11月7日(冬の色滲み始めた正午頃、「友人」と待ち合わせ)
|
(土曜日の正午、駅前は人に溢れ喧騒に包まれていた。こういった場所で人と待ち合わせをするという行為がそもそも慣れない。―これまでの人生、交友関係は最低限に抑えて来たのだから。友人なんてものは、クラスで浮かない為の道具。距離感を間違えなければ便利な物、そういう認識、だったから。其れ以上は煩わしいと、切り捨てて来たのだから。)……妙な気分だな。…友達、か。(時計覗きながら思わず呟かざるを得ない程、奇妙な迄に落ち着かない。試しに音に乗せてみた単語はそれこそ気恥ずかしさ煽り、手持ち無沙汰に頬掻いた。休日にわざわざ外出する事も、面倒だとは感じなかった事が不思議で、慣れない。白シャツにネイビーのニット、ベージュのチノパンにダークブラウンのデザートブーツ。休日ですら優等生然とした男の首元、差し色としても機能するボルドーのマフラー。―友人を待ちながら、捨てきれない物が確かに増えていく感覚を噛み締める時間は、思いの外幸福だった。)
|
休日になると流石にやっぱ人多くなるな、此処も。
|
(学校帰りに寄り道をしたり休日遊びに誘われ出掛ける事は多々あったものの、真に“友達”と呼べる存在を作った事は一度も無かったように思う。同級生も部活仲間も友人というよりは暇潰し相手としか見ていなかったし、執着を恐れて飽きたと取っ換え引っ換え棄てて来たのだから当然といえば当然なのだけれど、しかし今後もずっと続いて行くと思っていたそれにまさか終止符が打たれる日が来ようとは。)………トモダチ、…友達、ね。(メールにて何気なく呟いた一言。否定されるかと思っていたそれにまさか肯定が返って来るとは思わず、己のシャドウと向き合い受け入れたあの日から踏み出した一歩はこうして意外な形で実を結んだ。――此処でも友達は作れる。いつだかの少女の言葉を思い出しては、ずっと欲しかった存在が得られた喜びからポロッと口を零れた単語の響きが妙に気恥かしく感じて誤魔化すように頭を掻く。何処か落ち着かない気持ちは足を急がせる事で誤魔化して、到着した目的地にて彼の姿を捉えたなら「かがみん、」ひらりと緩く片手を挙げて存在を示そうか。)お・ま・た・せ〜。ひょっとしてちょっと待たせちまったカンジ? ま、なんにしても寒いしよ、とりあえず店ん中入っちまおうぜ。……もちろん腹は減ってんだろ?(思えば彼の私服を見るのはこれで二度目になるのか。紳士然とした彼の格好とは対照的に利川の格好といえば、薄手の白のニット服の中に灰色のインナーを合わせ、首元にはキーリングネックレス。下は黒のカーゴパンツとレークアップブーツとややカジュアルに。当時彼との関わりはあの夏祭りで最後となるだろうと思っていたのに、こうして再び――友人として顔を合わせる事になるのはなんだかとても不思議で、だけれど嬉く思う。首に巻かれたボルドーのマフラーはとても温かそうではあるものの、一先ずはこの冷たい風を防げる場所に移ろうと提案を落としては首を傾げる。彼の返答次第では本の虫での暇潰しを提案する予定ではあるが、果たして。)
|
…こうして見ると、皆結構休日に出かけるんだな、って思うね。
|
(思えば、彼はどちらかと云えば苦手なタイプに分類される筈なのだ。行動思考共に読み難く、実際の感情も判別し辛い。実際祭の日は声を掛けた瞬間確かな後悔が胸に落ちた。けれど。もう知っている。自身の“苦手なタイプ”が使い勝手の良さだけを基準として作られた物である事も。それが“友人”の判断基準として適切ではない事も。そして。彼の不器用な優しさも、律儀さも。一歩、踏み出せば世界はこんなにも姿を変える。其の果てのなさに怯えるのは、もう止めた。――聞こえた軽い声に自然に漏れた笑みは柔く、)…利川。いや、そう待ってないよ。それに、たまには考え事をするのも悪くないしね。(飛んだ疑問符に首を振り、紡ぐ言葉には些か矛盾生じたが、実際、体感時間は短く。)ん、そうしようか。…それなりに空いてる。朝は食べないしなぁ。(彼の提案に肯定示せば早速本日の目的地へと歩みを進めようか。―傍目から見ても両極な彼と自分であるのに、こうして共に在る事が少しだけ可笑しくて、気恥しかった。それでも、嫌じゃあない。―無事定食屋に辿り付けば防寒具外しつつ、空いていた角席に腰下ろせば、)…何だか、面白いな。利川とこういう風に話せるようになるなんて思わなかった。(と、つい先まで巡っていた思考の欠片を其の侭零した。其れは、何処か愉快そうな色すら伴う。)
|
ま、意外と栄えてるからなこの辺は。かがみんは休日出掛けたりしねえの?
