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12/24(月):午後 喫茶店 >鵜飼

(粧うのは自らを守る鎧だった。知識を入れるうちに楽しむようにもなっていったが、全て真ん中に在る自分のためだけの行為。ゆえに、誰かを想って装いを選ぶのはこんなにも難しいのだと知ったのは、初めてのことで。――玄関に向かう娘に気付いた母がリビングから顔を覗かせ、弾む声が見送りの言葉をかける。共に「ケーキ、おおきいの買っておくからね!」なんて笑みは明々として輝いていた。)……ふふ、大袈裟。二人で食べきれるサイズにしてよ。でも、フルーツ乗ってるやつだと嬉しい。(最近の母は機嫌が良い。修学旅行以来会話が増えたのも要因かもしれないし、友人との予定があると伝える都度にもそうだった。何となく、本日は異性との用向きであるとは伝えそびれているけれど。否、“何となく”の内訳は、既に答えが出ているようなものであったか。余計な思考を振り払い「行ってきます」と声を残し、冬の只中へと歩み出してから、暫し。瑠璃浜鑑台駅に降り立ってからは、ただでさえ落ち着きのなかった胸中が余計に忙しなくてたまらない。ショーウィンドウに自身の姿が映しだされる度、細かく前髪を整えたり、身なりを確認したりとの繰り返し。何度確かめたところでいつもより少し落ち着いたメイクと編み込んだハーフアップに整えた髪は変わらず。キャメルのコクーンコートと、その裾からタイトなニットワンピースの白く短い丈が微かに覗くその装いも、変わりようもない。そんな道中も終わりをつげ、ロングブーツのヒールがかつんと音を立て喫茶店の前で足を留める。あとはマフラーに鼻先まで埋めて、どんな顔をして会えばいいのだろうなんて考えながら待つのみだ。もう既に、誤魔化しようもなく、心臓がうるさかった。)
* 9/17(Tue) 20:50 * No.67

(クリスマスイブは青年にとって長らく家族の行事であった。今年も御多分に洩れず、夕食は家で家族と、例年と変わらぬクリスマスメニュー(倫央お手製のグラタンに一年でこの日だけ食卓に上るビーフシチュー)を食べる予定だった。例年と違うのは、予約したホールケーキがデザートに待っていることと、料理の仕込みを午前中に終える必要があることだった。あとは加熱するだけの状態にまで仕上げた料理たちを冷蔵庫に入れ、母と妹に行ってきますを告げて家を出る。「デート?」と問われて少しの沈黙ののち「そうだよ」とだけ言い残してそれ以上の追及逃れるみたいな出発になった。今日のいでたちは黒のモックネックのロングTシャツにライトグレーのニットを合わせ、いつものボディバッグと黒ジーンズにスニーカー。上から羽織った黒いチェスターコートは今年購入したものである。服選びに思ったより手間取り、待ち合わせに遅れるかもと焦って少し走ったために乱れた前髪がやけに気になる。喫茶店の隣の隣の店先のガラス窓に自らの姿写してちょいちょいと前髪触って整えて、息整えてからまた歩き出す。喫茶店の前に辿り着いたのは13:30ちょうど。手に提げてきた紙袋の持ち手はまだちゃんときれいなままだ。見間違えようのない彼女の姿に軽く手を振り声を掛ける。)ごめん、時間ギリギリになっちゃった。中入ろうか。…髪型、いつもと違うね。(第一声が上擦ったような気がして鼓動がうるさい。付け加えた第三声がもうちょっと良い言い方があったような気がして口に出したそばからやり直したくなった。)
* 9/17(Tue) 22:01 * No.68

(ブーツの爪先に視線を落とし、先端を擦り合わせたり、踵に重心をかけたり、最小限の動きながらも注視すればそわそわと落ち着きない様子は見て取れるだろう。ふとアスファルトに落としていた視線をあげた折、その姿を見止めることが叶えば、縁取った睫毛の下でブラウンの虹彩が微かに輝いた。歩み寄る彼に向き直ったなら、小さく手を振り返して応えようか。)ううん、待ってないし平気。……走ったりした?(答える唇が震えていなかったかは自信がない。続く問いかけは彼のことだから気にしていそうだと踏んでの事。兎角促されるまま店内へと足を向ける中、左胸の奥がどきりと跳ねる。共に、今日自分の心音はこんな調子なのだろうな、と妙に俯瞰した感慨も。)う、うん。服とかに、合わせてるから。……変、じゃない?(ついと自信の無さが首を擡げてから、彼が他者の身なりを悪く言うわけもないだろうとやり直したくなった。互いに同じような後悔を抱えたなんて露知らず、二人は店内へ。時間帯もあってか以前よりは人の入りもあるが、それでも静かなものだった。外気と一転したあたたかな空気に息をつく中、案内されたのは、以前と同じ座席のようだ。脱いだコートとマフラーとを畳み、ニットワンピースのハイネックを指先で直しつつ腰を下ろす。鞄は心無しか丁重に脇に置かれた。)……今日、時間作ってくれてありがと。鵜飼こそ、ご家族と過ごす予定とか、よかった?(向かい合う彼へそろそろと眼差しを持ち上げる。初めて会った日と状況は同じだというのに、制服とは雰囲気の異なる私服姿も見た事がある筈なのに。心持ちも世界の見え方も全く異なって感じられた。)
* 9/18(Wed) 02:01 * No.71


