return
1/25(金):昼休み カフェテリア >鵜飼

(日々は巡る。鏡の向こうへと行けなくなって、自らの立つ世界が現実のみとなったところで、世界は構わず時を進めていく。寂寞と懸念こそ尾を引けど、受験生という立場にあって時間との相談も多くなれば尚更だ。背を押し急かされて、あれからひと月が経とうとしていた。――この数ヵ月で随分と増えた心の支えを拠り所に邁進する中、殊更に心の内を占める相手への甘えは自覚していた。「少しでも一緒にいたい」と随分素直に告げて、時間が合う日にはと帰路を共にすることを願い出た三学期初頭だとか、今日という日に時間を占有する申し出だとか。現地集合が一瞬よぎるも、三年教室階の階段付近で待ち合わせて一緒に行くことを提案したのだって、羞恥や躊躇いに勝る情動があるからだ。)……あ、鵜飼。行こっか、席空いてるといいね。(グリーンのショッパーを後ろ手に提げて壁に凭れて、その姿を見止めるや声音はほのかな明るみを帯びる。合流が叶った後には銘々に休み時間を過ごす人波に紛れ、二人並んで階下を目指すこととなろうか。)ね、やっぱ鵜飼もあれから、イデア・ルームは行けてない?あたしは何度か試したけどダメで。……ヒカリ、どうしてるかな。(本題には幾分も早く、ともすれば道中の隙間を埋めるのに惑う末、折に触れて思い出してしまう過日の出来事が口を衝く。何も知らなくたって仲間であると願いにも近い想いを抱いていたが、結局何も知らなくては途絶えたままだ。話しているうちに辿り着いたるカフェテリア内は、人の入りこそ多いが空席は疎らに見受けられる。券売機に歩み寄せ、軽食類よりもホットココアに目を惹かれながら「何頼む?」と彼の方を窺おう。)
* 10/4(Fri) 21:26 * No.147

センター試験を終え、志望校に願書を出しと慌ただしく過ぎゆく1月の最中に交わされた約束は胸の中にほんのりとあたたかい灯火をともした。志望大学の赤本をめくって過ごし、焦りと不安が寄せては返す毎日の中で、他愛もない会話交わしながら彼女と家路辿る時は、心が安らぎ、明日からもまた頑張ろうと思える貴重な時間だった。もうすっかりその存在が救いとなった女の子からの誘いは、25日を迎えるまで青年の心にふわふわとした喜びをもたらした。待ち合わせ場所に向かう歩は軽い。あんまり急いで来ましたよという雰囲気を出すのは余裕がないと思いつつも、歩幅が自然と広くなった。)佐々礼!お待たせ。この時期混んでるのかな、あんまり使ったことないけど3年が来たり来なかったりだからそこまでかな。(普段は自作の弁当派であるが故に、こちらに来てからカフェテリアに足運んだのは片手で数える程度。受験の追い込みという時期もあり、教室に姿見せる同級生の数も日毎にまちまちであった。希望的観測口にしつつ、階段を降りる。)……うん、行けてない。ヒカリがひとりぼっちじゃないといいけど。こっちの世界で会えたりしないのかな。(自分たちがあの世界に行くことができなくなった今、気がかりなのはヒカリが辛い思いをしていないかということだった。彼女とマンゲツが二人で背負っているだろう荷物を少しでも軽くすることができたらと思ってはいるけれど、それはただの願望で、今の自分が何か彼らのためにしてやれることがあるかは分からない。それでもただ会って話ができたらいいなと思った。券売機を上から下までざっと眺め、)あったかい天ぷらうどんにしようかな。佐々礼は?(問いつつ、小銭を取り出し投入口へ。)
* 10/5(Sat) 10:49 * No.148

(姿が見られただけで、名を呼ばれただけで、浮かび上がりそうな胸の内がふわりと満たされる。自然と緩む面持ちは微かな笑みを生んで、目的地はお互いに利用経験に乏しいともなれば「あたしもあんまりわかんなくて」と素直に目算の無さを明かした。しかし彼の言う通りとも思えばペースは上げず、歩調はそのままに往く中で。)……そっか。ヒカリとマンゲツは元の姿も見られなかったし、探すのも難しそうだよね。あたしも、会えたらいいなって、思ってるんだけどな。(同じ想いと知ればほのかに眉を下げ、望まずして最後となったあの日へと思い馳せる。夢の続きは訪れない。彼女たちが望んで生まれた世界がなくなったのならば、彼女たちにとって必要ではなくなったのだろうと、希望を以て信じるばかりだった。階段をくだり、廊下を抜け、並んで券売機を眺め暫しの思案の後。)んー……オムレツにする。ホットココアも飲む。(食べ合わせ度外視に選んだ二点の食券を購入し、そうして受け取ったトレイを手に空いた席を目指すそぞろ歩き。窓際で対面の座席を確保し、向かい合えばまずは一呼吸を置いて、ショッパーは隣の椅子へ。)……ここ、あんま使わないってことは、いつもは教室?普段ご飯食べてる友達とか、大丈夫だった?(いつも似たようなこと気にしてるな、とは思いながら、ココアの入った容器を両の掌で包んで温もりを得つつ。)……あの、鵜飼は友達多いだろうし……他に過ごす相手もいたと思うけど、……あたしも今日、会いたかったの。だから今日、時間取ってくれて、ありがと。(日程を指定した時点で目論見など明け透けだろうかとは案じていて、懸念の欠片がまろび出るも、やはりそれ以上の想いがある。互いの想いを確かと知り、日々と時間を重ね、緊張と動揺とでこんがらがっていた過日よりは幾分も落ち着いてはいるが、それでも用向きがあれば少し異なるものだ。)
* 10/5(Sat) 22:26 * No.150