|
(正直な話、つい数ヶ月前までは彼もまた不特定多数の暇潰し相手の内の一人に過ぎなかった。初めて顔を合わせた時の第一印象は絵に描いたような優等生であったし、その時点で彼は己とは正反対の人種で反りも合わないだろうと直感を持っていたが故にあの夏祭りで一悶着あってからはもう互いに話す事すらないだろうと思っていたのに――歩み寄る切っ掛けを作ってくれたのは意外にも、他ならぬ彼だった。彼の知らなかった、いや知ろうとも思わなかった温かさと思い遣りに触れてから、あれきりで関係を終わりにはしたくないと恐れを振り切り迎えた現在。彼のかんばせに浮かぶ柔らかな笑顔を見ては利川の表情も自然と解され無意識な微笑が口元を彩っていたに違いなく、その口より零れた待ち合わせお決まりの台詞を耳が拾っては「ひょっとしてそんなに俺とのデートが楽しみだった?」なんて、彼の言葉に滲む気遣いを知りつつもそんな軽口をひとつ叩いて。)へえ?意外だな、朝はきっちり食べる方かと思ってたぜ。(とはいえ栄養食を送られるほどに一日二食かつ不規則な食生活を送っている利川よりは彼の方が遥かにきちんとしているに違いないが。けれど彼の腹の具合も知れればどちらともなく足は自然と目的地へと向かい動き出し、席に着くなり耳が拾った一言に利川もまた何処か可笑しそうに、愉快気な笑みを浮かべた。)ああホント、未だにちょっと信じらんねえよ。かがみんって俺みたいなタイプは苦手だと思ってたし、…お前との関係はあの祭りの日で最後になるだろうって思ってたからサ。(だからこそこうやって今、彼と友人として話せている事が嬉しいのだと。本心を口にするのはどうにも苦手だから面と向かって“嬉しい”なんて言える筈もないけれど、想い告げる口調は柔らかく、次第に双眸は想いを馳せるように穏やかに細まっていくのだが――今一度彼へと視線を戻しては、)――それで?プレゼントは成功したのかよ、プレイボーイ。(これが本題だとばかりに机に肩肘を付いては正面に座る彼をじっと見据えて、にやり、その口元には悪戯な笑みが乗った。)
|
特に用がない限りはあまり。…利川は色々と活動的だよね。
|
はは、本当にそうかも。(―彼の冗句にも随分と慣れた。否定する事なく、くすりと愉快そうに笑み零しつつ敢えて乗じてみたりして。)…俺、結構食事は適当だよ。腹さえ減らなければ基本的にはサプリで良いと思ってるし。その点は利川より不健康かも。(意外との評に僅かに瞬き返し、そう返す言葉は苦笑混じりに。―徹底的に無駄省く性格は食事にも顕著に表れる。誰かしらが作ってくれる環境に身を置けば問題なく済ますのだが、如何せん自身の時間割くほど重視はしていない現状での寮生活。割合医薬品の力に頼った生活を続けている。―座席に着けば思わず漏らした思考の破片。同意の声の軽さに思わず自身も自然と表情和らぎ)…俺も、そう思ってた。実際、祭の日はあれで最後にしようと思ったよ。…でも、良かったな。(そうしなくて。一歩、踏み出してみて。―流石に何から何まで言葉にするのは気恥ずかしくて、明確な表現はせず。彼の指摘は的確だったから、此処も汲んでくれる事だろうと勝手な期待を寄せて、冷を呷った。さすれば、鼓膜震わせた単語に思わず飲んでいた水を噴出しかけるも何とか飲み込んで、)…プレイボーイ、っていうのは違うと思うんだけど、(と恨みがましい視線送りつつ抗議を一つ。とは云え赤み差す頬では威力も何も無いだろう。存分に視線彷徨わせた、後。)…その、利川のお蔭だ。喜んで貰えた、と思う。…ありがとう。(述べる謝辞は照れ臭そうに頬掻きながら。頭を過ぎる大切な人の姿に素直に頬緩むのを感じるも今更隠そうとも思えず、)…俺、相手に喜んで欲しいとか、正直今まで思ったことなかったから、ああいうの本当に分からなくてさ。だから、助かったよ本当に。(吐露する胸中は受容し改めて向き合い始めた悩みの一角。して、漸く落ち着き取り戻せば、「何食べる?」と疑問符飛ばそう。)
|
まあそれなりにな、…なんならオススメのデートスポットでも教えようか?
