
12/17(月):放課後 用務員室前 >昼神さん
(――試験期間初日ともなれば、放課後の校内の賑わいは少々様相を変える。部活動も委員会活動もなく皆々が一斉に帰宅する事となる中、本日の出来栄えを嘆く者に得意気にする者、悲喜交々入り乱れているようだった。その只中、マフラーを首に掛けつつ巻く様子はない一人の女生徒は、何やら険しい面持ちで黙々と歩みを進めていた。階段をくだる生徒らの波に逆らわず歩んでいたが、二階に到達したところで不意にその列から外れ廊下へと至る。校舎棟二階、その奥まった扉。用務員室を前に、足を止め、深呼吸を三度。試験期間を言い訳にずるずると後回しにしては勇気も萎んでいく気がして、今日という日に勢い込んだ一歩に身体を乗せ、その扉を叩いた。)っし、失礼します。(裏返りかけた声を一度飲み込み、扉を押し開く。応対してくれるのが過日に見た望む姿であればそのまま、他の誰かであれば室内に届くよう声を絞り出して。)……さん、……3年2組の、佐々礼笑子……です。……昼神さん、お時間よろしいでしょうか。(声は強張り、顔は険しく、笑みを振り撒く理想世界の面影なんて欠片もない。お姉ちゃんではなく、ただ一人の少女の第一歩だった。)
* 9/4(Wed) 06:47 * No.44
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(中学には通わなかった。ゆえにこのような本格的な試験期間を懐かしむことはないが、緊張感に満ちた廊下を歩みながらいつもとは異なる雰囲気を毎度肌で感じてはいた。ぴりついた空気が漂う校内は複雑な想いを呼び起こさせる。だが、今日に限っては全く別のことで頭がいっぱいだった。3年のフロアを覗きに行きかけて、しかし貴重な試験期間の初日に集中を切らせては悪いだろうと思いとどまり、結局無為に短くなったお昼休みにチョココロネを一つ食べたきり。鳴く腹の虫に集中を切らされたのはこちらの方だった。そうして午後の仕事が一段落したのち、小休憩を言い渡されてまっすぐ向かった用務員室の中は無人。冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、颯爽と小上がりへ。)…?(向かおうとしたその時、ノックの音がした。わざわざ入り口の扉を叩くということは職員の誰かだろうか。慌てて隣の部屋に戻れば其処には一人の女生徒が居た。その派手な風貌にまさかという思いよりも、真剣な眼差しと一生懸命といった様子に確信を抱いたなら、)……えみこ、ちゃん? あ、はい。よろしいです。(すぐに為された答え合わせと相まってすんなり首を縦に振る。だがこちらとて明るい少年の歯切れの良さはなく、あわあわと揺れる視線は第二ボタンのあたりをうろついた。初めまして、ではないだろうが久しぶりというのもおかしい。気軽に手を繋ぐどころかおしゃべりだってできないけれど、)…えっと、いらっしゃい。来てくれて、ありがとう。(最初に伝えるべきことだけは決まっていた。)
* 9/5(Thu) 02:08 * No.45
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(相対するは、確かにあの影と同じ顔。此方の世界では幾度か視界の端に映した程度で、正面から向かい合うような機会もなかった筈だ。理想の世界で目したのとは全く異なる顔付きと表情とに逆に違和感を覚えさえする――が、そもそもそうまじまじと見つめられようわけもなく。ぎこちなく外した視線を彷徨わせてお互いに視線は交わりそうにない。確かめるように紡がれた名に小さく頷いた。)……約束しましたから。イサナの部屋で話したこと、ちゃんと全部、覚えてます。