あっちの世界の人たちって、この学校の関係者が多かったし、もしかして校内ですれ違ってるとかないのかな。(先日垣間見えたこちらの世界での姿は、己に関わりのある者ばかりであった。マンゲツもヒカリも、現実で親しく言葉を交わしたことのある人物ではないとしても、せめてどこかで姿ぐらいは見たことがあるのではないかという憶測は、何度か合わせ鏡の噂が空振りに終わったところで立てたものだった。あれ以降まだ二人の話を聞けていないことがぼんやりとした気がかりになっている。メニュー選びが終われば向かい合わせで腰下ろし、ちらと一瞬だけ彼女の隣に位置どる袋に目をやった。)いつもは割と教室とか、天気いいと中庭で食べたりとか。友達?全然俺がいようといまいと気にしないから大丈夫。(昼食共にするメンバーはおおよそ決まってはいるけれど、固定ではなくその日の気分で「今日どこで食う?」と問いかけるような間柄だったので本当の本当に心配無用だった。)俺の仲良いやつらなんて、俺とわざわざ今日会いたい!どうしても!!って言うようなやつらじゃないから大丈夫。(彼女の気の遣いようからあることに初めて気付く。もしよかったら、の前置きの後に続く言葉は、ちょっと息止めた後に呼気と一緒に吐き出される。)卒業までの間、お互い予定合うときはこうやって一緒に昼ごはん食べる?友達の誘いがあるときはお互いそっち優先することにしてさ、(問いの後に逃げ道くっつけて、どうかな、と反応窺う。欲張りすぎの自覚はあった。)
* 10/6(Sun) 22:33 * No.151

特にマンゲツは、あたしたちの名前呼んでたし……可能性、高いと思うんだけどな。(推測は近しいものであったため、静かに目を細めて往く道を見遣る。過日に曝け出された姿は知った顔の方が多く、もしかすれば生徒らや教員で溢れるこの中にいる誰かが、そうであるのかも。そんな希望を見出す傍ら、座したのちには窺うように向けられた瞳は安堵に綻んだ。)……そう?んー……それなら、いいんだけど。じゃあ、今日は遠慮なく、鵜飼のことお借りします?(今日に限っては“どうしても”側であることが改めて面映ゆく、卓の下で爪先を擦り合わせる。それから、前置かれた言葉にきょとりと瞬いて続く声を待てば、思いがけぬお誘いに瞠った瞳が大きく揺れた。)あっ……う、うんっ、あたしも、一緒にお昼食べたい。……下校時間ももらっちゃってるから、これ以上欲張りかなって、思ってた。(頬はほんのりと喜色に染まり、頷くのがいやに力強くなってしまった気もする。ただ、秋頃から昼食時を共にしているクラスメイトたちには、ちょっと事情は説明する必要がありそうだ。修学旅行最終日に朝食の席を離れた際は根掘り葉掘り聞かれたものだが、今となっては特別な男の子であるとはまだ話せていなかった。)……、……あのっ、もうバレてる、かな……どうかな……わかんないけど、(結局、切り出し方に惑い、悩み、湯気を立ち昇らせる蕎麦をちらと見止めてから。まごついたのちには最早当たって砕けろの精神だ。)誕生日、おめでとう。……直接、鵜飼の顔見て、お祝いしたくて……今日、来てもらったの。(言祝ぎと同時、ずいと差し出すは傍らに置いたグリーンのショッパー。「……誕生日プレゼント、です」と、まぁわかりきった種明かしを添えたその中身は、“ライムグリーンの保温マグカップ”だ。)
* 10/7(Mon) 20:07 * No.153