え、わかる?前髪さっき直したんだけど(乱れた髪まだ先ほどまでの焦りが表れているかと手をやる。このときばかりは夢の世界のバケツが恋しくなった。あれをかぶっていれば、こんな自分の余裕のなさだって覆い隠してくれただろうに。「変じゃない?」に頷くだけになってしまい、またそれも後悔呼びつつ店内へ。どうも今日は何もかもがうまくいかない。提げた袋の持ち手に思わずぎゅっと力入れそうになって慌てて力を緩める。なんとなく丁寧にコートを畳み、その上に二つの荷物を置いて腰下ろす。)さっきの答えだけど、…かわいいよ、服装に合ってるなって思うし、自分で自分の髪結えるのすごいと思う。(タイミング逃したけれどそれだけは伝えたくて、ちぐはぐな会話になるのを自覚しながらも言葉にする。きちんと目線合わせて言うつもりだったのに、目線は途中でメニューに落ちた。誤魔化すみたいにやたらと熱心に軽食のページを眺めるけれど、先ほど昼食を済ませたばかりである。視線がこちらを窺う気配を感じ、メニューから目を離して首を振る。)こっちこそ、話したいし会って渡したいものあったから、誘ってくれてありがたかった。家族は昨日も一緒にいたし、今日も夕飯とケーキ家で食べるからだいじょうぶ。佐々礼のほうこそ、クリスマスイブに呼びつけてごめん。(早速本題に入ろうかと傍に置いた紙袋に手を伸ばしかけ、いや注文が先かとメニューにもう一度視線向けようとし、そういえばゆっくり話したいと誘ってくれたのは彼女のほうだったなと思い出し、先に口火を切ってもらったほうがいいのでは?と思い直す。いつもは容易く分かるコミュニケーションの優先順位が今日に限って分からない。傍目に見てもおろおろと落ち着きのないのが丸わかりだ。)……ごめん、俺いまちょっと何からやればいいかわけわかんなくなってるかも、  あっでも注文?注文がやっぱり先か(メニューを彼女に向けようとしたのがグラスにちょっとだけぶつかった。どこまでも格好がつかない。)
* 9/18(Wed) 21:30 * No.76

(髪に手をやる仕草を見遣り「ギリギリだと気にして走りそうって思っただけだよ」と首を振る。彼もまた自身と同じような挙動をしていたのだと知れるのが、ほのかな綻びを齎すよう。問いに頷いてくれるならそれだけで安堵し、ゆえに済んだ話題と思っていたから。向かい合い、さっきの?と首を傾けかけた直後、身を打たれるような衝撃が降りかかった。)っは、う、……あ、あり、がと……、(か細い声が最低限を絞り出すだけで精一杯で、沸騰したみたいに瞬く間に朱に支配された顔は次第に下方に向いていく。一番に欲しい言葉を一番に欲しい相手から手向けられる幸福に溺れそうで、息継ぎの仕方を忘れそうで。)……よかった。うちも同じようなものだよ、お母さんと夜にケーキ食べるくらいで。あたし、は……あの、会えるの今日だったらいいなって、実は思ってたから。日程挙げてもらったの、うれしかったの。(一般的にもこの二日間は特別な日であると同時、その実、自身にとって本日はまた異なる意味合いを有すると後出しするのはズルじゃないかなんて妙な懸念も内在する。別に誰彼構わず祝われたいなんて性格ではなく、ただ特別な日に特別な相手と過ごす甘美さに誘引されての事。余計な考え事の多い己とはもう長い付き合いだが、まさに今眼前の彼を見ていると、自身の感情に負けがちな己と重なるようで――ふと、息の零れる音がして。)っふ、……あはは……!鵜飼、すごいおろおろしてる。ごめん、笑っちゃって、でも今の鵜飼なんだか……ちょっとかわいい。(余裕なんていつだってなくって、理想の姿で経た一件があっては尚更だった筈なのに、彼も同じなんだという感慨がほどいていくよう。ついと笑声をあげてしまった唇を手で覆ってみたところで、弛んで下がる眦は隠せない。メニューを捲りながらも、結局ブラウンの瞳は彼の心の内を知りたがって、落ち着きない鼓動に掌を添える。)……あの、ね。あたし、今日すっごくドキドキしながら来たんだ。どんな顔して会えばいいんだろって不安で、今までどんな話してたかわかんなくなっちゃいそうで、……鵜飼も、そんな感じだったりする?
* 9/19(Thu) 06:46 * No.79

(会話の流れにそぐわなくても伝えたかった言葉は、十二分に自分の思いを伝えてくれたらしい。互いに顔赤らめ視線合わせられぬ一幕終えて、会話がまたゆるゆる流れ出す。)未来の妹さんとか弟さんと会う予定だったの邪魔したかなって思ってたんだけど、そうじゃないならよかった。……あの、さ、今日にしない?って言ったの、単にクリスマスイブだからってだけじゃないんだ。(LINKSに搭載された「もうすぐ誕生日の友だち」を教えてくれる機能にこんなに感謝したことはなかった。12月中旬のタイミングでホーム画面を何気なく開いた自分を褒めたいぐらいだった。出すタイミングってもしかして今か?と、もう少し後では?が喧嘩した結果のみっともなさだけれど、それが彼女の笑顔呼んでくれて嬉しくなる。笑子という名は、やっぱり彼女に合ったいい名前だなとも思う。)俺も、今みたいに余裕なくしておろおろしたり、待ち合わせ前に髪型とか服装変じゃないかすごく気になったり、24日空いてる?って聞いた後に取り消したくなったり、そういういつもの自分じゃないみたいな感じで、なんか自分のやること全部が気持ち悪かったりかっこわるいんじゃないかって思えてドキドキして、  うん、なんか俺もずっとそんな感じ。(言葉をどう続けていいのかわからなくなり、やや尻切れとんぼに終わる。)会うの今日にしたの、佐々礼のことお祝いしたかったからなんだ。誕生日おめでとう。これ、大したものじゃないんだけど誕生日プレゼント。(話題の順番をまた図り損なった気もするが、それでも目を見てお祝いの言葉伝える。どうぞと差し出した紙袋の中身は綺麗にラッピングされた“タータンチェック(ドレススチュアート柄)のブランケット“である。)
* 9/19(Thu) 22:56 * No.84

