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12/26(水):夕方 瑠璃浜鑑台駅付近 >うかいくん

(しばしの休暇に浮かれた生徒たちのざわめきは終業式を終える頃には霧散して、まだ日が落ちる前だというのに静かな学園内。)──お待たせ。今日は付き合ってくれてありがとう。(そんななか、自習に励む勤勉な彼を迎えに行ったのは夕刻の手前。明日も朝から務める代わりに少しだけ早く仕事を切り上げて、作業着から着替えた私服はシャツにブルーグレーのカーディガン。濃色のスラックス。ネイビーのダッフルコートは学生たちが纏うそれとよく似て、彼の隣を歩くのに違和感はないだろう。いつも通りのトートバッグと紙袋を一つ手にして並んでゆく通学路。当たり前のように帰路を共にする友人同士のようで心は弾んだ。)そういえばクリスマスはどうだった? てっきり24日や25日は誰かと過ごすんじゃないかと思ってたから、あんまり予定がないって聞いて意外だったけど。(なんとなくクリスマスイヴや当日は恋人や家族で過ごすようなイメージがあったので、昨日も空いていると言われてもなんとなく避けた結果の26日。ちら、と彼を仰いでは、)うかいくん友達も多そうだし、今日だって放課後にみんなで遊んだりとかするのかな…って思ってたけど、…本当によかったの?(気遣いの体をした念押しは小心者の習慣だ。彼に真実を話すと決めたことをいまさら翻すつもりはないけれど、もう一人の自分の後押しもない今、どう切り出したものかと迷う心。とはいえ歩みを止めなければもうすぐ駅に辿りつく。)
* 9/18(Wed) 14:13 * No.73


(後に歳上の友人との予定が入っていると思えば、勉強は大変に捗った。通い慣れた自習室を出、もう迷いっこない進路指導室に問題集を返却してから階段を降りる。制服の上からマウンテンパーカーを羽織ってちょうどいいぐらいの気温の中、通学用のリュックと手袋身につけて駅への道のりを歩く。学校帰りに同級生の彼と寄り道をするような気分になる。)俺、小さい妹がいるんですけど、そうするとクリスマスって家族でごちそう食べて妹がプレゼントもらう行事って感じが強いんですよね。だから、料理したりケーキ取りに行ったり、家族で夕飯食べる予定はあったんですけど、それも母親の仕事の都合で24日が本番で、昨日はそんなにって感じでした。(「俺は学校もありましたし」と付け加えつつ、24日を共に過ごした人物のことをなんとなく言い損なってしまったのに気付く。話の流れに棹差すような気がして、それはそのままに話題は移る。)昼神さん、実は俺も友達も真面目な受験生なので、もうあんまりぱーっと遊んだりするようなお年頃でもなくて、(真面目くさった物言いにはちょっとしたおふざけの気配が漂う。これだと誘ったことを申し訳なく思われそうだなと後に加える言葉のほうが本心に近い。)  でも、勉強ばっかりじゃなくて息抜きはしたいなと思ってたので、誘ってもらえて嬉しかったです。冬の海、見てるとなんか自分の悩みとかちっぽけなことに思えそうだし。(これから見るだろう寄せては返す波といつか見られたらいいなと願う大きな生き物に思い馳せつつ、のんびりしたペースの歩みは止まらない。)
* 9/18(Wed) 22:17 * No.77

