
【Step1】7/9(月):早朝 深那莫中央公園
ちくわ! こんぶ! アタシちぎれる! ちぎれるから!(有明月の朝ぼらけに響き渡る、情緒の欠片もない喚き声。通りがかりの新聞少年ならぬ新聞おじさんから向けられる気遣わしげなまなざしも、ランニング中のおばさまから向けられる生あたたかい声援も、生憎と今は届かない。双鏡学園高等部のジャージに身を包む早朝5時、どすっぴんデコ出しスタイルの天内粧子と二匹の犬は深那莫中央公園の遊歩道で譲れない戦いを繰り広げていた。)こんぶ待って今日は寝坊したからペコちゃんいないから! てかアンタそんなにペコちゃんのこと好きだったの!? メロりすぎじゃない!? ヤバい右手ちぎれそう アタシが頼れるのはアンタだけだよちくわ……お願いアタシを助けて……聞いてる? ちくわ……(右手に掴んだリードを全力で引っ張るゴールデンレトリバー、こんぶ。そして左手には芝生でまどろむ初老のトイ・プードル、ちくわ。祖父母の旅行に伴い一匹多めの散歩に加え寝坊のイレギュラーまで重ねたものだから、恋するわんこの暴走とのんびりわんこのマイペースに挟まれた眉なしギャルは思わず天を仰いだ。そして静やかに瞼を下ろす。そう、気付いてしまったのだ。)日焼け止め……塗り忘れた……。(はじめまして、未来のシミ。いやそんな悲しいことある?)
* 7/2(Tue) 23:15 * No.1
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や〜っべぇ……飲み過ぎたわ……。(教師の朝はわりと早い。通常の業務内容に加え、運動部の顧問ともなれば朝練にも顔を出さなければならず、その後は風紀委員顧問として立哨活動にも参加しなければならない。例えそれがたまの贅沢にトワイライトで飲み明かした翌日であったとしても、だ。あゝ教師とは無常なり哉。大きな欠伸を隠しもせず、目覚まし代わりにと公園を経由して普段とは異なる通勤経路を歩いていた折のこと。)あン? ……なぁ〜にやってんだありゃあ。(数百メートル先を見遣れば、なにやら犬に遊ばれている人間がひとり。しかもその人物、厄介なことに双高のジャージを着ているではないか。こんな朝っぱらからなんちゅー巡り合わせだよと思わず溜息も零れてしまうが、目的の駅はこの遊歩道をまっすぐ行かねばならず、このまま無視して通ることは難しいだろう。だからといって面倒ごとに巻き込まれるのもまっぴらごめんだ。しかして薄情な教師が出した結論は、)おう。犬に散歩してもらってるところワリィが通してもらえるかい? こちとら急いで──(一言二言茶々を入れ、隙を見つけてその横を通り抜けてしまおうと思ったのだが。なにげなく30cm下にある顔へと眼差しを向けてみてびっくり。云いかけた言葉を呑み込んで、代わりに意外そうな呟きが零れ落ちる。)ってオイお前、天内……か? 若ぇうちから眉なくしちまうたぁまあまあ……あとんなって後悔すんぞ〜。(学校にいる時とはかなり風采が違うが、これでも観察眼に優れている自負はある。覗き込んだ顔にぼんやりと薄く重なる面影を見出しては、ニヤリと意地悪く笑うのだった。)
* 7/3(Wed) 18:46 * No.8
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(ぴくり。犬に散歩されている眉なしギャルの概念眉が動いた。脳内でならいくらでも吠えられるし、キレッキレのメンチだって切れる。しかし悲しい哉、日和りまくりのCOURAGE:1では身を縮めるのみだった。)あ、はい……すいません……(ぺこ……としおらしく頭を下げて、びびりっぱなしの睫がこっそり相手の様子を窺う。初手交わらなかった視線を恐る恐る上に持ち上げて、しばし見つめたのち。)はァ〜〜!?(絶叫した。近所迷惑間違いなしの60db超えである。その人となりはよく知らずとも、冷やかしに所属した委員会の顧問を務める彼の存在は認知していた。その愛称に派閥があることも。)タイガーじゃんなんでいんの!? てか何の話………………(たっぷりの沈黙。