(奇しくも台風により中止となった月光祭の名残も落ち着き始めた週明け一日開いた火曜日の三時間目終了直後。教室移動と授業準備のために設けられたこの時間ならば活動的な彼女も教室にいるだろうと見当付けた徳永の足先は迷うことなく2年C組へ向かっていた。――数日前に貰い受けたメールを引き金とした行動と言う訳ではないけれど、機械的な文字列にすら滲む明朗な姿が脳裏へ過り思わず一人、笑みを零した事は未だ記憶に新しい。加えて昨日、休み明けだからと赴いたモールで目に留まった其の色が余りに彼女を思い出させたものだから、)ごきげんよう、…立平さんいらっしゃるかしら?(何せ基より年下だらけの此の学園。入口付近に佇むC組生へ臆する事無く声掛を掛け彼女の所在を確認したならば、生徒の示す先に佇むだろう彼女の基へと歩み寄り、)こんにちは、立平さん。……ほら、メールで飛びつくなんて話をしてたでしょう?だから、つい来ちゃった。(「ごめんなさいね」と添える一言は然し悪びれず穏やかな笑みと共に放たれた。とは言え限られた休憩時間、貴重な彼女の休みを奪う訳にはいかないと早速本題に入るべく小さな袋を彼女の前へ差し出した。)お誕生日おめでとう。…直接伝えるまで随分と時間がかかっちゃったわ。……あのね、見た瞬間にね、立平さんに似合うんじゃないかしらって思ったの。…大人でセクシーからは少し……遠いかもしれないけれど、今の可愛らしい君を大切にしてね。(彼女へ贈る包みの中身はワンポイントの黒いリボンが目につき千鳥格子の化粧ポーチ。白と黒のシンプルな姿は語る言葉とはまるで裏腹な印象を彼女へ与えるやもしれないが、どんな反応返ろうと浮かべる表情はただ微笑。足早に廊下を行く学生の姿に、差し迫った休憩時間の終了を悟ったなら最後にもう一度祝辞を告げ、自分も急ぎ教室へと舞い戻ろう。――さて、空のポーチにしては少しばかり質量を伴う其の存在へ彼女はいつ違和感を抱くだろうか。ひょっとすると初めて陽の目を見るその日。ファスナーを開けた先に鎮座するオレンジのグロスリップこそが本命の贈り物。身に着けたベストの印象か、どうにもピンクのイメージが強い彼女だけれど同時に太陽のごとき印象を抱いていたものだから。階段を上る傍ら、ちょっとした悪戯心に一人肩を竦めた女は静かに笑う。快活な言葉紡ぐ唇に暖かな陽だまりがさすその日を思いながら、)
|