へえ…うかいくんちいさい妹居るんだ。 でもわかる気がする。だからかな……面倒見がよくて、話し方が穏やかな感じなの。(一人ではなんてことない道中も友を傍らに置くだけでこんなにも楽しい道行きとなる。彼にも妹が居たと知れば些細な共通点ながら嬉しくなり、一方で微笑ましい兄妹仲とは縁遠い身では共感より憧れに似た感情を抱くばかり。「クリスマスにごちそう食べてプレゼントもらって、って仲良しで理想的な家族って感じだね」相槌に羨むような音が少し滲んだかもしれない。)…あ、そっか。(そしていまさらの事実を思い出す。)うかいくん、受験生だった……。そうだよね、そうだった…。(呟くさまは一度目は心底うっかりという風に。のちに恥じるように語尾が消えた。彼が3年生である事実もそれこそ出会いのきっかけも覚えていたが、それが受験と結びつかないあたり己の過去が浮き彫りになる。とはいえせっかくの気遣いをむげにすまいと「ごめん」をすんでのところで飲み込めば、)…うん。おれも海が好きだから、提案してもらえてうれしかった。ずっと行きたかったけど、一人じゃなかなか行けなかったし。(もう一つの楽しみを思い出す。彼と見る海は荒んだ心を慰め、この背を押してくれるだろうか。──辿りついた駅のバスターミナルにちょうどやって来たバスが一台。動く車体に光る文字に目は追いつかず、停留所の看板を見たとて一読で理解は難しい。)うかいくん、海浜公園に行くの、あのバスでいいのかな?(だが、今は独りではない。彼を頼ればいいのだと思えば勇気を出して問うてみる。『海浜公園行き』と明示されたそれが停車して数秒後、ようやく『海   行き』の部分だけ読み取れた。)
* 9/19(Thu) 23:50 * No.85

10個下の妹なんで、ほとんど父親みたいな気持ちなんですよね。いつか「みちくんそんなにあかりにうるさく言わないで!」って言われるかも。(「あかりは妹の名前で、俺は名前がみちひさなので、みちくんって呼ばれていて」と補足挟んだのちに相手に水向ける。)昼神さんは?ごきょうだいいらっしゃるんですか?(クリスマスへの言及になんとなく自分からは縁遠いもののように思っている匂い嗅ぎ取り、失言だったかもと気付くがもう言葉は取り戻せなかった。軽く告げた受験生だよの事実もその一つだった。萎む語尾を取り返したい気持ちになる。)お会いしたときはまだ受験生の自覚がない というか受験するかも迷ってたぐらいの不良受験生なんで、気になさらないでください。(進路指導に気が進まなかった理由を明かして彼の心中曇らせたもやもやを払拭できればと願う。)俺の  好きな子は、一人で海見てぼーっとしたりするって言ってました。俺はまだそれは未経験なんですけど。(初めて聞いたときに豊かな時間の使い方だなという印象受けたのを思い出す。思い浮かべた女の子との関係性表すのに言い淀み、結局は自分の感情で判断できる確かなことで彼女を言い表すことになった。今後もしかしたら三人で会うことがあったり、何か相談に乗ってもらうこともあるかもと思ったからでもある。やってきたバスに目をやり、頷いて同意示す。)あのバスですね、乗りましょうか。(海浜公園まではバス停が二つ。二人掛け席選んで腰を下ろし、流れゆく景色の中で窓の外指差し「あ」と声上げた。)ハッピーイート、意外に遠くからも見えますね。今度は何食べようかな。(指した先には過日訪れたレストランの看板。ビルに紛れて文字が判別できるのは数秒ほどのことだった。)
* 9/20(Fri) 21:30 * No.90

