
【Step4】11/16(金):午前1時頃 ホテル中庭
(喉が張り付く。視界が滲む。汗が止まらない。スマートフォンの心許無い灯りを頼りに冷蔵庫へと辿り着くと同時、ずるずるとその場へとへたり込んだ。震える指先がLINKSを起動させる。迷惑だ。わかっている。それでも、少しだけでもいいから、声が聞きたかった。縋りつくようにトーク画面をタップし『なんか目が覚めちゃって 起きてたりとか、する?』『もし、鵜飼も暇してたら、中庭来てくれるとうれしい』『朝起きてからこれ見たら、気にしなくていいから』いつもよりもたもたとしたフリック入力で打ち込まれた文章を確認し、早々にポケットへと突っ込んでしまおう。そうして躍り出た宵闇の下、ジャージだけでは11月の夜は肌寒く、秋風がおろしたままの髪を揺らす。とっくに化粧なんて落としてしまっていた事を気にしていたが、僅かな灯りのみが照らすこの薄暗がりならば気にする事もないだろう。)……みんなには会いたい、けど、あの記憶は見たくないし。……でもイデアルームに行かなくてもイヤな夢は見る、し……もう、どうしたらいいんだろ……。(痛くて、苦しくて、重くて、靄のかかる胸が自身の一部ですらないような感覚に苛まれて。掻き毟りたくなる衝動を押さえ、掌を添える。――途端、違和感が形を為したように、ずるりと影が這い出て蠢動する。事態を理解出来ずに引き攣る喉からはただ息が洩れて、思わずと後退る足が縺れて芝生へと尻餅をついた。)……〜〜っ、な、に……!!(舌も縺れ、ただ影が揺らめき次第に輪郭を為すのを見つめるしか出来ず、しかしそれが為された時、今度こそ声を失った。理想を委ねたその姿を見紛う筈もない。それは、かつて自分を愛してくれた、憧れたその人の似姿で其処に居た。)
* 8/19(Mon) 00:48 * No.163
…
(芝生を踏んだ筈のパンプスが堅い音を鳴らす。長い髪を靡かせ、ふんわりと下がる眦で微笑みかける。悪意なんてひとかけらだってない、優しいお姉ちゃんの笑顔で。)笑子ちゃん、楽しそう。最近楽しそうよね、現実も。あの子のおかげかしら。アイリーンでいる時間も減っちゃった。(滔々と語る声は明るいトーンである筈なのに、どこか淡々と抑揚に欠いて紡がれる。座り込んだまま動けない様をいいことに、一歩、一歩とゆっくりと距離を縮めていく。やがて眼前に立ち塞がり、怯える瞳を見下ろす頃。双眸が三日月のような弧を描くと同時に、少女を組み伏せ馬乗りとなり、喉元を鷲掴むようにして細長い手指が首へとかけられた。)でもそれは、現実から目を逸らして都合良く忘れているだけよねぇ?だって、ずっと、ずっとずっとずっと!思っていたじゃない!ここにいるのが自分じゃなければ全部上手くいくのにって!(指に籠もる力が強まる。背を丸めれば豊かな髪が少女の顔を覆い隠すように流れて、鼻先が掠めるほどの間近まで顔を寄せた。)……そう、わたしなら。それに、みちひさくんなら。きっと上手くいくのにって。佐々礼笑子が邪魔だった筈じゃない。ね、苦しいでしょう?わたしが代わってあげる。大丈夫よ。――お姉ちゃんが、どうにかしてあげるからね。(怖気立つほど優しい声が否応無しに鼓膜をくすぐる。圧迫された気道の隙間で、微かに零れる「……だれ、か……っ」そう縋るような声なんて、気に留めようわけもない。)
* 8/19(Mon) 00:49 * No.164
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(日中観光地を周り、心地よい疲労感があったにもかかわらず、その日は眠りが浅かった。初めてイデア・ルームを訪れて以来、すっかり夜更かしが板についていた所為かもしれないし、何かの予兆を感じた所為かもしれなかった。消灯時間からしばらくして、ルームメイトらの寝息が聞こえるようになってから久しい頃合い、枕元に置いたスマートフォンが震える。一つ目のメッセージに返信しようとベッドの中で指動かす最中にも続けてメッセージが届く。「どうかした?」の三文字目まで入力しかけて結局全部を消し、代わりに四文字を送信する。「すぐ行く」とひどく端的なメッセージになったのは、遠慮がちな文面に助けを求めるような印象を受けたからだった。防寒用に持参していたマウンテンパーカー羽織り、ポケットにスマートフォン突っ込んで音立てぬよう部屋を後にする。足早に階段降り、辿り着いた中庭には人影が二つ。誰か自分以外の友人と一緒にいるのかな、などと浮かんだ疑問は近寄るにつれ霧散した。)佐々礼!?(呼びかけは切迫の色帯びる。暗闇というにはわずかに明るい暗がりの中、友人に女が馬乗りになり、首に手をかけているのを見とめる。地を蹴って友に駆け寄り、女の細い腕を掴んだ。)ーっ!!お前、離せ!!!(友に覆い被さる女を引き剥がそうと力込める。豊かな髪持つ女の姿が夢の世界では慣れ親しんだものであることにはまだ気付かない。)
* 8/19(Mon) 16:10 * No.165
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(掴まれた腕は容易く剥がれ、反射のように顔を上げた。頼りない灯りに照らされた青年のその面差しを見止めた直後、瞠った瞳を瞬かせ、やがてゆっくりと弧を描く。)あら、(綻ぶ笑みと愛着を伴う声は、まるで心近しき友との顔合わせが叶ったかのように模られる。しかし乱暴に腕を振って無理矢理払い、そのまま背後へと飛び退くようにして両者から距離を空けた。)ふふふっ、よかったわねぇ、助けてもらえて。何がなんだかわからないって顔してるけど、笑子ちゃんはわたしのことよぉくわかっているはずよ? ――我は汝、汝は我。(一節は謳いあげるとも、囁きかけるとも、どちらともつかぬような曖昧な音吐でそれは紡がれる。吹き込む風に髪が撓んで、煩わし気に耳へとかけて、影は世界の一部としてそこに在るかの如く振る舞った。)