|
(あれから彼と幾度か交わしたメールの中でも見られた変化ではあるけれど、以前であれば微笑みひとつで流されたであろう軽口に便乗する言葉が返って来れば同様に愉快そうな笑みを唇に乗せて。)サプリとかって食った気しねえだろ?ま、栄養価的な面で言えば俺より身体にはイイかもしれねえケドよ。…でも腹減った時に食べるってんなら毎日タルタロスにのぼってりゃ健康的な生活送れるかもな。(利川よりもずっと不規則な彼の意外な食事事情を聞いては、紡ぐ言葉は彼の食生活を案じながらも不思議そうなニュアンスを含んで。しかし空腹になればきちんとした食べ物を口に運ぶというのなら疲労の溜まり易いタルタロスに通えばペルソナも開放できるし一石二鳥ではないかと、付け足す一言は冗談でも言うようにけらりと笑いながら。)……俺も、加賀美でよかったよ。(あの日出逢えたのが彼で。友人として関係を結ぶ事が出来て。明確な言葉でないながらも、言葉の流れから其れが何を示すのかなど考えなくともわかる。世辞の言えない彼から放たれる言葉が嘘偽りの無いものだとわかるからこそ余計に向けられる好意的な言葉が心嬉しく、普段の饒舌も気恥かしさになりを潜め返す言葉は一言が限界。男同士で何を褒め合って照れているのだと頭の中の妙に冷静な部分が突っ込みを入れて来るけれど――放った一言に対する彼のリアクションを見れば“成功”した事など言わずもがな。恨みがましい視線を浴びせられた所で其れが照れから生じるものであるという事は一目瞭然、滲み出る幸福を視界と肌で感じ取っては心からの祝福が浮かび屈託のない笑顔で笑うのだ。)俺はなんにもしてねえよ。…ケドよかったじゃねえか、お前の想いがちゃんと届いて。余計な世話かもしれねえケド、メール貰ってから実は結構気になってたんだぜ?慣れてるつったって、俺も渡す相手を本気で喜ばせてえって思った事なんてそうなかったからさ。(贈り物をするとしたら大抵それは面倒を避ける為のご機嫌取りが多く、これもまた飽きた時に後腐れなく人と別れる為に得た方法のひとつ。ただそんな碌でもない知識でも少しでも彼の役に立てたなら良かったと紡ぐ言葉は何処か安堵を含ませて。疑問符にはメニューを手繰り寄せつつ、)最近魚食ってねえし、やっぱDHA盛りだくさん定食が妥当だろうな。(広げるなり迷う素振りも無く即決し、「かがみんはどうする?」と彼へメニューを差し出すのか。)
|
………あー、…うん。……助かる…、かもしれない。
|
別に腹さえ減らなきゃ食べた気分?とか要らないかなって。…確かに。腕も上がるし一石二鳥だ。…ああでも、食費的にはマイナスかなぁ。(一般的な其れとは大きく離れる価値観は、些か理解はされ難い物もあるだろうか。それでも前向きな意見出してくれる彼に小さく笑って同意示そう。)…うん。(まさか彼からそう直接的な言葉が来るとは思いもよらず。瞬いて頷く事で精一杯だった。飄々とした彼の口から確りと苗字を呼ばれた事も恐らく初めてで、其れも言葉の真摯さ示すようで驚嘆と共に充足感が胸へと落ちた。同時に。其の言葉の後ろに隠れた言葉も、其の言葉自体も、妙に気恥ずかしくて、頬掻いてはにかんで見せる他の方策知らず。照れ誤魔化すように「何だかこれ、恥ずかしいな。」と音にしてみたりするのだけれど。――唐突に落とされた爆弾に咽なかっただけ努力した方だと思う。投げた視線すら物ともしない彼の反応にお手上げだとばかり息吐いた。)…そういうところは似てるんだな。