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【Step4】11/16(金):深夜 宿付近の路地裏

(夢見が悪かった。寝具の上に気怠い体を上げ、消灯した空間へ感覚を巡らせれば、同室のクラスメイト達の安らかな寝息がささやかに耳をうつ。己の寝言等によって彼らに迷惑をかけるといった結果は避けられたようだ。ひとまず安堵した。デジタル時計の時刻を確認するとまだ真夜中である。安眠できそうにない予感に暗澹たる気分。眼鏡をかけ、パジャマ代わりのスウェットの上にパーカーを羽織ると、履物に足を下ろし、音を立てないようにして部屋をあとにした。廊下の端に佇んでスマートフォンを取り出す。LINKSを起動し友達の名前に触れてトーク画面を開き、そこで指を惑わせた。何をしているのだろう、自分は。あの世界に関して、彼に話せやしない。それに、この時刻では迷惑になる。端末を仕舞いなおす動作は弱弱しい。受験勉強の為に修学旅行の辞退も一考したが、修学旅行中であればラビリンスに挑まない口実にできる、あの奇妙な記憶の部屋に直面せずにすむ、ゆえに参加した。しかしこれは、正しくない。マンゲツの説どおりであれば、シャドウ退治は無気力多眠症の解決への貢献になる筈。だというのに私情で、逃げるとは。苦い自己嫌悪が広がる。口から零れる溜息。らしくもない夜の散策に出向いた目的は、気晴らしだ。宿泊施設から踏み出すと、遠く電飾の光が寂しげに瞬く景色はかえって夜闇の底知れなさを際立たせる様。あてもなくアスファルトを踏む足は、宿の前を彷徨いだして。)え……?(ふと、先程の悪夢を思い出してしまった。その刹那、襲い来る激しい胸の軋み。“このまま窮屈に生きて終わる位なら、もう消えてしまえよ?” どこからか声が、耳馴染みのある声がした。何かが這いずりだしてゆくふうな得体のしれない感覚。そして眼前、街灯の灯りの下に、形を為した金髪の男の姿。驚愕。)――ぅわ、っ!(情けない声が上がったのは、もう一人の自分が武器を向けてくるのが見えた為。本能的に横手の路地裏へと跳び退いた。)
* 8/19(Mon) 19:58 * No.166

(突き出された一撃目は、穂先が虚空を突いたのみに終わった。シャドウは標的との距離を削り、ゆっくりと長柄を持ち上げる。恐怖に凍り付いた相手の身に狙いを定め、次の瞬間には投擲が為されるだろう。)
* 8/19(Mon) 20:07 * No.167

(午前零時は夢のはじまり。綻びのない魔法が叶う、理想世界の時間。 零れた溜息は周囲の寝息に混じって消える。鏡合わせの日課が及ぼす悪影響を実感しながら、毛程も眠れる気配のない男は宿舎を抜け出すことにした。いよいよもって不良の仲間入りだと自覚しながらも、兎角“己”を形成する環境から離れたかったのだ。何をするでもなく行きたい場所もない、ただ、なんとなく眠れる気配が訪れるまでの現実逃避。外の世界に足を踏み出し、人目を避けるように歩き出す。なんとなしに空を見上げて、星屑の煌めきに目を細めた。――不意に、覚えのある声が耳に届く。咄嗟にその方面へと視線を向ければ、夜に捉えるのは二度目となる彼の姿が見えた気がした。)律……?(不穏なものを感じたのは、彼の入り込んだ路地裏にもう一人、男の影が続いたから。胸がざわつく。もし勘違いならそれで良いと言い聞かせながら、地を蹴った。)――おい、何やってんだ!(現実に似付かわしくない凶器を構える男に、声をあげて牽制する。長身な男の後ろ姿と、見間違いではなかった友人の姿。間に合うか否か、考える余地のないまま槍の照準が逸れることを狙って男の背中に突進した。)
* 8/20(Tue) 07:08 * No.170