(迎え入れられたことに安堵し、小さく息をつく。第一関門はクリアだ。だが当たって砕けろ的思い切りで踏み込んでしまったために計画なんてものはなく、その短い文言で一度声は途切れた。一瞬の沈黙を経て、眉を下げてマフラーの先を手慰みに弄ぶ姿からは、目に見えた不器用さが表出していたか。)え、と……あの時は、そっちに自己紹介させっぱなしでしたよね。改めて、佐々礼笑子です。……その、なんていうか、昔可愛がってくれた憧れのお姉さんみたいになりたかった……これがアイリーンの正体。(何から話せばいいやらと迷い、しかし二の句で突然自らの胸奥までもをひけらかすのも躊躇われ、結局一先ずはと簡潔なものとはなった。)……お姉ちゃんどころか年下ですみません。まぁ……アイリーンはちょっと節操無いんで、元々その辺無差別ですけど。(曲がりなりにも自分自身の事だというのに、どこか他人事めいた口振りになるのは奇妙な感覚でもあった。初対面でありながらそうではない。元来の人見知り具合もその判断に迷っているのか、緊張の只中でありながら妙に喋ってもいられた。)
* 9/5(Thu) 19:20 * No.46
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(夜が明けてから何度も想像した現実世界の“えみこちゃん”の第一印象は意外の一言に尽きたけれど、すぐにあの部屋で言葉を交わした“彼女”と一致した。声音に滲む緊張には馴染みがある。強ばった表情も愛想がないのではなく余裕がないだけ。似ているからこそわかる。言葉が少ないのは選んでいるから。一瞬の沈黙の続きをどちらが引き取るか、そんな読み合いの果て、)……そっか。アイリーンみたいな素敵なお姉さんが居たんだね。(差し出された真実の欠片はあの夜に差し出したものと引き換えに。もちろん同じ重さではなく、だからこそ相槌は深刻にならずにすんだ。)ううん。そんなこと言ったらおれだって、弟どころか成人してるし……いや、イサナも年下ポジション狙ってたわけじゃないんだけど。(互いによく知る誰かの話をしているようでおかしくて、ふっと笑えばぽつぽつと。テンポのよい言葉の応酬とまではいかずとも、徐々に緊張もほぐれ、思いつきを紡ぐハードルが下がっていく。万一足が引っ掛かろうと笑われる心配もないと思えば救われた。下げ気味の眉はそのままに、イサナに似た大きな瞳が映し出す彼女の顔にもやわらぎを見つけることはできるだろうか。)自己紹介ありがとう。……当たり前だけど、えみこちゃんはアイリーンとは全然ちがって……でも、やっぱり似てるなってわかったよ。
* 9/6(Fri) 23:38 * No.47
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(当然わかっていた事だが理想の中のようにはいかずと儘ならなさを覚えながらも、思い出に寄り添うようなその言葉にふと視線が上がる。「……大好きな人でした」と零す声は、ほのかにやわらいだものだった。わかってくれるのが嬉しい。そんな、ありふれた想いで。)そ、そうですよね、イサナはあの中でも下の方っぽかったけど、……あ、成人してんだ。(高校の用務員に生徒らと同年代は雇わないだろうとして年上と判じたが、改めて告げられるとどうしたって意外性が表出する。拍子にその面立ちをじっと見つめてしまった後、自らの失言に気付きハッと息を飲み口許を両手で抑え「す、すみません……」と青褪めた面持ちで視線を他方へと逃がした。自覚する。気を抜いてる、と。しかし思いがけぬ評には瞬目し、よもや容貌の話ではなかろうと理解しながら、何となく自身の頬に確かめるよう掌を添えてたりなんてして。)え、に、似てます……?自分ではあんまそんな気しないな。