お母さんは明日デートだけどね。向こうのご家族とは……年明けにうちに来てもらうくらい。(声音に忌避感はない。日取りが近付けば緊張こそするのだろうけれど、それさえ「……緊張、しそうだから……前日、電話してもいい?」と甘えを見せられる彼の存在に支えられて踏み出せる。しかし悲しき哉、LINKSは今年に入って急に出番が増えた存在のため、機能の全てを把握してはおらず。彼の口振りから伝う他の事由に見当もつかずきょとりと瞬く一幕を経て、笑みの名残りの尾を引いた面持ちで静かに耳を傾けたのちに。)……おんなじだ。鵜飼でもそんな風になるんだね……?けど、あたしが鵜飼のこと気持ち悪いとかかっこわるいとか思うの、想像できないよ。(過日に面倒を否定してくれたのと同じように、此方だってまたマイナスに見る可能性など自分の中に見いだせない。何某は盲目である、などという言説は思考から追い払おうとして、しかしわざわざそんな事をせずとも一瞬にして霧散する。)あ、……っえ、し、知ってたの……!?や、鵜飼、知らないと思ってたから……っあ、お祝いとかしてもらわなくても、誕生日に会いたいとか思ってたの、はず……、(ついとささやかな下心が唇から零れるも、そんな羞恥すら追い越して交わる瞳の中で欣幸が溢れ出す。そろそろと伸ばされた手がガラス細工を扱うみたいにそうっと受け取って、今はグラスしかないテーブルの上で。喜びと驚きと、全てが混ざり合って胸の内がくすぐったくてたまらない。)……ありがと。今、すごくびっくりしてるし、嬉しい。……中、今見てみてもいい?(宝物を隠すみたいに大切に持ち帰りたい気持ちと、贈り物と向き合ってきちんと想いを伝えたい気持ちと、天秤がぐらぐらと揺れて傾いた。)
* 9/20(Fri) 08:13 * No.87

(「もちろん、お待ちしてます」は、鼓動の高なりの割には落ち着いたいつも通りの口調になった。ふわふわとぼやかした今日を選んだ訳明かすより、この落ち着かなくてみっともないような気持ちの共有のほうが先にくる。)俺も、こういうふうになんかぐるぐるして不恰好な感じになると思ってなくて、こういうふうになるって心の底で分かってたから距離置いてた感情なのかもしれないけど、(そこまで言ってこれだと彼女の感情や自分を肯定してくれる言葉ごと自分の都合で否定していることになると気付く。)でも、佐々礼が一緒のように感じてくれてるのも、俺のことかっこわるいと思うとこ想像できないって言ってくれるのも嬉しいし、そう言ってくれる佐々礼ってかわいいなって思うし、   なんか 悩み聞いてもらったときから佐々礼のこと今まで以上にどんどん好きになってる 気がする、(だから誕生日を顔合わせて祝いたいなと思ったし、喜ぶ顔が直接見たくて、自分のプレゼントで彼女を幸せにしたくて何を贈ればいいかをたくさん悩んだ。誕生日を知り得た理由はあっさりと白状する。)知ってた、というかLINKSに教えてもらったんだ。誕生日に会いたいって思ったの、俺だけじゃなくてよかった。せっかくの日なんだから、もうちょっと特別な場所行けばよかったのにって今更気付いてちょっと悔しくなってる。(例えばクリスマスツリーが綺麗なところとか、ちょっとお洒落なホテルのアフタヌーンティーだとか。初めて向かい合って座ったここも特別な場所ではあるけれど、こういう落ち着く場所より心ときめく場のほうがふたりで過ごす初めての誕生日兼クリスマスイブに相応しかったような気もする。渡したプレゼントだってそうだった。寒い冬に彼女をあたためてくれるといいなと思い選んだプレゼントだけど、実用品過ぎて特別な女の子に贈るにはもっとロマンチックなものがあったのかもしれない。それが何かはわからないけれど。)もうそれは佐々礼のものだから、佐々礼が好きなタイミングで開けていいんだよ。(余裕ぶった物言いだけれどその実、心の中では表情見せないようバケツを被った小さな自分がぶるぶる震えている。人に贈り物をするのにこんなに緊張するのは初めてだった。己から遠ざけてきた感情は、いくつもの初めてを青年に教えてくれる。)
* 9/21(Sat) 21:29 * No.96