(想定外のところで見付けた彼との共通点に思わずぽつり、零してから)正直、上手く行き過ぎて怖いくらいだ。…月並みだけど、どれだけ拙くても伝えようって気持ちが大切なのかなって思ったよ。……というか、気にしてくれてたのか。やっぱり律儀だな、利川は。(彼の暖かい言葉に応えるべく紡ぐ素直な感想は、それこそ拙く。言葉通りの気持ちを込めて、そうして漸く気が付く其の心遣いに笑って述べたけれど、また誤魔化されてしまうだろうか。さてはて。―彼の言葉と共に差し出されたメニューにざっと視線走らせれば、)…俺もそれかな。コスパ良いしね。(と学生らしいコメントと共にメニューを置いて。手際良く注文済ませれば、)…今は?…本気で喜ばせたい相手、居るの?(と、先の言葉聞いて純粋に浮かんだ疑問投げた。)
|
…あ、ひょっとしてそういうのは自分で決めて調べたいタイプだった?
|
アハ、やっぱ行きつく先はそこだよな。ケドそんな時こそワックが役に立つんだぜ、ワンコイン以下で済むしよ。…ま、身体にはスゲエ悪いだろうけどな。(現実的な問題に行き着いては己も利用している提案を挙げては見たものの、それは果たして健康的な生活といえるのか些か疑問である。その矛盾に気付いたからこそ笑う笑みに少し苦味も混じるのだけれど。)そう、だな。…そうだな。 はは、大の男が二人で見つめ合って照れてるとか、傍から見たら勘違いされちゃうカモね。やめやめ。お互い一旦深呼吸でもしようぜ。(益々羞恥が加速するのは彼の胸中も己と同じであるとわかるからこそ。落とされた一言には浮ついた気持ちを誤魔化すように彼から視線を逸らしつつ歯切れ悪い同意示し、調子よく続けた言葉はこの延々と続きそうな遣り取りから抜け出す為の非常口のようなもの。思わぬ共通点には「…だな。」と同意示すように小さく笑って相槌を打って。)……ああ、そうだな。でもそれ、わかっててもそう簡単に出来るもんじゃあないんだぜ。だからそれが出来るお前のコト、ホントにスゲエと思うよ。 …ん?そりゃあホラ、フられたら慰めてやるのも俺のシゴトだと思ってサ。(現に今だって彼の感謝を素直に受け止めるのが恥ずかしく、誤魔化しに逃げてしまうのだから。癖のように身に染み付いてしまった軽口は、今更どうしたって変える事は出来なさそうで。―――唐突に落とされたまさかの振りに、今度は利川が双眸を瞬かせる番だった。)…かがみんってば鋭いのネ。 …喜ばせてえってか、大切にしてえなって思う子ならひとり。(彼の前で隠し事なんてきっと出来やしないだろうから、観念したように肩を竦めて落とした呟きは自身でも驚いたとでもいうように、何処か呆れの様の含まれる自嘲めいた響きで。)
|
いや、寧ろ有難いんだけど、…改めて恥ずかしいというか…、うん。
|
はは、どっちが良いか分からないな。…健康にはお互いある程度気をつける、ってことで。(結果堂々巡りとなった議論は、軽く笑い簡素に纏めて了としよう。して、)…あ、利川も照れてたんだ。(ついつい零してしまった一言は余計だったろうか。只、言葉として彼から聞けた事が奇妙に嬉しく、同時に何故だか此の状況に対しての可笑しさも込み上げて。故に、其の言葉に返す笑みは軽く、何処となく愉快気に。彼の提案に頷く際も「ん。」と端的な返答と共にくすり、笑み漏らした。)…そういうもの?俺は、伝えない方が良い事も伝えすぎてしまう事も多いから、一概には言えないだろうけれど。…それはそれで、嬉しい気がするけど、お役御免になって良かったな。(想定外の賛辞には瞬き一つと共に首を傾いで。