(鋭利に煌めく先端が迫ろうとした瞬間、その声と、突如として突進してきた人影。無防備な背へタックルをくらったにも等しい衝撃を受けて金髪の男はよろめき、弾みで手を離れた凶器は狙った軌道から逸れて標的を捉えられずに地に落ちた。)宮生、君……?(自ずと乱入者に意識はひきつけられる。月光と薄い照明の混じる中に見知った容姿をみとめ、詰まる息。どうして此処にと続けるより先に、体勢を立て直した金髪の男が片手を上げた。無機質に転がっていた槍の輪郭が水面の墨のように空中へ流れ、男の手中に移って形を取り戻す。二人へ向き直った姿は、携えたギターケース含めより露わになるだろう。)宮生君、気をつけて。そいつは、そいつ、は……、私のなかから抜け出て実体化したヤツ、で……、(この状況、何が起こるか分からない。知らせなければ。気は焦れども適切で十二分な説明など無理だ。先程の何かが抜け出した感覚と、合わせて出現した己の理想の姿――それらの情報を基に導き出せる事柄だけが口から転がる。ここだけ聞けば、我ながら荒唐無稽な超常現象話。しかしながら洒落にならない事態だと認識するから、語尾が無様に揺れるばかり。カツン、カツン、という音は、まるで楽しむように槍の石突がリズミカルに路面を打つもの。そして長柄の向きが変わり――)…っ!(友人へと向けられた凶器を目にして、音にならない悲鳴が喉奥に満ちる。何故。なんで。沸き上がる疑問は、)はぁあ?!? 何故、私の中にあったお前が、私に…彼に害を為そうとする?!(友に危難が及ぶと知れば一挙に憤りに巻き込まれ、爆発した。”お前が認めないからだ” 冷ややかに返された男のその一言を咀嚼する余裕もなく、友人のもとへ駆け寄って鋭く囁く「逃げて、はやく!」 彼を小突いた腕は震えている。)
* 8/20(Tue) 20:06 * No.171

(不意を狙っての攻撃は功を成したようで、長身の男の手から凶器が離れる。地に落下した音に僅かながらも安堵を覚えるが、依然として状況は掴み切れず、緊迫した空気の中で友人に目を向けた。)律、怪我してないか?(その身を案じながらも、もう一人の男に抱く警戒心から言葉は最低限となる。手を掲げる動作に気付くと意識を長身の男に戻して、それから、その手に武器が戻る現実離れした光景を双眸が捉えた。何よりも、背後から捉えた時にはまるでわからなかったその男の様相に、言葉を失った。 “彼”のことを知っている。よく見知ったその姿は、夢の世界の仲間だった。)――……、(時間が止まったかのような感覚に陥り、呆然と男を眺める。現実ではそれは一瞬の出来事で、自身を呼ぶ友人の声にハッと意識を引き戻された。そうしてまた、思考は塗り潰される。)……律のなか、から?(彼の言葉を咀嚼しようとはすれど、戸惑いが上回った。支離滅裂な言葉と感情とがぐるぐると頭の中を駆け回って生まれる困惑は、彼の目には状況の理解に及んでいない姿として映るのだろう。しかしそれ以上の言葉を交わす暇はなく、凶器の矛先は今度は己に向けられ、息を呑む。――けれど、声を上げたのは彼だった。憤るその声に、立ち尽くしている場合じゃないと思考を切り替える。逃走を促す彼を一瞥して、その腕を掴んだ。)逃げるなら一緒にだろ、行くぞ!(どこまでが現実で、どこまでが夢なのか。夢の住民である“彼”はどこに逃げ込んだとてすぐに姿を現す予感がしたし、こんなものは一時凌ぎでしかないのかもしれない。それでも、少しでもあの存在から逃れるようにと腕を掴んだまま走って、やがて足を止めたのは小さな公園の前。軽く肩で呼吸をしながら、そこで彼の腕を離した。)前に……一ヶ月くらい前、試験期間中かな。夜の公園で、律のこと見かけてさ。…それに、今日も。会うとは思ってなかったけど。(場所に由来した記憶を元に、ぽつぽつと声を掛ける。最後の言葉には「お互い様か」と付け足した後に軽く息を吐き出して、緊迫した心を少しだけ解こうとした。)
* 8/21(Wed) 07:21 * No.173

