
8/19(日):夜 双鏡学園前 >律【5】
(みなも祭り本祭に、花火大会。夏休み終盤となる時期に開催される二大行事は深那莫区を大きく賑わせて、通い慣れた通学路さえも普段とは異なった空気感を纏っていた。バイト終わりという都合上集合時間は少し余裕を持って設定したが、無事約束の時間に間に合ったことに安堵の息が落ちる。校門前で彼の姿を確認しては、「律」と呼び掛け挨拶がてら右手を上げた。)おまたせ。コーヒーとオレンジジュース、どっちが良い?(コンビニのビニール袋を左手で掲げて二択を委ねながらも、視線で促し一先ず校舎へ向けて歩みを進める。細かい校則は把握していないが、花火を見るために休日の暗い校舎に忍び込む行為はおそらく歓迎されるものではなく、穴場という情報も加味すれば侵入は秘密裏に行うべきだ。なんとなく心が弾むのは仕方がない。)……思ったよりは暗くないか。階段続くから、足元気を付けような。お互い。(がらんとした人気のない校舎を新鮮な気分で見渡しながら、屋上へ続く階段に差し掛かれば手摺りに沿って進んでいく。長い道のりのため見回り等の気配がないか警戒しつつ、途中で様子を見て踊り場での休憩を挟みつつ。そうして最上階へと辿り着けば、彼を振り返りながら扉に手を掛ける。 外の世界を見上げた途端。色とりどりの花火が、弾けるように夜空に輝いた。)――今の、見た? すごい。綺麗だ。(次々と打ち上がる壮大な景色に、視線を奪われたまま問い掛けた。人混みも、視界を遮るものもない静かな特等席。ベンチに腰を落ち着かせては、また花火を眺めた。)
* 8/3(Sat) 22:54 * No.16
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(遠く、打ち上げ花火の音がする。休日であろうと赴く先が学園であれば選択肢は決まっており、青年の纏う衣服は双鏡学園の制服である。慣れない予定内容に緊張を湛えていたが、待ち合わせ相手の姿を見ると少しほっとした表情を浮かべた。あげられた飲み物の名称に、つくづく用意が良いものだと眉を上げる。「オレンジジュースで」と簡潔に告げやがて、連れだって高等部の校舎へと。密かに身を滑り込ませたその先は、しんとして人気がない。見慣れているはずの場所が、知らない顔をして夜の謎を隠している風に映る。その光景が掻き立てる胸裏のざわめきには、常識外れな忍び込む行為を責め立てる声が混ざった。それでいながら、罪悪感よりも高揚が勝るのは何故だろう。爪先を進めながら、そっと傍らを横目に捉えた。足音を殺して階段を上る。途中で一度足を踏み外しかけ、手摺を握って足のバランスを直した。何事もなかったように歩みを再開させ、プライドを保とうとした。散発的な花火の音が徐々に近づいてくる。そうして辿り着いた先、屋上へ続く扉を開く手を息を飲んで待って。友人に続き境界を踏み超えた刹那、ドォンという音と共に頭上に花開く大輪の輝ける花々。肩を並べて見上げただろう。)……綺麗。(掠れ声は、応えというより独白に近い。知らず知らず速足になって、海側のフェンスへと寄った。天へ向かう軌跡の列が、水平線に彩り豊かな粒子を注がせる。さらにその上に連なる、幾重もの光の輪。ひとしきり見惚れた後に、友人の移動先に気付いてはっとする。)綺麗ですね、本当に。(夜風に乱された髪と興奮で上気した頬のまま、隣に腰を下ろし、工夫もない感想を口にしつつそっと持ち上げた眼差しは、彼も楽しめているかと覗う気配を含んでいる。ややあって、)……あの、宮生君、(内心の影響で囁きめいてしまった声で呼びかけた。)
* 8/6(Tue) 21:36 * No.18
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(これでも普段は素行不良とは縁遠い自負があるものだから、道中に誰とも出会わなかったのは幸運だろう。何かしらのハプニングに見舞われることも想定して、彼を含む周囲の状況に意識を巡らせていたため道中の一瞬の出来事には気付いていない振りをして歩みを進めた。――扉を開けた瞬間、僅かに感じたデジャブは心の中にそっと留める。肩を並べて見上げた先。夜空を彩る壮観な景色に、思わず溢れ出したかのような感嘆の声は、どこか印象的だった。打ち上げられる繊細な光の粒は視界の端にあるものすら綺麗だから、夜の屋上、フェンスに寄る背中、目に映る日常を超えたその光景をぼんやりと眺めるだけでも胸を満たされる心地になる。先に腰を落ち着かせていた宮生に気付いたらしい反応に、気にしなくていいのにと笑いかけながら、オレンジジュースの缶を取り出して手渡した。)綺麗ですね。(花火を見上げてから、互いに紡ぐ言葉はこればかりだ。自覚はありながらも、わざわざ頭を悩ませて他の言い回しで伝えようとは思わなかった。)…言い合えるの、嬉しいな。(一つの思い出に同じ感情を重ねるような、なんてことのない遣り取りに居心地の良さを感じているから、自然と穏やかな表情が浮かぶ。プルタブに指を掛けてコーヒーを口に運ぶと、喉を潤す冷たさに軽く息を吐き出した。やがて隣から声が掛かれば、)ん、どうかした?(缶をベンチの上に置いて、彼の方へと視線を向けた。)
* 8/7(Wed) 21:19 * No.19