今回は吉と出たが、寧ろ過去鑑みれば凶や大凶引いた経験のが圧倒的に多く。揶揄するような言葉には思わずと云った様子で素直な感情漏らすも、1拍置いた後、くすりと笑って幸福に満ちた本音を紡ごう。)……さっき、過去形だったから、気になって。(はぐらかされるかとも思っていたからこそ、素直な返答に口唇緩ませそう紡ぐ。自身が現状そうだからと云って深読みのし過ぎかとも思ったけれど。―只、其の言葉の割りに浮かない響き感じ取れば、)…不安?……俺、相手が誰とか、分からないけど。利川なら大切に出来るって思うけどな。俺の知ってる利川なら。(律儀で照れ屋で優しい友人思えば自然、口を突いて出る想いは些か早計だったろうか。「…そういう事じゃなかったらごめん」と静かに謝罪も添えて。)
|
今更ナニいってんだよ、ラウンジで会う度にしょっちゅう見つめ合ってるクセに。
|
(――だって、慣れていないのだ。愉しいと感じた事は今までに何度もあったけれど何かに対して“嬉しい”と感じた事は此処に来てからがきっと初めてで、以前よりもずっと感情を抑え切れなくなった仮面では対処し切れずに素直に心を内を吐露してくれる彼の前ではこんなにも脆くなる。軽快な笑みに悪意など欠片も無く、其の言葉に滲む感情を読み取っては顔に上りそうになる体温を一度下げるべく小さく息を吐き出したのち、「うるせ。」憎まれ口叩きつつ笑おうか。)…―そっか。でも俺はそんなお前の言葉だからこそ、嘘がねえって信用出来るんだろうな。………俺は嘘吐くのに慣れ過ぎて、本音で喋るのは今でもちょっと苦手だからよ。(だからこそ彼から真っ直ぐストレートでぶつけられる気持ちと言葉に少しの痒さと気恥かしさを覚えるのだ。対照的に己はといえば影と向き合ってから多少は改善されたけれど、其れでも本心を誤魔化さんと口を突く軽口は治らぬまま。幼少より染み付いた癖は多分この先もずっとそれが治る事はなく、内に燻っていた悩みの片鱗を吐き出す表情は諦めたように苦く嗤い乍ら。)……………まじ、おまえさぁ……わざとなの?(如何して彼はこうもさらっと欲しい言葉をくれるのだろう。無自覚だから本当に性質が悪い。其れがからかい目的ではない事くらい今迄接して来た彼の性質と表情を見れば明らかで、今度こそ完全に顔に昇ってしまった熱を少しでも見られないようにと片手で顔半分を覆っては、早く此の熱を冷まそうと深く深く息を吐き出したのちに、)…いや、でも、………さんきゅ。 でも俺にそんなコト言えんのはかがみんくらいなもんだぜ?ほんと。(此の現状を何時まで続けるのか――其の結論は彼女が幸せになれる最善を見つけてからでもきっと遅くはない筈だ。卒業の春までまだまだ時間はあるのだから。彼の言葉をしかと胸に刻んでは、続けた言葉にはきっともう何時もの調子が戻っていた事だろう。)
|
そ、んなに毎回でもない、と思うけど…、………仕方がないだろ、可愛いんだから。
|
俺ももうちょっと嘘が得意だったら良かったんだけど。大事じゃないことは幾らでも装飾出来ても、結局一番ぼかさなきゃいけない事は出来なくてさ。…最近また下手になっている気がするけど、…でも、利川がそう言ってくれるなら、何かこのままでいいかな、って思う。(自然と口を突いて出る言葉は、幾年も幾年もたった独りで抱えて来た筈の物だった。近頃はずっと、そういう上辺だけを隠そうとして来たけれど、問題はもっと奥底にあるのだと云う事を認められたから。