
2/14(木):放課後 瑠璃浜鑑台駅前 >鵜飼【2】
(灰がかった冬の空の下、白む吐息の狭間にその横顔を窺い見る。試験日は刻一刻と迫り、いくらか学校への足が遠のいても、顔を出す理由の大半を占める彼と過ごす帰り道。本日は事前に「木曜、学校行く?」と訊ねて、是とされれば静かに胸中でぐっと拳を握り、否とされれば「来れそうなら来てほしい」と付け加えた目的といえば、そんなものは知れた事。)……鵜飼、(ちょうど他愛無い会話が途切れた一瞬。前置きなんてなく唐突に、手首に提げた紙袋から包みを差し出す。赤いリボンのラッピングは、世間を染める雰囲気に添った“如何にも”な風情だ。)あげる。……あの……バレンタイン、だから。(淡泊になってしまった物言いに次いで、続く言葉の合間には、その唇は徐々にマフラーへと埋まっていく。)……ごめん、こういうのまともにしたことないから、タイミングわかんなくって。本当は、今日みたいなこと……する意味あるのかなとも、考えたんだけど。でも、あたしが、鵜飼にあげたいなって、思っちゃったの。…………だいすき、だから、(リボンを解けばお目見えするのは、苺で飾られたスチーム・ド・ショコラ。どうにも縁遠いもので、肌感覚のないイベントであったけれど。最後にはマフラーに沈みきった唇より紡がれる、溢れるこの想いを、彼に届けたかっただけなのだ。)
* 10/22(Tue) 23:41 * No.177
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(プレゼント受け取ったあの日以来、彼女と都合を合わせて昼食共にすることが増えた。時には弁当持ち寄って、時にはカフェテリアで、他愛もない話交わしつつ食べるご飯はずっと美味しい。学校出てからの帰り道に手をつなぐときは許可を取ってから、が自分の中の約束事になった2月中旬。およそ二週間後に迫った第一志望校の受験に照準定めて勉強漬けの日々を送る中で、事前連絡に対しては「行く」と短く返すだけにとどまった。なんだかそわそわした様子の妹と母を尻目に、今日がどんな日であるかはすっかり忘れて迎えた当日。普段と変わらぬ会話の中で、彼女の横顔がいつもより強張った様子なのに気付く。どうしたのかなと気になって、さり気ない尋ね方ができる言葉を探そうと巡らせた思考は差し出された包みを目にして止まる。)ありがとう。(反射的に出たお礼と一緒に両手を差し出しリボンのかかった包みを受け取る。バレンタインだからと告げられ初めてプレゼントの意図に気付き、そわそわする少女たちをのっぺりとした背景のように見ていたかつての自分を思い出す。次いでの礼はとても滑らかとは言い難い。)あ、 りがとう。俺のほうこそ、実はこういうのまともに受け取るの初めてで、 なんかどうしていいかわかんなくなるね。(今までなんだかんだと理由をつけてこの時期の恋愛感情の絡む贈り物は断ってきたくせに、今回ばかりは好きな女の子相手だからと受け取るなんて矛盾してないか?と囁く影の言い分に耳閉ざし、作った笑顔は喜びと罪悪感が入り混じる。今度は不自然でない程度にするすると言葉が出てきた。)ありがとう、すげー嬉しい。毎日受験まであと何日だってそればっかり気にして、今日がバレンタインだってことも忘れてたからびっくりした。(すぐに喜び表せなかった言い訳は一応筋の通ったものになった。けれど、それだけが原因でないことをすぐに白状したくなる。不誠実な己で彼女の前に立つのは嫌だという身勝手なわがままのせいだった。恋心を包んでいるみたいな赤いリボンに視線落としたのち、)佐々礼が、俺のこと好きだって思ってくれてこういうのくれるのすごく嬉しい し、びっくりしたのも本当だけど、 本当は、今までこういうプレゼントって全部断ってきたから、今更欲しくなって受け取るなんて虫のいいことしていいのかな?とも思って、(口にしたあと、こんなこと彼女に言わないほうがよかったのかもしれないと不安になる。うろうろと視線が彷徨うさまは、出会った頃の彼女に似ていたかもしれない。)ごめん、ただ喜んで受け取ればいいだけなのにこんなこと言って、嬉しいのは間違いなくて、でもそれだけじゃないのを隠せてないのに黙っとくのもなんか違う気がして、 あの、これからもこうやってなんかもやもやしたら言葉にして伝えるかもしれないんだけど、よかったらこれからも末長くよろしくお願いします。(途中から自分でも何を言うつもりなのかが分からなくなり、結局はこれからもあなたと仲良くしたいよに帰結した。加えて、もう一つ伝えなければならない大事なことがある。)それと、俺も佐々礼のこと、だいすきです。(心の底からの幸福が笑みとなって溢れ出す。自室で丁寧にリボン解き、現れたスチームドショコラに感嘆の息ついたのは家に着いてすぐのこと。苺と一緒に頬張れば、それは恋の味がした。)