……昼神さんの方は、イサナとぜーんぜん違うってことはないですけど、……先にシャドウの方と喋っちゃったから、今穏やかなのちょっと不思議な感覚あります。(先んじて浮かんだ印象を結局そのまま口にしてから、微かに双眸を細めて見せる。イデア・ルームで過ごした数ヶ月程度の延長線。緊張と、相反する穏やかな心地と、奇妙な胸中が何故だか嫌でもない。)まぁ……今こうして話してる時点で、不思議な感覚はありますけど。なんか、変な感じですね。あっちでは一緒に戦ったり駆けっこしたり、散々お喋りしてきたのにな。
* 9/8(Sun) 19:22 * No.49
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(年上の大好きな人なら自分にも居た。彼女の抱いた憧憬とは少し違ったかたちかもしれないけれど、「うん」と共感を滲ませて。)…そもそも他の人と会うなんて思ってなかったしね。(今でこそ鏡の向こう側には大切な仲間が居るのが当たり前の日常だけれど、理想を思い描いたときには大勢の仲間や冒険譚のおまけまでついてくるなんて思わなかった。理想の世界が現実の世界に繋がるとも。こぼされた素直な言葉には苦笑で返し、「いいよ。よく生徒と間違われるんだ」青ざめる彼女に気にしないでと軽く手を振る。強張りがとけた証拠と思えば嬉しくさえあったから。そしてこちらの感想にまたたき顔を触るさまを見れば緩んだ頬はそのままに。)ふふ、…見た目は全然。でも、似てるよ。(今日だって馴染みのない用務員室まで自ら足を運んでくれた。それは彼女の性格を考えればずいぶんと勇気の要ることだったろう。それでも怯まず一歩踏み出してくれるところが似てると思った。誰かのためにこそ力を発揮できるところが。)そうだよね。別にこっちが猫かぶってるってわけじゃないんだけど、……あんな風に堂々と本音が言いたかった気持ちはあるよ。だからあれもおれと言えばおれ、なのかも。(一方こちらはあれと似てると言われても困るので評された通り穏やかに相槌を打ちながら、けれどあの夜のもう一人の自分を否定することはしなかった。)ほんとに。おれもこんな風に誰かと向こうの話をするなんて思ってもみなかったから、……今思うとけっこう恥ずかしいかも。(いい歳した男が少年を演じていたと知られたと思えば途端に羞恥心がわく程度には緊張は消え去っていた。お互い様と言われればそれまでだが、年齢設定だけに焦点を当てれば彼女とアイリーンの乖離よりも断然外聞が悪い。イサナの時には無縁だった頬の赤みを両手で押さえるも、)……でも、だから楽しかったんだろうな。今のおれだったら堂々とできないことがいっぱいできて。(結論は否定で終わらない。)探索も怖かったけどわくわくしたし、運動会も面白かった。……あ、ってことはえみこちゃんの好物ってサンドウィッチとイチゴ?
* 9/8(Sun) 22:53 * No.50
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(全ての始まりは御伽噺みたいな噂だった。たったの数ヶ月が当たり前に染みこんで忘れかけてもいたけれど、確かに、と初めましてに至るまでを回想する。理想の副産物はあまりにも多く存在していた。優しく返されたフォローに“わかる”と間違われる事実への理解を示したが、其方は流石に掌に阻まれ、声に乗る事なく胸の内に返っていった。)……そうかな。んんー……い、良い意味って思って受け取っていいんです、よね?(イサナ少年と過ごすアイリーンの姿を思い起こす。しかし自らを客観視するのは容易くはなく、結論の着地には至らず。あんなテンション高いことないしな、なんて見当違いに傾いては怖々と確かめたりなどして。)