(思い返すは、夢の世界での別れの場面だ。確かに彼は現実の世界の自分たちの名を読んだ。)あれだけ皆の名前知ってたってことは、先生とかの可能性のほうが高いのかな。それか、すげー顔が広い生徒とか。(なんとなく辺りを見回したところで、マジックが得意そうな誰かの顔は見当たらない。また目の前の彼女に視線が戻ったところで表情が和んだ。)鵜飼はいつでも貸出自由です!って俺の仲良いやつらが言いそう。……今日、誰かと飯食うか聞かれたから、佐々礼の名前出しちゃったけどよかった?(事後報告の問いに否が返ってくれば、カフェテリア出たあとには友人ら捕まえて口止めを図ることになる。こちらは素直に「好きな子と飯食う」と報告済みであった。)学内で一緒に飯食えるって、同じ校舎に通ってる間の特権っぽいから、思う存分満喫しよう。佐々礼が俺じゃない人とご飯食べたい気分のときは、断ってくれて構わないから。(今度のは逃げ道ではなく心の底からの気遣いであった。特権はそれぞれの友人との間にも適用されるものであるので。沈黙ののちに切り出された今日の本題は、予想はしていたけれども外れたら悲しいので期待するのを自分でセーブしていた用件だった。顔が勝手に緩むのを止められず、誤魔化すみたいに口元に手をやる。でも結局、プレゼント受け取るのに片手でもらうのって失礼だなという自分の誠意に従って、喜色が浮かぶ顔は無防備に晒されることになった。)ありがとう、……もしかしてって思ってたけど、本当にそうですごく嬉しい。好きな子に顔見て祝ってもらえるのって、なんか自分が予想してたよりすげーいい。(もう一度ありがとうを言い、緑色した贈り物を受け取る。開けていい?と聞くより先に包みに指かけたのは、喜びのあまり気が急いたためだった。ストップかからなければ中身を取り出し、水の入ったグラスの隣に登場させることになる。)
* 10/8(Tue) 22:33 * No.156

(つられるように周囲に投げた視線が、何か心当たりに引っ掛かるような事はなく。まだ変わらず願いを抱えて日々を過ごすのだろう。その瞳が彼のもとへと戻る頃には、緩やかに下がる眦が安堵と喜色とを物語るばかり。が、「そ、それは、大丈夫」と告ぐはちょっとだけ気恥ずかしげに。どう話してるんだろう、なんて気にかかるのは、平生の後ろ向きよりは恋心が囁きかけてくる心地だ。)うん、その時は、伝える。鵜飼もね。……んー、でも特権も、もうちょっとだね。もう少し早かったら、一緒の大学、とか……考えられたかなって、思っちゃう。(今やマイナス思考もなく、離れたとして続く関係と信じていても。しかし自身の発言の重さにはたと気付けば、誤魔化すよう口を付けたココアで流す一幕を差し挟んで。喜びを表してくれるその表情に口振りに、そして折に触れて告げられる“好きな子”なんてワードに、胸の奥がきゅんと痛んだ。)……っ、あ、あたしも……嬉しかったの。お祝いしてもらった時もだし、今日会ってくれるってなって、お祝い出来るって思った時も。す、……好きな人、だから。(思えばこの姿ではきちんと伝えていなかったような。途端にあがる体温を自覚してひととき視線を逃がすが、包みにかかる指を止めるような事はなく見守ろうと選ぶ。贈り物の本体が姿を現す頃には、)……ブランケット、殆ど毎日使っててね。だから、あたしも何かの形で鵜飼のこと支えられないかなって、思って……それだったら、勉強のお供になってくれるかなって。(彼の贈り物が日常に寄り添ってくれる事に支えられるその大きさは計り知れない。そのお返しのようなものと考えた末に決めた、シンプルなデザインの蓋付き保温マグカップは、長くドリンクの温度を逃がさないためこの季節に適していると思えた。しかし加えて保冷効果もあるので、夏場も使用出来る一品でもある。)
* 10/9(Wed) 20:08 * No.157