* 8/20(Tue) 00:13 * No.168
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(それは、どこを切り取っても自らの理想の似姿で、あの夢のような世界では自分自身であった筈の存在が、現実で眼前に現れた。その戸惑いと混乱ごと抑え込まれなければならない意味すら理解出来ず、けれど思考を回そうとも酸素を絶たれた脳はろくに機能しない。まともな抵抗も出来ぬまま、意識が混濁し始めた時――聞こえてきた声は、求めていたものだった。直後、首にかけられていた手が離れ、途端に肺に送り込まれた空気に溺れるように噎せこみながら首筋に触れる。あれだけ強い力で絞められていたにも関わらず、一筋たりと痕も残っていない事など知る由もなく、倒れ込むままにその姿を見上げた。)……っう、かい……!(平生の険しさも彼に見せ始めた綻びもなく、ただ怯えきった瞳がそこにあった。震える腕を支えに身体を起こすさなか、高い笑い声に心臓が冷えていく。見紛う筈もない姿。覚えのある一節。“それ”が、紛れもなくアイリーンであり、ペルソナである事を物語る。)……ご、ごめん、鵜飼まで巻き込んで……でも、っあ、あたしもなんでこんな事になってるかわかんなくて!なんで、アイリーンが……!(絡まる思惟も舌端も上手くは回らず、一から説明せねばならない事すらも吹き飛んでしまって。張り付いた喉が詰まると共に声は途切れる。もう一度咳き込んだ後には、ただ掠れた声が「……ごめん……」と零すのみ。)
* 8/20(Tue) 00:14 * No.169
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(振り払われた腕はそれ以上女を戒めようとはしなかった。友と女の姿見た瞬間に身のうちに燃え上がった衝動がバケツの水浴びせられたかのように消えていく。女の顔が、あの理想の世界で親しく話した仲間のものと同じに見えたからだ。なぜ そんな あれがこちらの世界に姿を現すなんてー惑う瞳のまま絞められていた友の首に視線やる。そこに指の跡が残っていないことや、女が呪いのように口にした一節が自分の耳にも覚えのあるものであることが、女が真実夢の世界から抜け出してきた何よりの証のようにも思われた。倒れ込んだ友に伸ばそうとする手は恐々と。先ほど女の腕掴んだ時のほうがよほど勢いづいていた。怯えに揺れる友の瞳がこちらを見る。ブラウンに映る己の姿が微かに歪んでいるようにも見える。女に背を向け、目線の高さを合わせようとしゃがみ込む。)ゆっくり呼吸できる?吸って、吐いて、吸って、吐いてーー。(手本示すように自らも深呼吸繰り返し、少しの躊躇いの後、友の背に右手が触れる。だいじょうぶ、だいじょうぶと小さく繰り返しながらあの日の幼な子にも似た背中をさする。あなたの味方はここにいるよがてのひらから伝わって友人に届くといいなと祈りながら。)俺は佐々礼の友達だから、そんなふうに謝らなくてもいいんだよ。(背後に女の気配感じつつも、この場に友を害するものは存在しないかのように口調は凪いでいる。身体中に張り巡らされた神経全てが友の力になりたがった。)
* 8/20(Tue) 21:43 * No.172
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(夜風が首を伝う汗を冷やしていく。手指や末端の温度が抜けていく感覚。恐怖心が今尚首に手をかけているかのような、暗澹たる道を手探りで往く錯覚の中で、背に温もりが触れた。はっと開けた視界の中で、目線の近付いた彼の挙動を殆ど無意識みたいに真似て、呼吸を繰り返す。都度引き攣るような音を鳴らしていた喉は次第にほぐれて、脈動があたたかに息づく。熱を帯びた心音を携えて、緑がかったその瞳を見上げた。眼界には彼だけが映っている。)――……あ、鵜飼……あの、来てくれたんだね。ありがと……、(ごめん、と再度口を衝こうとして、一度引き結んだ唇がただ友人へと想いを伝える。女は何を思ってか動こうとしない。ただ微笑の内側にぽつんと置き去りにされたような冷めた瞳が、此方を見据えている事だけを感じる。間に居る彼と、その背中越しの己と、どちらに焦点を合わせているのかも最早わからぬまま。彼の影に隠れるようにして顔を伏せ、訥々と語り始めた。)あれ、は……あたし自身でもあるはずなの。合わせ鏡の噂を試して手に入れた、理想の姿、で……それが、あたしの中から影みたいになって、出ていっちゃって。……何、言ってるか、わかんないよね……。(緊迫した状況下で御伽噺など語るなと言われてしまえばそれまで。彼ならば笑い飛ばしはしないと思えたから告げたものだが、面持ちには苦みが走る。飾り立てる鎧であった化粧も剥がし、一度恐怖心に膝を折った声は弱々しい。)……きっと。現実から目を逸らして逃げ続けてた、あたしへの報いなんだろうね。
* 8/21(Wed) 08:04 * No.174