はは、本当に娘を持った父親みたい。(そんなものはフィクションの知識でしかないけれど、遠い未来を心配するさまは愛娘を溺愛する父親像みたいでおかしかった。そして今更ながら彼のファーストネームを知り、その事実にもまた驚く。「みちひさ、くん」思わず繰り返した音から想起したのは「道」。「ひさ」は何だろう。いつまで経っても覚えられない「鵜」の字より難しい漢字だろうか。)…おれ? ああ、うん。妹と弟が一人ずつ。(しかし疑問を呈す前に新たな問に答えれば、ひとつ前の話題は流れていった。兄弟の有無なんてよくある話題だ。事実の伝達に感情をのせる必要なんてなかったのに少しばかりトーンが落ちる。それだけで兄弟仲は彼とは真逆と伝わるだろう。だからと言って気を遣わせたいわけじゃない。ただ自分を教えることを躊躇いたくない。それは彼も同じなのだろうか、「不良受験生」の次は「好きな子」と来た。ぽんぽんと渡される新たなワードにまごつく心。反応が追いつかなくてえ、だのへ、だの相槌未満の音がこぼれて、)…そ、そっか。うかいくん、好きな子居るんだ。……彼女?(恋の話なんていかにも友人同士らしい話題に浮つく一方、縁遠い話題すぎてちょうどいい反応がわからない。慣れない単語を口にしただけで気恥ずかしさが頬に浮かんだ。そんな道中を経て、)え、…あれ、見逃したかも。(彼に導かれるままバスの中。未だ緊張はするけれど傍らの安心感ゆえ座席の背もたれに寄り掛かるくらいの余裕はあった。窓の外を示す指先には雑多なビル群。駅前の賑わいはもはやモザイクのようで一つ一つを判別することは難しい。レストランの看板とて言われればあんな色だったなと思い出せたが、幸福の文字を見つけることは叶わなかった。)おれは、イチゴ使ったデザートとか食べたいな……友達、が好きらしくて。(美味しかったら彼女を誘う口実になるだろうとまでは言わなかったが、呟きに混じる期待と思惑。)…その子、最近できた友達なんだけど、…いや、厳密には友達になり途中なんだけど、もっと仲良くなりたくて。……もし仲良くなれたら、いつか、うかいくんのことも紹介したいな、と思ってて……(どうかな、と問う代わりに彼を仰ぐ目があわく揺れる。)
* 9/21(Sat) 16:51 * No.95

(道ならぬ恋の結果に生まれた存在なのに、わざわざ倫の字を使うなんて己への皮肉なんだろうか、と捻くれた心から進んで人に明かさなかった下の名は、自分で思った以上に何でもない情報のように伝えられた。倫理の中央ですよと、どう書くかを教えられる日もそう遠くない未来に訪れるだろう。簡潔に告げられた家族構成に、失言であったことを確信したので「昼神さんのほうがお兄ちゃんレベルが高いですね」と冗談ともつかぬ言葉紡いできょうだいに関する話はそこで終わり。最近頭の中の大部分を占拠している女の子との関係問われれば口ごもる。彼女という響きはまだ自分の口にはまだ馴染まない、どこか異世界の言葉のようだった。)かのじょ カノジョかな ずっと隣を歩いてくれて、ふたりの荷物を半分こして持ち合ったり、嬉しいことを分け合えて一緒に笑顔になれる相手ではあります。(一言で関係を言い表すことができずに、でもなるべく誤解の少ない表現にしたくてできるだけ誠実に言葉を選び取る。「またその子に聞いてみて、いいよって言われたら昼神さんにも紹介しますね」と付け加えたのは俺の好きな子ってこんなに素敵な人なんですよ!と友人にも知ってもらいたい気持ちがあるからだった。車窓から眺める景色はこの半年ほどですっかり見慣れたものたちになった。看板が彼の目に止まらなかったことについては特に違和感持たずに、幸福な未来のほうに話題の矛先向ける。)イチゴいいですね。俺も好きです。春先だったらお祝い会ができるかも、無事に俺の受験が終わってればの話だけど。(言葉の中に特に憂いは含まれない。申し出には微笑みと共にすんなりと頷き、)もちろん、昼神さんのお友達に会えるの楽しみにしてます。……俺は、もう昼神さんのこと友達だなって思ってるんですけど、昼神さんの中で俺は、まだ「友達になり途中」ですか?(問うたところで、二人の会話に割り込むように次は海浜公園と車内放送が告げる。間髪入れず停車ボタンが押されたらしく、続けざまに次止まりますとアナウンスがされた。)
* 9/22(Sun) 16:09 * No.101

