいた影がニヤニヤ笑いながらそれを見ているのが分かるが、自分がどうすればいいのかは見つけられなかった。暫く黙していたのに気付き、言葉を探す。誠実でありたいのに、どうすればそうあれるのかが分からなくなる。)平気というか、一緒にいたいなというのは変わらないし、なんかこう 今まで理解できなかった母の気持ちがわかるようになった気もしてて、(自分が当事者になった途端に現金なものだが、道ならぬ恋で子を生した母の心に少しだけ近付いたような心地になった。)…………俺たち、二人とも恋愛感情初心者だから、どうすればいいかわかんないね。とりあえず、友達なのは変わらなくて、これからはお互い恋愛感情あるかも?の友達?(自分の中で忌避すべきものと遠ざけてきた感情の処理をどうするかを困りあぐねてぼやぼやと関係性を言葉にしてみる。こんなふうに恋慕(仮)を返してもらえるなんて思ってもおらず、影があの言葉を吐いた時にはもう二度と顔合わせないことも覚悟していたので、思いもよらぬ幸福にやや困惑気味。これから顔合わせるときってどんな顔して話せばいいんだろうの懸念に今更行き着いた。)
* 9/12(Thu) 23:35 * No.264
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(問われ、ひととき口を噤む。“口をきかない”も思い浮かべはしたが、それはそれできっと此方も寂しがることになるとも予感があったので、一考して「……うじうじしだすかもっ」とのアンサーと共に立てられた小指に己のそれを絡めて約束を見える形にしてしまおう。喜んで怒って泣いて、忙しない情動の移ろいはこの世界に在るからこそ為されるものでありながら、結局その全ては殆どが現実の少女のものだった。発露や表出の差異が大きいだけ。揺れ動く不安定さを支え背に触れる手のあたたかさは一緒で、ほのかに漂う花の香りを感じながら丁寧なその手付きを受け入れる。)ん……ありがと。ふふ、お礼言い合ってばっかりね。(ぐす、と最後に鼻を啜って、濡れた瞳を細めて笑う。涙の跡は微かに残れど、彼が掬い取るよう優しく拭ってくれた事もまた心に残る。あの夜からずっと、礼を告げる際には想いが溢れた分を形にするような心地があったから、彼が幾度も告げてくれる分もそうであればいいと思えた。感情ひとつとっても全く同じ形なんてないのだろうとわかっていても。今がまさに、そうだ。)う、うん……わかんなく、て。……でも、鵜飼がヤじゃないなら、いいの。(暫しの沈黙に重みを増した胸中がふわりと浮き上がる。奇妙なくすぐったさを誤魔化すよう前髪を整えんとする仕草を見せるも、開けた額に触れて空振るのみだった。)……っふ、なんか、変な響き。んー……これからも一緒にいてくれるんなら、そのうちわかったりする、かな?ちゃんと自分で、考えてもみるから……え、えーと……改めて、よろしくお願いします……?(今もまさに心音は高鳴っていて、もしも“かも?”が取れたその時は、どうなるのだろう。そうしたことを想像して、期待して、その時点でもう殆ど答えでもあったのかもしれない。けれど今は絶えぬ日々が続くことを喜びひとつで包み、座り込んだままそろそろと頭を下げてみよう。)……でも、結局どんな形でも、鵜飼が好きなのは変わんないよ。(――するりと唇を割った言葉は理想の姿の影響下であったか。改めて音と成して直後に火にくべたみたいにぐっと胸が熱くなって、心臓から首を伝い顔全体にまで熱が昇るよう。あっさりと告げておきながら、顔を伏せてあげられなくなってしまっていた。)
* 9/13(Fri) 08:05 * No.266
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こういうとき、俺たちの性格だとごめんねって言っちゃいがちな気もするから、ありがとうを選べてえらいってことにしとこう。(二人をひとまとめにしての総括が果たして的を射たものであるかは彼女に判断任せることにして。好意抱く友とは纏う姿は違うのに、ふとした仕草や言葉の選び方に友の姿が浮かび上がる。笑んだ瞳や、睫毛の上に乗った小さな雫がきらきらと輝いて見え、どうしてか胸が締め付けられるような心地がした。それは心地良いと手放しで言えるものではないが、不快だと言い切れるものでもない。なんとなくの落ち着かなさは丁寧な手つきには表れなかった。彼女の手が見えない前髪撫で付けるように動いたのを見て、またそこにも友の愛らしさを感じた。)たぶん、そのうち、ちゃんとこういう関係です!って言えるようになると思う。思うだと無責任だな、なります。(宣誓の言葉と共に「こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げて、これから二人歩む旅路の中で答えを見つける瞬間を夢想する。二人のどちらも楽しげに顔見合わせて笑っていたので、きっと悪い答えではないのだろう。そんな中聞いた「好き」という言葉は、嫌悪齎すものにはならなかった。ただただ幸福を呼ぶだけの言葉になった。)俺もね、佐々礼のことが好きだよ。今までがあんまり幸せじゃなかったとしたら、それを取り返すぐらいこの先ずっと幸せでいてほしいし、できることなら幸せな佐々礼の姿をずっと見てたいなって思うよ。(影は青年が彼女に抱く愛に性愛が含まれているとは言ったが、それはこれまで過ごしてきた時間が培ってきた親愛や友愛を覆い隠すようなものではない。伏せられた顔が無性に見たくて、首を傾けるが表情は窺い知れない。ここに来て初めてバケツが邪魔だなと感じた。)