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(浅い呼吸が元通りになっていくのに安堵するうち、今度は吹く風の冷たさと、友人の服装がそれに耐えるには心許ないものであることに今更気付く。着てきたパーカーから腕を抜きつつ、)これ、嫌じゃなかったら着てて。(この旅行を機に新しく購入したものなので匂いが染み付いていたりなどはしないだろうが、今の今まで着ていたものなので熱はすっかり移ってしまっている。肩にかけようとする手つきは背に触れた先ほどと同じぐらいの慎重さで。必要ないと首振られれば、また自らの腕通すことになるのだろう。そうしているうちにも女が自分の後ろにいることだけが確かで、友が弱っていることだけが確かで、その他は何もかも不透明なまま言葉を聞く。)ーー合わせ鏡の噂、……(心にざわざわと波が立つ。己の影もいつかこの世界に現れてしまうのか、それが自分の本性を暴き立ててしまうのではという不安の波が足元濡らすような気持ちになる。打ち寄せるうちに次第に大波になって己を飲み込もうとするのに目を背けて、友を案ずる心だけを携えて口を開く。)信じるよ。(俺も彼女を知っているから、続く言葉は胸の内に秘められる。代わりにこちらに視線向ける女を見やり、再び友の瞳を覗き込む。)あれは、アイリーンは、佐々礼を傷つけるものでしかない?(静かに問う。友の影について尋ねているのに、己への救いを求める心地になる。)もしそうなら、俺も一緒にあれをやっつけられるように立ち向かうし、もしそれだけではないなら、……俺も一緒に、アイリーンの話を聞くよ。
* 8/22(Thu) 21:19 * No.176
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(彼の存在に齎された安堵の中、現実感の無さに境界が曖昧になっていくような感覚も失せていく。あのまま心を折られていたらどうなっていたのだろう。怖気立つ心地は、しかし、肩にかかる温もりが帳を下ろすように閉ざしていった。)え……でも、鵜飼が寒くなっちゃうでしょ……、(遠慮を覗かせるのも当然。それどころではなかった、というのも要因とはいえ、この夜陰の中を甘くみていたせいだ。負い目のように、心許ない面持ちのままであったけれど、不意に星の流れ落ちるように瞳に光が掠める。ただ短い宣誓のような言葉に掬い上げられて、向かい合う。彼の瞳と、己の心と。)……わかん、ない。あたしが、自分を嫌いなままでいたら……巣食おうとするの、かも。あたしが、あたしの代わりに居て欲しかった存在だから。(理想の姿。かつていた憧れのお姉さん。誰へさえも愛を振り撒き、愛を疑わず、絶やさぬ笑みで人を包む。本来ありたい姿と異なる今の影に、胸が痛んだ。)……あれが生まれたのは……今年のはじめ頃にさ、母親に恋人が出来て。良い人そうだった。あたしより5つ下の双子の兄妹と住んでる人。でも、再婚って話になった時……あたしの父親は、お父さんだけ、だし。他人と家族になるって、わけわかんなくて、こわくって、……ずっと、逃げるようなあたしじゃなければって、ちゃんとお姉ちゃんになれるような人間ならって、思ってて。(声が途切れ、ひととき彼を見つめる。黙するのちに、重みを増した唇を再度開く。)アイリーンね、普段は自分のことお姉ちゃんって言って、仲間のことすごく大事にしたがるんだ。本当は優しくありたい筈なの。だからあたし、アイリーンや……鵜飼みたいに、なりたかった。(それが、影が生まれた経緯。他者を遠ざけてきた報い。言葉にしてみればどれも情けなくって、次いで問いかける声が震えていた。)……こんな、あたしとでも、一緒に立ち向かってくれる?
* 8/24(Sat) 00:19 * No.179
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出来ると思ってるの?(閉ざしていた唇が突如として空気を割り、肩を震わせた少女をせせら笑うように高い笑声があがる。親愛を湛えているかのようにさえ見せる笑みは、どこか真似事や仮面のようで、偽物じみた影を落とす。)みちひさくんならわかるでしょう?その子じゃわたしやみちひさくんみたいにはなれないわ。自分勝手なのよ。一人でいれば誰にも傷付けられないし、誰も傷付けない。楽な道を選んできた上に逃げ出したの。(様子見に徹していたのは機が熟すのを待ちわびていたに過ぎない。前を向き始めたところで、勇気に欠いた少女なのだと、寄り添う影こそがよくよく知っている。声は止まない。)笑子ちゃんじゃ、まきくんとまいちゃんのお姉ちゃんにはなれないでしょう?でもわたしならなれるわ。あなたの理想のアイリーンなら。
* 8/24(Sat) 00:21 * No.180
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俺は暑がりだから大丈夫。(言葉に多少の強がりは含まれていたけれど、根拠のない「大丈夫」ではない。筋肉量からいえば男性のほうが寒さに強いはずである。事実、ここまで足早に歩を進めたおかげで体は温まっている。友人のほうがよっぽど暖が必要だろう。それぐらいしか今の自分があげられるものはないので、力になれたようで嬉しかった。覗き込んだ瞳に力が宿ったのも。頷きつつ告白に耳傾ける。)そもそも、親が再婚するからと言って子供同士がきょうだいにならなくてはいけないわけではないし、母親の再婚相手を父と思わなくてはいけないわけではないと俺は思うけど、(一旦口を閉ざす。こういう口先だけの正論めいたことだけを言いたいわけじゃない。言葉探しつつもう一度口開く。)そういうことを思い悩む人間は、もう「ちゃんとお姉ちゃん」してるんじゃないかな。俺は佐々礼が優しい人間だって知ってる。佐々礼は、俺たちにできないやり方でちゃんとなりたいものになれるよ。(なるべく友の悩みと女の言い分に誠実であれるよう言葉を選び取る。「俺たち」とひとまとめにしたのは、理想の世界での仲間と自分。みんなの優しい姉たるきみと、たった一人だけの兄である俺。確かに心のありようの一部は似ているのかもしれないが、自分のようになりたいと思ってもらえるような純粋な優しさだけの人間でないことは己が一番よく知っている。)佐々礼にもアイリーンにもずいぶん良く思われてるみたいだけど、俺も勝手だし、優しいのも自己防衛の延長みたいなものだし、そんなに心の底から良いやつじゃないよ。(淡々と語るは謙遜ではない。鵜飼の中で事実だと認識していることだ。)でも、そういう俺でも、俺はずっと佐々礼の味方でいるし、佐々礼のことを応援してるし、……佐々礼とアイリーンが持ってる荷物を半分こして持つことぐらいはできるよ。