その間にもトイ・プードルはすやすや眠り、ゴールデンレトリバーは意中の彼女を求めてリードを全力で引っ張っていた。)………アタシいま………すっぴん晒してんの………? タイガーに………?(絶望は音もなく。こんぶの引力に一歩よろめいた。しかしお世辞にも清らかとは評し難い三日月を前に、なけなしの負けん気が顔を出す。)ふ、ふ〜〜ん? そっちがその気ならアタシにも考えあるし。アタシ、よく屋上で──(はったりをかますべくぎこちない笑みを浮かべたところで、いよいよ右手が赤信号。狼狽の逡巡を挟み、おもむろに左手のリードを彼に差し出した。)持って!(なにせ不本意だ。借りを作りたくない口先を尖らせて、やむなしのSOS。)
* 7/3(Wed) 23:58 * No.13
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(頭のなかでキーンと反響する甲高い絶叫に「うるせぇ……」と耳を押さえながらぼやいた。声に覇気がないのは酒明けした直後の60db超えがさすがに応えたからに他ならず、軽い頭痛も誘発されて踏んだり蹴ったりだ。元を正せば勤務前日に飲み明かしていた自分が悪いのだが、そんなこたぁ棚に上げて被害者面もいいところ。しかしそれにしたって面白い絵面だなと改めて彼女のありさまを見遣りつつ、茫然自失とも思える音を拾えばますます面白そうに笑うだろう。)おーおー、ご愁傷さま。ま、同学年の連中じゃなかっただけマシだと思うこった。(慰めるつもりはどちらかというと無いが、それでも口にした言葉は本心だ。すっぴんを見られたという事態に同情未満の気持ちがないわけでもないものの、同級生に見られるよりゃ教師に見られたほうがマシだろうと能天気に考えている。気分のいい時は煙草をふかしたくなるもので、無意識に手が煙草を探すようにポケットへと伸びた折。)……あぁ?(よく屋上で──から続くものに心当たりがありすぎて、思わず煙草に伸びかけていた手が止まる。次になにを言われるのかと警戒するように眉間に皺を刻んだところで、)は?(差し出されたのは脅しの言葉ではなく、なんと犬のリードだった。つい反射的に受け取ったのち。)はぁあ〜〜?(受け取ってしまった手前犬のリードを離すなんて不誠実なことはしないが、納得いかんが?? と言わんばかりの面倒そうな声を落っことした。出勤前に家に帰ってシャワーくらいは浴びられるものと思っていたが、これでは諦める他ないようだ。まあ瑠璃浜鑑台駅のコンビニでカミソリ諸々買って行けば問題ねえかと、土日のあいだ髭の処理をサボっていた顎を面倒そうにさすりながら、)ったく、しゃーねーなぁ〜。で? 持ってるだけでいいのかい?(次の指示を仰ぐように、犬のリードを持つ手を低く掲げてみせた。)
* 7/4(Thu) 11:48 * No.16
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(どうやら反撃は成功したらしい。耳を押さえる彼の姿を見つめては新たなる可能性に震えた。 もしかしてアタシ、目覚めちゃった──? 才能って、ヤツに──。と爆音機の自我が芽生えかけたところで、ここでもCOURAGE:1が日和りまくりのポンコツメンタルを連れてくる。概念眉の根っこを寄せた。)な、なんかさ……体調わるい……?(もたつく唇を無理くりに動かして、手前勝手に心配した矢先。)いやウソめっちゃ笑ってんじゃん今のナシ てか同学年のがマシだったし! タイガーってこれからアタシの眉毛見るたび「よお天内!眉毛生えたんだなよかったな!」とか言いそうじゃん知らんけど!?(継ぎ接ぎだらけの意地悪教師像ではあるが、そう大きく外れてはいないはず。生憎のびびりであるからして、お世辞にもやんごとないとは言えない音吐に「ヒエッ……」と息を呑む羽目になるのだけれど。それでも右手の緊急事態宣言は全ての感情に勝ったから、彼の良心と反射神経に強く訴えかけるだけの圧をリードに託せたのかもしれない。いかにも面倒くさそうな抗議の声に得意顔を浮かべよう。なんとなく勝った気でいる。なお何に勝ったかはよく分かっていない。)ふふん。アタシのかしこさに平伏していいよ。備えあればうれしいな。(憂いしかない誤認識の慣用句とともに、自由になった左手をポケットに突っ込む。そうして取り出した黒の油性ペンと右手のリードを持ち替えて、)ん。(とペンを彼に差し出した。キャップ取って!の意であるが、それが伝わるかは微妙なところ。いずれにせよ。)てのひら貸して!(空いている手のひらをねだった。わふわふと相変わらず駆け回るゴールデンレトリバーに急かされて、彼を映し出すまなこはそれなりに切実である。)
