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2/25(月):昼休み 双鏡学園高等部 放送室

(恩師に合格報告をするため登校する――家族へ吐いた嘘に少なからずさざめく鼓動は、高等部の門を抜けた後も続いた。それから、二つめの嘘。教師から連絡事項の伝達を頼まれた――でっちあげた理由は、放送室の設備を借りるためのもの。狙ったのは、昼休みの時間帯。許されているのは、ほんの短時間。準備を終え、マイクと正対する。深呼吸を繰り返し整えてから、校内放送の開始となる。)――ヒカリ、マンゲツ。(こちらの世界の名を知らぬ二人に向け、あらゆる迷惑を承知で放送で呼びかける。イデア・ルーム最後の日。マンゲツはこちらの名前を、九堂律ばかりではなく他の仲間たちの現実世界の名を知っていた。そのなかで自分の知る二人も双高所属で、女子も同年代らしく見えた。理想の世界の仲間たちは、双高所属が多いようだ。ならばマンゲツとヒカリも、双高ゆかりの者ではないか。そんな推測により、此度の暴挙に出たのである。呼びかけ直後、名乗りに迷ったものの、彼らにより馴染みのある名前のほうを選んだ。)こちらは、ロックです。この場を借りてお伝えします。……マンゲツ。“こちら”で必ず会おうと、約束してくれてありがとう。あの約束を信じています。ですから、いつでも……お声がけ下さい。私も、きっと他の皆も、心待ちにしていますから。貴方たちに会いたいと。(ヒカリは元気にしているだろうか。小さな新聞記事を思い起こし、気にかかりながらも再会を信じる気持ちは強かに根を張っている。マンゲツたちがこの放送を聞いたかは、分からない。それでも後悔はなかった。予定外の事態に直面したであろう放送委員に対して罪悪感を覚えるのとは裏腹に、生まれて初めて悪戯を成功させたかのような心持ちで口許を緩ませて廊下へ駈けだした。)
* 10/31(Thu) 22:08 * No.193


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