* 9/14(Sat) 22:56 * No.268
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(一理ある、なんて笑いだし「こっちの方が、嬉しいもんね」と言葉の響きで選び取る。しかし何でも半分こ、と交わし合ったが、同じ想いを抱える場合はどうなのだろう。例えば、手探りでどうにかと輪郭を確かめ合っている、胸を占める想いが同一のものであるならば。)……うん、あたしも自分がどうなのか、どうなりたいのか、向き合えたら……その時は、ちゃんと伝える。……ま、纏まんなかったら、ごめん……。(彼に押し付けてばかりはいられない。真面目くさった面持ちに朱の色を混ぜ込んで気概を見せたつもりであるが、所詮それも一過性。苛む羞恥心から逃げたがり俯いたつむじに、慈愛とさえ伝うような響きが降り注げば、心の真ん中なんて容易く彼の言葉に埋め尽くされる。優しくて、あたたかい。彼の言葉も、眼差しも、全てがいつだって。その瞳が見たくなって、おずおずと顔を上げる。無論バケツに遮られて見えずとも、現実の彼の姿が重なる気がした。)あたし、は……今、幸せだよ。鵜飼と、お喋りするのも、ごはん食べるのも、出掛けるのも、友達でいられるのも全部……幸せ、で。だか、ら……鵜飼が、この先も幸せにしてくれるなら、ずっと見てられると思う、けど、(幸せ、喜び、鮮やかな色彩ばかりが溢れ出して、色付く頬が不器用に綻んだ。今この胸は、彼にもらったもので満ちている。素直な想いはどうしたって居た堪れなくて、誤魔化しのよう周囲に視線を逃がし上擦った声をあげるのだが。)っそ、そうだ。今回の騒動、みんなにも伝えた方がいいよね。(と、立ち上がり際に自身の手首が視界に映る。ブレスレットに加工された召喚鏡。この効果は、)……あ。もしかし、て、……今までの、ヒカリたちには見えて、る……??(ヒカリの手鏡は君たちの召喚鏡と連動していてね――過日に告げられた声がリフレインする。途端、先程まで交わし合った想いが脳裏を駆け巡り、左胸から花火みたいに熱が爆ぜていく。咄嗟に口許を覆い隠すも時既に遅し。慌てて屈んで、バケツで見えはしないが、気持ちは耳打ちする素振りで顔を寄せ、人目を憚るみたいに潜めた声を落とそう。)……あ、あのね。試験も近いし、忙しいかもだけど……冬休み入る前にはまた、ゆっくり話したい。……付き合って、くれる?(こんなお願い事も、彼なら叶えてくれるんじゃないかと期待が真っ先にくることこそが、きっと愛と名のつく数多の想いをひっくるめた形なのだろう。)
* 9/15(Sun) 15:13 * No.270
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佐々礼ってすごく、 俺を喜ばせるのがうまい。そういうこと言われると、これからも俺がずっと幸せにするよって言いたくなってしまう。(幸福を見守るだけで満足できると思っていたし、そうしなければと自制していたのに、彼女に幸せ齎すのも自分がいいなんて欲深い望みが容易く顔を出す。声色には自制の奥に隠された密やかな独占欲がうっすらと乗った。自分を想い微笑んでくれるその表情を、誰にも見せたくないと思ったのは初めてのことだった。逃げる視線すら捕まえたくなり、同じ方見下ろしかけてはたと動きが止まる。子どもの腕にはまる飾りのないブレスレットに編み込まれた鏡がきらりと光ったような気がした。)え、うそ、…………見てないとかないかな、ないか、ないか……(自身の悩みの吐露や抱く感情の告白は、彼女しか耳傾ける者がいないと思っていたからこそできたことだ。姿の見えぬ観客の存在に一瞬だけ楽天的な考えが流れていったがそれはすぐに諦めと共に地に落ちた。今ばかりは召喚鏡の通信不良を祈るしかないが、きっとそんなことは有り得ないだろう。ここは何でも叶う夢の世界なので。狼狽の中でも、寄せられた顔に鼓動が高なったのは、もう救いようがなく恋の証のようだった。囁かれる言葉はバケツ越しに聞いたって、なんだか落ち着かないふわふわを運んでくる。今度はこちらが内緒話をする番だ。)いいよ、もちろん。……じゃあ、今度は鵜飼と佐々礼で話をしよう。(バケツを被らない自分で、そのままの鵜飼倫央で、佐々礼笑子と向き合おう。二人をつなぐこの愛は、姿を変えて向き合ったとしても変わらぬもののように思えた。)
* 9/16(Mon) 10:15 * No.271
azulbox ver1.00 ( SALA de CGI ) / Alioth