
【Step2】8/5(日):午後 深那莫中央公園
(連なる車窓を眺めながら、フィルムのコマのようだと思う。それほどに電車という乗り物は日常の外にあって、こいつに一人で乗るのは何年ぶりか。──休みの日でも早起きなのは祖父母と暮らすなかで染みついた習慣だが、今日に関してはそれだけではなく、慣れない遠出で失敗しないよう朝から準備に時間をかけていた。と言っても休日に誰かと出かけるのも何年ぶりかわからない男ができる準備などたかが知れていて、年季の入った革のトートバッグに財布とハンカチ、ティッシュ、絆創膏とレジ袋に入ったままの個包装の菓子。無料招待券の片割れ。それから忘れちゃいけない折り畳み傘。命綱とも言えるスマートフォンを携えて、午前10時には家を出た。整えるほどの長さもない髪は寝癖だけ一応チェックして、着飾るほどのセンスもない服は無難な無地の黒Tシャツ。急激な成長期に邪魔されることもなく履き続けたジーンズは一から育てたヴィンテージ。私服に身を包むと途端に中高生に間違われるのは背丈の問題だけではない自覚はあって。)──…つ、ついた…。(午前11時34分。紆余曲折あったがなんとか深那莫中央駅に辿り着く。だが安堵もそこそこに足が止まった。瑠璃浜鑑台駅に慣れた目には此処はまるで巨大な迷宮。なぜ改札口が複数あるのか。此処はいったい何階で、公園にはどうやって行ったらいいんだ?)……待ち合わせ、現地にしなくてよかった……。(幸い目的地が待ち合わせスポットとして有名なおかげで道案内に慣れた駅員や店員がそこかしこに。数メートル歩くごとに場所を尋ね続け、時刻は正午を少しすぎた頃。待ち合わせの約1時間前。ちゃんと余るから余裕と言うのだ。──深那莫中央公園に13時。文字を打つことに慣れぬ手が短いやりとりのなかで決められた約束はそれだけだ。流行りの映画についてはわかりかねたので、彼の問いには悩んだ末『よみゃくんのすきなので』と返したのだが、)…夜宮くん、どんな映画が好きなんだろ。(呟きは噴水前のベンチにて。)
* 7/19(Fri) 23:11 * No.89
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………あっつ、(深那莫中央駅のホームへ降り立った折、立ち込める夏特有の湿気孕んだ熱気に口を衝く。トートバッグから取り出したハンディファンでマンテルチェーンのネックレスを付けた首元へ風を送れば、ルーズにまとめたローポニーが揺れて。黒のタンクトップの上に羽織るニュアンス柄のシアーシャツとサテンジャガード素材のワイドパンツのゆるいシルエットや、グルカサンダルを履いた足元も涼しげな印象を与えようか。斯くして、目印となる噴水を認めたのは待ち合わせの凡そ10分前。おーいたいた、とばかりにゆるやかに手を振りながらのんびりとした様子で距離を詰めた。)早いですねえ。飯は食べて来ました? 俺ホットドッグとポップコーンどっちもいこうかなって。(へらりと笑みを浮かべる唇が挨拶代わりに訊ねながら合流となろう。時刻は丁度お昼時、済ませてゆくかすこし迷ったのち空かせたままを選択した腹をぽんと叩いて笑ったら、肩を並べて映画館へ向かうとしようか。)……そういや、映画俺が選んでいいみたいに言ってましたけど、苦手なのとかないんですか? ホラーは無理とか恋愛系はつまらんとか、そーいうの。(道すがら、スマホで上映中のラインナップを確認しつつ首を傾ぐ。元は彼がもらった招待券なのでハズレだけは避けておきたいところだ。)
* 7/21(Sun) 12:54 * No.96