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(オレンジジュースの缶を受け取れば、その表面には夜空に流れる花火の名残が反射した。「このジュースの代金はあとで払いますね」あいかわらずの生真面目は、奢りの概念を決して認めない。プルタブを引き、爽やかな風味を少しだけ流し込む。コーヒーとオレンジジュースの選択の当初に想像した通り、甘さと柑橘の香りが今宵の気分によく合う。難しく考えずに、同じ形容詞ばかり自然に重ね合わせられる空気に落ち着く心地。ただ、頷きを返す。穏やかな表情を見つけると、どこか安堵したように眉宇を緩めた。)ええと……、(自ら呼びかけたくせ、いざ問われると口ごもってしまい、手中の缶を握る指関節に少し力が籠る。花火の合間の静寂を見計らい、一つ息を吸う。意を決して口を開かせた。)今日は、誘ってくれて……ありがとうございます。夜の学校に忍び込むなんて、自分一人ではあり得なかったので。これほど綺麗な花火を鑑賞できたのは、宮生君のおかげです。(人ごみも喧噪もない、特等席のとびきりの景色に辿り着けたのは、友人のおかげ。伝えた唇は綻んで、見つめる目許は笑みを孕む。)……君からすれば何気ない誘いだったとしても、私は嬉しかった。(感謝の心を言葉にする。それは人として当然の行いでありながら、勇気を要するもので。大仕事を完了させたかように肩を上下させ、深く呼吸。「まあ、ちょっと悪い友達である気もしますけどね、君は」気軽く続け、缶を持ち直した。)
* 8/10(Sat) 01:56 * No.20
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(代金、と告げられた言葉に手を離れたオレンジジュースを視界に収めてはくつくつと笑みが漏れる。)そういう生真面目さも律の良さなんだろうけど……俺、勝手に気まわしてこういうのする方だから、わりとキリないかも。“次”はこっちが用意するとか、そういうの聞いてみたい。誘ってよ、いつか。(対等を重んじる彼は恐らく貸し借りを好まないのだろう。より心地好く過ごすために用意した飲み物は宮生の中では自己満足の範疇に過ぎず、価値観の相違を感じるからこそ、軽い口調で未来のいつかを強請ってみる。そんな軽口も、夜空に咲き誇る花火の下ではきっと許されるだろうと思って。 呼び掛けに次いだ声はどこか躊躇うような様子で、視線を向けたまま言葉が続くのをじっと待つ。そうして、感謝の言葉と共に彼の柔らかな表情を目の当たりにした。)――良かった。誘ったの、わりとダメ元ではあったんだけどな。 一人じゃあり得なかったのに、信頼してくれたんだ。 …そっか。(打ち明けられたその気持ちには、嬉しさも安堵も芽生えている。「普段は良い子にしてますよ」悪い友達と形容されたことを軽く笑い飛ばしながら、残り少なくなった缶コーヒーに手を添える。見上げた空に打ち上がった花火は瞬く間に色を変えて、「グラデーション花火だ」と呟いては目を細めた。)……好きな景色を見ると、ふとした時に思い出すことが俺にはよくあって。多分、今日の花火もそうなると思う。(一人でも訪れるつもりだった特等席。けれど隣に友人がいることで、思い出の質はきっと大きく異なった。)あの時屋上で見たのが綺麗だったなって。律と一緒に見たんだって、多分毎年、思い出すよ。(学年が異なれば進路も大きく異なるであろう、未来に続くかもまだわからない細い縁。大切にしたいから、男は笑った。)だから、お礼言うのは俺のほう。来てくれてありがとうな、律。(不良の夜遊びにならないようにと、缶の中身を飲み干したらその時がタイムリミット。夜の校舎の特等席で、花火大会はまだ続く。)
* 8/11(Sun) 19:44 * No.21
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次……。(人の可処分時間には限りがある。“次”となれば硬貨を手渡して清算するよりも、その限りある時間を費やす事になる。ならばそれに相応しい次にしなければならない、今日の花火と同等に意義のある時間にしなければならない。果たして考案できるのだろうか。眉を寄せ、青年は難しげな表情をする。だが、改めて彼の顔を視界に収めた途端、躊躇いは吹っ切れた。)……そうですね。今までの誘いは、君からでしたから。私からも誘います。(貸し借りを良しとしない思考はそのままに、されど小難しく考えずに柔らかく約束を告げていた。友達同士ならばこの軽さで構わないと、理屈なしに悟った。次を充実させる為にももっと彼の好みも知りたいとは思う。そこに関して知っている事といえば、濃厚ガトーショコラと重ためのチーズケーキが好き、くらいだから。)し、信頼……、確かに一言で言い表すならばそうなりますね。(認めながらも照れ臭さを紛らそうと色を変えゆく花火に目を奪われる振りに徹してそれから、耳を傾けた。この花火と己を結びつけて思い出に留めてくれる。それはとても美しく聞こえたが故に、喜びとともに反動でくすぐったさに見舞われる。むずがゆそうにきゅっと噛み締めた唇がその証左。他方、胸奥に僅かな痛みが降った。来年の花火大会の日には、二人別々の場所で今日のこの瞬間を懐かしむのだろうか。笑顔を見つめて噛み締めていた口を開きかけ、逡巡のうちに閉じて、また開きなおす。)君さえよければ。来年の花火見物は、私から誘いますよ。学校の屋上でとはならないでしょうが、もっと綺麗に見える場所を探し出せるかもしれません。……よろしいでしょう?(平常のままの落ち着いた声音に次いで、そっと首を傾いで覗う。良かれ悪しかれ 、来年に目にするのは今日とは別の景色。繋がりが続けば、美しい思い出ばかりとは限らない。それでも、と願いを眼差しに籠めた。バリエーション豊かな花火を楽しむのは、缶の中身を飲みきるまで。そう定めては、少しだけ飲むペースを調整したのは友人にも秘密だ。)
* 8/15(Thu) 01:02 * No.25
azulbox ver1.00 ( SALA de CGI ) / Alioth