* 8/25(Sun) 15:59 * No.184
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(でも、と再度口を衝きそうになって、結局飲み込まれる。程無くして「……ありがとう」と呟かれるのと共に掛けられた上着へと手を添えよう。慎重なその掌に触れられた際のように、確かに心身にあたたかさが巡る。等間隔な脈動を取り戻していた心音がほのかに逸る中、吐露へ手向けられるその声をただ黙して耳を傾けていた。――俺たち? 彼の中にある何者かの存在を感じ取る。しかし線で結ばれる事はなく、ひどく身近な事柄であるなんて知る由もなくただ見上げていた瞳が、やがて丸みを帯びる。影もまた近しい表情を見せていた。自らまでをも内包せんとする事が信じられないといった面持ちだった。幾度か交わしてきた半分この言葉と崩された女の表情に、ふ、と息が洩れる。)はは、……そっか、半分こ、食べ物以外でもいいんだ。(少しだけ気が抜けて笑い、支えるだけの力を取り戻した足で地を踏み、立ち上がる。足取りがふらつく事はなく、彼の隣へ、影を見据えられる場所へ。)心の底から、って……実際なんてわかんない、けど。……あたしにとってはずっとそうだったよ。鵜飼から言ってもらったことしてもらったこと、あたしが何度も嬉しいって思ったのは、全部全部本当だから。(自己を明かす口振りに己の知らぬ彼を見た気がした。付き合いが長いわけでもなければ当然なのだろう。それでも、彼が優しい人であったからこそ、今日この日までやり取りが続いて、こんな夜更けに連絡が送れて、自分は今この場所で立ち上がれたのが全てだ。隣り合う友人を見つめて眉を下げて、へたくそに笑ってみせる。)……やっぱり、自信はないの。あたしはあたしのことを信用出来ない。でも、……頑張れたら、鵜飼にも一緒に笑っててほしいんだ。(上手くやれるとも、この先逃げ出す事はないとも、断言なんて出来やしない。けれど、彼の言葉に応えられる自分でありたかった。)
* 8/26(Mon) 07:32 * No.186
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(友の纏う空気がふっと緩んだ気配がする。女の周りに立ち込めているように感じた不穏も少しだけ和らいだような気がした。立ち上がりつつ二人に代わりばんこに視線やって、こちらの表情も柔らかくなる。)俺たちは、おいしいものもそうでないものも、嬉しいことも悲しいことも、全部を半分こにできるんだよ。(今この時だって、上着を通して暖かさを半分こだ。影を見つめる強さも半分ずつ出し合えていたらいい。友が立ち上がる。もう寒さは彼女を傷つけていないように見えた。)友達に嬉しいって思ってもらえるんなら、優しくて気遣いがスマートな鵜飼倫央で生きてきた甲斐があったな。(語る言葉を意識的に軽くする。その一方で、友を助けたいと思って手を伸ばしたつもりの自分のほうが救われたような気持ちになる。これだから普通じゃない家庭の子はと失望されないための良識が、そこを飛び越えてひとに喜びもたらすのは青年にとっては思いがけない救いとなった。)佐々礼が自分のこと信用できないと思ってる分だけ、俺が佐々礼のことを信じるよ。頑張れる人だよって思うけど、疲れちゃったなって思ったら一緒にひと休みしよう。……ちなみに俺の笑い方、にこってするのと、あっはっはって声出して笑うのと、他にももうちょいバリエーションあるけど、どれがいい?(少し前までの張り詰めていた空気解すように、オノマトペに合わせて大げさに表情作ってみせる。友二人が笑ってくれるといいなと願いながら。)
* 8/26(Mon) 21:45 * No.187
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そっか。……そっか。考えたこともなかった。……鵜飼は物知りだね。(場違いに冗談めかした口振りは、どうにかという風に吐き出されたものであれ。想いの丈に返る言葉の内、覚えのある文言に気付き「……そんな話もしてたね」と瞳を細める。そうだ、そういう人だからこそ。明かした本心ごと、どうしようもない弱さごと、怖さなんて手放して傍に居られたのだ。)……うん。ひと休みしたい時、また喫茶店とかファミレスとか、付き合ってくれる?(積み重ねた思い出が、彼に齎された温もりが、ささやかな口約束さえも確かにするようで。唇からは淡く息が溢れる。)ふふ、鵜飼はにこってしてるのが一番見慣れてるな。見慣れてるのが一番安心出来るか、折角の機会なら新鮮なパターンお願いするか、ちょっと悩みどころ。(他者といると緊張で強張って、険しくなりやすかった表情なんて、彼の前では最早形無しだ。ほどけた面差しでくすぐったげに笑って、もう恐怖に塗り替えられた瞳はそこにはなかった。それから、自らの理想へと向き直る。踏み出して、距離を縮めて、背の高い影を見上げる形で相対する。)……あたしの中から、アイリーンが消えることはきっとない。自信のなさがゼロになるのなんて想像出来ないし、どうせまたすぐくよくよするし、あのお姉さんとの思い出もずっと残ってる。だから、……あたしはあんたと生きていくよ。(彼が半分こを選んでくれた自らの影ごと。理想を塗り潰さずに、理想を抱えたままで生きていこう。陽の光の残されていない、しんと冴え返った真夜中の空気の中で、希望を灯された声が熱を帯びる。)