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わ、(おしゃれ。ファッション雑誌のモデルみたい。そんなものまともに読んだこともないが、洒落た様相にぽかんと口を開けたのが此方の挨拶代わりとなったろう。自ら誘ったくせ、彼が手を振って近づいてくるシチュエーションにどぎまぎしつつ、)う、うん。この辺来るの初めてだし、迷ったらいけないと思って。……あ、お昼ならまだ。(それでも緊張の端を気安い笑みにほどかれて、自然と隣に並び立つ。当たり前のように歩き出す彼は目的地に行ったことがあるのだろうか。勝手に頼もしく思ってついていく。置いていかれない程度に歩調を合わせてゆっくりと。)…苦手な映画かあ……うーん、得意ってほどじゃないけどホラーも嫌いじゃないし、恋愛ものも自分一人じゃ観ないけど夜宮くんが興味あるなら観てみたい、かな。自分じゃ選ばないジャンルも誰かと観るって感じで新鮮だし…。(彼に丸投げした身では何を出されても文句は言えまいと思っていたが、いざ気遣いを差し出されれば素直な感想がぽろぽろと。)……あ、でも、……暴力的なシーンが多いのは苦手かも。アクション映画とかはいいんだけど、(そうしてぽつり。NGらしいNGに初めて気づく。自分で選ぶもの、祖父母が選ぶものにそんなシーンはなかったので具体的なイメージはわかないが、多分日常の延長にあるリアルな描写は辛い気がした。)夜宮くんは? どんな映画が好き? 苦手なのは?(そして問う側に回るとつい舌が回る。先ほどまでは彼の好きなものが知れたらと思っていたのに、できれば苦手なものも知りたいと思って。)
* 7/21(Sun) 17:44 * No.100
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なんか珍しい鳥でも飛んでました?(呆けた唇の所以に心当たりはあらずとも、まずないであろう可能性を戯れに宣っては白々しく天を仰ぎ見る。平生より薄らと色付くレンズで隔てているというのに、容赦ない夏の視線は、視界と共に悪戯心まで突き刺す心地だ。細く薄めた双眸で以て向き直ると、)なら食べてからにします? 上映時間にもよると思いますけど。(軽い調子で新たな選択肢を放る。映画に合わせて空腹を埋めるか、空腹に合わせて映画を決めるか。天秤にかけるとシーソーのように揺らいでいるようだ。)アハッ、結局それ『なんでもいい』じゃあないですかあ。アクション以外の暴力だとスプラッタとか? 俺はドキュメンタリーは間違いなく寝ますねえ。それ以外はわりとなんでも……あ、ゾンビって暴力にカウントされます? これとか、コメディらしいんでグロくはないと思うんですけど。(たとえば、と続こうとした口が不意に静止する。スマホへと落としていた双眸が最近話題になっている邦画見つけたからだ。これはどうかと紹介画面を映したまま彼へと差し出そう。ネタバレ厳禁だとか劇場が笑いで溢れるだとか、著名人がこぞって絶賛しているくらいだからまず間違いなさそうだと踏んでいるのだが、さて、彼の興味とセーフゾーン的には如何だろう。)ひとにおすすめしたくなるって、ちょっと前からけっこう流行ってるみたいですよ。
* 7/22(Mon) 20:32 * No.104
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え、鳥?(色硝子の軌道を追うように、思わず青雲を仰ぎ見た。よく晴れた空。当面雨一くんと呼ばれることもなさそうだ。からかわれたとも気づかずに、きょとんとしたまま居もしない鳥から彼に視線を映し、)えっと、うん。映画まで時間があるなら先に食べてもいいかも。(彼に倣って映画を見ながらホットスナックでも食べればいいと思っていたのでランチ?のお誘いに瞬くも、困惑よりも喜色の濃い頷きを。「あ、でもおれおやつあるし、それで我慢もできるからね」とはずっしりとしたトートバッグを指しながら。こちらの空腹事情で選んでもらった映画にNGを出すわけにはいくまいと。)すぷらった。……多分そういうのかな? 血がドバーッと出るのはだめかも。(聞きなれないジャンルは音をなぞるのも大変だ。口ぶりから彼の好みというわけではないと知って安堵する一方、ドキュメンタリーが苦手との言葉には「退屈しちゃうんだ?」と納得に近い理解を示すよう微かに笑って。)うーん、ゾンビは暴力っていうかホラーかな? 程度にもよる気がするけど……って、ん?(差し出された画面には人目を惹く派手な色づかいのキービジュアルが。コメディとの補足もあいまって愉快痛快が売りの喜劇が脳裏に浮かぶ。)へえ、面白そう。おすすめしたいってことは万人受けするタイプの作品なのかな? 笑える映画はいいよね。(笑いの感性に関してはおそらく一般的なはず。本当の意味での万人受けなど無理と知っているけれど、わかりやすい演出が多いコメディなら上演後も明るい感想が期待できる。)夜宮くんも観たいなら、それにしよっか。(大分気遣いをいただいている自覚はあるが、「わりとなんでも」の言葉を信じ、今度は優柔不断をやめにした。)