(軽い気持ちで問うた「彼女?」に返ってきたのはイエス代わりの最上級の惚気だった。)…わあ、(思わずこぼれた感嘆を手のひらで受け止めたのち、)…大好きなんだね。その子のこと。(今度は赤い頬を両手で抑えた。こちらが恥ずかしくなるくらい真摯な言葉は愛にあふれ、恋に浮かれているようで、冬なのに彼の周りだけ春のよう。)うん、ぜひ。うかいくんが好きな子なら絶対すてきな人だろうから、おれもいつか会ってみたいな。(もちろんそれを揶揄する気持ちはなく、むしろ幸せのお裾分けをもらった気分で微笑んだ。まさかイチゴが好きな彼女と彼の恋人がイコールで繋がるとも知らぬまま、)いいね。そしたら3月の終わり頃かな。うかいくんの合格祝いにしよう。(口にしてからはっとする。受験の前から「合格」だなんて言葉を出すとかえって縁起が悪いのだろうか。その口調からどうやら進学に憂いはないようだが、念のため「卒業祝いかな」と言い換えた。そして「受験」「卒業」いずれも彼女に当てはまることと気づけば、)ありがとう。紹介したい子も今年3年生だから、卒業式が終わったら……春休みとかに集まれるといいのかも。(彼女も彼と同じく勤勉なようだから笑顔で二人の合格を祝うことができるだろうと想像すれば、楽しい予定がまた一つ。最近買ったダイアリーの活躍の気配に頬が、気が緩む。だからこそ、)……え、(本日の本題。その核心を突くような彼の問いに反応が遅れた。停車を告げるアナウンスが流れるなか、間の抜けたまたたきを繰り返す。)…えっと、(言い淀んだのは彼の好意を否定するためではなかったが、)…お、おります。(うまい言葉が見つからなくて、そのまま降車の波に乗るように立ち上がって先に降りた。人波に流されるままバス停の少し先まで歩き、その後ようやく振り返る。)実は、今日、うかいくんを誘ったのは、……その、…ちゃんとした友達、になりたくて。だから、うかいくんの思う友達ならもうなってるのかもしれないけど、おれのなりたい友達なら、…これから。(恐怖と期待を綯交ぜにした心臓がうるさくて、想像以上に近い波音が緊張に震える声を時折さらう。それでも傍に来てくれるなら辛うじてこの言葉は届くだろう。)…おれの話、聞いてくれる?
* 9/22(Sun) 23:59 * No.105

(「大好き」と声に出さずに口の中でその響きを味わってみる。すとんと胸の奥のあるべきところに収まるような言葉だなと思った。)そうですね、大好きです。(と、告げる表情に照れはない。ただ自分の心にぴったりくる言葉を見つけられた喜びが青年の顔に笑みをかたどった。彼女を紹介する日にも、その顔にはただただ喜びばかりが上ることだろう。)卒業祝い兼昼神さんのお友達よろしくね会ができるとちょうどよさそうですね。ハッピーイートがハッピーでいっぱいになりそう。(彼が紹介したい人が同じ学年と聞いて、もしかしてその人物のことを知っているのかもという可能性に思い当たる。今のところ性別もクラスもわからないけれど、彼の友達ならきっと仲良くなれることだろう。もし女の子だった場合、彼女がもしかして気にしたりするのだろうか、なんて懸念はちょっと気の早い話である。自分の紹介したい「好きな子」と、彼の紹介したい「友達」が同一人物である可能性にはまだ思い至らない。ゆっくりとしたブレーキと車内アナウンスと共に、それまでスムーズだった会話が停滞する。あんなことを聞くのは踏み込みすぎたのかもしれないと自省しつつバスを降りる。降車する人の流れと共に会話も静かに流れ去ったかと思ったので、降りた先の道程の途中で振り返られて思わず足が止まった。ちゃんとした友達ってなんだろう。寄せては返す波音に紛れそうな声を捕まえたくて、ゆっくりと距離を詰める。)昼神さんのお話、聞きたいです。聞かせてください。俺もあなたと「ちゃんとした友達」になりたいので。(はっきりとした口調で紡ぐ希望は波にはさらわれなかった。)
* 9/23(Mon) 23:14 * No.109