* 7/4(Thu) 23:46 * No.23
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(ころころと目まぐるしく変化する彼女の表情を見遣っては、忙しねえこったとあきれたような吐息が零れていた。)そうさなあ、まあ言うとしたら「今日も眉ちゃんと描いてて偉いじゃねえか」だろうな。(無精ひげの生えた顎をさすりながらちらりと彼女へ眼差しを向けると、揶揄うように片方の口角をつりあげる。とはいえ実際そんな面倒に発展しそうなこと口にしたくはないのだが、既に面倒に巻き込まれている今ならば憂さ晴らしもなるので幾らでも。ただ脅すつもりはさらさらないので彼女が息を呑むさまには少し悪いことをしたような気持ちにはなるのだが、それもリードを持ったことでチャラということにしてもらおう。)おお、ザンネン。正確には"備えあれば憂いなし"だ。(厳しさもなければ鋭さもない、流れるように不正解を指摘する口調は軽く、相槌にも似たどうでもよさが伝わるだろう。しかして、)あ?(突如向けられたペンにどういうこったと不審そうに片眉をあげる。この時点で意図は伝わらなかったものの、次にかかった言葉で全て理解した。切実を訴える眼差しに負けたように目を閉じて、ハァ〜〜と観念したような溜息をひとつ。)……わぁーったよ。ホレ。(きゅぽんっ、とペンのキャップを外したのち、言われるままに空いている手を差し出そう。さて次はなんと言われるのか、或いはなにをさせられるのかと、彼女の言動を見定めるように気だるげな眼差しを向ける。)
* 7/9(Tue) 12:07 * No.42
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(それなりに友人は多い。つまり状況観察力と協調性には秀でているということだ。呆れ混じりの吐息に概念眉の根っこが再び寄った。)タイガーさぁ、モテないっしょ。(むすりとぶうたれて、無精ひげをさする仕草を大袈裟に真似る。意欲感心態度は常に底辺のギャルは忠言すら柳に風だ。)ふうん? でもまあ意味は一緒でしょ?(備えがあること=ウルトラハッピーの認識に相違はないのだろうと視線だけで尋ねておこう。怪訝そうに上がる片眉に怯えながら待機すること数秒。びくびく震える心を取り繕うためのへの字くちびるは、キャップが外れる軽い音によって解かれた。)ありがと! さっきのごめんタイガーイケメン!(変わり身の早さはご愛敬。差し出された手のひらに油性ペンを走らせる。大きく描くはニコちゃんマークだ。)せっかくだし散歩付き合ってよ。その子ちくわっていうんだけど、ニコちゃんマーク見せるとご機嫌に歩くから定期的に手見せといて。サボると寝るよ。(して、次いで取り出したのは何の変哲もない石ころ。自慢の声量で「こんぶ!」と呼び掛け、紋所さながらに石ころを見せつければ主人の元に駆け寄ってきた。かくして平穏が訪れる。)てか何してんの? めっちゃ朝だよ今。
* 7/9(Tue) 21:39 * No.47