* 10/30(Wed) 16:44 * No.190
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(ようやく事の次第を明かした母に色めいた様子で送り出され、ひとつだけ異なる包装を目敏く見止めたクラスメイトにはしゃぎ声で送り出され、同性はこの手の話題に目がない者が多いのだとこの齢にして肌身に感じ始めた本日。本題は無事に済ませたはいいものの、反射めいた礼へ首肯にて応えるが、ぎこちなさの見える反応に不安の影が差し込む。その人柄を見れば異性から好意を寄せられた経験などいくらでもあろう。ともすれば馴染み深いイベントにもなりうるだろうけれど、彼の場合は事情が事情で、そして自分はそれを知っている。いっそ贈り物の事由を告げずに押し付けてしまえばよかったのではないかとさえよぎるも、口振りから淀みが拭われれば、詰まりかけた喉が開けるよう。)あ……う、うん。そうだね、お互いもうすぐだし。だからほら、あの……糖分、必要かな、って。(ちょっと言い訳じみた後には、彼が吐露する間、反して此方はただその面差しを見つめていた。じっと逸らさず、その内側にある影ごと覗き込むように。彼の前では癖のように眉が寄ることも殆どなくなっていたが、情けなく垂れ下がることは増えたくらいであったかもしれない。不安と、それから、心配と迷いとを携えて、恐る恐ると唇を割る。)……今までどうしてきたかは無くならない、し、いいか悪いかは、あたしにはわかんないけど。でも今これは、あたしと鵜飼だけの事でしょ。だから、あたしがあげたくて、鵜飼が嬉しいって思ってくれるんなら、それで……いい、かな。よかったらいいなって、思うよ。(言葉は上手く纏まらなくて、下手くそな着地で紡ぐのは提言のようでいて希望に他ならない。これまで。これから。二人だけの事。二人だけでない事。きっと彼とはそういったものを重ねていく筈だ。互いが望めばこそ。)……気持ち変わっても、振る舞いは一貫してなきゃいけなかったら、……あたしは、鵜飼との未来、楽しみに出来なくなっちゃう。そんなのは、やだ。(“家族の形”がわからなくて、恐れて、退けて、一人を選んだ過日のままなど、最早今では考えられない。彼の生まれに祝意を手向けた日、あれだけ前向きに家族の話が出来たのは、彼と生きることに見出した希望が齎したものだった。とはいえ、性格も、思考も、そう容易くは塗り替えられない部分もあるとは、良く知ってもいる。)ううん。話してくれてありがと。あの……やっぱり、鵜飼が自分の気持ちと向き合うの難しいなって思ったら、来年はやめるし。でも、嬉しいって思ってくれる気持ちの方が大きかったら、また贈りたいなって、思ってます。(開示してもらった分、此方もまた素直に心持ちを明かして、合わせて「こちらこそ、末永くよろしくお願いします」と真似っ子みたいにして小さく頭を下げたりなどして。さて新たに想いを擦り合わせ、無事終えたと思った応酬の結びに、不意を打たれて大きく眼を瞠ることとなる。)〜〜っ、う、ん。……あの、ね。やっぱり、あたしのこと幸せにしてくれんのは、鵜飼なんだなって何度でも思えちゃうな。(言葉ひとつでこの胸はいとも容易く満たされる。幸福を願ってくれた過日に、そこに彼の姿を望んだ想いは、やはり確かな事だった。綻ばせた面持ちを伏せて、おずおずと伸ばした指先が彼の手に触れる。同じ未来を結んだように、繋がりひとつが運んでくれる幸せに甘えていたかった。)
* 10/31(Thu) 22:05 * No.192
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