…ありがとう。(ほほえみがまばたきに溶ける。そう言ってくれると信じて問うた。彼はいつでも欲しい言葉をくれるから時折恐ろしくなる。途方に暮れた自分が作り出した、理想の世界の友のようで。──そも、ちゃんとした友達の定義など知らなかった。ただ、後ろめたさが喉元まで水位を上げて息苦しくなることが度々あった。それが自らの外にあふれ出た夜にできたもう一人の友のように、彼にも本当の自分を見せたいと、決意と不安の間でたゆたいながらバスに揺られて来た先。海沿いの道路を歩きながら、)…今から話すことは、できたら、…できたらふーん、そうなんだって思ってほしい。(二人を置いていったバスの後は車が一台横切ったきり、静まり返った道。それでも横断歩道を渡った。浜へ降りる階段は短い。浜の入り口にはごみ箱が置いてある。すぐ近くには『ポイ捨て禁止』と書かれた看板が立っていた。いつぞやと同じように風化したそれは読めなくてもわかる。「うかいくん、これ読める?」後からついてきた彼を振り返り、問う。風化したとて所々掠れた程度。視力があれば読めないものではないだろう。)…おれね、これ、ちゃんと読めないんだ。カタカナは読めるんだけど、漢字は全然。(看板の文字を指さしながら、)たぶんここ、『捨てる』って字で、こっちが『禁止』でしょ?(文脈の中で理解できたものを口にする。読むのではなく想像する。読み取る。生きる中で積み重ねた知識との照らし合わせの毎日を言語化するのは難しい。)見えてるんだけど、文字が別の記号とか模様みたいに見えるって言うのかな。たとえばね。(砂浜にしゃがみ込み、指で適当な線を描く。『◎▽□』)…これ、なんて読むかわかる?
* 9/25(Wed) 01:07 * No.116

(波の音が絶え間なく聞こえる道を歩くのは初めてである。少し前を歩く友人の足元を見えない波が濡らしているような気持ちになる。自分も一緒にそこで足を濡らしたいような気持ちと、こっちに来れば濡れないですよと手を引きたいような気持ちが入り混じる。)ふーん、そうなんだ…?(聞いたままを口の中で転がして、横断歩道を渡る。短い階段を降り、ゴミ箱と看板に何気なく目をやったところで投げられた問いは、思いもよらぬものだった。普段歩いているときには背景と化している、特別な感情持たずになんとなく視界に入れているものたちに焦点当てる。改めてそれを眺めたところで、もちろんそこに書かれた文字が読めないなんてことはなかった。)読めます。(端的に答え、続きを口閉ざして聞く。蘇るのは出会った日からこれまでのやりとりだ。地図を読むのが苦手なこと、ひらがなが多いメッセージ、携帯端末に似つかわしくない返信の間隔、念押しみたいに乗るべきバスを問う声。しゃがみ込む彼につられるように、看板から下方に視線を移す。描かれたものを見たまま話した。)何かの記号が三つ、……二重丸と、三角と、正方形みたいに見えます。(きっとこれは、自分から見たらこんなふうに文字が見えるんだよを教えてくれているのだろう。唇を噛み、拳をきつく握る。痛みが走ってようやく、自分がそうしていることに気付く。同情から来る言葉は何を選んでも白々しく響くような気がした。結局保身みたいな問いかけがこぼれ落ちることになった。)……昼神さん、俺はあなたに大変な苦労をかけていましたか?(思い起こしたのはLINKSの文面。単にスマートフォンの扱いに不慣れで変換がままならないのかと思っていたために、こちらからは特に配慮も何もせずに送ってしまっていた。己の至らなさを恥じ入るように語尾がわずかに震えた。)
* 9/25(Wed) 22:52 * No.120