……〜〜っ、う、そ、そう……なの。うー……ず、ずるい〜……ドキドキすることばっか、言うの。……あたし、も。結局『かも』取れちゃった、の……かも。(変わらず、着地は下手なまま。真っ直ぐな言葉が降り注げば羞恥と喜色とがぐるぐると混ざって、どうにか処理しようとする脳内も心音も騒がしくって忙しない。その言葉全てに一喜一憂してしまう要因たる彼へ向けるはいっそ恨み言のようでさえあった。知りえぬルートに存在に「そんなのあるんだ……」と呟きひとつ。年度ももう後半。彼のも見ておけばよかった、なんて後悔が覆されるのは、また後々の話として。)んー……な、慣れたとこじゃないと余計に緊張しちゃいそうでもある、気がする。……特別な、場所。何処行くことになるのかも、気になるけど。(関心は傾けど、今でさえ精一杯なのだから悩ましい。プレゼントにじっと視線を注ぐ表情の変化こそささやかながら、朝一番に目にしたサンタさんからの贈り物を見つめる子供みたいな、そんな煌めきをいっぱいに瞳に湛えていた。まだ中身も知らないのに、想い寄せる相手からの贈り物がこんなに特別だなんて。)……し、失礼します。(許諾を経て妙に畏まって一声添え、さほど重みはないそれを丁寧に取り扱って、包装を解いて現れたその姿を確かめる。)わ……ブランケット?(畳まれた布地を一部開いて改めて、感触を確かめるように表面を掌で撫ぜる。温もりを齎すであろうそれは、寒空の下で上着をかけてもらった過日がふわりと蘇るようだった。)……ありがと、鵜飼。鵜飼が選んでくれたのもそうだし、あったかそうで、うれしい。……ああ。なんか、鵜飼みたいだね。(言葉に、掌に、幾度そのあたたかさに掬い上げられたことだろう。彼の傍に居る日々は、ひなたに在るかのような雪解けを齎されるばかりだった。ふわふわと気持ちが浮き上がって零れたもので、ちょっと言葉は足りなかった。大切にしまいこむみたいに胸元に抱いて「大事にする、……っあ、でも、いっぱい使うから」と多幸感に頬を綻ばせる。実際、学内然り本日然り、冬場だろうと構わず足を晒している少女にとっては手放せない愛用品となることだろう。)
* 9/22(Sun) 19:02 * No.103

そしたら、俺たち両思い…?(口に出した言葉はこれまで縁がなかったもので、なんとなく心の上のほうをそうっと撫でられたようなくすぐったい気持ちになる。「ずるい」はふんわり聞き流すことにした。何せドキドキすることばっか言われてるのはこちらも同じだったので。特別な場所の詳細は、口に出したらやたらとベタな選択だなと気付く。それでもいつか来る未来に選択肢残すことにする。)なんかおしゃれな庭が付いてるホテルのアフタヌーンティーみたいなところとか、夜景がきれいなレストランとか?来年はそういう特別っぽいところに行こうか。その頃にはなんかお互い余裕がもうちょっとあるかもだし。(来年の二人がお互いどこにいるかも知らないままに、それでもこの仲が来年と言わず遠い未来まで続いていくと信じて疑いもしないのが言葉になって表れた。贈り物の包みに注ぐ視線から、丁寧に扱う手つきから、くちびるからこぼれる言葉の一つ一つから、彼女の喜びが伝わってくるようで、心の中のバケツ頭の震えは止まった。安堵からほっと息を吐いたのち、喜色が顔いっぱいに映された。)よかっ  たぁ…………、喜んでほしくて選んだけど、実際の反応見るまでは佐々礼が喜んでくれるかどうかってわかんないから、ものすごく緊張してたんだ。佐々礼がさ、一人で寒いな悲しいなってもう二度と思わないでほしいなと思って選んだから、「あったかそう」って言ってもらえて嬉しい。(彼女の影と対峙した折に震えていた肩の細さがもうずっと気になっていたし、それをあたためられるのはいつだって自分であればいいのにと独りよがりな願いを抱いてきた。そういう欲のこもった贈り物であったので、日常的に使ってもらえるとあらば喜びもひとしおである。座った椅子ごと浮き上がりそうな気持ち、店内の少ないお客さん全てにコーヒーを奢ってあげたいような気持ちになりながら、ようやく注文済ませていないことに気付く。)やばい、俺たち何にも頼んでないお客になってた。……俺、アイスコーヒーにしようかな。(冬だというのにやたらと耳のあたりが熱い。今ホットコーヒーでも飲もうものなら汗だくになりそうだった。)
* 9/23(Mon) 18:04 * No.107