* 7/23(Tue) 00:12 * No.106
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(天然が成せる仕草に笑声混じえた「なんでもないですよ」はぐらかす音吐を返したなら、視線が戻る折には竦めた肩を下ろす様が映り込んだろうか。そしていざなわれるまま、示されるバッグを認める双眸が幾度か瞬いた。他の荷物もあろうとは思えどだいぶん重量があるように見受けられたので、不躾な眼差しが彼の顔とそれとを往復する始末。)おやつの量超えてそーに見えますけど、それ。もしかして飯をお菓子で済ませられちゃうタイプですか? 女子みたい……ヤ、女子こそそんなにたくさん食わないか。(走り出した言葉の失速は早く、顎をひと撫でして自己完結めいた着地となろう。)仲間内で騒ぎながら観るんならいいですけどねえ、映画館で黙って血みどろ浴びる楽しさは俺にもちょっと。(得意と苦手の二択ならば後者よりであると、ゆらりとかぶりを振ったのち、零れた笑みにイエスの首肯を示してその先。提案に同意が乗ればすなわち決定である。にんまりと口角が愉楽に上向いた。)監督も役者も無名なのに流行ってて評価も高いってなると、まあそういうことですよねえ。公開から暫く経ってるのに上映数も多いし。いつか観るつもりでネタバレ見ないようにしてたんで丁度良かったです。(そうして目的地たる映画館もあれよという間に容易く捉えられるほどの距離になっていて。すんなり進む予定に心做しか軽やかになった足取りを空調の効いた施設へ踏み入れようか。)
* 7/24(Wed) 00:19 * No.111
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や、ふつうにご飯は食べるよ。ただ、おれ時間の使い方下手だから…ひまなときにちょっと食べて待ってようかなってやつと、あと夜宮くんの分もあって。(心配性のトートバッグを物珍し気に眺められたわけを知り、がさごそとレジ袋を探った手がランダムに個包装の菓子を掴み取る。ほら、と見せた手のひらにはチョコレートにクッキー、そのハイブリッド。いつかの一方的な約束を果たすつもりで「好きなのある?」と首を傾げて。)はは、たしかになあ。映画館ってテレビで見るより迫力あって面白いけど、騒いだらだめなところが難しいよね。(それでも思わずこぼれるリアクションというものがあって、ここぞというシーンで皆が一様にくすっと笑いをもらしたり、息をのんだり。そういう“みんなと一緒”な感じが好きだった。ゆえに彼の選択は大正解。)ならよかった。(8月5日がその「いつか」に間に合って。聞けば聞くほど期待は膨らみ、声が弾む。いつの間にかどぎまぎはわくわくに代わり、ぶつ切りの言葉を出し合うようなぎこちなさから会話らしい会話へと。そうしてすんなり話はまとまり、彼の後を追うスニーカーは自動ドアへまっすぐ進んだ。板ガラス一枚隔てた先はまさに極楽、夢の世界。ひんやりとした空間にいかにも映画館という風のカーペット。夜空を思わせる留紺にカラフルな星を敷き詰めた其処を踏みながら、円形のエントランスを見渡した。右手に受付と発券機。)あっちで上映時間が見れるみたい。(間もなく始まるような回があればそれでもよし、間があくようなら遅めのランチを決めこむもよし。左手にはホットスナックのレジが並び、近くには併設されたレストランや喫茶店の類もあるが、さて。)
* 7/24(Wed) 01:05 * No.112