* 8/27(Tue) 07:49 * No.189
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(影の輪郭が揺らめく。感情の真似事を手放したかのように、その顔から笑みは消え去っていた。かの世界で、この女の姿ではまず見せる事もない表情は、つまらなそうな、窺うような、平坦な色を纏わりつかせている。)あなたはきっとまた逃げ出すわよ。何年も停滞を選んでいたあなたが数ヶ月そこらで変われるわけがない。彼に失望されるかもしれないわね。(呪詛のような音吐がその首にかけられたところで、ぎくりと跳ねる心音こそ誤魔化せずとも、少女の瞳が揺らぐことは最早なかった。ちらと彼の方を見遣って、ただその挙動ひとつで諦念を表すように、わざとらしい嘆息を吐き出した。不確かになっていく身は元から不定形であったかのように蠢き、今更逆転の一手などないと理解していたか。)……そう。笑子ちゃんがまた自分が嫌いで仕方なくなったら、こうしてわたしが現れるかもしれないわね。――また会いましょう、お姉ちゃんが遊んであげるからね。(殆ど輪郭を手放した顔で微かに笑う。それはイデア・ルームでの“アイリーン”らしいものよりも、現実の“佐々礼笑子”と同じ笑い方だった。その言葉を最後に残された黒はやがて再形成され、現れた霧とも靄ともつかぬ黒の中からは、ドレスを纏う女神――佐々礼笑子のペルソナ、シュブ=ニグラスが姿を見せて、そうして少女に身を寄せるように重なり、瞬きの間に見えなくなっていた。心の内へ、帰っていったのだろう。)
* 8/27(Tue) 07:51 * No.190
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(「物知りで気配りできて、もしかして俺ってすごくいいやつ?」と、軽口が続くのは少しの間だけ。穏やかに継いだ言葉には確かな暖かさが宿る。)もちろん。二人でのんびりおしゃべりして、おいしいもの分けっこして、それでまた一緒に元気になろう。(これからも積み重なるだろう思い出の中の俺ときみは、今までよりももっと親しげだ。今だって昨日よりずっと心が近づいた気がしているのだから。)俺たち実は友達歴がまだ短いから、悩む時間はこれからたっぷりあるよ。その分、選択肢も多くなるかもしれないけど。(自然と口の端が上がり、まさしくいつものにこっの笑い方になる。出会ったときに比べてずいぶん柔らかくなった友の笑みに、灯りの少ない深夜だというのになぜだか少し眩しく感じた。自らの影を過たずまっすぐ見据える瞳の光もまた、極北の星のように輝いて見えた。友の隣で、曖昧な姿になりゆく女を見つめる。影の別れが近付いている。)アイリーン、あなたがまた現れることのないようにいつだって俺は佐々礼の力になりたいと思ってるけど、(でも、物事に絶対はない。自分が助けになれないことだってあるかもしれない。自分が隣にいてなお友が傷つくことだって。)もしまたこの世界で会うときが来たら、あなたと佐々礼の話を俺が聞くよ。(いつか抱える荷物が多くなりすぎて現実の世界でアイリーンと見えることがあったとしても、それすら友と分け合えばいいだけの話だ。霧のようになった黒い影が夢の世界で共に戦った女神の姿に変わる。「シュブ=ニグラス」とその名を呼ぶのは心の中だけに留めおき、それが友のうちに帰るのを見守ろう。さようなら、こちらの世界のアイリーン。別れの挨拶は音にはならなかった。)
* 8/27(Tue) 23:50 * No.191
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(暗澹たる道に、灯りが点されたような。先程までは何も見えなかった筈の未来に、顔を突き合わせて食事を共にする彼の姿を見つけたならば、歩み出すのももう恐ろしくはなかった。)まだパターン増えちゃうかもしれない?すごいね。あたしそんなに笑い方の幅増やせる気しないな。……じゃあ、これからも楽しみかも。まだ知らない鵜飼のこと知るの。(柔らかな表情ひとつ作るのも不得手だと自覚もある。ゆえに理想に明朗な喜怒哀楽ごと委ねたのだ。けれどまだ短い友達歴がどれだけ積み重なるか、そんな不確かな未来は理想の自分にすら渡したくはないのだから、現実の自分で抱えて生きるしかないのだ。――さぁ、別れの時。不定形の影が、彼の言葉を最後に瞳を細めたように見えた気がしたのは、もう確かめようもない。もう一人の自分たる存在が我が身に帰れば、胸奥が埋まったかの如き心地を得た。悪夢に削られた心情さえもなかったかのように、パズルのピースが全て揃ったかのように。存在を確かめるみたいに胸元をさすりながら、改めて彼と向き直った。)……ちゃんと、あたしの中に帰って来たみたい。……鵜飼には、また助けられちゃったね。(これまでならば後ろめたさにさえ繋がりかねない“借り”も、その想いごと万感込めて相対しよう。)あの、ね。あたし、自分が嫌いだったけど、……鵜飼と過ごすのが、すごく楽しいんだ。だから、あたしはあたしのままで、鵜飼と一緒にいたかった。……ありがと。今日も、今日までも、一緒にいてくれて。いつか、お返し出来るといいんだけど。(今はその手段なんてわからない。虚飾なんてひとかけらもない素直な想いを告げて、あたたかな心と体で向かい合いたがった。どちらも、彼が齎してくれたものだから。)