まぁ……わかります。あれだけ吐き出したいこと吐き出せたら、そもそもあんなことになってなかったかもしれませんしね。でも今の昼神さんと話せてよかったです。……って言うと、気が早いかな。(理想の内で暴かれた彼と、現実の中に侵された己と、幾分かの差異こそあれど理解には及ぶ。本来の彼と相対してみて浮かぶ胸中をそのまま手向けてみるも、その赤らんだ面差しを見止めてははたと眉を上げてみせて。)……そ、そこは考えないようにしてたんだから、言わないでくださいよー……あっちでやりづらくなったりすんのかなぁ。(彼の抱えるものとはまた異なれど、全方位お姉ちゃんも素面ではそれなりに恥ずかしいものである。自らに出来ないからこその理想でもあるのだけれど。不自由な表情が勝手に険しさを纏うも一瞬の事で、彼の零す感慨にふと眦を下げた。)……一緒です。アイリーンでいて、イサナやみんなと過ごせて、だから楽しかった。あのね、あたしのままだと、あんな走れないんです。アイリーンじゃなきゃあたしの方が待たせてたんじゃないかな。(現実のままではそもそも徒競走の類にあんな意欲は見せまい。ささやかな暴露の後には首肯して、)うん、どっちも好き。パン派だし果物とか甘いものとか好きです。イサナが話してたお弁当のこととか好きなパンとかも、昼神さんそのまま?(互いに問いかけを交わすのは、答え合わせみたいに。)
* 9/9(Mon) 18:02 * No.51
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もちろん。だってアイリーンだよ?(自分の言葉足らずを棚に上げ、おそるおそるといった様子を不思議そうに見つめ返した。大好きな人と似ているのだからほめ言葉以外何があるのだとでも言いたげに、「話し方とかも全然ちがうけど、でも根っこがおんなじだなって」と加えた補足でどこまで理解を得られたろうか。)……ううん。そう言ってもらえるのはうれしいよ。(こんな自分に会えてよかったと言ってもらえたことは嬉しいの一言に尽きる。その場しのぎの社交辞令がうまいタイプには見えないからこそ目を細め、気が緩んだのはお互い様。ほどけた口元からぽろりとこぼれた本音が音を成すと同時に実感がわいてきて、)ご、ごめん………でも、えみこちゃんはほら、おれとちがってまだ可能性があるから…?(失言に対しへたくそなフォローを入れる一方、「やりにくくなる」という感想にはそうなのかもな、と内心。しかし理想と現実と結びついたことによる弊害が向こうの世界で生まれたとして、悪いことばかりではないだろう。振り返る思い出は互いを知る手がかりとなる。現に今、彼女の中にアイリーンを見つけたならば、わ、と瞳を輝かせ、)──やっぱり? おれも実はそうなんだ。イサナって中身はおれのままだから……ああでも、足はおれの方が速いよ。(自分の中のイサナとそうでない部分とを説明してみる。“普通”への憧れから生まれた理想像は健常で平凡な身体の持ち主。逆を言えば線引きの難しい趣味嗜好の類はまんま自らを反映していると言っていい。)そう考えると、アイリーンとイサナで過ごした時間の…たとえば3分の1くらいはおれたちの会話でもあったのかも………なら、次に向こうで会ったら……うーん、やっぱりえみこちゃんのこと、少しは意識しちゃうかも。(結局は其処に帰結して、苦笑とともに眉を下げた。)
* 9/10(Tue) 02:25 * No.53
