
6/17(日):エントランス 午前0時すぎ >ジャガ【2】
(プレゼントを手元であたためておくことはできない性質だ。日付が変わってすぐに飛び込んだ鏡の中。マイ・ルームの机の上に置いてあったそれを手に取り、意気揚々とエントランスへ。「また」というからには再会は約束されていたけれど、学校と違ってそれが翌朝を指すわけではないのが難しいところ。ならずっと待っていたらいいんじゃない? という短絡的な思いつきからラビリンスの扉の前にちょこんと腰かけ。)ジャガ、休日だし来るかなあ。それとも昨日の今日だし疲れちゃって来ないかなあ。(日曜日は休みという発想からして中学生のそれだろう。休日出勤という概念がない少年は足をぶらぶらさせながら、できたばかりの仲間を待った。──暇つぶしにあ行から読み始めた辞書はどの行まで進んだろうか。3時までに目当ての人物が現れたなら待ってましたと言わんばかりに飛び跳ねた。)ジャガ、また会えたね!(それから半ば強引にその手を取って、)はいこれ、プレゼント!(「お近づきのしるしってやつ」と言い添えて渡したのは”いもなますのレシピ”。海を模した青い封筒に入ったそれは一見するとただのお手紙。もちろん親愛を伝える便りであることには違いない。)ぼく、一生けん命書いたんだ。(此処は理想の世界。望めばレシピそのものが降ってきたかも、なんて気づくのはずっと後の話。称賛や感謝よりもジャガの喜ぶ声が聞きたくて、反応を期待した瞳がバケツ頭をじいと見つめた。早く封を開けてくれ、と言わんばかりに。)
* 7/30(Tue) 21:58 * No.15
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(休日だろうとあまり夜更かしをしない性質である現実世界のバケツ頭は、その日は早々に床に就いた。そのまま朝までぐっすりーとはいかず、何かに呼ばれたような気がして目覚めたのは午前一時。眠気はすっかり遠のき、再び眠りに落ちるまではしばらく時間がかかりそうだった。ベッドにいても特にやることはなく、それならばと身を起こす。明日は休日なのだから、少しぐらい夜更かししたって大丈夫なはず。なんとなく昨夜のことが夢でなかったのを確かめたくなり、鏡の世界に入りこんだ。まだ見慣れぬマイ・ルームなる部屋から扉を開けてエントランスに出る。歩き始めるより先に人影があるのに気付いた。昨夜会ったばかりの仲間の姿をみとめて歩み寄り、勢いに少したじろいだ。)昨日の今日でまた会うとは思っていなかったけれど、……プレゼント?(渡されたのは何やら青い封筒。僅かな警戒心が受け取りを一瞬だけ躊躇わせたが、結局は礼を言って受け取ることになる。)ありがとう、イサナのお手紙?は部屋で(読むと言いかけて、視線が期待に満ちていることに気付く。これはおそらく、ここで開けて読んで欲しいな喜んでくれるかなの視線だ。)今ここで読む。(短く宣言して封を開ける。目を通し始めてすぐに、便箋に書かれた内容が昨夜見せて欲しいと強請ったレシピと同一であることに気付いて警戒心はすっかり緩んだ。三枚目のおしまいまで読み終わり、改めて伝えるお礼は先程より心がこもったものになる。告げる声音も明るい。)ありがとう、イサナ。昨日わたしに見せてくれたページをわざわざ書き写してくれた?マイ・ルームに持って帰って、今度作ってみる。……でも、ジャガイモを水に浸けている間にここで過ごす時間が終わってしまうのかも、(細い千切りにしたジャガイモを最低二時間水に浸ける指示があるが、そこまで長くは鏡の中にいられないだろう。バケツが沈黙して解決策を探す。が、今は見つからないのでとりあえずまた考えることにして)最後に描いてあるこれは、…………ジャガイモ?(傾いだバケツから漏れた問いかけには自信のなさが滲む。不正解だろうと怒りはしないだろうが、目の前の優しい少年が悲しげな顔を見せるのは嫌だと思った。絵の正体が何にせよ、会話の締めくくりもまた感謝の言葉となる。)ありがとう、わたしの仲間のイサナ。(ややあって付け加える言葉は少しだけ特別なものだ。)わたしの 友達。またね。(再会を約束してスタスタ歩きでマイ・ルームへ戻る。パタリと扉を閉じたその後に、もう一度便箋開いて読み返す。丁寧に書き記された一字一字の隅々から、自分への親しみが伝わってくるようだ。冷蔵庫の扉の目線と同じぐらいの位置に封筒も便箋も並べてマグネットで貼り付ける。よし、と頷くバケツは感情映さぬツルツル具合の割には満足げであった。)
* 8/4(Sun) 23:54 * No.21
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(自分の書いた文字を人に見せたいと思うなんて初めてだった。わくわくに満ちた視線はバケツ越しにも通じたか、簡潔な宣言とともに手早く開封されたそれのどのあたりを読んでいるのかこちらからはさっぱりわからないものの、一枚目、二枚目、三枚目と順番を入れ替える様から進捗を把握する。途中困ったように手が止まることもなかったことに安堵して。)うん、昨日の記念になるかなあって。(心のこもった謝辞に返すは誇らしさに満ちた笑み。親切や期待をそのまま受け取ってもらえる喜びに胸を躍らせながら、意外と手間暇がかかる問題については「水につけ終わったジャガイモが用意されてたらいいのにね?」なんて料理番組の裏技を想起して。果たして理想の世界とはどこまで都合よく望みを叶えてくれるのやら。)あ、わかった?(それから末尾に添えられたオマケに言及されれば大正解とばかりに頷いて、)スペースが余ったから描いてみたんだ。ジャガイモのジャガだから。(「これからジャガイモを見るたびにジャガのことを思い出しそう」と楽しげに結んだのち、感謝の言葉を受け止めよう。)ふふ、どういたしまして、ぼくの仲間のジャガ。(たった二度、けれど重なる記憶はより強烈な印象に変わる。仲間、それはとても甘美な響き。)…エッ…!!!(が、続いてそれを上回る音が落とされたなら、驚きを隠しもせず上機嫌のかたちをしていた唇がビックリマークを三つほど吐く。慌ててバケツ頭を見返すも、相変わらず表情のないつるりとした凸面があるだけだ。ゆえにどんな顔でその言葉を紡いだのかはわからない。わからないが、淡々とした言葉の中に一瞬生まれた沈黙が、それなりの勇気や決意の表れだったと思うのは都合のよすぎる解釈だろうか。思わずふへへ、と変な笑いがこぼれてしまう。)うん、またね! ぼくの友達!(嬉しくって何度も大きく手を振った。あっけなく帰ってしまう後姿を追わずとも、また会える。具体的な約束なんて要らない世界。互いに都合の悪い日は欠席することもあるだろうが、通っていればまた会えて、挨拶もできて、喋ったり遊んだりもできるかも。そう考えると此処はまるで“学校”のよう。色んな人間がひとところに集められ、学び、成長するところ。)こんな学校だったら毎日だって通ったろうな。…へへ、さっそく友達できちゃった。(「ジャガ」浮かれた声で呟けば、自動音声が対応する。──「イサナの仲間で、友達。」頼れる相棒の更新は早い。)
* 8/23(Fri) 18:42 * No.25
azulbox ver1.00 ( SALA de CGI ) / Alioth