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(モテるモテないはさておき、)安心しろ〜、俺も厚化粧のガキんちょに興味はねーよ。(ガキんちょに大人の魅力はわからんだろうと言わんばかりの口振りで、生徒は対象外であるゆえ問題なしだと傲慢にも鼻で笑ってみせよう。意味は一緒かと問われればまあ粗方間違いだとはいえないもので、現国の教師でもなければ目くじら立てて突っ込む必要はないだろうと目線を送るのみで流してしまおう。顧問を受け持つ委員会の一員たる彼女のことは名前と派手だなという印象しか覚えていなかったが、こうして言葉を交わしてみれば印象は更新せざるを得まい。その変わり身の早さには「現金なこった」と肩を竦めつつ、)マーク見せたらご機嫌になるってお前、一体どんな調教したんだ?(手のひらに描かれたニコちゃんマークは、強面にはなんとも似つかない。つーかこれ油性じゃねえか? と今更ながら気付いては眉根を寄せもするが、文句を垂れたところで状況がよくなるわけではないと諦めて、ちくわと呼ばれた犬へとマークの描かれた手のひらを見せては大人しく散歩に付き合おう。)にしても愛犬の名前がちくわとこんぶたぁ……。(煮物の具か。と内心突っ込みつつ、頭を掻いていたところ。不意に投げかけられた質問に眼差しを彼女へ向けては、)なにってそりゃあ──(云いかけて、ハッと言葉を噤む。わざわざ弱味となる情報を自ら差し出す理由はないと冷静に判断しては、こほん、とわざとらしく咳払いをひとつしたのち。)……散歩だよ、散歩。出勤前に朝の空気を吸っておくのも悪かねえだろ?(それっぽい理由で誤魔化した。)
* 7/10(Wed) 13:36 * No.53
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(ガビーーン。反骨精神のないメンタルもやしギャル、痛恨の一撃を喰らった。)えっ……傷ついたんだけど……フツーに…… 厚化粧とか悪口じゃん……(へにょへにょ下がる眉尻は悲嘆の大きさを物語る。おじさんの恋愛対象ではないこと自体は特に気にしていない。しかしサイキョーカワイイを自負しているメイクテクニックを揶揄されたことだけが悲しくて、傷つきましたの顔で自己申告した。被害者ヅラを決め込めるくらいには神経が図太い。)ん〜、よくわかんない。しつけしたのパパだから。(役目を終えた油性ペンにキャップを被せてもらえるよう「ん」と再びペン先を差し出しておく。他でもない彼の助力を得て片手は自由を得ているから、彼の返答によっては自らキャップを被せることになるかも。いずれにせよ散歩の申し出は受けてもらえたようだから、キャップの処遇がどうであれ機嫌が上下することはない。)かわいいっしょ? ちくわとこんぶ。名付け親アタシね。あまちの「ち」としょうこの「こ」からとった。(自己肯定感高めがデフォルト設定。感心されているに違いないと思い込んでのドヤ顔は、いかにもな咳払いを見逃さなかった。)ダウトでしょダウト。そんな爽やかサワ太郎みたいなこと言う人はね、トゲトゲひげ太郎になんないから。ねえウソでしょ? 生徒にウソついたの? ねえねえウソついた?(にまにま。ご機嫌な微笑みを浮かべて隣を歩む長身を見上げた。)
* 7/10(Wed) 16:36 * No.54
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あン?(盛大な悲嘆を聞けば反射的に片眉があがる。怪訝な顔を隠しもせず黒い瞳を彼女へ向ければ、思ったよりも深刻そうな表情と鉢合わせて二の句に詰まった。現代のコンプラ的にこの状況は言いふらされると面倒そうだと瞬時に判断しては、盛大な溜息をひとつ落とし、ガシガシと参ったように頭を掻いた。)……はぁ〜〜、悪かったよ。お前のは厚化粧じゃなくてせいけ──……いや、なんでもねえわ。(整形メイクも恐らく褒め言葉にはならんだろうと、うっかり云いかけた言葉を呑み込むように片手で口を塞いでは、形ばかりの謝罪ついでに降参ですと言わんばかりにゆるく首を振った。こういう時は素直に折れるほうが楽であると人生経験が告げている。犬のしつけは親任せ、まあそりゃそうかと先刻の光景を思い出せば納得したように彼女を一瞥したのち、またまた向けられたペン先に大人しくキャップを被せるとしよう。かくして巻き込まれた犬の散歩だが、二日酔いの頭を抱えて電車に揺られるよりは多少マシといったところ。