は――?! ちょっ、馬鹿?!(恐怖と怒りで小刻みに震えていた腕を掴まれる。恐らくは己よりも彼のほうが足が速い。構わず一人で逃げればいいのに。罵りかけた声はしかし、引き摺られるかたちになった体の傾きに阻まれる。ひかれるのに逆らえない。考えるより前に、勝手に両足は駈けていた。走って走って、小さな公園の前に辿り着いた頃には、フィジカル人並みの体力ではかなり息が上がっていたか。肩を上下させ大きく呼吸を繰り返しながら、周囲を見回す。今のところ追手の気配はない。この場を包む優しい月光は、まるで束の間の守りのヴェールめいた雰囲気。少々の安堵を抱き息を整える間に、届いた声。友人のほうへ緩慢に首を巡らせる。一か月くらい前、夜の公園、記憶を辿る都度、瞬きを挟んで、思い当たれば、ああ、と合点の呟きとともに瞳を見張った。あの時、己が何をしていたか。)……見られていたのですか。(ずるずると公園の柵にもたれかかり、俯き加減で物思いにふける。認めないから、か。殺意を向けてきた男の言葉が過った。)私ね、好きなものがあるんです。けれどずっと、好きなものを純粋に楽しめなかった。(ふと上がった眼差しが友人を見やり、すぐに下がる。)それを好きになったのが悪いことのように感じられたり、周りの目が気になったり。その鬱屈を晴らす意味も込めて、自ら生みだしたのが……先程の男、理想の姿です。とはいえ理想の姿になろうと、自分の現実は何も変わらなくて。(彼の視点では随分と意味の通らない話に聞こえるだろう。そう推測して首を竦め、細く息を逃がしてから。)理想に押し付けようとした、自分自身の鬱屈が牙を向いてきた。そういうことなのだと思います。(覚束なげな静かな語りをそこで切ると、また幾分かずるずると沈み込み。)私自身が責を負うべき事に巻きこんでおいて、なのに。……君が来てくれてよかった、と思ってしまう。(続ける言葉は目を合わせられないまま、低く。)……ごめん。
* 8/21(Wed) 21:24 * No.175

(周囲を見渡す限り、脅威から逃れることに成功したらしい。静まり返った夜の中では呼吸音だけが聞こえるようで、僅かな星と月が顔を覗かせる空はこんな時でも綺麗だった。踏み込むべきではないと見ないふりをした過去の姿は、それでも記憶に刻まれていた。だから、紡がれる言葉には静かに耳を傾ける。多かれ少なかれ、誰しもが理想を抱くものだ。現実との乖離に苦しむ感覚も、かたちは違えども、よくわかる。知っている。目が合っても、逸らされても、受け止めるように彼の方を向いていた。友達として聞き入った言葉に、現実として捉えた“理想の姿”を思い返して、ふと呟きが落ちる。)……好きなものって、ギター?(純粋に楽しめなかったものとして語られたのが、長身の男が背負う楽器に由来しているのか、或いは音楽としての括りになるのか。知りたいから尋ねる。新たな一面に触れたい気持ちは友人としておかしなものではなくて、けれど触れられたくない様子ならそれ以上に問いを重ねるつもりはなかった。 理想の自分が、己に反抗して牙を剥く。凶器を向けられ足が竦んだ単純な恐怖心とは比較にならないほど、彼の心が苦しめられていることは想像に容易い。――にも関わらず、どうして彼は。告げられた謝罪に、軽くだけ息を吐き出した。)そんなに思い詰めなくていい。律は何も悪くないだろ。(視線を落とした彼の肩を、軽い力で一度叩く。怒ってはいない、迷惑をかけられたつもりもない。来てくれてよかったと伝えてくれたその言葉で、お節介は胸を張れるのだ。)見つけられて良かった。こんな時に一人になんてしておけるか。(少なくとも巻き込んでしまったと気を塞ぐ必要はないのだと、優しい彼が気負わぬように笑った。)
* 8/22(Thu) 23:07 * No.177

(沈んだ挙句に片膝を抱え、蹲った体勢にて、肩に受けた感覚、耳朶に降り届いた声。はっと顔をあげれば、その笑顔が瞳に映る。こんな時に一人になんてしておけるか――その言葉を心のどこかで欲しがっていたのだと、ここにきてはじめて自覚した。欲して得られた、故にこそ。泣きだしそうな表情が一瞬だけ溢れてしまった。喉奥にせり上がる熱さを封じるよう、唇を噛み締める。)………うん。(震え気味の短な応えを返し、のろのろとした仕草で腕を解き立ち上がろう。それに続くは、先の好きなものに関する説明となる。)好きなものは一番は……贔屓のミュージシャンの曲ですね。夜の公園で君に目撃された時も、その曲を聞いていました。(一旦、説明を構築する為の思案の間を挟み。ひらたく言えば、として、)私は良い子ではなく、それなりに悪い子で。なのに模範たる良い子になろうと無理をして。それで嫌気がさしていたのですが、その曲を聞くと自由な心地になれたのです。(一息ついて、表情を改めると友人へと一つ、歩みを寄せて近い距離から見上げた。)アレは私自身でもあるから、九堂律にとって何が最も効果的かを知っているのでしょう。だから、先刻は君が狙われた。次に対峙したら、同様の事が起こると考えられます。(もうひとりの自分との対峙は避けられないと直感が語りかける。今度は個人的な願望を、邪念を含めないように冷静を心がけながらの声音でもって、言外に意思を問う。)
* 8/23(Fri) 22:22 * No.178