(後ろからついてくる声音が不思議そうに響く。けれど訝しむ音ではなかったことに安堵して、もう少し深度を上げて話してみようと砂に描いた三つの形。)うん。そう見えるよね。うかいくんはすぐこれが二重丸と三角と正方形ってわかるだろうけど、おれは毎回それを探り当てる感じ。……たとえばこれが「うかい」って音を示すとして、「うかい」って音をおれは知ってるし、君の名前だってちゃんとわかってる。でも、二重丸と三角と正方形がなかなか「うかい」に変換しない。(『◎』を指さす。)これを見ながら、うーん見たことあるけど、多分「う」かな? って感じでさ。で、次のこれを見て今度は「か」かな? じゃあ次は……なんてやってうちに最初の二重丸はなんだっけ? って、子供のころはひらがなですらそんな感じで。だから文章なんかになると今どこを読んでるのかわからなくなったり、漢字はほとんど読めないから全然意味がわからなかったり。(順に指を滑らせながら、幼い頃を再現してみる。障がいという言葉を使わずに、できるだけ自分の目から見た世界をわかりやすく伝えたかった。ただそれだけのつもりだったのに、降る声の硬さに気づいてはっとした。)……ち、(違う、と否定しかけて、しかし彼の問いに間違いはないことに気づいて口を閉ざした。)…うん。大変だったよ。(そして今度は肯定の言葉とともにゆっくりと立ち上がる。トートバッグについてしまった砂を払ったのち中からスマートフォンを取り出せば、もう慣れた動作を幾つか行ってからLINKSの画面を開いて見せた。音量ボタンを上げると「リンクス」と女性の声がする。二本指でのスクロール。ダブルタップ。煩雑で慣れない動きは疲れるし、今でもミスが多いけれど、)でも、きみが思ってるような苦労じゃないよ。今は便利な時代だよね。文字はこうして“聞く”こともできる。(吹き出しをタップすれば「楽しみがあるので勉強がはかどりそうです」と彼が送ってくれたメッセージが読み上げられる。)面倒だけど、面倒だな、嫌だなって気持ちよりも、いつも早く読みたくてうきうきした。きみが送ってくれた言葉の意味が知りたくて、知ったら今度は返事がしたくて、今までだったら絶対に諦めてたことができた。……それにこれなら字を書かなくて済むし、予測変換も便利だしね。…大変だけど、それ以上に自分の言葉を文字にするって楽しいな、すごいなって気持ちにもなれたんだ。(いちいち記憶の中から「う」の音を『◎』に変換して、その形を思い出しながら紙にのせる作業より一文字二文字打ったら勝手に続きを教えてくれるスマートフォンは偉大だった。もちろん打ち間違えれば誤字も脱字も多いけれど。)だからね、おれは今日までおれと話してくれたうかいくんにありがとうって言いたいし、これからもよろしくねって言いたいんだ。これからもずっと一緒に居たいから、ちゃんとおれのこと知ってほしくて。(だから今日は誘ったのだと、文字よりも多弁な口は想像以上にすんなりと自らを語ってくれた。)おれは字を読むのが苦手で、書くのはもっと苦手です。だからメッセージもいいけど、たくさん話したいとき、これからは電話してもいいかな? それで電話じゃ足りないときは、こうして会えたらうれしいな。
* 9/25(Wed) 23:58 * No.122

(砂浜に綴られた記号たちとしゃがみ込んだ彼の姿を視界に入れつつ話を聞く。静かに耳を傾けるうちに、妹が書いた幼い字を見ているような気持ちになった。鏡写しに反転した「す」に、おしまいが迷子になった「ね」、ぐるぐると渦巻く「あ」の字。愛おしい誤りたちはもうすっかり姿を見せなくなり、簡単な漢字すら書けるようになった妹が、鉛筆を握り始めた頃に紙に綴って見せてくれた自分には読めないメッセージたちを思い出す。何を思って書かれたものかわかりたいのに、なかなか読み解くことができず、悲しみと申し訳なさが入り混じって途方に暮れたような気持ちになった思い出が蘇った。彼の話すこと全部にわかります、と頷くのは不誠実だし、彼が抱えてきた荷物の重さをちょっとだけなら理解できたと考えるのも自惚れかもしれない。それでも、自分はあなたの隣にいますよ、荷物を一緒に持つ用意がありますよを示したくなる。)俺たち、便利な時代に友達になれてよかったです。ほら、スマホじゃなかったらメッセージの読み上げ機能はなかったでしょうし、もっと前なら文通とかしてたかもしれないから。(とってつけたようなポジティブは、ちょっと嘘っぽく響いてまた口を噤んだ。波音がやけに耳につく。本当の気持ちのほうを言葉にする。)今の俺、昼神さんにお手間をたくさん掛けさせてしまって申し訳なかったな、考えなしだったなって気持ちと、昼神さんが俺とのやりとりを楽しんでくれてたのすげー嬉しいの気持ちと、こういうこと打ち明けてもらえるぐらい昼神さんにとって近しい存在になれたことを喜んでる場違いな気持ちと、そんなこと考える自分のことをどうしようもないやつだなって思ってる気持ちがぐちゃぐちゃになっています。(心の中を音にして耳から聞いたら、自己本位な感情が際立って微笑みが自嘲めいた。)もちろん、これからもよろしくお願いしますの気持ちも、電話も会うのもはいよろこんでー!!って大歓迎したい気持ちもあります。(彼の隣にしゃがみ込み、目線を合わせる。)俺たち、きっとこれからたくさん話をして、もっとちゃんとした友達になれますね。京都も一緒に行かなきゃいけないし、俺の夢の話も聞いてもらわなきゃいけないので。(今度の笑みは穏やかに口の端上げたもの。声音には心からの感謝が込められた。)話してくれて、ありがとうございます。こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
* 9/28(Sat) 14:40 * No.130