自業自得で痛むこめかみを押さえつつ、)ほぉ〜〜、そーかい。そりゃあステキな名前だこって。(どこをどう取っても適当すぎる相槌にもちろん心なんぞ籠っちゃいない。しかしご機嫌な彼女の耳にはきっと都合よく受け取ってもらえるだろうと希望的観測を懐いている。ニュアンスは兎も角、褒め言葉であることは事実なので。)さぁて、どうだろうなぁ〜。ま、仮にウソだとしても素直に言うつもりはねえがよ。(向けられる笑顔もどこ吹く風。慣れた様子でひらひらとあしらうような仕草をしては、挑発するようにニヤリと笑った。)当てられたらジュースくらいは奢ってやるぜ。
* 7/11(Thu) 01:09 * No.56
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(たっぷり愛されて育った身である。肩を落としているところに溜息を吐かれた経験はなく、八の字眉で「ウソでしょ……」のまなざしを向けた。追い討ちに身構えたのだ。しかし思いがけず賜った謝罪に晴天の兆し。からの曇天。)………なんでもなくね〜けどぉ〜〜?? アタシ天才だから分かっちゃってるけどぉ〜〜?? でもアタシのことほめたら許したげるよ。ほらほめてみ。(白旗に免じて云々かんぬんといった広い心は生憎と持ち合わせていない。ご機嫌取りを強要する一方で、へにょへにょ眉尻はすっかりと平生の調子を取り戻しているから、戯れの延長線であることは伝わるはず。上がり調子の気分はペン先にキャップを被せてもらえたことで勢いを増し、ニコちゃんマークに勝るとも劣らない笑顔で「ありがと」を告げた。)でしょ! うち日本料理屋だからさ〜、それっぽい名前にしたかったんだよね。アタシの名前からもとりたかったからめっちゃ考えた。(彼の思惑通り、額面通りに受け取った楽天家の口は饒舌だ。ひらひら揺れる手に垣間見えたニコちゃんマーク。そのキャッチーな絵柄と彼の顔貌が同一フレームに存在することでようやく彼が強面なのだと気付く。なるほどニヒルな笑みが似合うわけだ。)え! おごってくれんの! 名探偵ショーコになるわアタシ!(ぱっと相好が華やぐ。俄然やる気だ。)う〜ん、証拠は……あれ? ショーコ被ってない? 粧子と証拠……(親父ギャグもそこそこに、)ひげが残ってるってことは寝坊でしょ? つまり夜更かしじゃんね。ゲームやりすぎたとか? いやでもゲームとかあんましなさそうだし……あ、お酒! お酒でしょ。はしご酒的な。どお?
* 7/12(Fri) 08:42 * No.67
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(これが他の教員だったなら恐らく彼女に優しい言葉のひとつやふたつかけていたに違いないが、生憎ここに居るのは自覚のある不良教師ひとりだけだ。とはいえ、いいやだからこそ、茶番に付き合うこともしよう。斜め下に落ちゆくばかりだった彼女の機嫌も徐々に上を向き始めてくれているならなおのこと。)褒めるったってなぁ〜……。(ちらり、と傍らにいるだろう彼女へと黒い眼差しを向ける。知っているのは名前とほんの僅かな印象程度。担当クラスや部活動の生徒以外と接点を持つのが難しいのはマンモス校ゆえの弊害だなと改めて感じては、なけなしの記憶を引っ張り上げるように頬を小さく引っ掻いた。)あー……ああ、そういや朝の立哨活動、ちゃんと参加してんだってな。(思い出したようにまたたいては、偉いじゃねえかと告げるようなニュアンスで言葉をこぼす。果たしてこれが褒めたことになるかは彼女の受け取り方次第ではあるけれど、こちらは案外真面目じゃねえかと褒めたつもりでいる。無垢な笑顔で紡がれる謝辞には「おう」と不器用な言葉を素気なく返すことになるだろう。)日本料理屋? おお、そりゃあ親御さん大変そうだな。……こんな朝っぱらから犬の散歩をしてんのもそのせいかい?(失礼ながら彼女に懐いていた印象と早起きが中々結びつかなかったので。犬の散歩を親の手伝いと決めつけるつもりはないが、そういうことならまあ納得がいくかと勝手に解釈しては、窺うように視線を向けたわけなのだが。)