(男と対峙する彼を見つけて咄嗟に介入したのも、向けられる敵意から手を引いて逃げ出したことも、きっと宮生にとっては最善だった。彼の表情を見れば、手を差し伸べることが叶って良かったと心から思えるから。再び立ち上がった彼が語る言葉に意識を向けて、ブランコに揺られていたあの夜の姿をもう一度思い返す。)…そっか。イヤホンしてたもんな。(朧げながらも結び付いた光景。それから続いた良い子と悪い子の言葉は、二つの夜で交わした覚えもあった。理想と現実、本質と虚像。自らを悪い子だと告げる彼のことを独りでに納得出来てしまうのは、どこか似ていると感じたあの日の夜を知っているから。秘め事を口に出さず、己の中に閉じ込める男もまた、悪い子なのだ。近付いた距離から視線を受ける。まもなく訪れるであろう脅威の存在を示す言葉に、まっすぐ彼の瞳を見つめ返した。)それでも、律のそばに居るよ。逃げるつもりも、簡単にやられるつもりもない。(揺らがぬ意志を告げる。なんとかなるはずだと、少し楽観めいた響きも男からすれば本心に違いないのだ。その一方で浮かぶ懸念は、この世界に現界した彼との決着について。)あれは…律の中から出てきたなら、また戻っていくものなのか?(一方的に襲われるだけでは恐らく解決にはならないだろうと、心当たりがないか問い掛ける。「俺に出来ること、何かある?」一拍おいた後に、案ずるように問いを重ねた。彼自身の戦いであっても、傍に居ると決めているから。)
* 8/24(Sat) 10:58 * No.181

っ、はい……、(正面からのまっすぐな視線、濁りなき意志の言葉を受け取る。友の身を案じるならば、関わらないよう逃げるように主張するのが正しさかもしれない。それでも、そうはしなかった。面持ちと心中にじわり広がる色は感謝と、それときっと他に幾重にも。少しだけ眉宇の歪んだ笑みが浮かぶ。)――ありがとう。(決意に返すのは、芯のある声色のこの一言のみ。)……わかりません。けれど自分のなかにあったものなれば、本来自分で制御できるのが道理……というのは、楽観すぎますか?(明確な見解もない。恐怖は拭えない。ほんのり困ったように希望的観測を口にして首を傾けて、しかしながら悲観の空気が無いのは、)君が一緒に居てくれるなら、なんとかなる。そう信じる方向、で……。(なんとも口慣れない台詞のぎこちなさは必然なれど、本心ではある。間違っていませんよね?と、ぎこちないままに同意を求めた。そうして、)ではもう一つ、聞いてもらえますか。(出来ることはとの彼の申し出に、そっと甘えてみる。そうはしたものの、踏ん切りをつけて口を開くまでに数秒を要した。)私、ほんとうは子供の泣き声って嫌いなんですよ。耳障りで堪らなくて。(だから、と接続させて、)実のところ。迷子の女の子の泣き声にも、ウゼーなコイツってうんざりしてました。(それは、彼と初めて出会った時の出来事。友人には知られたくなかった一面。懺悔というほど深刻ではなく、だがばつの悪さも間違いなく存在し、ほら優しくないでしょう――唇に苦笑の歪が漂った。抱えていた影の告白はきっと、向き合う為に必要な儀式だと判じて。)
* 8/24(Sat) 23:56 * No.182

(どの楽器ともしれない音の不協和音が響き渡った。)――不実者は消えるべきだ。(その場に突如として現れた男の声には詰りの響きはない、ただ厳然と事実を告げるかのように。)
* 8/24(Sat) 23:59 * No.183