(両想い、と。改めて彼の声でその言葉を確かめてしまうと、輪郭のなかった実感がじわじわと明瞭になっていく心地に浮足立つ。黙り込んで、熱くてたまらない頬を両の手で包んで。それからようやく、小さく頷いて応える。きっと最初から、この想いを恋以外に表せよう筈もなかったのだ。)わ……どっちも行ってみたい。来年……うん、そしたら来年、一緒に計画立てよ。お酒飲めるようになったら、また選択肢広がりそうだよね。(関心に瞳をほの淡く輝かせて、明示されたいずれもに胸を膨らませる。次に、その次に、そうして積み重ねていく日々の中、取り留めのない日も特別な日も彼の姿を望めばこそ。綻ばせた面持ちのまま、緊張を解いた様相をじっと見つめて。)そんなこと、考えてくれてたんだ。……うん、きっともう大丈夫だと思う。今はこのブランケットも、鵜飼も、いてくれるから。(憧れめいた情動を傾けていた頃などは彼は自分とは全く異なる存在なのだとばかり考えていたが、緊張を語る口振りに偽りは感じられず、それがどこか愛おしい。恋愛感情初心者同士、というのはまさにそうなのだろう。それでも、齎されるものはどれもあまりに大きくて。震える夜も自らを責める朝も遠く。幸せは今や手に届く場所にばかり在る。)っあ、そ、そうだった……んん、あたしも、同じにしよっかな。デザートみたいのは、ちょっと、後で……はぁ、あっつ……、(すっかりと意識の外にあったメニューに慌てて視線を落とすも、なんだか集中出来ず、彼に乗っかる形に終える。火照る頬へ掌で風を送りつつ、二人分の注文を済ませ、恐らくそうはかからないであろう待ち時間に。ちらと自身を鞄を見遣る。)…………あの。実はあたしも、渡したいものがあって……く、クリスマスプレゼント?や、本当に大したものじゃないんだけど、(痛く感動した後に、よいものを頂いてしまった後に、となっては躊躇いを纏いながら、鞄から取り出したるはラッピングの施された長方形の箱。中身はアーモンドやドライフルーツを使用した“手作りのフロランタン”で、家族で分けてもらえるであろう分だけの量が収まっている。恐々とした抵抗感を多分に纏いながら「……受け取ってくれる……?」と窺う瞳は心許無く揺れていた。)
* 9/24(Tue) 00:41 * No.111

(胸に芽生えた感情の名付けは影によってだったけれど、二人の思い通じ合った今日の名付けはきちんと二人でなされ、それもまた青年の心を晴れさせた。あんなに忌み嫌っていたものはいざ我がことになってしまえば、人に害なすことになるのではと無闇矢鱈に恐れるようなものには思えなくなっていた。高揚感から恐怖心が薄れただけかもしれない。だけど、未来を思う彼女の瞳を美しいと思う心は人を想うのは尊いことであるという真実を表しているようだった。)俺、やりたいことあるから大学通うようになったらバイト始める予定なんだけど、そうしたら多分今よりいろんなところ行けるようになるよ。お酒も、楽しみだな。自分が酔ったらどうなるのか想像つかないからちょっと怖いけど。(理性失うことへの恐怖を正直に語るのももう恐れることはなかった。たとえ弱みを明かしたところで彼女との縁が切れるわけではないと既に知っていたので。余裕のなさを晒し、分かりやすく安堵示すのだって、絆を揺るがすものにはならなかった。)受験のときとか、会場では無理かもしれないけど行き帰りの電車とかでもよかったら使って。風邪ひかないようにと、お守りの代わりにしてよ。(自分が傍にいられないときには、これが代わりに彼女と共にあってくれたらいい。一方的な願い告げて、実際にどうするかは彼女に任せることにして。真冬に二人して頼んだアイスコーヒー待つ間、思いがけない贈り物の予感に瞬き一つ。)えっ、すごくうれしい。(主役の登場前からもう喜びがふつふつと胸の奥から湧き起こる。長方形の箱に言葉より先に手を伸ばし、謝辞と共に恭しく受け取ろう。)……ありがとう。佐々礼が俺にくれるものを断る理由なんてどこにもないし、今 すげーうれしい。開けてもいい?うちに帰ってからのほうがいい?(箱に触れる丁寧さに反して言葉のほうはちょっと崩れた。開けたいな、がそわそわと視線に表れる。)
* 9/24(Tue) 22:45 * No.114

(胸を占める想いの名を交わし合って、時折後ろ向きも自信の無さも忘れそうになるのは浮かれているという他ないのだろう。どこまでも誠実でいてくれた彼が未来を語り合ってくれるのを、疑いようもないという側面もあるけれど。自然と綻んだ面持ちのままに続く。)そうなの?なら、それも楽しみ。ちょっと遠出とかも出来るかもね。でも、やりたいことって?(浮かぶ疑問符をそのまま手向けつつ、明かされた恐れにはたと瞬いたのちに。)んー……じゃあ、お酒飲む練習とか、一緒にする?自分がどれくらい飲めるのかとか、あたしもゆくゆくは知っておきたいし。(過日に彼の話を聞いたとて、なんら案じてはいないのは信頼と呼ぶものか将又妄信か。けれど少しでも彼の懸念を晴らす手助けが出来るならばと願うのも当然だ。贈り物の使い道のひとつに「うん、そうする」とほんのりと明るみを帯びた声で迷いなく頷き、胸元に抱いたブランケットがこの先に寄り添ってくれる日々を思いそうっと撫ぜる。すぐにでも使いたいくらいだけれど、ある意味ではこれもまた彼によって齎された熱がぽかぽかと身を包むもので、今日はおあずけ。名残惜しくも大切に仕舞いこんだならば今度は此方の番。足を引っ張る躊躇いも、ちょっぴり崩れた口振りに密やかにときめくのに大半を上塗りされるのだから存外単純なものだ。)……開けるのは、平気。でもあの、お菓子……で。つ、作ってみたの。(逡巡の果てに先んじて明かし、心許なく組んだ指先をもにゃもにゃと所在無く弄びながら声は続く。)ご家族で、分けられるといいかなって……ちょっと多めに……や、けど、言った事あるかもだけどお菓子作りってあんましなくて、……あっっ、で、でもちゃんと味見はしたから……!大丈夫、だと……思う、けど。……あの、他人の手作りとか苦手だったら、ごめん……。(ああだこうだと要領を得ない言い訳を並べ連ね、勝手に萎んでいく姿など幾度見せた事か。本当は、ただ喜んでほしいと。それだけの事だろうに。)
* 9/25(Wed) 23:14 * No.121