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(当然みたいな口振り、それから表情。そのいずれもに真実を見出したならば密やかに胸を撫で下ろして、付随する箇所にもそういうものなのだろうかと首を傾ける。やはり自覚はなくもそう見えるものか。形無い“根っこ”を確かめるよう胸元をさすりつつ、邂逅の喜びを交わすも束の間。ふたりして妙な空気になっているのが、なんだかおかしかった。)アイリーンみたいになる可能性ってこと?た、多分ほぼないと思いますよ?や、寧ろ昼神さんはイサナが大人になっちゃったくらいなイメージなんで、大丈夫、です。(乖離の弊害に関するフォローのつもりのようで、本心でこそあるがどうにも弱い。イコールで結んでいたつもりなのではなから疑ってもいなかったけれど、思い出とぴたりと重なった部分に目を細めてみせた。)昼神さんもそうなんだ。じゃあちょっとだけ昼神さんのこと知ってたんですね、あたし。……なんか、答え合わせしてる気分。(ああも恥ずかしげもなくお姉ちゃんを名乗れるメンタルはアイリーン由来のものでしかなく、姿だけを作り上げただけのアバターなどとは訳が違う存在とはいえ、間違いなく佐々礼笑子が内在するのも確かだった。ともすれば、ふと空想は理想の世界へ。)……ですね。今後はイサナが喋ってることに、昼神さんのこと重ねちゃうこととかあるかもしれないです。……って、思うとやっぱちょっとやりづらいな……あ、あっちで笑ったりしないでくださいね。(思い馳せる未来は少し面映く、それでいて不思議と楽し気だ。彼相手とあっては大して心配もしていないことを念押ししておいて、不意に視線は室内へと向く。人の気配はないように思う。)……そういえば、お仕事中?それとも休憩中とかだったりするのかな。……あの、学校で声掛けるの、大丈夫でした……?(一難去ってまた一難、というわけではないが、どうしたって心配事の多い性分だ。)
* 9/11(Wed) 00:04 * No.56
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おれだってもうアイリーンには気軽に甘えたりできないかも、だけど、……だいじょうぶ。笑ったりしないよ。(苦笑は拭いきれぬまま、けれど念押しには任せてくれと二つ返事で頷いた。理想の世界に現実が滲むこともあるだろうが、だからと言って生まれるのは気恥ずかしさであって気まずさではないはずだ。それだって嫌な気持ちではなく宝探しみたいな気分に違いない。彼女たちを繋ぐ根っこを見つけるのは、あるいは見つけられるのはきっと楽しい未来。穏やかに流れる時間はあっという間で、彼女の問いに忘れかけていた現実を思い出す。)あ、うん。実はさっき午後の仕事が一段落ついて、ちょうど休憩に入ったところだったんだ。(突然の再会に気をとられていたけれど、よくよく考えると室内に女子生徒と二人きりというのはまずい状況かもしれなかった。幸い今は誰も居ないがもう少ししたら事務長も戻ってくるかもしれない。壁にかかった時計の針に目を遣れば少し慌てて、)校内で話しかけてもらうのは全然問題ないんだけど、さすがにここでおれたち二人きりってのはまずいのかも。変な誤解されても困るし……って、そういうとこ気が回らなくてごめん。(名残惜しいが交友を深めるのは次の機会に託すとしよう。生徒とちょっとした立ち話くらい“普通”の範疇なのかもしれないが、万一のことがあってはなるまい。そうして出入り口の扉に手を伸ばすも、ふと大事なことを思い出す。)あ、でも帰る前に……よかったら、連絡先交換しない?(ポケットから取り出したのは最近頻繁に触れるようになったスマートフォン。)えみこちゃんさえよければ、これで連絡できたらうれしいなって。(彼女と再会できたら真っ先に頼もうと思っていたこと。以前なら文字を打つことも読むことも苦痛でしかなかったけれど、思い出が記録に残る喜びを知ってしまった今だから。)それで、できたらまた会えたらうれしい……んだけど、どうかな?