(そばに残ると告げた意志は彼にも受け入れてもらえた。告げられた礼に微笑みを返す。彼の様子を見ていれば、今やそこまで逼迫した状況ではないように感じてしまうあたり、やはりどこか本質の部分で彼とは似た者同士なのかもしれなかった。)楽観じゃないと思うけどな。それに、律にしか制御できないものだとも思う。……うん。なんとかなる。(同意を求められて、根拠はなくとも自信に満ちた答えを笑いながら返した。希望的観測を単に信じるのではなく、彼自身を信じているからこそ“なんとかなる”のだと思えるのだ。 宮生に出来ることとして、乞われた内容に頷いてみせる。すぐには紡がれないその様子は、これから紡がれる言葉が言い出し難い内容なのだと察することが容易かった。やがて、言葉は切り出される。出会いの瞬間を思い起こすその告白は彼の取った行動とは相反しているようで、ああ、と納得したような小さな相槌を挟んだ。)……それでも律は“良い子”であるべきだから、放っておけなかった?(目も合わさず通り過ぎても咎める者は居なかっただろうに、彼は不慣れながらも女の子に寄り添っていた唯一の人だ。心の中で辟易してたとて、それを知る者はあの場に居なかった。)俺もあの子も気付いてないし、おまえが優しいおかげで傷付けられてないよ。――にしても、ほんっと俺と会えててよかったな。(迷子を送り届けた後に告げられた感謝はもしかすれば言葉以上のものだったやもしれないと、つい思い返しては少しばかり調子に乗った独白が落ちる。改めて彼と向き合えば、自然と声は続いた。)不快だから嫌だとか、べつに何もおかしな話じゃない。好きなものも嫌いなものも、もっと俺に言っていいよ。律の個性だろ。友達の前でくらい、もっと好きなようにしてていい。(自分を曝け出すことへの抵抗は誰しもがあるだろうけれど、ここまで来れば己の前では今更だろうと。少なくとも宮生の中では、受け止めることは容易かった。 不意に鳴り響く不協和音、空気が張り詰める気配に息が止まる。聞こえた声に、軽く息を吐き出した。)……そうかな。(一石を投じる。視線は男の姿を探そうとした。)
* 8/25(Sun) 22:38 * No.185

(なんとかなる。楽観への同意を貰えばそれだけで不思議と心強さを得られて、なんとでもできる心持ちにさえなれる。友達の存在とはそういったもののようだ。知見と感情が形を結んで、ぎこちなさの抜けた頷きを返した。)……ええ、そうですね。(差し向けられた語尾上がりには、ぽつりと肯定する。内心では辟易しながら迷子を放っておけなかった理由はまさしく、良い子であるべきだから。そうすべきだったから。むすっと結んだ口は、彼の独白を拾っての反応である。助けられた事実は事実として、なんとなく相手を蹴っとばしてやりたいという、理不尽な衝動。話題によってあの迷子のありがとうの声と母娘再会の場面が自然と蘇る。改めて思い起こせば、あの時、良い子の使命感以上の何がしかを得られた事は認めざるをえない。この友人のおかげだ。彼を通して得られたものはきっと、これに留まらない。むすりとしたまま、蹴とばしたい衝動は抑えた。)……、いいの? 君の前では、もっと好きなようにして、も……? ほんとうに…?(呆けたような音を漏らし、眼鏡のレンズの奥で大きく見張る。信じられない事柄を聞いたと言わんばかりに戸惑いがそこに揺れた。現実においては、好きなものも、嫌いなものも、自らの内に留めるほうが礼儀に、他者の益になる。この考えを正義としていたから、彼の言葉にどこかを切り開かれる心地がして。やがて到来する、頭の中をかきむしられるような不快な音。靴音を鳴らして現れた金髪の男は、投じられた言をせせら笑う。”口先だけではないと、その身を犠牲にして示せ”  どうあっても、これは自身で引き受けねばならなかった。友へ投擲される槍をみとめた刹那、足は動いていた。逞しい体を押しのけて、受けた箇所は己の肩。夢の物質だからか、血の噴き出ることもなく、ぐ、と柄を掴んで力を込めれば引き抜けて、放れば宙に溶けた。しかし刺さった生々しい感覚と痛みがひどく残る。 ”お前は不実だ。己を律する事にも、オレに対しても” こちらに向いた影の声を耳に入れながら苦痛に喘いで崩れて片膝をつき、一番の支えを求めて片手を伸ばした。)
* 8/26(Mon) 22:56 * No.188