遠出いいな。この辺から日帰りで行けるギリギリってどこなんだろ。……やりたいことは、こうやって佐々礼や他の友達と旅行したり、とか。(元々旅行に行くような家庭でなかったのに加えて、関東地方の土地勘があまりないため目的地はぼんやりとしている。優しい申し出は本当にありがたいものであったけれど、それは青年にとっては手放しによろしくとお願いできるものではなかった。ちょっとまごついて言葉を探す。)いや、あの、そう言ってもらえるのはありがたいんだけど、   俺が心配してるのって酒に酔って佐々礼が嫌なことしちゃわないかだから、佐々礼と試すと意味ないというか、何かあったときにたぶん ちょっと それこそ死にたくなる気持ちになりそうというか……(想定している最悪の事態として、彼女に無体をはたらくだとかがすぐに脳裏に浮かぶ。男であり父の子である己が理性を失ったときに自分より力の弱い人を傷つけるのは心の底から恐ろしいことで、自分がそんなことをしてしまうところを想像したためにこぼれた言葉は大袈裟だけれど切実な響きを伴っていた。)俺がここまでしか飲んじゃだめだ、ってライン見極めたら佐々礼のこと誘うから、それまで一緒に飲むの待っててもらってもいい?(そのくせ、彼女と思い出分かち合う機会は逃したくないため、気の長い約束持ちかけることになった。明かされる贈り物の中身に、胸の奥がぎゅうと締め付けられるような心地になる。ちょっと声が掠れた。)作ったの、……俺のために?(問いには期待の色が滲む。そうであったらどんなにか嬉しいことだろう。世界一の宝物扱うようにゆっくりと包みを解き、箱を開け、中身に感嘆の息漏らしてもう一度箱を閉じた。喜びと困惑がないまぜになった表情で、)どうしよう、家族でどうぞって言われてるのに、誰にもあげたくなくなってる。(恋愛感情は多大なる独占欲を伴うものだと初めて知った。妹にさえも分け与えたくないお菓子がこの世に存在するなんて、彼女に出会わなければ知らないままのことだった。できることなら今だけでも独り占めしたいが、飲食店で持ち込みの食べ物を食べるのは良識に反すると常識的な自分が心の中で笛を鳴らしている。)今、俺の心の中で家族に分ける前にちょっとだけここで食べちゃいたいって思う自分と、ここで食べたらまずいだろってちゃんとわかってる自分が戦ってる。(一度開けた箱を閉じたのは、彼女からの心のこもった贈り物をこれ以上視界に入れていると前者の自分が勝ってしまいそうだからだった。)
* 9/26(Thu) 23:15 * No.126

(新幹線なら結構な範囲で行けそうだとか、旅先用に車の免許欲しいなだとか、ふわふわと浮かぶ夢想に少しずつ形を与えて、いずれ叶うものもあるだろうか。そんな未来の話の、もう少しだけ先の話。嫌なこと。と、想像して、結局彼と結びつくことはなく。けれど彼にとっては、今も尚、あの影が傍らで静かに見張っているのだろう。)うん。なら、待ってる。……あの、あたしはね、鵜飼があたしの嫌がることするってこと、全然想像出来ないんだ。だから、これからも鵜飼にそういう心配事あったら、教えてくれると嬉しい。(頷くのを阻むものはなく、次いで此方からもお願い事。お互いを知る事が叶ったから乞うことの出来る今の関係を、貴べばこそ。アイスコーヒーの待ち時間には引き結んだ唇のせいで、問いかけにはすぐには答えられず。視線を逃がし、暫し泳がせ、ようやくと戻って来た瞳で恐る恐ると彼を窺い、ゆっくりと頷いた。彼のため以外に、こんなことをしようと思ったこともない。だからこそ不安で、開封とその反応を怖々と見守って。何言うよりも先に閉じられた箱にぐっと身を強張らせるも束の間、そんなものは杞憂であるとすぐに知る事となる。思いがけない言葉に呆けて瞬き、困ったように眉を下げながら、ほんのりと緩む頬も抑えられなかった。)え、え〜……?一人で食べたら、それだけでお腹いっぱいになっちゃうかもしれないよ?(流石に男の子の腹を満たすほどの量ではないのだから、そんな多少の大袈裟具合なんて照れ隠しに他ならない。揃えた膝を擦り合わせ、くすぐったげに笑むまま首を傾けて。)んー……なら、帰る時、ちょっと外歩いてく?どっか座ってもいいし。……た、食べてみた感想教えてもらったら、次に活かせるかも……だし。(渡すだけで緊張していたというのに、安堵をひとつ経て、今度は食べてもらった反応が見たいだなんて欲が首を擡げる。)……家では、ご飯作ったりするけど。誰かのために何か作りたいって思ったの、初めてで……ど、ドキドキしちゃった。ちょっと違うけどね、ジャガがおやつお裾分けしてくれた時のこと思い出したな。ほら、あのスイカの。(今となってはラビリンス探索の最初も最初の頃。「あれ、美味しかったな」と綻ぶ様相からは緊張の波は幾分か引いて、けれど落ち着かない指先で髪を耳にかけたりなどして。)
* 9/27(Fri) 23:21 * No.128