(波間に届く素直な本音と気遣いと。その複雑な胸中を想えば可哀想なことをしたとも思う一方で、それは彼が自分を想うからこそ。その事実を嬉しく思うどうしようもない男がここにも一人。)…だいじょうぶだよ。…むしろ、うかいくんも、どうしようもない奴でよかった。(反省と後悔と喜びと自己嫌悪。いずれも馴染みある感情だったからちいさく笑いながら首を振る。)ありがとう。……うかいくんにね、こんな話したらどうなるかなって不安だった。やっぱりちょっと怖かったし、きみはやさしいからきっと色々悩んじゃうかな、とか……でも、不思議と、面倒くさいって思われたり、同情されたり…これで疎まれておしまいにはならないだろうな、とは思えたよ。(そして穏やかなまなざしを見つめ返した。文字が読めないのを“見えにくい”のだと思いこんだ幼少期の名残か、見たいと思ったものをじいと見つめるくせがある。)おれはこんな自分のことが大嫌いだったから、別に自信なんてなくて……でも、うかいくんの言葉は信じられたから。(彼が紡ぐ「これから」は希望があふれた明るい音だ。その瞳に映る己も自然と笑えているはず。)…ね、これもらってくれる?(そうしてずっと抱えていた重荷を下ろしたのち、紙袋を差し出した。中には細長い小箱がひとつ。深いグリーンのリボンを外せば、中には”スケルトンタイプの万年筆”が入っている。「遅くなったけど、湯呑みのお礼」と言いつつも、本当はクリスマスプレゼント兼気の早い進学祝いの気持ちも込めて。早く開けての気持ちで再び送った視線の意味を敏い彼なら気づくだろう。──ぼんやりと、こんなやりとりを前にもしたことがあると思った。しかし誰と? その答えを思い出したのは箱が開かれる前か後か。いずれにせよ、臆病な心が顔色をうかがうようなことはせず、)おれね、こないだ人生で初めて手帳とペンを買ったんだ。その時に見つけたやつでさ……すごくきれいだったし、…うかいくんとお揃いだって思ったら、使いたい気持ちになれそうだから。(今までペンは回すものだった自分が初めてほしいと思ったそれは、ガラス細工のような透明のパーツでできている。中にカラーインクを入れるのにおすすめと聞いて、サンプルと同じ海の色のインクも買ったのだと付け加える声は弾んだ。)
* 9/29(Sun) 01:59 * No.132