3月には卒業だし、これから受験が近付くとますます学校で会えなくなるだろうしなあ。一緒の大学、も 確かによかったかも。(二人揃って同じ大学に通い、一般教養の大教室で隣同士に腰掛けること想像してみたら、それは確かに胸が高鳴る情景だった。志望校選びの後悔がちらと胸かすめていったのは表に出さずに海老天口に運んだ。彼女の声で紡がれる「好きな人」は、きらきらと輝くダイヤモンド纏っているようで、鵜飼の心の中にそっとしまわれた。包みを解いてお目見えした明るい緑を優しく撫でる。)俺のあげたもの使ってもらえてるだけでも嬉しいのに、こんなにいいものもらっちゃっていいのかな?って気持ちになるな。ありがとう。これ毎日使ったら合格間違いなしだ。(愛おしむようにマグカップ手に取り、思いの詰まった贈り物見つめる瞳は穏やかな喜びに満ちている。ちょっぴり大袈裟な物言いは、真実そこまで幸運もたらしてくれそうだと信じているからだった。心の底からのありがとう述べた後、テーブルにマグを置いて姿勢を正す。好きな子と好きな人と、お互いの感情に基づく呼称は、二人の関係を第三者に問われたときには曖昧にぼかすようにも取られかねない呼び方でもあった。お互いの気持ちを知る二人の間だけならそれでもよかったけれど、これからは通う学舎も離れることだし、お互いを知らない第三者に何がしかを問われることもあるだろう。今まであえて触れてこなかった話題を思い切って俎上に乗せる。)あの、さ    俺は、彼女って言葉はなんか響きが軽いというか、一時的な関係っぽくて佐々礼に対して将来の責任が取れないような気がしてやだなって思ってて、でも関係性に名前がないのはそれはそれで不誠実だし、誰かに付き合ってる人いるの?って聞かれたときに困る気もしてて、(一度言葉を切る。まっすぐ目を見て思い切って心の底で考えてきたことを言葉にする。)俺は佐々礼のことを家族に「俺が大切に思っている人です」って紹介したいぐらいに思ってるんだけど、佐々礼がこうなりたいなっていう二人の関係性と違ってたら教えてほしい。(言い切った後にそわそわと付け足した「今じゃなくて、受験終わって落ち着いてからとかで大丈夫なんだけど」は、ただでさえ心労の多いこの時期に出す話題ではなかったのでは、と心の中で影が囁いたせいだった。)
* 10/11(Fri) 22:04 * No.158

(ホットココアはちょっと失敗だったかもしれない。なんて、冬の只中に二人してアイスコーヒーを頼んだあの日を思い返す。友愛を育んだ日々にも彼の傍ではあたたかさを感じていたけれど、慕情を募らせるようになってからというもの、身を焦がすその言葉はいっそあついくらいだ。)お、大袈裟〜……んー、でも確かに、誕生日プレゼント兼合格祈願みたいなものでもあるかも。効果あったって、ちゃんと聞かせてね。(願いこそ籠めれど、実際に成果が出れば彼の研鑽の賜物だとは言いきるのだろう。少し困ったようにくすくすと笑声を零したのち、結局気恥ずかしさから一時オムレツへと逃がしていた意識は、しかし、背を正すその気配に掬い上げられる。真っ直ぐに見つめられ、逃げ逃れたがる事の多い視線を逸らせずにいた。――傍に居られればそれでいい。というのが、混じり気のない本心である。けれど他者と関わるようになり、そして結ばれた縁を貴ぶようにもなった今、ふたりの間でのみ交わされる以外にも言葉を要すると理解もしていた。事実、形容に惑い、随分と会話の増えた母にも未だこの関係を告げていない。どことなく、何か勘付いているようにも感じられるが。)……え、と……そう、だね。あの……一般的には、……こ、こいびと?っていう……の、かな、(当て嵌めるに足る関係と知りつつ、如何せん想いを交わした経緯が『一般的』には程遠い。それから暫しもにゃもにゃと声なく動かしていた唇を静かに割る。)……あたし、今の気持ちとか関係とか、鵜飼以外には考えられなくって。将来……とか、当たり前に家族に話す事の中にも、鵜飼がいてほしいって、思ってるよ。(将来。家族。紡がれる言の葉からは今この時の二人のみに非ず、多くをひっくるめて想ってくれるような彼の誠実さに恋をしたことを、改めて噛みしめる。そうして、揺れる瞳で見つめ返す。)だから、鵜飼も同じ気持ちだったら、あかりちゃんやお母さんにも会ってみたい、し。あたしのお母さんにも、鵜飼のこと話したいな。……や、でも、うん、心の準備とかいるから、もうちょっと先で……、(含羞は旧き友のように寄り添い続ける。妙に浮足立つ心地を誤魔化し、乱れてもいない前髪を指先が撫でつけた。)
* 10/13(Sun) 01:07 * No.161

(そもそも己の影が感情を明かさなければ、彼女に想いを告げることもなかっただろう。怪我の功名のように結ばれた関係性は、始まりからして一般的ではない。)こいびと、……(二人が一緒に抱く感情のこと思えば、その言葉で二人を表しても間違いではない。はず、なのに。社会的な後ろ盾のない呼び名のように思えるのは、父と母の関係も同じ名称で呼び表せると知っているからだ。自分たち二人をつなぐ関係は、父母のそれより確かなものであってほしい。わがまま承知で言葉を重ねようとしたが、それより先に彼女の唇が再び開かれる。言葉が心に沁み入ってくる。)佐々礼の未来に、俺がいるのがすごく嬉しい。……俺は家族に、将来ずっと支え合ってそばにいたいと思っている俺の大事な人ですって佐々礼のこと紹介するけど、それでもいい?俺のことを佐々礼がお母さんにどうやって紹介するかは、佐々礼の思ったとおりにしてもらえればいいんだけど。(先走った紹介文は、青年の中では彼女の了承が必要な内容である。家族と顔合わせるのに、時間の猶予が必要であろうことは予想されうるべきだった。性急な申し出を心の中で恥じつつ謝罪が落ちる。)ごめん、俺の事情で佐々礼のこと悩ませて。なんか自分でも俺ってこんな重いやつだったんだー……って、思ってる。(乾いた笑いこぼして、誤魔化すみたいに海老の天ぷらをかじる。つゆにずっと浸っていたそれはもうすっかり衣がふにゃふにゃになっていた。)
* 10/15(Tue) 23:16 * No.164