俺って佐々礼にものすごーく信用されてるんだ。(呟きには感慨と不安が滲む。信用裏切るつもりは毛頭ないし、考えたくもないけれどもし万が一裏切ることになってしまったら生涯かけて償うつもりでいるけれど、それでも手放しの信頼はちょっと青年を怖気付かせた。)俺は佐々礼の嫌がることを絶対絶対したくないし、そうするつもりも全然ないけど、俺は女性である佐々礼より力があって佐々礼を傷つけることもできる性別なんだよってことを覚えておいてもらえるとありがたいです。俺は俺のことが信用できなくなることがきっとあるだろうから、また心配事は相談します。(他の人であれば心配しすぎと一笑に伏されそうな恐れだって、彼女となら共有できるともう知っている。信頼の重さは不安と同じぐらいの喜びを呼ぶ。贈り物開ける段に至っては、もうすっかり喜びが恐れを覆い隠すことになった。期待が肯定され、心うちがあたたかく満たされる。口の端はにこにこと上がりっぱなしになった。彼女に作ってもらったお菓子を独り占めしてしまいたいなんて子どもじみた感情も否定されず、座った席ごとふわふわ浮き上がるような気持ちになる。)いっぺんにじゃなくて、何日間かに分けて毎日食べたら大丈夫。……だけど、ちゃんと家族にも分けるよ。佐々礼が俺の母と妹にも食べてもらえたらって思って作ってくれたのもすごく嬉しいから。佐々礼のおかげで、一番乗りできたらそれで満足だなって思えたし。(家族に分ける余裕が出てきたのは提案された折衷案のおかげだ。もう一度蓋開け、感嘆の息漏らしてからラッピングを元に戻そうと試みる。「駅の近くに公園あったよね?」は通学路の風景思い浮かべての寄り道先のご提案。向かい合う彼女の仕草の一つ一つがいじらしく、時折胸が詰まって何も言えないような気持ちになる。今もまさにそうだった。)なんかこう もうずっと俺が嬉しくなるようなこと言われっぱなしでどうしたらいいかわかんなくなるね。俺のために頑張ってくれて、ドキドキしてくれてありがとう。……あのときのジャガは、おいしいものを食べてもらいたいって気持ちとみんなとあんまり馴れ合うのよくないなって気持ちが混じってたからお裾分けを置いとくだけだったけど、今のジャガならみんなを招いておもてなしがしたいって思うんだろうな。(他者と深く関わることは、自分が思うほど怖いものではないと知ったから。ぽつりと落とした言葉は、どこか他人事めいてもいた。)
* 9/29(Sun) 13:02 * No.135

(信用など当たり前だ。ゆえに逸らされぬ眼差しにはその心緒が多分に滲む。真摯に聞き届けて、身に沁み込ませる。実感には遠くとも、一緒に居ると、向き合うと決めたからには、互いにとって必要な事なのだから。)……う、うん。わか、った。鵜飼もその時は、お願いします。(自分を信じるのは易いことではないとよく知っている。彼の懸念に重く頷き、その吐露を胸の内にしまいこむ。心配事を半分こしたら、今度は喜びを分かち合う番。けれど贈り物に打たれた胸と色好い反応への喜悦を伴って、半分こどころか倍とかそれ以上になっているような心地を得ていた。)……よく、あかりちゃんと分けっこするって言ってたから……いっぱい作ったけど。でも、一番に食べてほしいのはやっぱり、鵜飼だもん。……鵜飼に、喜んでほしかったから。喜んでくれて、安心した。(世辞の気配はなく、余さず伝えてくれる言葉は気持ちをぐんと引き上げて、情動をその身いっぱいに滲ませてくれる姿が愛おしい。「本当は、フルーツいっぱい使ったお菓子作ろうと思ってたんだけどね」と明かす。過日に聞き及んだ“フルーツが乗った甘いもの系”をいくつか考え、しかし今日という日はケーキを食べる家庭も多かろうと似た系統は避けて、代替案がドライフルーツだった。寄り道先に承諾し、謝辞のむず痒さに眉を寄せると共に。)え……あ、あたしのセリフなんだけどー……鵜飼にはずっと、嬉しくなるようなことしか言われてない。今日なんて、特に……、(眉を下げた困り顔で異議申し立て、交わした言葉を思い返せば再度頬に熱が灯るような。気持ちを伝えるための壁が随分と瓦解したのは、フルオープンなアイリーンの影響が一匙と、何よりも彼が崩してくれた産物だろう。仲間の姿を思い浮かべれば、自然と双眸は柔く細められた。)それも楽しそう。あれだったら火とか包丁とか使わないから、アイリーンも心配せずいられる。お手伝いはしたがるだろうけど。……あ、それならみんなで一緒に作るのもいいなぁ。不思議な小部屋見つけるのって、二人行動してる時だったし(理想の姿は紛れもなく自分自身であり、けれど異なる存在でもある。此方で話題に挙げるとどうしたって不思議な心地が付き纏いながら、声音には愛着ばかりが乗るようだ。そうして運ばれた二杯のアイスコーヒーに顔を上げ、本日はちょっと多めのミルクを注いでストローへと唇を寄せる。熱を灯す身の内にひやりと冷たさが運ばれて、「……美味し」なんて小さく零された。)
* 9/29(Sun) 20:40 * No.137