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……俺の?(──へぇ、得心滲む相槌が落ちて間もなく、己の分も、と続いた声に双眸瞬かせ言葉をなぞる。手のひらへと広げられた菓子を認めては、ふむと迷うような一拍が過ぎゆくか。甘味もまた『わりとなんでも』に括られるので、どれを指しても彼の問いは満たせるだろう。強いて言えば、そして気分に委ねるならば──「これかな」黒が彩る指先がプレーンクッキーを選び取る。)だからっていうか、むしろサブスクが手軽すぎてって理由のがデカかったりしますけど、映画館来るのは久しぶりなんですよね。(冷気の出迎えに一息つくよう胸を撫で下ろし、唸りながら風を送ってくれていたハンディファンにも休息を与えてバッグへ仕舞い込む。幾度と訪れた経験はあれどやわらかなカーペットが歩みに合わせて沈む心地は懐かしく、ふと足許へ視線を遣っては意味もなく体重を掛けたりなどしてその感覚を楽しんでいるようであった。そうして、彼の声に呼ばれるようにして上映時間を捉えると、)次は丁度15分後か。けっこう間隔短いみたいだからいい感じの席埋まってたらその次にするのもアリですね。前か真ん中か後ろ、あと端のほうとか、どこで観る派ですか?(幸い融通が利きそうであったので、発券機を操作してはひとまず直近の空席情報を確認しようか。)
* 7/25(Thu) 01:03 * No.118
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(夜宮くんはクッキーが好き。彼にとっては何気ない選択であったに違いないが、かつて祖母がそうであったように一度好物として認識すると何度でもそればかり買ってくる者もいる。もしも二人の関係が続くなら、昼神にも祖母の血が色濃く受け継がれていることを彼は身をもって体験するだろう。)…さぶ………そうなんだ? まあ最近は色々便利になったって言うしね。(ふとした時に感じるギャップは世代間によるものと信じたい。聞き慣れない単語を聞き返すのはやめにして、曖昧な相槌とともに小さな扇風機の行方を見届けた。彼の言う「久しぶり」と自分のそれを比べながら。)そうだね。じゃあ夜宮くんの気に入る席が埋まってたら次にしても……って、おれ? んー……いつもは出入口に近い通路側、…だから後ろの方のはじっこの席に座ることが多かった……かな?(どこか他人事のような話しぶりは席の好みなど気にしたことがなかったゆえ。空席とは関係なく、はなから選択肢など少なかった。)…でも、夜宮くんといっしょなら、(いつもの心配は要らないだろうから、)真ん中の席に座ってみたいかも。(差し出された気遣いに小さなわがままをのせてみる。たまにはスクリーンの中央を陣取って真正面から眺めてみたい。遠慮がちに呟いたのち、発券機の画面を覗きこみ、)…から、次の回でもいいかな?(けれど上映15分前で中央のど真ん中なんて良席が残っているはずもなく、次の回に期待をかけて。)
* 7/25(Thu) 13:57 * No.120
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ぜんぜん便利の恩恵受けてなさそうな言い方じゃあないですか。まあ、古き良きを重んじるタイプっぽいですもんねえ。(少ない時間の中で抱いた印象を宣う声は、上辺をたゆたう軽さでありながらしみじみと落ち着き払うちぐはぐさにて。──それから。問い掛けに応じる声に発券機へ落としていた視線を持ち上げて、見遣った彼が告げる座席のイメージを広げてゆく。)あー、出入りしやすそうでいいですねえ。途中でトイレ行くとかエンドロールで立つときとか誰の邪魔にもならないし。(そも見えやすい席はあっても見えづらい席はない造りになっているだろうから、利便性に重きを置いて納得と同調の音吐がまろぶ。では此度も、と傾きかけた思考は、されど続けられた希望が耳朶を打つことで容易く居住まいを正した。「いいですね、賛成」拘りはなくとも最良を選ぶことに躊躇ない性分なら当然にして二つ返事。次の回に運良く空きが見られたので手早く招待券を引き換えては、凡そ2時間強の空白と空腹を埋めるべく、爪先をレストランとカフェへ順に向けるとしようか。そうしてウィンドウの向こう側、並べられた食品サンプルを眺む。)しっかり食うなら断然こっちですねえ。……うわ、白身魚のグリルうまそ。(好物を見つけてぽろりと零したのち、くるりと向けた眼差しは気に召すものはあったかと言外に問い掛けるように。)
