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【Step3】10/20(土):放課後 双鏡学園校門付近

(「佐々礼さんバイバーイ!」――横をすり抜けていく声に顔をあげれば、文化祭を機に話すようになった女子グループの一人だった。小さく手を振り返し、その背中を見送る。クラスメイトと話す機会が増えたのは、苦手とする人付き合いのハードルが随分と下がったことも要因だろう。理由はよくわかっている。LINKSを開き、並ぶトーク画面のひとつをタップした。)……テスト、終わったし……どっか、誘ってもいいのかなぁ。(画面に連なるは約束や些細なやり取り。けれどそれこそが安らぎだった。とはいえあっちには他に友達多そうだし、こっちがバイトあるから時間合わせてもらう事になっちゃうし、だなんてやたらにぐるぐると考える中――「笑子ちゃん?」進行方向より呼ばれる名に、咄嗟に足を止めた。40代ほどの穏やかそうな男性が一人と、後ろをついて歩く少年少女は、両名とも数駅先の中学校の制服を纏っている。)……水町、さん……、(眼を瞠って、顔を上げていたのはその一瞬。すぐに視線を逸らし、何故、が脳内を駆け巡る。それを見透かしたなんて事もなかろうが、男性は子供たちの進路希望が双高である事、今度在校生である君にも話を聞いてみたいと、柔らかな物腰で説いてくることだろう。片や視線を下方へ滑らせたまま押し黙り、片やにこやかながら明らかに気を遣った態度。傍目に見れば奇妙な重たさが漂って感じられるかもしれない。その空気感をひしひしと感じているのは、当人も同様。)……学校から説明される以上の事、言えるかわかりませんけど、その……何かあたしに話せる事があれば。(ぽつりと、呟くよう返る言葉が拒絶でない事に安堵したようで、男性の張った肩が緩んだような。次いで“なら次の食事会の時にでも”と続けば、常から吊り上がるような眉が顰められて。)……来月のですよね。その日は父と会う日って、母には前もって伝えた筈ですが。……本当、あたしの話聞いてないな。(母の行動に察しが付けば嘆息が溢れ出す。しかし男性の面持ちに気まずげな苦みが走るのに気付けば、サッと血の気が失せていき「……っ、すいません、この後バイトあるんで」と足早にその横を通り抜けていくしか出来なかった。――嗚呼、やっぱりダメだ。自分じゃダメなんだ。目を逸らしてきた自己嫌悪が蓋を押し退けて溢れ出すようで、強く噛んだ唇が痛む。――早く夜へ。結局安寧は“佐々礼笑子”のいない、あの場所にしかない。)
* 8/8(Thu) 17:28 * No.159

(期末テスト最終日、数学の出来がどうだ古文の単語がどうだと取り留めもないことを話しながら、友人らと校門をくぐる。明日は休みだしどこかでテストの打ち上げしようぜと提案したのは普段行動を共にしている友人の一人であった。向かう先はいつもざわざわと騒がしいファストフード店である。季節限定って今なんだった?と答えが得られてもそうでなくても構わない問いかけ投げつつ、ふと車道を挟んだ向こう側に目をやり、足を止めた。どうした?と問われる声にいや、と癖のように返した一方で、頭の中で反芻した名前がぽろりと口からこぼれ落ちる。)佐々礼?(金の髪が高い位置で結ばれた髪型は、確かにこの夏知り合った友人の姿のように見える。くちびるから転げ落ちた名を拾われ、「あの子友達?声かける?」と問われる。普段であれば頷くところではあったが、今日は違った。)友達なんだけど、……今日はやめとこうかな。誰かと話してるっぽいし。(今日の友人は一人ではなく、同行者がいた。そしてこちらにもまた友が隣にいる。自分一人であれば、あまり話が弾んでいない様子の彼女に空気が読めない振りをして話しかけることもできたが、複数人の友人引き連れてそれをするような度胸はない。また、気まずい間柄にある歳の離れた男性というのは己にも身に覚えのある存在であった。そしてそういった存在と対面している時は、第三者の介入が当事者にとってはありがた迷惑になるか、そうでなければ己に好ましくない展開呼ぶ可能性があることも身にしみて知っている。先を行く友から出発を急かす声かかったのを契機に再び歩き出す。傷ついた動物を置き去りにするかのような後ろめたさが袖口にまとわりついている心地になる。)
* 8/13(Tue) 22:38 * No.162


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