(迷子のくだりに触れた最後の言葉に思うところがあるのか、些か不機嫌そうな顔をした彼にちいさく笑う。繕う気配のない表情に大方は察しながらも「なんか言いたげだな」と敢えて触れるのは、友人としてまた一歩踏み込んだコミュニケーションに等しい。どこか掴みどころのない印象を微かに抱いていた一因に彼が留めていた本音があるのなら、それを知らずに心の距離を縮めるのは難しいだろう。戸惑う姿を前に、男は当然のように頷いて笑った。)いいよ。俺は律のことが知りたいし、律にとって呼吸のしやすい相手でありたい。(不安があるのなら、また何度でも繰り返して受け止めるつもりだ。知りたい気持ちに偽りはないから、彼らしく在る姿をもっと見たがった。 不穏に満ちた空気の中で、男の姿を捉える。反発を口にした己に穂先は向けられ、躊躇なく投じられたそれを咄嗟に防ぐことは出来ず、衝撃を覚悟したつもりだった。――視界を遮ったのは、彼の姿。押し除けられた体に痛みはなく、代わりに彼の肩が“それ”を受けたと認識するのに、時間が掛かった。)……ッ、律!!(そうして気付いた途端、血の気が引いた。引き抜かれた槍から赤は溢れず、男の存在そのものが現実とは一線を画したものだと感覚的に理解は出来ても、胸のざわつきは止まない。男の声は聞こえてもどこか通り抜けていくようで、彼に寄り添い、伸ばされた手をしかと掴んで握り締める。立ち上がるならそれを支えるように、痛みを堪えるならじっとそのまま傍にいる。)……消えるべきじゃない。俺が望んでる。(不実だと語る男の言葉が彼にとって真実だとしても、構いはしなかった。)
* 8/28(Wed) 12:06 * No.193

(繕わぬ顔を不用意に晒して結果、さらに踏み込まれる。うっ、と首を竦め、詰まった一瞬が置かれるが、なんか言いたいのはその通りであったから受け取って返したいと思う。「……調子乗ってんじゃねーよ、だけどありがとう、という事です」くぐもった声で恥ずかしそうに伝え、若干おそるおそるな気配を伴わせつつ、低く浮かせた爪先でもってほんのちょっとだけ相手の足を突っつこうとしてみた。)……そう、か。いいんだ。(すとんと落ちた心地に合わせ、呟きも落ちた。知りたい、呼吸のしやすい相手でありたい、社交辞令の類とは一線を画す言葉。彼を信じられるから、その言葉も信じることができた。ゆるぎない温もりが胸に宿って、微かに潤みをみせる瞳の光。)では君の前では、少々悪い子が顔を出しても隠さないようにします。そうすればきっと、呼吸がしやすいから。(好きなものも嫌いなものも隠さない悪い子が許されるならば、楽になれる。正しくはなくともそれを望む。君には甘えてばかりだ――自覚するにつれ、どうしたって感じてしまう申し訳なさは敢えて省き、喉に押し込めて、かわりに素直をそのまま口に上らせよう。そうして、ずるりと槍の抜ける怖気だつ感触の後に、怪我ひとつなく、衣服の破れもない状態を朦朧とみる。問題ないと伝える気力もなく、ただし伸ばした手は掴まれた。)ありがと、う……。(脂汗を滲ませながらもどうにか礼を告げ、奥歯を噛みしめ、肩を意識しないようにして支えを頼りに立ち上がると友を庇う格好に一歩進み出た。傍に居て。繋いで握りしめる指が切望を語る。次いで理想の姿へと、声を絞り出す。)……ごめんなさい。本当はずっと、イヤホンじゃなくて、良いスピーカーで聴きたかったのに。(あなたの曲に救われたのに、己は不実だった。それは、姿を借りた相手へ向けての謝罪。)不実は変わらないかもしれない。けれど、そんな私を受け入れてくれる人が一人は居る、……ここに、居てくれる……それだけで、大丈夫。自分の中のあなたを認めて、自分の人生を生きられる。だから、(熱の溜まった呼気を吐いた。)……戻ってこい。あなたは私に属すものだ。
* 8/29(Thu) 01:45 * No.195