* 7/26(Fri) 18:52 * No.126
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わ、やった。(軽やかな賛成とともに願いが受容されたこと、次の回に目当ての席が残っていた幸運に感謝して。)ありがとう、夜宮くん。(手際のいい彼に全てを任せた結果、自分にとってはただの紙切れだったそれが瞬く間に夢のチケットに引き換えられる。一人ではこうして映画館に足を運ぶこともなかったろうから、招待券を差し出す時もチケットを受けとる時も子がはしゃぐように何度も礼を繰り返した。)うん、見てるだけでお腹空いてきちゃうよね……(そうして本日のプランがようやく定まったことに安堵したのか、ぐう。一時は小さな菓子で凌ごうなどと考えたのが嘘のように、空腹を思い出した身体は素直に鳴いた。レストランのウィンドウに並ぶ料理の数々。偽物とわかっていても美味しそうなそれらを見つめる最中、隣で上がった声にちょっと意外な思いを抱く。なんとなく、年頃の若者は魚を好んで食べないようなイメージがあったので。思わず視線を遣るとちょうど彼のそれとかち合い、偶然のアイコンタクトに思わず微笑み、)お魚好きなんだ? おれも好きだよ。でも今はオムライスの気分かな。(彼の好物の隣の隣、デミグラスソースのオムライスを指さしながら言外に此処にしようか、と頷いた。)普段は和食が多いから、洋食っぽいの食べたくなっちゃって。(こんな風にすんなり入る店を選べるのも嬉しかった。中を覗くとお昼時を過ぎているせいかさほど混んだ様子もない。すぐに案内されそうだ。)
* 7/26(Fri) 20:36 * No.127
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どういたしまして。……そんなお礼言われるほどのことでもないと思いますけど。(重ねられる礼を受け、気抜けたような面持ちにて幾度か双眸が瞬いて。されど悪い気がするはずもなく、肩を竦めはしても謙遜と呼ぶには満更でもない戯けた音吐がまろんだ。)ポップコーン分は空けておかなきゃですけどねえ。(ホットドッグは取り止めても映画にポップコーンは欠かせないとばかりに強行姿勢。彼にまで強いるつもりはないけれど、メニューを眺めながらフレーバーのチョイスにリソースを割く辺り思考まではそう不器用でもない。そして、かち合う視線は自ら外すことなく、自然と弛んだ彼の双眸へ好物を重ねて己の瞳に描こうか。)好きですけど魚か肉かなら気分次第なとこもありますね。メインがあって、サラダとパンかライス、できればスープまで付いてるような料理が好きで。(だが、どちらを選びがちかと言えばその通りに違いない。オムライスを示す指に釣られたところで視線が外れると、)あー、いいですね。自分で料理したりはしない感じですか?(決定への了解と選択への同調を一括りにして首を縦に振って。何気ない疑問符を浮かべながら店内へと。席へと案内された折、今し方決めたメニューの他に、烏龍茶と彼の分のドリンクまで注文したなら後は楽に崩した姿勢で待つのみだ。)そういや、なんで俺のこと誘おうと思ったんですか?(以前に告げられた以上の理由を勘繰ったわけでもない。雑談がてら、何の気なしの話題選びだった。)
* 7/28(Sun) 01:52 * No.130
