10月5日 (中間試験の準備期間中の放課後、糸川綾の部屋の扉の横へ) |
---|
(本来の日付より何だかんだと過ぎてしまっては―ー10月6日、火曜日、放課後。中間試験の準備期間に当たるその時期に、夕暮れ時に訪れたのは3階の最も手前にある糸川綾の部屋の前。手にはチョコレート菓子の店のロゴが入った小さめの紙袋を手にして、それの置く場所に暫く迷った後に結局は扉の横に置いては退散しよう。紙袋の中身はロゴ通りに小花柄の包装紙の中身は、高級チョコとはいかぬが自身も購入したこともある甘さが控えめのトリュフチョコが数粒並んでいる筈だ。包みの傍に置かれた白いカードの表には糸川さんへという宛名があり、裏には ―ー かなり遅くなっちゃったけど、…お誕生日おめでとう。甘い物が苦手じゃなかったら勉強の合間にでも食べてください。 藤澤幸 ―ー との文字と一緒にプレゼントの箱の絵が小さく添えられている。) |
11月15日(午後、帰り着いて早々に向かった先はキッチンと二つ隣の部屋) |
---|
(本来の日付から遅れること3日、日曜日。修学旅行前の買出しを終えて寮に戻ってきた糸川がまず赴いたのは、自室――ではなく別館のキッチン。より正確に言えばその隅に備え付けられた冷蔵庫の前だった。共用であるが故に雑多な食材が詰められた中を覗き込んでは一瞬動きを止めるも、比較的空いている場所にどうにか広めのスペースを確保したなら、抱えた荷物の中からクリームイエローに箔押しでロゴが入った長方形の箱を取り出して置く。念のため「藤澤さんへ HappyBirthday」とカードを添えておけば他の誰かに間違って開けられる心配もない筈だ。準備の第一段階はこれで整ったと一人で満足げに頷きながら、次いで向かったのは己の部屋の隣の隣。休日、しかも今の時間では本人が在室しているか怪しいとの理由もあり少し思案に暮れてから「冷蔵庫の一番上の段。生ものだからお早目に。 糸川」と簡素に書き記したメモをドアの隙間に挟み、これまた満足げにひとつ頷いて漸く自室へと帰還を果たそう。さて肝心の箱の中身はといえば、正方形のショコラケーキやフランボワーズのムース、小ぶりなフルーツタルト等が整然と並ぶ、所謂プチフールの詰め合わせである。要冷蔵に加えて食べ物に食べ物で返す安直さを誤魔化そうと回りくどい手段を取ってはみたものの、果たして彼女に喜んで貰えるかは分からない。それでも誕生日を祝いたい気持ちだけは伝われば良いな――なんて。少しだけ照れ臭い気持ちを抱えつつ、気怠い昼下がりは過ぎていった) |