* 8/28(Wed) 07:50 * No.192
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これからも俺と一緒にいると、俺が調子に乗って失敗したのを見たときに思わず笑っちゃう笑い方とか、俺の妹がかわいくてかわいくてにこにこしちゃう笑い方とか、鵜飼何言ってるの?って吹き出しちゃう笑い方とかも佐々礼のバリエーションの中に増えるよ。佐々礼に言ってないことってまだいろいろたくさんあるから、しばらく飽きずにお楽しみください。(語尾をちょっとだけ上げたのは本音に冗談まぶした証。「俺も佐々礼のことこれからも知れるの、楽しみにしてる」と、付け加えた言葉については混じりっけなしの本心だ。影を見送った後、向かい合った友の姿はあるべきものがあるべきところに戻ったような、そういうしっくりくる感じがした。ここで最初に友を見つけたときの怯えや震えはもう見当たらない。確かな強さと暖かさが友人を包んで守っているようで、それが青年を安堵させ、喜ばせた。語る口調は晴れた日の湖のように穏やかな明るさに満ちている。)俺がしたのは、大丈夫だよって背中をさすったり上着を貸したりしたぐらいだから、そんなに大したことしてないよ。…でもいつか、俺が佐々礼に助けてほしくなったときは、頑張れって励ましてくれる?(お返しの語に反応して思わず漏れたのは自分にもいつか訪れるであろう不穏に対する弱さだ。明るく軽く大したことないみたいに話したはずなのに、存外切実さを伴った響きになり内心でぎょっとする。が、穏やかな話しぶりはすぐに戻ってくる。何でもないように話を続ける。)「今日も、今日までも」だと、ちょっとお別れの挨拶みたいだけど、これからもそのままの佐々礼で俺と一緒にいてくれる?お返しその一、明日の朝ごはんを食いっぱぐれないように俺にモーニングコールする も実行してほしいし。(二人ともずいぶんと夜更かしになってしまったが、うっかり寝過ごして修学旅行最終日の朝食を食べ損ねるのはもったいない。お返しの言葉に乗じた一方的なお願いは、それこそ「何言ってるの?」と笑って断られてもいいぐらいの軽さで放られる。)
* 8/28(Wed) 23:33 * No.194
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(彼の傍にいると、自分も知らなかった自分を知る感慨もあった。だから挙げ連ねられる想定も存外無いものでもないような気がして、「結構ありそうだね」なんて笑いだす。見上げる双眸も緩やかに眦が下がって、凪いだ心持ちで相対するまま。)それがおっきいことだったんだけどね。……もちろん。あたしに出来る範囲なら、にはなっちゃうけど……なんでもしたいって、思ってるから。それくらいお安い御用。(普段の気負わせないような口振りよりもどこか異なる色を帯びて伝う音吐に、気のせいかな、と思い直しそうにさえなるけれど。いずれにせよ、その程度は言われずとも当たり前なのだからと頷いてみせる筈だ。しかし指摘された文言を脳裏で反復してみれば確かに、と思い至るもので、慌てて首を振り否定を被せさせてもらおうか。)そ、それは、言葉の綾……!一緒にいたいって気持ちは、これからも、そう。変わんないよ。……モーニングコール?まぁ、この時間だしその心配もわかるけど……同室の人たちに置いてかれてる……?(予想だにせぬ最初のお返しにぱちりと瞬き、その場面なんて思い浮かべてみて。そうして、ふ、と息を零して笑いかけよう。)いーよ、あたしわりと朝得意だし電話したげる。元々夜更かしさせたのもあたしのせいだし。……で、さ、やっぱりご飯って、クラスメイトと食べてるよね……?(この数ヶ月で随分と夜更かしが身に染みてしまったが、元々朝型寄りの生活だ。容易い事として承諾するが、二の句は己にとっては容易くはない。今度はどこかまごまごと言い淀む歯切れの悪さで、このところは惑いなく交わらせていた眼差しが、出逢いの頃のように泳いでいく。)あの、気が向いたらでいいんだけど。……明日の朝ごはん、一緒に食べない……?や、もう明日で最後だし、鵜飼と、修学旅行の思い出欲しい、な、って……思、いまして……、(ツギハギみたいに声は途切れ途切れ、言葉尻は最早消えかけて、こんな些細なお誘いひとつもへたくそだった。)
* 8/29(Thu) 12:46 * No.197
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(友の返答がいつもとそれほど変わらぬものだったことに安堵する。こちらの心のうちの弱さにはまだ気付かれていないようだったので。また、できる範囲でという注釈がつくとしても、助けを求める手を鬱陶しげに振り払われることはないだろうと認識できたので。「ありがとう」は、いつも通りの言葉だけれど、いつもよりもちょっとだけ熱がこもった。続く「佐々礼がそう言ってくれて嬉しいよ」も、いつもに増して心のこもった言葉になった。間髪入れずの否定に、思わず笑みが漏れる。普段の朗らかさは青年の元にすっかり戻ってきた。)ーふ、ははっ!慌てて違うよって言ってくれて、なんかすごく嬉しくなっちゃった。俺も佐々礼と一緒にいたいと思ってるから。……いや!!別に置いてかれるとかはしてなくて、いやでもわからん寝過ごしたら面白がられて普通に置いてかれるのかもしれんけど、(今度はこちらがやや食い気味の否定。同室のメンバーらを頭に浮かべたら、ゆっくり寝かせておいてやろうの優しさとほっといたらいつ起きるのかなの好奇心の両方からそのままベッドに放っておかれる自分の姿が想像できる。予想としては現実になりそうとならなさそうが半々ぐらいの割合だ。