ふはっ、ンだそりゃあ。(炸裂した親父ギャグには堪えきれずに笑いが零れる場面もあったろう。)ほ〜〜、まあハジメテにしちゃあ及第点ってとこだな。それでヨシとしてやらぁ。(彼女の推理は殆ど正解といってもいい、が、それを正解といえば飲み明かしたことを認めることにもなってしまうため曖昧な答えで誤魔化してしまおう。しかし良しとしてやる、だなんて尊大なことを宣いつつも、)……まあその、あれだ。この件については他の先生がたには内緒にするように。(曖昧に誤魔化したところで言いふらされるとまずいことであることには変わらず、情けなくもそう付け足すことになるだろう。)
* 7/12(Fri) 23:00 * No.71
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(ふふふん。どや顔で賛辞を待とう。なにせ長所には枚挙にいとまがない。と自負している。ちらりと窺うようなまなざしだって、どれを挙げるべきかと選びかねていると信じて疑わない有様だ。いささか歯切れの悪さが垣間見えようとも今は誤差の範囲内。なおこの誤差範囲は機嫌によって変動するため注意が必要とかなんとか。)うん! どのみち朝はこの子らの散歩あるしね。知らない子に挨拶すんのも結構楽しいし。(時たま顔を出すビビりタイムさえ除けば大抵のことは前向きに捉える性質である。立哨活動も交流の輪を広げる良い機会。この数奇な散歩でさえ、知っているようで知らない彼の人となりを知る良い出会いなのだった。)ん〜、まあね。でもパパとママで始めたお店だし、ふたりともめっちゃ楽しそうだよ。散歩はフツーにアタシの担当っていうか? 風呂洗いもやってるよ。えらいっしょ。(どやどや。どや顔を重ねていたところで、不意に咲きこぼれた笑みに目を丸める。すぐさま破顔した。)笑うとかわい〜じゃん。(他意のない褒め言葉だ。彼の受け取り方次第ではあるけれど、こちらは真面目にかわいいじゃんかと褒めたつもりでいる。)キューダイテンってアレでしょ、合格ってことでしょ? やった〜! アタシ天才だぞこんぶ〜!(おもむろに立ち止まり、ゴールデンレトリバーの首元をわしゃわしゃ撫ぜやる。虎に導かれているトイ・プードルも物欲しそうに彼を見上げることだろう。)んふふ、いいよ。内緒にしといたげる。てかタイガーってお酒好きなの? 今度うち来たら? 日本酒いっぱいあるし、だし巻き卵めちゃウマだよ。
* 7/13(Sat) 15:09 * No.73
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……そうかい。ンなら途中で投げ出したりするなよ。(彼女の反応を窺うに、どうやら褒め言葉として受け止めてもらえたようだと内心安堵する。生徒は素直だ。もちろん中には捻くれ者もいるけれど、それもひっくるめて可愛いものだと思う。存外楽しめているということであれば任期満了まで投げ出すこともないだろうとは思うものの、お節介という名の余計な一言はどうしたって零れてしまうものだ。)楽しそう、か……まあ、そんなら心配いらねえわな。これからも出来る範囲で親御さんの手伝いちゃんとしてやれよ。(念願かなっての開業だったのだろうと彼女の言葉から十分に伝わっては、こちらが心配するまでもないかとひとりごちる。まるで褒めてと言わんばかりのどや顔へと眼差しを向ければふっと口許を緩めて、わかりやすい褒め言葉ではないものの称賛を送るとしよう。ただ、こちらへ褒め言葉が向けられれば難しそうに眉根を寄せることになるのだが。)お前なぁ〜……教師に向かってかわいいはねえだろ。かわいいは。(他意がないことは聞けばわかる。だからこそ複雑そうに頭を掻いては、やれやれと溜息を落とすことになるのだった。閑話休題。)あン? そりゃあお前、酒と煙草が嫌いな大人なんざいねーだろ。(こちらを見上げるトイ・プードルの視線に負け、観念したように膝をついては頭を撫でてやりながら当たり前のように偏見を宣った。)そうさなぁ……ま、たまにゃだし巻き卵を肴に酒を飲むのも悪かねえか。気が向いたら行くわ。(教師という立場上生徒の親の許に酒を飲みに行くのは些か憚られるものがあるものの、口約束ならば幾らでも。気が向いたら、と曖昧な言葉で纏めては、)そういうお前は飲むもん決まってんのか?(話題の矛先を彼女へ変えてしまおうと、少し先にある自販機へと目線を向けては問い掛けた。)