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それって…定食が好きってこと…?(魚だけではなく肉も好きだというのはわかるが、好きな食べ物が特定のメニューではなく定食とは不思議な気もして首を傾げた。一汁一菜ということだろうか。)…健康的だね? うちもご飯と味噌汁とおかずは必ず用意してたなあ。(育ち盛りの未来を思えば偉いなあとも。かつての食卓を思い出しつつ、)いや、料理はするんだけどさ。おれ基本和食しか作れなくって……やってみたらできるんだろうけど、なんか洋食って外で食べるものってイメージなんだよね。(最近は出来合いの物を買うことも多いので、以前ほど和食中心の生活というわけでもないけれど。そうして席に着くなり手早く注文を終えた彼のスマートさに飽きもせず感心を抱いたのち、)……え、と。(ここまで自然と続いていたラリーが不意に途切れた。だが彼にとっては特別な返球でもなかったのだろう、気負いない姿勢がそれを物語っている。)…なかよくなりたかったから、かな。(ゆえに真面目くさった返答をすべきでないと沈黙は短く、しかし真実をそのまま掴んで取り出したら随分と幼い心を晒してしまった。それに気づいてあたふたと、コップを引き寄せ水を含む。熱りと焦りを押し流すように。そして、)…だから、今日は夜宮くんが来てくれてうれしかった。言いそびれてたけど、ありがとね。(本当は待ち合わせ場所で伝えるつもりだった言葉をテーブルの上にそっとのせ、ちらと視線を上げたなら、色つきレンズの奥にある、瞳の色を窺った。)
* 7/28(Sun) 16:41 * No.133
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んー……、まあたぶんそんな感じです。なーんかこれでもう終わり? ってなるんですよねえ。量とかの話じゃなくて。(ふわりと定まらぬ口吻は、物足りなさの所以を実感していないがために。結局のところ慣れなのだろうと答えを探して宙を一瞥した双眸が舞い戻ったのち、)やめちゃったんですか? やっぱ作る側は手間?(過去形で語られる食卓の様子に小首を傾げた。次いで、物珍しげな「へぇ」の相槌を彼の食事情へと差し込んだ後、訪れるささやかな沈黙にはさして気にするふうもなく。気怠げにそして不躾にテーブルへ肘をついて返答を待つ有様。やがてぽろりとまろんだ声に迫り上がった笑声は、堪えたとて薄らと開いた唇から微かに溢れ出てしまったろう。我先にとやってきた揶揄いの文言に蓋を出来ただけ己においては上々と言えるのだが。)お礼言われることでもないですけど、俺も嬉しかったんで、こちらこそ。大人になってから友達作るのってこーいう感じなんですかね。学生のうちは毎日顔合わせるから自然とそうなってますけど。(ついた肘で顎を支えていた前傾姿勢から座席の背もたれへ重心を移しては、すこし先の未来を想うように視線が持ち上がる。されど見えぬものに目を凝らすつもりもないので、タイミングよく先に運ばれたドリンクへ口を付けては喉を潤すとしよう。特段乾いていた感覚はなかったが、ふぅと一息ついてしまうくらいには猛暑のダメージを負っていたらしい。)
* 7/30(Tue) 00:23 * No.141
…
手間っていうか、作りがいがなくなっちゃったから、かな。(共に食卓についてくれる人がいなくなって久しい。自分のためだけにかける手間を惜しんでいるという点では間違いでもなく、向けられたはてなには苦く笑った。──だからこそ、こうして誰かと囲む卓はあたたかな色をして見える。これまで友だちを作りなさいだなんて一度も言われたことはなかったが、今は向かいに並ぶコップが嬉しい。とはいえこの想いは一方通行。友情の押し売りという自覚もあって、広げた胸の内を見た彼の反応が気になった。眸が反射する硝子の奥を見つめていると、瞳の色は見えずともやわい笑気が耳を打つ。ついで、安堵をもたらす返答が。本当はもっと大声で笑われるかと思ったのに、そこに配慮が見えてようやくコップを机に置いた。)……なら、よかった。夜宮くん、友達も多いだろうし、夏休みも忙しいかな、とか……一回会っただけのおれに誘われて困ったりしなかったかな、とか…思って。(いとも容易く紡がれた「友達」に胸の奥がむず痒くなり、わずかに声が上擦った。「自然とそうなる」なんて言える彼から見ればきっと些事。そんなことをわかりやすく喜ぶ単純さがまた笑いを誘うだろうか。それとも気にもとめないか。気まぐれな猫のように興味の矛先が変わるのがよく動く色硝子の軌道から窺えて。それを思わず追ってしまう自分にまた苦笑した。そうして目の前に置かれたオレンジジュースを口に含む。冷たくて甘い。)夜宮くんは、暑いの苦手?(子供が太陽を塗る時に使うみたいな黄橙と、その奥に見えた疲労の色からそんな問いを。)