……、(裁きを告げる槌の如く、男の持つギターケースの先が地に打ち付けられる。爛と灰色が光を放った。)我は汝、汝は我。(朗々とうたう声は、イデア・ルームを初めて訪った折に響いた、馬頭の悪魔のそれに似ていた。我は汝、汝は我。鏡映しのように主体が復唱するのを聞き届けると、男は静かに瞑目した。するとみるみるうちにその輪郭はぼやけ、墨のように青年の方へ流れて溶け、やがては消え去った跡にはしらしらと月光が降るばかり。何かが内に戻り嵌った感覚に一つの終幕を確信し、頼りにしていた手を解放すると、青年は今度こそ崩れ落ちた。今になって押し寄せる恐怖と尾を引く痛みと安堵がごちゃ混ぜの中、へたり込んで我が身を抱くようにして身を震わせていた。)
* 8/29(Thu) 01:51 * No.196

(向けられた乱雑な言葉には、律儀にもお礼が添えられる。言い慣れていないその調子にやっぱり軽く笑みは残ったまま、「なるほど?」理解しましたと示した後、じゃれるような足への攻撃は甘んじて受け入れた。多少は遠慮を欠いた生意気な後輩である方が、彼の我を引き出しやすく感じたのはここだけの話として。伝えたかった想いは彼の心に届いた様子で、受け入れてくれるように落ちた呟きに安堵した。)うん。それがいい。(彼の言葉と表情から、確かに信頼を感じる。自由に呼吸が出来る居場所として、彼の傍に在ることができれば良いと思った。 掴んだ手は支えとなるべく確と力を込めて、けれど立ち上がった彼は庇うように己の前に出る。その間も握られたままの手が示す意思に寄り添うよう、指に力を込めて、友の背中と男の姿をただ見守った。静かな謝罪と、決意を示す言葉たち。視界に映る光景と彼らのやりとりは現実に他ならないのに、どこか不思議な光景だった。――我は汝、汝は我。受け入れた彼の中に、男は戻っていく。夢で出会った真夜中の来訪者は、影のひとつも残さずに消えた。ぼんやりと男の居た場所を眺めていた意識は、繋がっていた手の温度がなくなったことで彼の方へと引き戻される。)……律、(声を掛けて、隣に腰を下ろす。背中に手を添えて、震えが少しでもおさまるようにそっとさすった。)がんばったな。お疲れさま。(紡いだ声は、少しでも優しく響いてくれたら良い。もう一人の自分と対峙し、向き合った彼を労るように寄り添った。)……こんな夜更かし、久しぶりだな。(自然と溢れた呟きは、小さな独り言。落ち着いた呼吸が、ゆっくりと繰り返される。)
* 8/30(Fri) 00:58 * No.199

ああもう、不甲斐ない……!(俯いてぼやく。震えの収まらない体が情けない。いやいやラビリンスでは怪物みたいなシャドウと何度も戦ったし、ペルソナ召喚するたびにダメージ負ってたしっ、こんな痛みやら何やら、なんてことねーし……っ! 自らを叱咤すべく続々と胸中に吐き出していた最中、呼ぶ声と隣に腰を下ろす気配が感覚に届いた。触れ方が優しいからだろうか、その手を通して身の内へ安心感の波が広がり満ちてゆくのを、俯いたまま瞳を閉じて享受する。また耳にも、優しい音が触れた。次第に負は遠のき、震えは静まった。自身の穏やかな血の巡りを実感すれば、顔を上げる。)そうですよね。私、頑張りました。(労いを受け、案外とストレートに先の自分を肯定することが出来た。微かな笑気混じりの息が零れる。)夜更かしはいけません……ね。そもそもこうやって往来に居座るのも、消灯後に抜け出すのももっての外です。君も私も。(イデア・ルームと縁を得て以来の己の夜更かしの習慣は、それはそれとして。良い子の指標が間違いとも思えぬ故に、いけないことをもっともらしく諫めるスタンスにとりたてて変化はない。ただ少し声色は柔らかく、隣に重ね合わせるように呼吸する。現実の夜更けをまざまざと感じるのはたしかに、随分と久方ぶりだ。それから。)ありがとうございます、頑張れたのは君のおかげです。……優しいのですね、宮生君は。(友達同士とはいえ、今夜は過ぎるほどの優しさを貰った。これほどまで貰う所以が無いようにも思えて、この優しさは彼の気質かとぼんやり浮かべつつも幾許かの複雑を面持ちに乗せ、「本当に、ありがとう」と礼を繰り返した。)
* 8/30(Fri) 19:21 * No.201