(彼にとって、そしてその傍に居たいと願う自分にとって、重要な命題なのだと、彼の姿をした影の表情がちらついた。こくこくと頷く間隙にも、湧きいずる情動が左胸や手指から熱を伝播させていくような感慨さえ覚えて、耳に頬にと外気に晒された箇所が赤みを増していく。自制しようとして、しかし浮かれるなという方が無理な話である。恋するうら若き少女の悲しさだ。)なん、か、……プロポーズ、みたい。(ぽつりと堰き止めきれなかった言葉が零される。最初に紹介と口にされた際からよぎってはいた想いが鮮明になって、浮かび上がりそうな身をどうにかと縫い留めては振り払うよう今度は強く首肯しよう。)ぅ、いい、だいじょうぶです、それで……!あたしのお母さんには……うん、なんて言うか、まだ考えてなかったけど。……幸せにしてくれる人だって、伝わってくれればいいな。(たくさん考えて、選んで、言葉を尽くすことになるのだろう。半分も減っていないオムレツの傍らに、もうスプーンは置きっぱなしになっていた。)やっ、重いとかは、思ってない……!真剣に二人のこと考えてくれてるって、思うし……あたしはどうしても今ばっかり見ちゃって、伝えてもらえないとわかんないこともあると思うから。(己を鑑みて眉を下げた後には、未来を確かなものと語ってくれる彼へ、下がった眉のままで笑って。)ん……じゃあ、お互い受験終わってから、かな。そしたら、あたしの家とか、遊びに来てくれる?お母さんにはそれまでになんて伝えるか考えとかなくっちゃね。(初めての経験はきっとどれも自らにとっては不得意な分野ばかり。それでも、ふと瞬きに閉じたそのまなうらに、彼と過ごす未来の道がどこまでも続く情景が描かれるから、身に染みた臆病が足を留めたいなんて思うことすらもなくなっていた。)
* 10/16(Wed) 19:51 * No.166

プロポーズ、(おうむ返しに口にして、先ほどまでの己の言動反芻する。確かに一言で言い表すならプロポーズがふさわしいような言葉の数々は、なるべく彼女に誠実でありたいと思う心から出たものたちだが、言われてみればだいぶ気の早い婚姻の約束のようだった。大それたこと口にした恥ずかしさが今更じわじわと上ってくる。耳のあたりが熱くなった。)……言われてみれば、プロポーズみたいなんだけど でもこれは仮予約というか 本物のはもっと大人になったらちゃんとしたいと思ってて(坂道で荷物取り落とすみたいにころころ転がり出す言葉たちは真実だけれど失言でもあった。「今のなしで」と短く話題の終了告げたのち、力強い頷きに救われたような心地になった。)俺がこう、先走っただけだから、佐々礼はゆっくり考えてね。あんまり急なこと言うとお母さんがびっくりするかもしれないし。(それを言うなら自分の家族もだが、なんとなく「すごいね嬉しいね笑子ちゃんいつあかりのお姉ちゃんになるの?」程度の軽さで受け止められるような気もしている。)なんかさ、俺たちってまだお互いにどんなこと考えてるのか知らないところもいっぱいあると思うんだけど、そういうことをこれから二人で伝え合っていけるのって すげーいいなって思う。お互いに理解を深めていく感じがして、これからまだ俺たち仲良くなれる余地があるんだなって実感できる気がする。(まだ見ぬ未来にも二人が仲深められる要素があることは、青年にとっては嬉しいことだった。今日する約束もまた、仲をより深めるための第一歩である。)また行く前に、お母さんの好きなものとか教えてね。鵜飼くんってとってもいい人だなって佐々礼のお母さんにも思ってもらいたいから。(未来の家族として点数稼ぎができるかは彼女の返答次第である。ちょっと軽口めいた口調は、いつもの調子が戻ってきた証だった。)
* 10/17(Thu) 22:27 * No.168