* 7/30(Tue) 13:31 * No.142
…
(何か含みがあると踏んだ際は立ち止まるが吉だ。不穏を手繰ることを忌避して、ふぅんと相槌ひとつに丸め、ふたたびの地雷は踏み抜くまいと気を遣えていたはずであるのに。言葉を飲み込めたことに気が緩んだか、)えー、好かれないタイプなのは昼神さんがよく知ってると思うんですけど、もしかしてイヤミですか? 俺のこと過剰評価してるしめちゃネガティブですね。(迂闊にデリカシーを欠いた声が口を衝いて出る。冗談めく口吻は声音に違わず戯れ以外の意味合いはないとはいえ、軽薄に釣り上がる口角を寸分遅れで自覚しては手のひらで覆った。)……いまのは聞き流しといてください。(やっちまったとばかりに背筋を流るる汗は刹那にして体躯を冷やしてくれたけれど、こればかりは望まぬ結果。彼が滲ませる喜色を気に留める以前の問題である。)暑いのは別に苦手なつもりなかったんですけどねえ、……ここ数年くらいは負けっぱなしかも。最近は夜の蒸し暑さもキツイじゃないですか。だからダルさが残ったまんまな気がして。(誤魔化したいのか挽回したいのか、饒舌であるのは常だがツラツラと滑り良く言葉を吐く様は早々に失言を流してしまいたい心の表れであったろう。永続的にも思える気怠さは季節を問わず共にあるくせ、都合よく引き摺り出してくる始末。半分ほど減った烏龍茶のグラスも汗を掻き始めていた。)
* 7/31(Wed) 00:49 * No.147
…
(ぱちくり。いきなり目の前で手を叩かれた時と似た反応をした。)……、(──違うともそうだとも言えないまま気まずげに撤回されてしまった言葉を引き留めて拾い上げるのは”空気が読めない”ってやつだろうか。さっきまでちっとも見えなかった彼の瞳の色が今はよく見える。だから口を閉ざすことを望まれるがまま、ストローを咥えて静かにビタミンCを摂取した。疲労回復はもちろんのこと、ストレスに対する抵抗力を上げてくれると以前どこかで聞いた気がして。)…たしかに、年々夏が暑くなってる気がする。クーラーも使いすぎるとだるくなるって言うしね。(他愛ない質問を皮切りとして再び言葉を成したなら、空気を読んだかのように料理が運ばれてくる。鮮やかな黄色のオムライスにかかったデミグラスソースがいい匂い。白身魚のグリルも美味しそうだ。)いただきます。(両手を合わせて拝むように。そのままごく自然にオムライスを口に運び、1/3ほど食べ進めたところで水を求めてスプーンを置いた。)初めて夜宮くんを見たとき、なんとなくだけど、人に好かれるタイプだろうなって思ったよ。(それから喉を潤したのち、唐突に掘り返した話題。腹が満たされたからだろうか、意外と声は落ち着いていて、)途中で暴走したおれが言うんじゃ信憑性ないだろうけど。……って、こういうのはだめ? おれ、まだきみが喜ぶような上手な返しがわからなくて。(ごめんね、と続けたら流石にイヤミなような気がして、眉を下げて苦笑にとどめた。)でも、夜宮くんがおれを傷つけたいわけじゃないってのはちゃんとわかるし……やたらと露悪的だなあとは思うけど、(何が彼にそうさせるのかはわからないが、自分と同じように自己評価が低いのかもしれないな、と思いながら、)…それが夜宮くんなんだな、って今は思うよ。(何も知らず勝手に怯えたあの日とは違う。ここに来るまでも、彼はずっとやさしかったから。)
* 7/31(Wed) 10:38 * No.149
…