* 7/14(Sun) 16:38 * No.76
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言い方〜〜??(全力の渋面で猛抗議。)今の言い方はな〜。アタシ投げ出したくなっちゃうかもしんないな〜。もっと素直に応援してくんないとな〜〜??(じと目に煌めくは期待の光。友だち先生の呼び声も高い彼ではあるけれど、こうして言葉を交わしてみれば存外に不器用というか、説教くさいというか。そこに嫌味を感じさせない気の良さこそ彼の魅力なのだろうけれども、はい分かりましたと頷けるほど純粋でもなかった。への字の口唇で不満を表しておく。冗談めかして破顔するまであと数秒。さて彼の反応を頂戴するまで耐えきれるだろうか。)もち! なんかさ、パパとママ見てると手伝ったげるか〜ってなんだよね。夢追い人のミリョクってやつ?(先の助言とは打って変わって素朴に肯定した。微笑みの気配が嬉しかったからだ。)なに? 照れてんの? かわい〜通り越してきゃわじゃん。きゃわぶちタイガー。(そういえば彼の溜息と相対するのは何度目だろうかと、親父ギャグを再来させながら記憶を辿る。が、秒で終了した。なにせシャッターチャンスが訪れたので。)え、これヤバない? ワニとトラとワンコが一画面に収まってんだけど。かわい〜んだけど。(満足そうに目を細めるトイ・プードルと、そんな犬を撫ぜる彼と。スマートフォンで撮影した写真はもちろん無許可の代物である。)そーしなよ。酒と煙草が大好きな大人ばっかいるし、友だちも増えんじゃん?(社会的な立場などミジンコほども想像し得ない女子高生は、話題転換の思惑にだって気付くはずもない。聳える自動販売機を見るなり犬と一緒に駆け寄った。)決まってない! どうしよっかな〜、炭酸か紅茶か迷うな〜。うーん……(考え込んだまま沈黙した。実はかなりの優柔不断である。)
* 7/14(Sun) 22:09 * No.79
…
はぁ〜〜?(言い方だぁ? 不良教師の自覚はあるが、まさかそこにケチを付けられるとは思わなんだ。面倒そうな面を隠しもせずに彼女へ向け、)素直な応援なんざ俺に期待するほうが間違いだろ。お前にゃ俺が聖人君子や観音菩薩に見えんのかい?(こちらを見上げる不満げな表情と向き合えば、やれやれと困ったようにガシガシと頭を掻く。生来の性分もあるが彼女や学生たちのように心に素直でいられる歳は疾うに過ぎ、思考もずいぶんと凝り固まった。これ以上求められても出せるものなぞある筈もなく、参ったように吐息するのだろう。教師に赴任してからというもの溜息が癖になりつつあった。もっとも嫌な心労ではないけれど。)そうさな。……夢を追っ駆けて、それを叶えられるってのはスゲエことだ。(どこかしみじみとした音吐で呟く。しかしそんなしみじみした空気も次の瞬間には綺麗さっぱり吹っ飛んで、弄り目的のギャグにはどこかげんなり、うんざりしたような顔で「ウルセー」とひとりごちるのだった。よってスマホには犬を撫でるげんなりした男と、かわいいトイ・プードルとの綺麗な対比が収められたに違いない。)撮んな撮んな。つーかワニとトラと犬ってどーいうこった、数がおかしいだろ。(ワニと犬、もしくはトラと犬ならわかるがこれ如何に。今更過ぎる突っ込みが彼女に届くかはわからぬが、まあ無事に話題転換は出来そうなのでよしとしよう。駆けて行く彼女の背中をのんびりと追い駆ける。)炭酸と紅茶たぁ極端だな。オラ、釣りはいらねーから決まったらコレで好きなの買え。(これは時間が掛かりそうだと判断しては、小銭入れから200円ほどを取り出して彼女に握らせてしまおうと手を差し出そう。彼女が飲み物を決める最中、ちゃっかり煙草を取り出しては、)そういやお前、ちゃんと試験勉強はしてんのかい?(火を付ける前に一言、思い出したように問いかけた。)