(先んじた口振りを追うその様子は、口を滑らせたといった風であるが、心音は構わず痛いくらいに逸るばかり。“なし”とされたからには聞かなかったことにすべきだろうけれど、齎される欣幸と期待とに理性の錨はやや脆い。ただだらしなく緩みそうな口許を両手で覆い、小さくか細く掌の内に落とされた「……待ってる、」なんて言葉は、彼に届いたかなど確認しない事とした。もう“他人と家族に”だなんて想像も出来ないことへの恐怖は、消え去ってしまったかのようだった。母を含めたその気遣いに、小さく頷いた後に。)……そうだね。知られるのが怖いと思ったり、知らないことがあっても仲間は仲間だとか、思ってもきたけど。でも、鵜飼のこと知れるのは嬉しいし、知れば知るほど……その、やっぱりすき、だな、とか。好きになってよかったな、って……思うから。これからも、たくさんそう思うこと、ありそうだね。(“もう一人の自分”を介したイレギュラーな運命は、二人を引き裂くことはなかった。知ること、知られること、それらに互いが前向きな胸中を抱えるならば続いていくのだろうとも思える。面映ゆくも浮かぶ表情は強張りなんて忘れ去ったようにやわらいで、そのまま自然と笑気が音となってあふれ出す。)ふふ、賄賂のつもり?鵜飼のことはその辺は全然心配してないんだけどな。それで言うと、良い意味で驚かせちゃうことはあるかも。(それは惚れた欲目のみに非ず。ただ友人付き合いをしていた頃など彼の人柄へ向けていたのは憧憬や尊敬なのだから。が、翻って、己を鑑みれば、はたと何やら気付いたように。)あ、や、むしろあたしの方が、心配か……あの、鵜飼のお母さん驚かせたりあかりちゃん怖がらせたりとか、しないかな?……髪、暗くしとこうかな。(容貌だけならばまだしも、愛想の無さも加われば外聞の悪さは自覚がある。肩口に流れる毛束に差し込んだ指をくるりと回せば、明るい金と赤が混ざりあって絡んだ。)
* 10/18(Fri) 22:30 * No.170

(微かに聞こえた一言は胸の中で喜びを花開かせる。明るい未来が脳裏に浮かぶ。それは年を重ねても二人で喜びも悲しみも分かち合い、隣で歩む俺と君の姿をしている。)お互いに知らないことなんてないよ、って思えるようになったらどうなるのかな。そういう日が来るのってそれこそ十年後かもしれないし、もっと先かもしれないけど、そこに向かってお互いのこと話すのってどんなときも一緒に人生を歩いていく感じがする。もし知らないことなんてないよってならなくても、それはそれで一生楽しみが続くってことなんだな。(人生の道行共にすることを勝手に決定事項として語られる言葉は、またプロポーズじみたかもしれない。二人の間に浮かぶ言葉たちはふわふわと幸福のかたちをしている。)そう、賄賂のつもり。(軽く笑って思惑正直に白状する口振りに悪びれたところはない。特に謙遜は込められずに、そうかな?と問う声に喜びが混じる。善くありたいと日々を過ごしてきたのは確かだけれど、実際に他者から内面を肯定されるのはこれまでの努力が報われるような気持ちになった。彼女の懸念には、心の底からの驚きが顔にあらわれる。)え、なんで?かわいいじゃん。佐々礼はそのままでいいよ。(ありのままの彼女がいちばん好ましいと思うのは恋心がなせるわざか。自分の家族らもおそらくはそうであろう。恋の話が好きな女性陣に好きな女の子のことを逐一白状させられ、どんなところに好意を持っているかは彼女らに筒抜けであるので、容姿についてももう承知している。妹にいたっては、「笑子ちゃんかっこいいね、あかりも大きくなったら髪の毛かわいくしたいな」と半ば憧れ抱いているようだ。彼女が自分の家族に合わせてイメージチェンジを図ろうと考えてくれることは嬉しいし、それを尊重したい気持ちもあるけれど、彼女の容姿を作り変えたいわけではなかった。)
* 10/20(Sun) 12:23 * No.172

……うん、そうなのかも。そういう日がいつか来るかもしれないのも、結局来なくっても、あたしはどっちでも幸せなんだろうな。鵜飼と一緒に歩いていられたら。(彼の言葉に触れる度に、欣幸は花びらの形をして降り注ぐようで、肌身と胸奥をくすぐられるような感慨がなんだかそわそわとさせる。11月の夜空の下、あの日に願った“一緒に”は恒久性なんて思い上がるつもりはなかった筈だろうに、今は当然みたいに口を衝く。だからこそ家族ごとひっくるめた未来を想って、賄賂の検討に同調して笑った。)素直だ。ふふ、じゃあ探り入れとくね。そしたら鵜飼家の好きなもの情報と等価交換でお願いします。(交換条件はちゃっかりと明示させてもらうとして。そうかな?へ、そうだよ、と迷いなく間髪入れず頷ける信頼は、過ごした日々が証明してくれる。彼に対し案ずる胸中なんてひとつもない分、それは自分自身に向けられるわけだけれど、不意打ちにはぎくりとその身を硬直させた。)っは、ぅ、……っ、や、別に、かわ、いくは……だ、大丈夫だと思う?あたしだってやっぱり、鵜飼のご家族には少しでも、よく思ってほしい……、(ぎこちない所作に指に絡ませていた髪は零れ落ちて、行き場を失った両手はそのまま膝の上へ。テーブルの下で指先を擦り合わせつつ、時折彼の口から聞くようになった言葉はどうしたって自分に相応しいものには思えず慣れない。文字のやり取りでさえ持っていたスマホを取り零しかけて、結局返事を出来ずに終えたくらいだった。減っていないオムレツに視線は勝手に落ちて、殆ど手慰みのようにスプーンを持ち直した。)
* 10/21(Mon) 03:14 * No.173