少し前までは家族三人分の朝食作りを担ってきたのでこちらも朝型ではあるのだが、旅先の疲れと秘密の夜更かしで惰眠貪ることになる可能性は大いにあったし、そうでなくてもお返しの言葉に乗っかった友への甘えの表れでもあった。)でも佐々礼が電話してくれるから、置いてかれはしないと思う。よろしくお願いします。(お返しその一が無事にまとまったところで、急カーブとまではいかない話題の方向転換と歯切れの悪さにわずかに首かしげつつ肯定示す。)うん? うん、クラスの友達と食べてる、 けど(泳ぐ視線と言葉の行方を追いかけるうちに頭の上に浮かぶはてなは、なるほどそういうことか!に変わる。勢いづいたので徐々に弱まる友の口振りと正反対にやたらとはっきり、いつもより少し大きな声になった。)いいよ、一緒に食べよう。佐々礼からそうやって誘ってもらえるの、すげーうれしい。明日の朝の楽しみ二つもできちゃったな。(「にこっ」よりも幾分表情崩して、発した言葉が嘘でないことの証のように顔いっぱいに喜びがうつされる。)そしたら、上着返すの明日の朝会ったときでいいよ。まだ寒いし、佐々礼が嫌じゃなければ部屋まで着てって。
* 8/29(Thu) 23:39 * No.198
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(――彼の瞳には何が映ったんだろう。ほのかに熱を感じた言葉に、ふとそんな感慨がよぎる。されど問いかけたがる声が飲み込まれたのは、きっと溢れるその笑みが“いつも通り”だったから。考えてみれば否定が少々必死だった気がすると恥じて声を詰まらせ、とはいえどれも嘘偽りないのだから覆す気もなく。寝坊助な彼を想像してみれば「しっかりしてない鵜飼珍しいからかな?」なんて置いてかれる際の想定は笑み混じりに告げられるだろう。)ん、りょーかい。ちゃんと起きてね。(その辺りはさして案じてもいないが、念押しみたいに添えて余裕があったのはそこまで。前置きの問いかけが肯定されればやっぱり邪魔だろうかとかいちいち思い悩んで、友人間であれば当たり前みたいなお誘いにすら、今は断頭台にでも登る心地だった。踏み出した筈がいっそ踏み外してやしないか、そんな緊張感がのしかかる中、少し大きな彼の声が暗雲を吹き飛ばすみたいに心胸へと吹きすさぶ。パッと灯りが差し込んだみたいに面持ちを輝かせて、)……!う、うんっ、じゃあ……朝、声掛ける。……よかった。あたしも朝、楽しみ。(色好い反応とその表情とにつられたみたいに、安堵にほどけた表情はふにゃりと緩められた。喜色を宿した頬が薄らと染まるのを両の手で包み込んで、満ち満ちる情感を噛みしめる。よかった。うれしい。いとけない言葉ばかりで満たされて、きっとこれからはこんなハードルも下がっていく筈。しかし続く言葉にはハッと顔を上げて。)あ……んん、じゃあ、もう少し借りてるね。ちゃんと綺麗なまま返すから。や、そうだ、ごめん寒いよね?中、戻ろ。(促し、爪先はホテル内に続く出入り口へと向けられる。そもそもこんな夜更けだ、いつまでも引き留めているわけにもいくまい。せめてロビーで別れようと歩む中、)……最近、嫌な夢見ること多くてさ。そもそも連絡したのもそれで起きちゃったから……だったんだけど。今日はなんとなく、もう見ない気がするな。(もうどんな夢を見ていたかも思い出せないくらいに。心身を蝕むものは何も纏わりつかず、脈打つ鼓動ごとあたたかい。彼と交わす明日の約束も抱えた胸奥は、一時の別れへの寂しさも眠り落ちることへの抵抗感も、全てを拭い去ってくれた。)
* 8/30(Fri) 08:56 * No.200
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起きる起きる。人にモーニングコールしてもらうの初めてだから、どんなんかわくわくしてる。(その上、してくれる相手が特別な友人とくれば、今からもう朝が待ち遠しいような気持ちになる。新たな約束も結ばれたのでなおのことだった。こわばった面持ちがふわりと解け、花が開くように笑みが咲くのを見る。ふと友の名が頭に浮かび、この女の子にぴったりの名だと賞賛したくなるのと同時に、名付けをした人物の愛を感じる。頬に両手添えて喜び噛み締めるような、妹に似た仕草がかわいらしく、思わず目を細めた。)いつもだと向かい合わせだけど、今回は横並びの隣同士にしてもいいのかな。あ、でもそうして佐々礼が知らない人と向かい合わせになると気まずい?(旅先なので趣向を変えてもと考えたが、それはそれで問題が発生するのかもと思い至る。向かい合わせでも隣同士でも食事とる楽しさは変わらぬものだし、横に並んで座るのは次の機会に譲ってもいいだろう。たとえば駅の近くのコーヒーショップの背の高いカウンター席だとか、何年後かにちょっと背伸びして訪れるバーカウンターだとか。少し遠い未来にも思い出共有できると信じて疑わぬ思考は、ややあってごく近い未来の話に引き戻される。)そうだね、戻ろう。風邪ひいてもいけないし。(同意示し、上着の処遇と軽い謝罪には気にしないでと首振り歩みを進める。歩きつつ語られるワードの中には己にも充分心当たりのあるものも含まれた。単なる夢見が悪いとはまた違う、目覚めた後の自分を苛み、秘密を暴き立て、ふとした拍子に顔を覗かせる恐ろしい夢。)嫌な夢見ると、起きてからもすっきりしないし、寝たのに逆に疲れた気になるし、眠るのも怖くなったりするから、……そういうのが今日は佐々礼のところにやってこないの、俺も嬉しい。(やたらと真に迫った描写になってしまったのに気付いてやんわりと話の方向を変える。)今日みたいに助けてほしいときは、ただ「助けて」ってひとこと言ってくれれば俺は佐々礼のところにちゃんと行くから、これからも何かあったら呼んでね。(ちょっとカッコつけすぎの要望口に出して、声にした途端にそれがあまり現実的でないことに思い至る。続く言葉にはほのかな照れが滲んだ。)……うそ、ごめん、ひとことじゃなかった。場所も一緒に教えてくれると、行きやすくて助かります。
