8月23日(ラウンジで待ち人。大きすぎる独り言は予行演習とばかりに、) |
---|
(胸元にあしらわれた太幅のギャザーが特徴的な半袖シャツワンピースは一面がライラック色。膝上10センチでゆるやかに弧を描く裾は広がりの無いぶんちょっぴりボーイッシュなテイストで、”最後の一着を勝ち取った”付加価値により大のお気に入りと相成った。細身の二連カチューシャで額晒したうえ丹念に彎曲させられた睫毛に始まるナチュラルメイク、加えてお気に入りのワンピースと常時より5割増しで洒落こんだ装いは、数分後に控えた外出へ浮き立つ心を体現しているに違いない。毎夜誰かが帰りを迎えるソファを占領しがてらルーチンワークの如く繰り返す1、辺りを見回す。2、ポシェットの中身を確認。3、携帯メールを振り返り場所時刻の確認。の動作は傍目には不審さを思わせるかもしれない。)もう、おっそ〜い!……フツーすぎる……。待ったんだからねっ。……は腹立つし〜〜ぶっちゃけそこまで待ってないよね……。てかカワイイ待ち方ってどんなの?あれマンガの中だからカワイイんじゃないのー!?(云々。脳内演習に勤しんだ結果呟きの範疇を越えた独り言で潰す待ち時間、存外時間の経過が疾いことには気付かぬまま。) |
…誰かに見られたらサ、付き合ってるって勘違いされちゃうカモね。 |
…さぁって、と。(腕時計に視線を落とせば待ち合わせの時刻を数分程過ぎた頃合い。ぐっと伸びをしてから椅子から立ち上がり準備を整えたなら、彼女の待つラウンジへ向けて足を進めよう。二階の踊り場から一階に降りるまでなら走らずとも一分足らず程度で事足りる。そんな利川の本日の格好といえば、グレイのVネックの上に黒のシャツを羽織り、胸元には指輪を通りた銀色のネックレスを下げ、ベルトを通したジーンズは夏らしい青色といった具合。丁度階段を降り切った所で耳に届いた悩ましい声の主は何やらソファの上で練習中のご様子で、其の内容にメールでの遣り取りを思い出しては小さく笑い乍ら、ゆっくりと彼女の背後へと歩み寄り。)なーなちゃん。ゴメン、待たせちゃったカナ?(ソファに腰掛ける彼女の表情を背後から覗き込むようにして身を屈め、お決まりの台詞を告げる口には微笑を湛えて。あ、カワイイ。とは視界に映った彼女の恰好に浮かんだ率直な感想。けれど服を褒めるのは彼女が立ち上がり、其の全身を見せてくれてからでもきっと遅くはない筈だ。一先ずは、)はいコレ遅くなったお詫び。ナナちゃんの好みわかんなくってテキトーに買っちゃったからサ、スキな方選んで。(待ち合わせで遅れた数分を使って購入し、両の手に持っていたジュース缶を彼女の眼の前に翳す。ラベルには剛健美茶と四谷さいだぁの文字。言葉通り適当に買ったものだが、彼女の好みに合えばいいのだけれど。) |
照〜れ〜る〜!……ハッ、センパイのファンとかに屋上呼び出されたらどうしよう… |
うお!! もうっ、おそ〜……いこともないっ。……あはっ。でも今日という今日は待ちかねてた!(不審極める挙動繰り返してすり減らす待ち時間は体感に反してそう長くない。弄り倒したバッグを隣へ、電話機を確認するべくポケットへと手を滑らせた折、背後から顔出した待ち人への反応は可愛げの一つもありゃしない。まんまるの目の儘硬直して数秒、後続の一声は練習の甲斐無くも思う通り。――斯くして迎えた”待ち合わせ”は双眸細めて笑み湛えご満悦、起立すべくポシェットを肩へかけ―たところで、)…………え、センパイやさしー!モテ男!慣れてる!へへ、じゃあ遠慮無く〜こっち!(平時の彼の動向は分りかねるが、少なからず本日は己発案の”そーいうコト”に付き合ったが故の対峙であり遅刻であり、そも口にした”お決まり”に大した意味など篭めていないものを。ぱちぱちぱち。眼前へ翳された缶ジュースに理解が及ばずして瞼瞬くこと数度、口許を覆った両手が叫声を幾分かは遮ってくれよう。感嘆に称賛次いで実直が過ぎる感想を述べつつも四谷さいだぁ伸ばす手に遠慮は無し。更には、)あ、これめっちゃ振ってあるとかないよね?(と、如何に面の皮の厚いかを体言しつつ指先で摘んだ缶ジュースを緩やかに振ってみたりして。会話が一段落すれば腰をあげ、行こっかとの一言に続いて玄関口へ回れ右。) |
アハッ。それはホラ、ナナちゃんの有り余る魅力で黙らせちゃえばイイんじゃない? |
ふぅん、そんなにアノ映画が観たかったんだ?……それとも俺とのデートが楽しみだった? なぁんて、実は俺もちょっと楽しみにしてたんだよネ。(ふっと小さな笑いが零れたのは彼女が余りにも期待通りで素直な反応を見せてくれたからだろう。喜色満面で微笑む顔を見て擽られるは悪戯心、落としたそんな冗談っぽい問い掛けもこの手の待ち合わせでは“お決まり”のからかい文句のひとつに違いなく。)どーぞどーぞ。俺が飲みたかっただけだし、ま言っちゃえば“ついで”だからサ。…でもナナちゃんが好みを教えてくれたら、今度からソレを買って来てあげられるんだケドなぁ。(期待以上のリアクションに口の端を上げ笑う顔は上機嫌。確かに喉も渇いていたし、予定調和とはいえ多少なり待たせてしまったのだからと買った其れは彼女のお気にも召した様子。此れを律儀と言うか機嫌取りが上手いというかは受け取り手次第だろうが、さて――其の本心は利川のみぞ知る。「んー?ナニ、振って欲しかったの?」冗談に乗せるは更に意地の悪い冗談、当然振ってなどいない訳だが、まるで警戒しているように缶を弄る彼女の様子を愉快気に見ながら残った剛健美茶のプルタブを開けるのか。出発の促しが掛ったならひとつ頷き彼女の半歩前を歩いて玄関の扉へと手を掛けた所で、――)……ア。言い忘れてた。…今日のナナちゃん、スゲエカワイイぜ。(振り返り、悪戯っぽいウィンクと共にそんな言葉を落としては扉を開き今度こそ目的地へ足を向けようか。) |