(触れていくうちに、彼の震えは徐々に収まっていくようだった。少なからず支えになれたその実感は宮生の中でも安堵に繋がって、自己を讃えるその言葉に穏やかに頷いた。)そうだよ。不甲斐ないなんてことないだろ。(ぽんぽんと肩を軽く叩いたのを最後に、地面に手を付いた。その体勢から軽く見上げた夜空は綺麗で、なんとなく清々しさを感じるものだ。)普段は日付が変わる頃には夢の世界だよ。……もっての外だけど、今日は俺が誘ったわけじゃないだろ。悪い子だ。(嘘を告げているわけではないが、彼の中ではまだ寝付きの良い人間として捉えてもらうつもりで。意図せず共犯となったことには悪友らしく、悪びれない調子で笑って見せた。修学旅行の思い出として、少しくらいスパイスがあったって良いだろう。向けられた感謝の言葉には視線を合わせて、「どういたしまして」と微笑んでみせる。その一方で、続いた声には少し言葉を止めた。今となっては朧げな、出会いの頃にも少し交わした会話を振り返る。彼から優しいという言葉を向けてもらえたのだから、きっと今日の己は、彼の気持ちに寄り添うことが出来たのだろう。)……“優しい”は、心掛けてるんだよ。俺はかなり、打算的なほう。(苦い笑みが混ざった。ありがとうと受け止めたら済む話なのに、彼に自分のことも聞いて欲しがった。)俺はどんな人間なのかなって、たまに考えるんだよな。律よりずっと空っぽだよ。だから特別を欲しがって、他の人に埋めてもらおうとするのかも。(無数の選択肢があるとして、目の前の相手が望むことを考えてそれを選ぶ。それは性分であって本心に違いはないが、わりと他人依存な行動指針だと自覚はある。――彼にとって、呼吸のしやすい相手。それを望んだのも、たとえ今だけであったって、特別というかたちが付き纏うものだから。)……そろそろ戻るか。 律、立てる?(先に立ち上がり、地面に触れていた手をもう片方の手で軽く払う。少しでも頼る素振りが見えたのなら手を差し出すことだ。見回りすらも寝静まっているだろう真夜中に、それでも多少は警戒しながらホテルへと戻ろうか。おやすみを告げるのが別れの合図。彼の秘密を知った夜だった。)
* 8/31(Sat) 19:06 * No.204

(見上げる所作につられるようにして、夜空を見仰ぐ。冬の星の瞬きと向かい合うと、不思議と体の力が抜けて無造作に腕を垂らした。)……わ、かっていますよ。今夜に限っては、私も君も同等に悪い子です。私のせいで余計に時間がかかったことも認めます。(悪い子。その一語も彼の口を介したら、どうしてか罪悪感は沸かない。むしろ、なんとも言えないくすぐったさが胸裏に伝い、夜闇のなかでそっと口端を曲げた。あまりにも刺激の強すぎたひとときを思い出に昇華するにはそれなりの時を要するにしても、隣の笑い声が気持ちを軽くさせる。謝礼の一幕ののち、渡された言葉に思わず彼の横顔に眼差しを向けた。初めて出会った日が想起される。あの日の会話に連なる話なのだろう。そして引きずられるように自ずとあれこれと思い出されて、)……なるほど。(こくりと頷きを示した。夜空に視線を投げつつ言葉を纏める間をおいて。)今の話を聞いて、腑に落ちました。君の優しさ、親切は、なんといいますか……いつも綺麗に嵌り過ぎる気がしていたもので。相手に合わせて埋めて貰おうとの心働きであったなら、ええ、腑に落ちますね。(人が人に向ける優しさの情も行為も大抵、どこかしら不格好であったりすると思う。彼には、不格好が感じられなかった。その良し悪しは語らない。ただ事実だけを、受け止める。)しかし動機が何であれ、貰う側は君の優しさとして受け取るでしょう。(己がその筆頭だと、ほんのり苦笑い。……空っぽ、音にせずに繰り返す。どうして?本当に? 纏めきれず散り散りになる思考をかき集めていると、彼が立ち上がりそよぐ空気。)……、手を。(口を結んで見つめてから、もう一つ甘えて差し出された手につかまり立ち上がろう。この骨ばった浅黒い手に、何度助けられたか。ホテルに戻った後は、疲れも相まってたちまち眠りに落ちた。無断外出の罪悪感にも悪夢にも苛まれない、温かな眠りに。)
* 9/2(Mon) 02:27 * No.206


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