なんかさ、好きな子に自分のこと考えて何か作ってもらうのってこんなに嬉しくて幸せなことなんだなって実感した。(呟きは会話のキャッチボールには乗らないかもしれない密やかさで。今回は果たされなかった目算明かされれば、多幸感はますます募る。今なら影が出てきたって笑って肩組んで「聞いてくれる?」と彼女の大切にしたいところを指折り数えて教えられる気がした。「フルーツいっぱいのは、今度一緒に作るか、次回のお楽しみにしてもいい?」と、またの機会得られることを望んで問うた。ドライフルーツも生のものほどではないが好きな食べ物に入る上、家族は自分と同じで好き嫌いの少ない人種である。想い込めて手ずから作られたフロランタンが食卓に上がれば、誰からもらったのすごくおいしそうあかりも食べてもいいのえみこちゃんにあかりも会いたいと夕食時の話題を席巻することだろう。)アイリーンってちょっと  だいぶ過保護だよね。(いらぬ心配呼ばぬよう牛乳寒天作るのに少しだけ火を使った事実は伏せておく。マイ・ルームに皆を招いて、お喋りしながら調理をして、賑やかに食卓囲む様思い浮かべれば、自然と眦がゆるく下がる。)いつか、できたらいいな。向こうの世界で無理だったら、こっちの世界でもいいから。(もしかしたらアイリーン以外の仲間たちも既に顔合わせたことのある人々かもしれないし。ほのかな希望まとわせた表情のまま運ばれてきたグラスにストローを刺す。)あっ、16時にケーキ屋寄らなきゃなんだった。(アイスコーヒー口にし、心地良い苦味で喉潤すうちに、何気なく時計に目を落とせば自分で思っていた以上に進んでいた時計の針。明日は昼過ぎから出かけると家族に告げた際に、ついでに行ってきてくれる?と問われて快諾した本日の主役の受け取りは外せない用事である。しかし公園で一口目を堪能するのも譲れない。今日はご馳走が待っているからとおやつは我慢し、名残惜しく喫茶店後にしたのちに二人歩いて到着した公園。ベンチに腰下ろして味わう一口目は、)……うまい、すげーおいしい。味がおいしいっていうのもあるんだけど、なんか俺がこんなにいいものもらっていいのかな?って思いたくなるぐらいの 幸せの味がする。(ほろほろと感情がこぼれ落ちる。目の奥が熱くなり、小さく鼻啜った。二人きりの公園で名残惜しげに少しだけ会話続ける間にも幾度となく感謝伝えることになるだろう。時折吹く風は冷たいけれど、寒さがこの身を侵すことなんて考えられないぐらい身も心もあたたかなまま帰路に就くことになった。)
* 9/30(Mon) 12:40 * No.142

(二択が眼前にあって、暫しの逡巡。然して「……どっちも、は、ワガママ?」なんて問いかけを。また手作りを贈って喜んでもらいたい気持ちと、二人並んでキッチンに立ち、楽しさごと一緒に分かち合いたい気持ちとで揺れて、結局は選び取れなかった。彼の隣ではちょっとだけ図々しくなっているような気がする。そんな自認も、これまで散々嫌っていた自分のままを受け入れてもらった産物だ。)……大袈裟なんだよね、アイリーンは。みんなが強いし頼りになるってわかってても、バトル中はずーっとそわそわして落ち着かなかった。でもジャガはちっちゃいからあたしも見ててちょっと心配するかも。(理想の自分を俯瞰して見つめる口振りは、此方もまたどこか他人事のよう。心配なんだもの!とぷりぷりしている高い声が耳の奥で聞こえた気さえしながら、はたと瞬いて。)こっちの世界で、かぁ。……みんな、どんな人たちだろうね。こっちでも、仲良く出来るかな。(合わせ鏡の噂が学内で爆発的な広がりを見せたことと合わせて、他にその正体を知るもう一人も学園関係者だ。学内の人間が多いのだろうと見ているも実際のところは知らず、友人となったその姿のみが浮かぶ。あの人と鵜飼はすぐ仲良くなれるだろうな、と密やかに夢想している内、不意に彼の零す言葉に呼応して時間を確認する。遅くなる前に、と告げたのは此方であるが――帰りたくないな、なんて、胸中に浮かぶはバイトを始めたきっかけでもあった気持ちと同様のものでもあるが、しかし纏う温もりはまるで異なる。しかし今は母を待たせたいわけでもなければ互いの都合があるのだ。唇を結んで飲み込み、)……時間、あっという間だな。そろそろ出よっか。寄り道もあるしね?(急遽増えた予定未満の行き先を定め、店を後にして訪れた公園にて。ベンチに腰を下ろして隣り合い、ちょっとだけ悩んでから結局欲に負けて、早速ブランケットに活躍してもらうこととして膝にかけつつ。)……!よっ、よかったぁ……、(口にするその姿をそれはもう穴が開くくらいに緊張の面持ちで見つめていたけれど、途端に緩めば眦を下げるまま。)幸せの味?ん〜、今まで鵜飼にいっぱいもらった分、あたしから溢れだしてお菓子に入っちゃった、かも? ……な、なんて……。(柄にもない事を言ったな、と後悔こそよぎれど、あながち間違ってはいないだろう。現に温もりを逃がさぬよう守ってくれる存在に「ブランケット、あったかいよ」と報告する様相なんて冬を超えて蕾が綻ぶみたいに、その面差しは柔く弛むばかりだ。今も、満たされて、溢れるくらいに。幸せの渦中にいるのだと、手放しに謳える温もりの中にいる。)
* 9/30(Mon) 23:15 * No.145


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