(特段何かが引っ掛かる心地を覚えたわけでもないのに軽く挟んだ咳払いは己の気を散らすためのもの。彼が如何なる反応を示そうが出たものを戻すことは出来ないので、まなこへ写せど見えていないも同義であったろう。)そうなんですよねえ、一晩中つけっぱなしだと喉やられることもあるし。夏のいいとこは夏休みくらいかも。……──お、どーも。サンプルのまんまでうまそうですね。(落ち着かぬ胸中は、されどあからさまに態度へ表れるほどでもなく。会話デッキの定番に助けられるように連ねた声が香ばしい料理の到着を契機に切り替わろう。言葉なく手のひらだけを重ねたのち、フォークはまず付け合わせのサラダへ、そして白身魚へと伸びる。自然と言葉少なになれどそこへの気まずさはなく、意識が舌先に乗るハーブとレモンの風味へほとんど傾き掛けた折、その声はやって来る。丸パンを千切る手が止まり、眼差しが仄かに一驚を滲ませながらゆるりと彼を捉えた。)……は、(何かを紡ぐ素振りはしかし、取り止めだと飲み込んで。結句、呆けた音吐となっていたやもしれない。)……別にご機嫌取りしなくていいですよ。思ったことそのまま話してくれれば。(これは『喜ぶような上手な返し』へ気遣いは無用だとかぶりを振っての否定。真実、癖付いた性分が軽率にまろんだものであり、特段期待する反応があったわけでもないのだから。そこで漸く千切ったパンを含み、咀嚼するさなか彼の中にある己の輪郭を知る。)…………、そうですか。(嚥下する喉はなんだかやたらと滑りが悪く、何か痞えがあるような心地が拭えぬまま返した声は相槌と違わぬ短さに尽き、素気無く映ったろうか。唇は弧を描けど自嘲めくような苦さを残し、映画鑑賞を終えるまでペラと回る舌は存外悪くない静けさに甘えてサボりがちであったやもしれない。せめてこの一日を経て、マイナスから始まった関係値はプラマイゼロにまで取り戻せていたら良いのだけれど。)
* 8/1(Thu) 00:47 * No.153
…
……そう? でも、きみもとってくれたでしょ。おれの機嫌。(彼に喜んでほしい、ひいてはそれが自分のためになる。仲良くなりたいとはすなわち好かれたいということなのだから。複雑な気分はそのまま顔にのせたけれど、ご機嫌取りという語彙の選択に不満の色は見せなかった。)うん。結局そうさせてもらってるね。(ゆえに眉を下げたまま静かな声で、自分から見た彼という人を語ってみる。それはまだ、明日にでも色を変えてしまいそうな不確かなもの。──短い応えを話題のエンドマークと理解すれば、氷もだいぶ溶けた水のコップと引き換えに銀のスプーンに指を伸ばした。)…あ、(が、手が滑る。カランと金属が舞う音がして、カチャンと床を叩く音がした。聞きつけたボーイが手早く拾ってくれたので軽い会釈とともに礼を紡ぎ、トレイから新なスプーンを掴み取る。その時視界の端にちらと映った逆さまの顔はどんな表情をしていたろうか。そうして沈黙の分だけ皿の上がきれいになった。次に成した言葉は食後の挨拶。ごちそうさま。)──評判通り面白かったね。まさか最初のあのシーンがそういう意味だったなんて全然想像できなかった。(凡そ2時間強の沈黙を経て、帰り道。コメディゆえ劇場を包む静寂はさほど厳格なものではなく、何度か吹き出し、他の観客に同調するよう笑いもした。ろくに読みもしないだろうと思いながらもパンフレットまで買ってしまった。トートバッグから覗く、劇場のロゴが入った紙袋。)今日はありがとう。久々の映画、楽しかった。……次は夏休み明けかな。また会えたらいいね。(よく笑ったら凝り固まった頭もほぐれた。結局気を遣っても遣わなくても噛み合ったり噛み合わなかったりするのだから、変に気負うのをやめてみようと別れ際は朗らかに。彼と駅で別れたのち、電光掲示板より先に駅員を探してみる。人と関わる、誰かを頼る、ということへの躊躇いを薄くうすく削いだ夏。Step1:連絡先を交換した。Step2:休日に遊んだ。ならば次は何をしようか。はじめての友達作りの道は長い。)
* 8/2(Fri) 23:48 * No.157
azulbox ver1.00 ( SALA de CGI ) / Alioth