(自らの救いようのなさを開示したのに、安堵されるのは初めてだった。友人からの信頼がありがたく、指先にまで満ちわたるようだ。視線の力強さは決して不快なものではない。彼がくれる言葉と一緒にそのまま受け止め、自分の胸のうちにしまいこむ。もらった言葉も眼差しも、いつか挫けそうになったとき、立ち上がるための支えになってくれる予感がした。)俺の言葉が、こんなふうに昼神さんの力になれるって知れて嬉しいのと、俺は俺のこと信じられないこともあるけど、信じてくれる人たちがいるから自分を信用しなさすぎるのやめようって思えました。(彼も彼女も、己のことをこんなに信頼してくれるのに、当の自分が己を信じないのはひどく不誠実なことのように思われた。差し出された紙袋は、彼の優しさと誠意をかたちにしたもののように見える。)気を遣っていただいてありがとうございます。なんだろう、(中身が気になるけれど開けるのは家に帰ってからだと常識説く鵜飼倫央は、友からの無言のメッセージという加勢を得てあっさりと敗北する。しゃがみ込んだままリボンを解き、箱を開ける。初めて手にする万年筆は、陽の光を受けて輝く世界でたった一つの宝物となった。)…ありがとうございます。これで手紙を書いたり、日記を書いたりすると、自分とゆっくり向き合えそうですごくいいな。大事に使います。(丁寧に記された料理のレシピやでこぼこしたジャガイモの絵を描くにも相応しそうだ、となぜだか連想された夢の世界での贈り物。そこから更に想像の翼は飛躍する。二人の間を絶え間なく満たす海の音のせいかもしれなかった。)ね、昼神さん。いつかあなたと一緒にクジラが見たいです。(脈絡のない唐突な願い事だって、目前の友は怪訝な顔こそするかもしれないが笑わずに耳傾けてくれると信じている。言葉に誘われるように、波の向こうに潮吹き上げる大きないきものの影が現れたような気がした。)
* 9/29(Sun) 22:22 * No.138

(いつだって言葉を尽くしてくれる彼と対峙していると、自然とためらいはとけていく。こちらから見れば完璧と言ってさしつかえない彼が自分を信じられないというのは不思議だったが、人は誰しも悩みを抱えているものだと改めて知ったばかり。何もかもが対照的とさえ思えた彼を近くに感じて、)…おれも。不思議だね。はじめはこんなおれがうかいくんみたいなすてきな子と友達になれるはずがないって思ってたけど、きみがそうまで言う存在におれもなれてるってこと、今は信じられる気がする。…はは、案外似た者同士なのかも、おれたち。(違うから惹かれたと思ったら、近づいてみて同じところが見つかって。そうしてこれからも彼を支えに前を向けるようになっていくのだろうと晴れやかな心地に包まれた。)──うん。(贈り物は喜ばれるだろうという自信はあった。審美眼ゆえにではなく、彼は心遣いを喜んでくれる人だという信頼ゆえに。期待に満ちた瞳に急かされた手に透明の輝きが握られると、店頭で見た時よりもうんと素敵なものに見えた。)おれも三日坊主にならないよう、がんばってみる。年賀状……は、今年は出せないから、なんだろう。あ、おれも手紙書いてみるよ。(イサナのように長い手紙は書けずとも、バースデーカードに一言添えるくらいなら。そんな未来を思い描いて「うかいくん、誕生日いつ?」何気なく聞いた答えが想像以上に間近で驚く一幕もあったろうか。不思議と彼と話しているとイサナに近づけた気分になった。誰とでも分け隔てなく話ができる幼き頃の無邪気な自分に。)…え、クジラ?(そんな夢想をしていたものだから、唐突な願い事は心の中を読み取られたようでわずかに声が上ずった。以前クジラが好きと伝えたことはあったっけ。)え、と……うん。おれ、クジラ好きだから、うかいくんと見れたらうれしいよ。…でもどうして?(そして穏やかな横顔に問いながら、ふと浜辺に並んだ足跡に思い出すはもらったばかりのルームシューズ。)…本物じゃなくてもいいなら、いつでもいっしょに見られるけど。(だから彼の答えがどのようなものであれ、話の結びは一歩進んだ未来の約束。「どうかな?」とうかがう声に不安はない。だって友達を家に誘うのは、“普通”のことだと聞いたから。)
* 9/30(Mon) 02:12 * No.140


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