* 8/30(Fri) 23:37 * No.202
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(安請け合いしたはいいが「お、面白いことはできないからね……」なんて逃げ道を作る。ふたつの約束の狭間、不意に喜色の湖から息継ぐようパッと顔をあげたのは、座席には気を回していなかったもので。)あー……ううん、平気。周り人多いし、隣のが話しやすそう、かも?……鵜飼の方ばっか見てる可能性あるけど。(情けなくも隣にばかり視線を逃がしている自らの姿は想像出来る。今更苦笑にも変じず、そうして薄暗がりから明るい場所を目指すその道中。道行きの吐露を経て、彼の共感に少々の引っ掛かりを覚えたのは、それがいやに鮮明な輪郭を有していたから。)……? そう、だね。そういう時に起きちゃうと、寝直すにも寝付けなくて。鵜飼は、大丈夫?(別に彼が語るのは昨日今日の出来事ではないのかもしれない。けれど気にかかった問いかけののち、手向けられた言葉に微かに眼を瞠る。声すらも一時飲まれてしまった。嗚呼、散々与えてもらった希望のという灯りは、まだ大きくなるのだろうか。不自然に跳ねた左胸からは目を逸らし、慌てて進行方向へと顔を逸らしてしまって。)……っ、う、ん。ふふ、それじゃあ、ひとことと場所のセットね。……鵜飼は、やっぱり優しいから。あたしいつか、お返ししきれなくなっちゃいそう。(とくとくと鳴る心音のくすぐったさを携えて、階段付近で別れる頃。物寂しくとも翳らずいられるのは、今日はこの言葉で締められるのだから。)おやすみ。……また明日ね。(――翌朝。削られた睡眠時間に反してすっきりと目覚められたのは、やはり一切の夢も見なかったためか。髪を巻く最中、何故だかほんの少しドキドキとして、妙に慎重な指先が通話ボタンをタップする。)……あ。おはよ、鵜飼。もう朝だよ。あの後、ちゃんと寝れた?(さて、どんな声が聞けるだろう。朝の限られた時間だ、通話時間は数分と満たず、支度を整えた後には食堂へ。丁寧に畳んだマウンテンパーカーを胸元に抱く少女は、高い位置でふたつに結った髪を揺らし、くっきりとした化粧で武装して、すっかりと“いつも通り”を取り戻した様相で。)おはよ。……さっきも言ったね。ね、そういえば自由行動何処行った?うちの班はおばんざいとかお団子とか食べてね、……食べてばっかだったかも。(隣同士腰を下ろして、交わす言葉は何気無い日常へと舞い戻っていく。灯りの点るこの日々を、日常と呼べるようになった彼のおかげで、その隣で。)
* 8/31(Sat) 07:22 * No.203
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佐々礼、ご飯と正面もちゃんと見ながら食べるんだよ。(なんて、冗談混じりの嗜め口調は気安さの表れだ。こちらを案じて問われ、己の不手際に舌打ちしたい気持ちになる。今大変な思いをしていたのは友のほうなのに、その彼女に心配をかけるなんて不甲斐ないったらない。普段よりも意識的になんでもないよを装った。)俺?俺は大丈夫。(何か言葉をくっつけると白々しくなるような気がしてそれで終わり。かえって不自然だったかもと思いつつ逸らした話題は、友の視線も逸らさせる。それでも了承得られはしたので、格好いいことを言った甲斐はあった。)お返し、そんなに気にしなくてもいいんだよとも思うけど、よかったらこれから気長に返してって。卒業でお別れってこともないだろうし。(四ヶ月後の一区切りで縁が切れるとは思いもせずに長期間の返済計画をおすすめしておく。男子部屋のある二階に上がる間際のお別れは、明日の約束添えたものに。)おやすみ。また明日、いい夢見てね。(軽く手を振り別れたのち、階段駆け降りたのとは反対に、ゆっくりゆっくり一段ずつを確かめるように静かに上っていく。食卓共にする朝が待ち遠しいのと同時に、友の秘密を知ったこの夜に別れ告げるのをなんとなく遅らせたいような心持ちになったからだった。ー明けて翌朝、通話をタップしてからの第一声はちょっとだけ鼻にかかった寝起き間もないものになる。朝の挨拶の後には小さな咳払いが挟まった。)おはよ。ちゃんと寝て、ちょっと前にすっきり目覚めたところ。佐々礼は?寝れた?(「今日の朝ごはん何だろう、最後だからちょっと豪華とかあるかな」などと他愛のない会話交わした後、また後でねで通話終えるのがいやに名残惜しかった。階段降りればすぐに彼女に会えるというのに。食堂向かう道すがら、「今日約束してるから朝お前らと別で食べるな」と同室の面々に告げ、相手は誰だどこの女子ださっきの通話の相手かと質問攻めにあったのは友には内緒の話。)おはよう。同じ相手に二回おはよう言うのってちょっと不思議な気持ちになるね。うちも市場で食べ歩きしたから似たようなもんかも。タコの頭の中に卵が入ってるのがあってさ、……俺たち、顔合わせると食べ物の話してるね?(朝食に箸つけ、これがうまいねなどと会話交わしつつ進める修学旅行最後の朝食。メニューは昨日までとそんなに変わらないはずなのに、これまでより一層滋味深く感じられた。)
* 8/31(Sat) 21:00 * No.205
azulbox ver1.00 ( SALA de CGI ) / Alioth