特別課外活動部について |
---|
>桐条美鶴
へえ、影時間とタルタロスの誕生の裏にそんなコトがあったとはねぇ。ま、そんなコトはどーでもイイんだがよ―――ところでさぁ、ナァ、ヤメたいつったらヤメられんの?この部活動。まさか桐条美鶴ともあろう聡明なお方が、戦意の無いヤツをムリヤリ死地に送り込むなんてまさかそんな卑劣なマネ、するワケねぇよな? 正直なハナシ、俺、飽きてきたんだよねぇ〜。タルタロスも、ペルソナも………この部活にもサ。元々俺は人助けがしたくて入ったワケじゃあねぇし?他にもたくさん部員が居んだから一人くらい欠けたって大差ねぇだろ。…ああモチロン今すぐヤメるって言ってるんじゃねえよ、ちょっと興味本位で聞いてみただーけ。…………で?どうなんだよ。 |
―― |
…そうだな。出来るか出来ないかで言えば出来るさ。君の言う通り、私に君を束縛する権利はない。 だがな、もし君が本当にこの部を辞めたいと言うのなら、伝えておかねばならない事がある。それは、ペルソナは”力の暴走”を起こす危険性があるということさ。一度目覚めたペルソナを”飼いならす”ということの難しさ…君達は覚醒時から難なくペルソナを扱ってきたが、実際はそんなに簡単なものじゃない。慣れないうちは召喚しても上手く制御が出来ず、逆に長い間召喚せずにいると力を発散しようとペルソナが暴れ出すこともあるそうだ。 今、君達は定期的にタルタロスという戦いの場でペルソナの力を発散しているが、それをせずに内に溜め込み続けたらどうなる…?……とまあ、こういう具合だ。私はこの戦いを”善なる戦い”等と呼ぶつもりはない。目的は違ってもいい。単なる利害の一致だとしても、私は君という戦力が欲しいし、君にとってもこの部に居る方が面倒は少ないはずだ。 他にも質問があれば答えるが…どうだ、参考になったか。 君が本気ならば止めはしない。勿論、このまま興味本位で終わる方が望ましいがな。 |
―― |
力の暴走?ハッ、なにソレ。そんなん今初めて聞いたぜ。ホーント、殊ペルソナに関するコトならなんでも知ってんだな。流石影時間とタルタロスを生み出した元凶のお孫さんだことで。…………、じゃあ興味本位ついでにも一個だけしつもーん。――ペルソナが暴走するとどうなんの?知ってんだろ、教えろよ。俺って危機感なくってさぁ、イキナリ暴走とかそんなコト言われたってイマイチぴんと来ねえのよネ。ヤメるっていった途端にこの話題切り出す辺りも都合良すぎっつか、胡散臭いし?俺としちゃあヤメさせない為の口実なんじゃねえのとか思っちゃうワケよ。 |
―― |
…別に隠してた訳じゃない。聞かれなかったから答えなかったというだけの話さ。 …まあいい。質問に答えよう。制御を失ったペルソナはどうなるか……ペルソナは君の傍を離れ、暴走する。文字通り、”暴走”だ。そうなればもはやシャドウと変わらない。…もしタルタロスの外でペルソナが暴走すれば、民家や施設を破壊し、最悪人的被害が生じることもあるだろう。そうでなくとも、飼い慣らせないペルソナは自らの首を絞める。……君の身体にも、いや、君の身体こそ危ないと言うべきか?ペルソナが暴走する際、最も近くに居る人間は君だからな。襲われる可能性は十二分にある。…そして、影時間中に起こった事は記憶の修正が行われ、適性を持たない人間にとってはただの事故として扱われる。つまり、ペルソナが暴走すれば君は不慮の事故の傍観者となるか被害者となる…そういうことだ。 ついでに教えておくと、暴走したペルソナを制御する”制御剤”というものも存在する。…だが、そいつには副作用もあってな。一時的な使用はともかく、ペルソナを封じ込める目的で長期的に使用するのには向かない代物だ。当然、辞めたいという君に土産として持たせることも出来ない。 …これを忠告と取るか脅しと取るかは君の自由だが、どちらを選ぼうと事実は思惑の外にある。身を以て体験せねば分からないと言うのなら、それも一つの道だろう。 君の選択は君のものだ。それに伴う責任もまた君のものであるようにな。 |
8月31日(影時間も迫る夜、作戦室で交わされた密談。)★ |
---|
…―――――ってワケだからよ、桐条。次の満月はー…9月5日だったっけ?その日の活動を最後にヤメさせて貰うぜ。前にも言ったケド、もう飽きちゃったんだよネ、俺。此れ以上ココに居たってつまんねえだけだしサ、…ああモチロン危険性は前にさんっざん言われたからわかってるつもりだぜ。これでも。……ヤメんのは自由なら、もう言うコトはナニもねえハズだよな。(双つの碧目の前の真紅を見据えて。真面目な話を語るにしては相変わらず其の口調は場にそぐわない明るさを持っていたけれど、如何に本気であるかは引き上がる唇に対して笑っていない瞳を見れば恐らくは伝わる筈だ。「…それが君の選択なら、受け入れよう。」どんな言葉を投げ掛けられようとただただ黙って利川の言葉に耳を傾けていた彼女が、ゆっくりと双眸を伏せては静かに声を落とした。其の声色は何処か諦めにも呆れにも似た何かが、含まれていたような気もしたけれど。許可が得られればもう此処に用事も無く、徐に立ち上がってはそのまま作戦室を出て行こうと扉へと手を掛けて――不意に、思い出したように振り返る。)ア、そうそ。召喚器と腕章は最後の活動が終わってから返すからサ。