* 9/13(Fri) 02:22 * No.59
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(仕事の邪魔はしていなかった安堵と、かといって休憩時間を割いてもらった申し訳なさと、忙しなくふたつの情動に揺れ動きつつ一先ず相槌をひとつ。が、続く言葉に改めて状況を鑑みる。)あ、……あー……そう、ですね。んー……外とかあたしの卒業後とかのが、色々考えなくていいのかな。や、昼神さんに謝られるような事では、ないですけど。(そもそもこの時期に自習以外で校内に残っている事に加え、自身の身なりが無用に状況を悪くもしかねないとの自認もあった。「元々ご挨拶だけでもって、思ってたので……御暇します」そう踵を返そうとして、彼の声に気付き留まる。自然とその手元へと滑らせた眼差しのその奥、瞳の内にパチッと閃光のような煌めきが走った。)う、うんっ、あたしも聞きたいって、思ってて……!(はたと声が途切れたのは、思わずと食い気味になってしまったことに気付いて。恥じらい滲ませ視線を逃がしつつ、取り出したスマートフォンをぐっと握りこむ。)……っあ、その……はい、こ、交換、しましょう。……こっちでも、ちゃんと……友達に、なりに来たので。あたしもまた、会いたい……です。(居た堪れなさこそあれど、今更引っ込むつもりもなくLINKSを起動させよう。無事交換がなされたならばフルネームで登録されたアカウントが彼の画面に表示される筈。此方はまっさらなトーク画面を見つめながら、やたらに神妙な面持ちで彼の方をちらと窺った。)……ひらがなカタカナならまだ読める?スタンプ……とか、あんま使わないんだけど、ああいうイラスト的な情報あるとわかりやすいかな。……長くなりそうなら電話のがいいとか、そういうのありますか?(“察する”なんて挙動は苦手分野。ともすれば逐一確認した方が道はなだらかであろうとして問いかけ、答えが返るならばひとつひとつと頭に入れていく。確認作業を経てスマホはコートのポケットにしまい、巻きつけたマフラーを結んで足は一歩扉の外へ。)……昼神さん、(振り返る。逃げ逃れるばかりであった瞳を持ち上げて、おずおずと及び腰ながらその瞳へと相対する。)また……こっちか、イデア・ルームで。(“次”を当たり前に信じられた理想の延長線上。ほのかに眉を下げたままのぎこちなさで、緩ませた唇からこの続きを願って笑いかけて、物語の1ページ目を捲ろう。)
* 9/14(Sat) 02:25 * No.60
…
よかった……ありがとう。(感情が突っ走ったときの恥じらいは痛いほどわかるからこそ純粋なる感謝の微笑のみ湛え、余計なことは言わずに慣れた手つきでアプリを開いた。そうして『佐々礼笑子さんと友達になりました』とLINKSのお墨付きをもらえたならば、漢字変換もできなかった頃に登録したひらがな四文字が彼女の画面にも表れるだろう。──新たな海が横たわる。LINKSにおいては二人目の友達のトーク画面。最初のあいさつは何が良いだろう。真剣に画面を見つめる彼女もはじめの一歩を悩んでいるのかと思いきや、連ねられた気遣いにはっとする。)…えっと、ひらがなとカタカナならだいじょうぶ。でも、漢字があっても読み上げ機能使って聞けば結構わかるよ。あと、スタンプも絵だけならいいんだけど、文字が入ってるやつだと小さくて読めなかったり、読み上げに対応してなかったりするからかえって文字の方が助かったりする、かも……けど、個人的にはスタンプはかわいくて好きで、…あ、うん。おれ読むのも返事打つのも遅いから、長かったり急ぎだったりしたら電話の方がありがたいかな。(自らあれこれ口にすると面倒な注釈めいて躊躇ってしまうのに、一つ一つ教えてくれと言ってもらえるとひどく気が楽だった。と同時に、こんな風に伝えたらよかったのだと改めて知る。必死に隠して苦労するより、その方が彼との会話ももっと楽しかったに違いないと気づかされ、滲む画面に視線を落としたまま最後に「ありがとう」と静かに紡いだ。)……うん、(それから扉を隔て、生徒と用務員。傍目には正しい距離感に戻った二人。大きな瞳がこちらを見つめる。多くを語らないまっすぐな目は時に誤解を生むけれど、着実に友達への一歩を踏み出した今なら其処に浮かぶ光が未来だけを見つめていることがよくわかる。赤みを帯びたブラウンに映る自分もまた同じ顔をしているからだ。)またね。えみこちゃん。(だからさようならの代わりに約束の言葉を贈り、去り行く背が見えなくなるまでぎこちなくも手を振った。次に会う時はどちらの姿だろうかと期待しながら。)
* 9/14(Sat) 22:56 * No.61
azulbox ver1.00 ( SALA de CGI ) / Alioth