(この場においても幸福しみじみと分かち合い、それはこれからも続くと確信得られれば歓びは増えるばかりである。ふわふわと身を包む多幸感は凍え知らずの冬の羽毛布団のようでもある。)そう、俺は素直で誠実なのが売りだから。鵜飼家の好きなものは、かわいい食べ物とかきれいなお花とか、……あとは、笑子ちゃんの手作りお菓子とか。クリスマスにくれたフロランタン、母も妹もすごく喜んで、おいしいおいしいって言って一日で食べちゃってたよ。(一月前のプレゼントは家族から大変好評であった。あの日から「みちくんが好きな笑子ちゃん」は、「とってもお菓子作りが上手で優しくてかわいいお姉さん」と評判である。それだけでなく、自分が食べたいという邪な理由も含めたおねだりは、彼女がくれる予定の情報と等価にはならないかもしれない。間をおかずの肯定は、世辞ではないことの証明のようでまた喜びが胸に満ちる。こちらが謙遜の途中で思わず首振ったのも、決して社交辞令でなく、心の底からそう思っている証だった。)俺には佐々礼はめちゃくちゃかわいく見えるよ、今みたいに照れてるのもなんか すげーかわいいなって思う。これは俺が佐々礼のこと好きだからなのかもしれないけど。(睦言めいた言葉たちを紡ぐ表情はごく真剣なものである。好きな女の子というフィルターかかった瞳では大丈夫と即答したくもなったけれど、それでは彼女の求める答えにはなるまいとなるべく客観的に家族の反応考えてみる。脳裏に過ぎる母と妹も、己と同意見のようだった。家族が取るだろう反応を言語化しようと試みる。)俺の母は、年齢が若いのもあるし、本人の性格的にもまだ高校生とか大学生っぽいところがある人だから、髪色がどうこうとかってあんまり気にしないと思う。俺の好きな子で、俺のことを好いてくれてる子ってところで佐々礼のこと大好きになる気がする。妹も、笑子ちゃんと早くお話したいな、今度一緒にケーキ作ったりおしゃれしてお出かけしたいなって言ってたから、もう既に佐々礼のことよく思ってるよ。……だから本当に、何も心配しなくて大丈夫だよ。(つられてあまり進んでいない食事に目を向ける。その拍子に目に入った古びた腕時計の針は思った以上に進んでいた。気遣わしげに視線上げて、)佐々礼、時間大丈夫?
* 10/22(Tue) 23:06 * No.176

(瞳を細め、紡がれる言葉に耳を傾ける。母に話すのは遠からぬ事として、まだ深い話などまでした事はないが、いつか新たな家族となるであろう三人にも彼の話をする日が来るだろうか。家族という縁が連なる事に馳せた想いの間隙、細めていた瞳が丸みを帯びる。)あ……そう、なの?喜んでもらえてたんなら、よかった。んんー……わ、賄賂、成功?(無論当時にそんな目論見はさらさらないが、先んじた話の流れを汲めば結果的にそういう事にもなるか。おずおずと呈した「……また作るね」なんて口約束の後には、連ねられる“かわいい”は最早致死量にも近しく、ただはくはくと唇を音なく開閉させる一幕。)う、ゃ、あの、……っい、いい、いいですっ、もう……!!うう、うれしい、けど、どうしたらいいかわかんなくなるからぁ……!(お世辞はいい!なんて突っぱねたくもなるものの、彼がご機嫌取りの口八丁を弄する性格でないともよく知っているものだから、まともな反証など出来ぬまま情けない声だけが落ちる。限界を迎え熱で占められた顔を両の手で覆って隠してしまって、その状態で彼の見通しを聞く形となったか。然して、そうっと指の隙から窺ってから、そろそろと手を下ろしていき、)ほ、ほんと? ……そ、そっかぁ……うん、ちょっと、安心した。んー、正直、まだ緊張の方が全然勝ってるけど……あかりちゃんがそんな風に言ってくれてるんなら、お姉さん出来るように頑張りたいな。(こういう時にはアイリーンに代わってほしいなんて甘えも微かによぎるが、付き纏う後ろ向きに付き合ってくれる彼への感謝と安堵を胸に息づかせて、ようやく視座が広がったか。自然とその視線を追って瞳は腕時計へ、次いで壁にかかった時計へと移ろった。)え、……あ、あぁー……もうこんな経ってたんだ。ごめん、食べきっちゃうね。(思いがけず進んでいた針を見止めては僅かに瞠目してから、すっかり止まっていたスプーンを再稼働させ、暫し黙々とオムレツを消費する時間。少し待ってもらった後には「お待たせ」と、からになった皿の横にとうに飲み終えたカップを寄せよう。)
* 10/24(Thu) 07:02 * No.180