でも寮だけはもーちょい待ってくんない?予算以内の物件探すのも大変でさぁ、ま、見付かり次第荷物纏めて出て行くって。それでイイっしょ。(其れに対する返答はなかったものの、首が縦にひとつ振られれば返事は其れで事足りた。まるで何かを考え込むように双眸を伏せたままの彼女へとひらりと調子よく手を振ったのはただの自己満足か、嫌がらせか。今度こそ作戦室の扉を潜り、自室へと引き返すなり思い立ったようにホルスターに仕舞っていた召喚器を抜き取れば、ずっしりと手に掛かる重さにも、其の冷たい感触にも、もうすっかり馴染んでしまった其れを、愛おしそうに撫ぜて。)…………なぁ、マーリン。結局はお前も……、………。(ペルソナの暴走。長い時間召喚しないでいると力を発散しようとペルソナが勝手に表に出て、本能のままに見境なく暴れる事があるらしいと、彼女に言われた言葉を思い出す。何ヶ月間も共に一番傍で戦って来た筈のペルソナも、自身の化身も、長い事会わなければ なんて、彼らと何も変わらないじゃないか。それならば―――と、自室の机。引き出しの奥の奥、光の届かない場所へと其れは腕章と共に仕舞われた。 次の満月で、彼らとの関係は終わる。これまでにして来た事となにひとつだって変わらない。彼らに執着する必要だってなにもない。飽きたら捨ててしまえばいいのだ。だって彼らの代わりは他にも沢山、人の数ほどいるのだから――。) |
9月10日(同刻、作戦室にて二度目に交わされた密談の内容は、)★ |
---|
(深夜零時を間近に控えた作戦室にて、何時かのように碧と深紅の双眸が机越しに向かい合っていた。彼女をメールで呼び出したのは他でもない、以前口にた“退部”について利川なりのけじめを付ける為に。)約束通り、コレ。返しに来たぜ。(短い沈黙を断ち切ったのは利川だった。机の上の銀色のアタッシュケースを開いて、中身がしっかりと収められている事を彼女へと見せ付ける。召喚器と腕章は、確かにケースの中に。ひとつ頷いた彼女が回収しようと静かにケースへ手を伸ばした瞬間、しかし「なあ、」と其の行動を遮るように切り出したのは、紛れもなく利川自身。当初はそれを黙って見据え、彼女へ最後の別れを告げる予定であったのだが、――今は、違う。訝しげな鋭い視線が此方を射抜くのを感じながら、今一度の決意を胸に、利川は真っ直ぐ顔を上げた。其の瞳に迷いはない。)モノは相談なんだケドさ。…………再入部って、受け付けてる? ヤメた途端に戻りてえなんてバカなコト言ってる自覚はあるし、テメエの発言にケジメを付けるって意味でもヤメなくちゃなんねえのは、わかってんだケドさ。……もう逃げたくねえんだよ。仲間から、自分から、……だから勝手で悪ぃケド、もう一度俺のコト、仲間に入れてくれねえかな。此処でなら、俺の――――…見付けられるかも、しれねえんだ。(ゆっくり、一言一言を噛み締めるように言葉を紡ぐ。彼女にはきっと利川の言葉の大半も理解できなかったに違いないが、――結論として次の満月の夜からの活動復帰、再入部が認められた。それまでは召喚器と腕章は彼女へと預ける事になったけれど、再び戻る許可を得られただけ、彼女と、それから理事長には感謝しなければならないのだから。)……これで俺も、一歩くらい前進出来たかな、マーリン。……ありがとう。(だからもうちょっとだけ、待っててくれよ。心の海より出でし半身を想い、そうっと胸に手を当てる。切り捨てた沢山の声は未だ当分消えそうにはないけれど、虚空に浮かぶ三日月が穏やかに笑ったような気がした。) |
9月21日(ビニール袋片手に自室の前に佇む男の顔は、どんな色に染まっていたかー)★ |
---|
(薄暮も過ぎすっかり月が昇った頃。此の日も人手の足りない部活の補欠員として働き、ワックにて報酬という名の夕飯を済ませてから利川は寮へと帰宅した。もう何度も助っ人に入っている部活もあるしいっそ身を固めてしまおうかとも思うけれど、しかしイマイチ踏み切れないのは未だ完全には悩みを克服し切れていないのと何より3年生という学年が其れを躊躇させる。そろそろ進路についても考えなければならない時期だし、ああもう面倒な事だらけだと気怠そうに後頭部で腕を組んでは溜息ひとつ。ラウンジに居た仲間にひらりと手を振り挨拶を交わした後、階段を上り自室へと戻ろうと歩みを進め――取っ手に引っ掛かっているビニール袋の存在に気付いたのは、廊下へと目を向けた時のことだった。)――…、…アハ、(全く身に覚えの無い其の袋の中身には簡易栄養食が数個と一枚のメモ。其処に綴られたメッセージを見ては込み上げて来る感情を抑えられず、無意識に口元が緩んでしまった。当時は彼とも“あれっきり”で終わりにしようと思っていたから夏祭りの日にあんな別れ方をしてもフォローを入れる事はなかったし、てっきり嫌われたものだと思っていたから――嬉しい、と。嗚呼、今俺絶対にやけてる。鏡を見ずともわかる程抗えない強い感情に気恥ずかしさを覚えてくしゃくしゃと頭を掻く。以前だったら執着する事を恐れ、気持ちに嘘を吐いてでも彼の気持ちを一蹴りしていたかもしれないけれど――、もう“飽きた”と己の心に嘘を吐くのは、やめだ。彼が歩み寄ってくれたように、此方もそれに応えたい。踏み出すならきっと今。携帯を開き、電話帳を引き出す利川の指は、何時になく緊張していたに違いなかった。) |