* 7/15(Mon) 15:54 * No.80
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(笑顔には笑顔。面倒そうな顔には面倒そうな顔を向ける素直な性分であるが、今回は「冗談だよ」の在庫があった。すっきり爽やか朝型人間なのも功を奏し、ご機嫌貯金から下ろされた笑みは悪戯めいて。)そ? アタシの扱い方教えてあげたつもりなんだけど。まあタイガーの好きにしたらいいんじゃん?(聖人君子や観音菩薩のくだりには触れなかった。その名詞が示すところに全く心当たりがなかったからだ。)ね〜。タイガーもセンセーになりたくてなったの?(直近の進路すら検討していない能天気な女子高生としては、先人の半生は気になるところ。世間話の延長線上で足踏みする会話はスマホの画面に集約されてゆく。)しょうがないじゃん、タイガーが一人でワニとトラなんだもん。タイガー本体がトラでヒゲがワニなんじゃん? 知らんけど。(無責任極まりない〆の言葉とは裏腹に、楽しげな笑みが口許を飾るのは何だかんだでツッコんでくれる彼の気安さあってこそ。かくして差し出された手に目を輝かせては、)ありがと! 今のカッコイイね。おつりいらねーってやつ。(評された通りの現金さで笑顔を咲かせた。炭酸飲料を手にしたのは二枚の硬貨が体温に馴染んだ頃。ジャージのポケットへ釣銭を突っ込んだところで一服タイムの気配を察する。)重いの好きそう。タールマシマシのやつ。(と、予想を口にしたところで。)えっ……なに急に……(分かりやすく絶望した。ちび……と控えめに炭酸飲料を飲む。)……あのさ……写真ほしくない? うちのトイプーかわいいし。(さて、試験勉強の緊急連絡先は確保できるか否か。その結果がどうであれ、ちいさな“内緒”がなんだかうれしい初夏の朝だった。)
* 7/16(Tue) 21:48 * No.81
…
(扱い方。扱い方ねえ。手持ち無沙汰に無精ひげの生えた顎をさすりながら「覚えておくよ」と適当に返事を返したものの、生徒に合わせて柔軟な対応が出来るほど器用ではなく。もっとも悪戯めいた笑顔を見るに今回は戯れの範疇と悟っては、すっかり手のひらで踊らされたような心地になってまたしても溜息が零れてしまうのだ。)さ〜てなぁ……まあ、なりたくてなったも強ち間違いじゃあねえのか……。(最初こそ曖昧な返事で誤魔化したものの、しかし教員免許を取得した時点で教師という職に就く気があったことは事実であろうと改めて頭の中で彼女の言葉を反芻しては、難しそうに眉根を寄せて呟く。彼女の問いへの答えというよりは、どちらかというと独り言に近い声量であった。)それで言うならどっちかっつーとトラがヒゲだろ。ワニにヒゲなんてねーしよ。(生真面目にツッコむのは最早性分なのであろう。呆れたような声色ながら、しかし口許を彩る笑みは随分と気安い。安月給ではあるがジュース代をケチる程困窮しているわけでもなく、咲いた笑顔を見れば寧ろおつりがくるくらいだろうとも。そして酒云々を見破られてしまったあとでは隠す必要もあるまいと、一本取り出しては堂々と煙草を銜えた。)まーな。……っと、あんまこっち向くなよ。煙吸っちまうぞ。(とは、生徒の前で堂々と煙草をふかす不良教師が言えたことではないけれど。タール28mgもある銘柄、dreamを再びポケットへと仕舞ってはジッポで煙草に火をつけた。)…………はあ?(しかして切り出された話題には再び眉根を寄せて、訝し気に彼女を見る。とはいえ強く否定する理由もなく、「まあ部活のヤツらにも教えてるしな……」とひとりごちでは大人しく緊急連絡先として番号を差し出すことになるのだろう。振り返ればなんて間抜けな出会いだと笑ってしまうような朝ではあるけれど、人と人との出会いなんてきっと、これくらい緩いほうが丁度いいのだ。)
* 7/18(Thu) 23:18 * No.82
azulbox ver1.00 ( SALA de CGI ) / Alioth