だからこそ、続く言葉は相も変わらず率直に)…でも利川はさ、大事だ、って思ったら婉曲でも、ちょっと誤魔化してでもちゃんと伝えてくれようとするだろ?その気持ちはちゃんと、伝わってるよ。少なくとも、俺が知ってるのは、そういう利川だ。(「まあでも確かに、ちょっと素直じゃあないけどね。…けど、逆に分かりやすいよ。」―茶化すようにそう締めて笑う表情に邪気は無い。現に今だって彼の“信用出来る”の一言でこうも胸が跳ねているのだから。――見当違いだったろうか。思わず口にした言葉に対して落ちた沈黙に瞬き一つ。然れど一見抗議のような形の疑問符が、負の感情から放たれた物でない事くらいは鈍な男にも分かるから。表情緩めて次の言葉待ち、)俺は思った事を伝えただけだけれど、それが少しでも助けになるなら、良かった。(鼓膜揺らす謝辞に漏らす笑い声は軽く。して、次いだ声には)……だって、友達、だろ?(其れを言葉にする気恥ずかしさから一瞬の沈黙。そうして、口にした単語は些か自然とは呼べない表情にて。―タイミング良く運ばれて来た料理を前に手を合わせて「頂きます」と述べる声は未だ残る照れ誤魔化すかのように、常よりも少しばかり大きかった。)
|
あは、惚気てくれんじゃん。ケド、…うん、お前が幸せそうでよかったよ。
|
ん、…お前はそのままで大丈夫だよ。自覚ねえんなら言っとくケド十分変わったぜ、お前。モチロン、イイ方向にな。(必要以上の関わりは持たなかった故に以前の彼を其れほど詳しく知っている訳ではないけれど、それでも接して来た分其の変化は多少なりわかる。彼が考えながら言葉を選んでくれている事、――それに人の利点を挙げられるのはその人物を良く見ている何よりの証明の筈だから。耳が掬った言葉にこそばゆさを覚えては無意識に指先が頬を掻く。)……だとしたら、お前ん中の俺はちょっと美化され過ぎ。わかりやすいなんてハジメテ言われたぜ…。(わかり難いと言われた事は多々あれど、わかり易いと言われた事は今までにあっただろうか。誰かにちゃんと存在を見て、理解される事の喜びは計り知れない。けれど其の思いを真正面から受け止めるのはやっぱり気恥かしくて、案の定口から零れたのは素直じゃない減らず口。――嗚呼、これでは彼女の事も言えたものじゃない。)思えば俺、かがみんの言葉に助けてもらってばっかだな。…なーんかスゲエ悔しいんだケド。(幾度彼の言葉に救われて胸の内が温かく満たされた事だろう。今だって。まるで当然のように彼が言葉を紡ぐものだから少し拗ねたように告げる口調に伴い表情も少しばかり不満気で。 暫しの沈黙の後、不意打ちとも言える言葉を耳が拾えば驚いたようにひとつ瞬いて。それとタイミングを同じくして目の前に料理が運ばれ、まるで照れ隠しのように黙々と食べ進めて行く彼を見遣れば――っふ、と、噴き出した小さな笑いは次第に大きくなっていき。)ああ、そーだった。友達だ。…友達に、なれたんだもんな。…………これからもよろしくな、加賀美。(改めて口にする“友達”の響きに喜びを噛み締める。未だ未来がどうなるのかもわからない、離れ離れになって忘れられてしまう可能性だってあるかもしれないけれど、それでも――彼とならきっと大丈夫だろうと、此の胸の内はかつて無いほど根拠もない自信に溢れて。「頂きまーす。」と利川もまた箸を取れば、盆の上に並べられた惣菜へと手を伸ばして行こう。彼とゆっくり雑談を交え乍ら、またひとつ、大切な刻の思い出を胸に刻み込む。もう二度と手放したりしない、忘れたりしない、永遠に忘れる事もない思い出として。)
|