賄賂、大成功。……今度の賄賂はさ、一緒に作ったら家族がもっと喜ぶかもって思ったけど、どうかな?(受験が終われば二人揃ってキッチンに立つ時間も取れるだろう。共同作業の結果をご検討お願いしますと要望伝えることになった。「かわいい」の四文字は特別なものではあるけれど、妹相手にも発することが多い言葉なので心に感じたままに素直に口に出すことに抵抗がないが、受け取る側の彼女の感情をいたずらに乱すのは本意ではない。言葉にするのは心の中で思った十分の一ぐらいの頻度にしようと決めて「慌てさせてごめんね」と軽い謝罪口にした。顔覆う姿も可愛いなと思ったのは心のうちに秘めておく。)緊張するのは俺も実はするだろうなって思ってるけど、あんまり肩肘張らなくてもいいよってことを伝えたかったので、あかりのことも適当に   いや適当には違うな、気軽に?仲良くしてもらえると嬉しい。(重ね重ね気を張らなくても大丈夫と伝えたがるのは、すこしでも家族との対面を良い印象で迎えてほしいからだった。食事を急かすかたちになってしまったのにちょっとの申し訳なさと二人で過ごす時間の終わりに名残惜しさを感じつつ、自分も食器を空にする。返却口に食器返し、教室に戻る帰りがけ、「今日何時に帰る?」と共に帰路辿るための待ち合わせ時間の設定の後にためらいがちに口開く。)あの さ、今日の帰りなんだけど(思いつきを本当に口に出してもいいのかなと一瞬言い淀み)手、つないで帰らない?(普段また後でを言って別れる階段付近で問い投げたのは意識してのこと。「考えといて」と答えるまでには猶予があるよの意図で言い残して自分の教室に戻る。帰り道にまた顔合わせることになったとき、二人がどんなふうに帰路辿ることになるかは日が落ちる頃にははっきりするだろう。)
* 10/27(Sun) 14:02 * No.183

それ、いいね。うちの分の賄賂も一緒にいい?一緒に、喜んでもらお。(実のところ元々会話の多い家でもなくて、母が年若い男の子が料理を嗜むことに大層感心と喜びを見せるのだと知るのは、少し先の話。すっかり乱された心ではかつての仏頂面なんて形無しで、情けない顔でふるふると首を振って応えるに終わる。嬉しさから逃げ出したくなることがあるなんて、彼以外から教えられることはないのだろう。)ん……うん。そう、だよね。長い付き合いになるなら……変に肩肘張っても取り繕っても、どうせボロ出ちゃうだろうし。……でもその時までに小さい子とのお話の仕方、ご教示お願いします。(緊張が消えて無くなる事はなくとも、彼もまた同じ気持ちなのだと知れば分かち合える。しかし思えば、実父の方はどうするのが普通なのだろう。ふと脳裏をよぎって、それもいつか彼に相談させてもらうことになる筈だ。さて食事を終え教室へと戻る道中、待ち合わせ時間を共有した後には。)? ……うん?(彼の唇が何かにひととき淀むのを見止め、瞬いた瞳で見上げ続く言葉を待つ。知らず、その瞳はやがて大きく瞠られて、)――……あっ、う……か、考えとく……!(差し向けられた提案に詰まらせた喉からぐっと声を押し出して、その背に返答を投げる。望みも答えも、きっととうに決まっていただろうに。――斯くして陽の傾く中、先程別れたのと同じ階段付近で待ち合わせ、平生通りに談話の中歩み進めるそのさなか。ずっとタイミングなんて言葉が頭の中をぐるぐると蠢いて、延々と苛むばかりの中で。)……鵜飼、(校門を抜けたところで名を呼ぶ。言葉は纏まっていない。黙するままその袖をくいと引く指先は、普段着用している手袋に包まれてはいなかった。からっぽの手を、握手求めるみたいに差し出す。この季節には冷えきってしまう指先に、温もりを分け合ってもらうために。)
* 10/28(Mon) 00:45 * No.186


azulbox ver1.00 ( SALA de CGI ) / Alioth