5月3日(日も暮れ始めた夕暮れ時、大きな影がひとつ。) |
---|
(そうだ、公園に行こう。――時は日曜の夕方頃、うたた寝から覚めた瞬間唐突に思い立てば、そこからの行動は早かった。特に用事が無ければしたい事も無く、学生寮から散歩感覚でひたすらに歩を進め、そうして辿り着いた長鳴神社。朧げながらも幼い頃に訪れた記憶があるその場所の景色はなんとなく好ましくて、小さいながらも複数の遊具が並ぶ公園に足を踏み入れたのは何年振りになるだろう。昔は登るのに必死だったジャングルジムも今となれば小さく感じ、試しに軽く足を引っ掛け手を伸ばせば数秒と経たない内に頂上へと辿り着いた。けれども頂上の隅に腰掛けて見渡す景色はなんとなく懐かしい気がして、膝に頬杖をつきぼうっとそれを眺めていれば――うつらうつらと舟を漕ぎ、薄れ始める意識。やがて何の抵抗もなくかくりと項垂れては、子供の遊び場を占領した大の男の図が完成していた。) |
ジャングルジム鬼ごっこなら私負けない!ちょう強いかんねー!? |
(天高い陽光の眩しさにうっすらと目を開け穏やかなまどろみに身を委ねる心地よさだとか、あれこれ悩んだ末最終的にコイントスで決定した私服だとか、時間をかけたきちんとメイクなんてものは休日故に楽しめよう。出掛け際には念押しのビューラーを忘れずに街へ繰り出し―と、既にテンプレート化した余暇は今回とて同じく、朝食兼昼食を済ませウィンドウショッピングに食材の買い出しを済ませた散歩がてらの帰り道。夕焼けに染まる神社と遊具らに不思議と蘇る童心が懐かしげに目を細めさせたところで、)あ、児玉くん。……児玉くん!?(懐かしいなあと幼心を蘇らせるも数秒のこと、頂点に座す男に覚えあらば声漏らすも、ゆらゆらと船を漕ぐ様にぎょっと目を剥きすぐ近くへと駆けよって、)ねむい?てか寝てんのかな?ねね、落ちたら危ないから寝るならこう、…ベンチとかさーっ!?(右手にビニール袋、店の名がプリントされた紙袋を左手に引っさげて天仰ぐ。返答を待つ相貌は顰めっ面に近しい。) |
ジャン……鬼……?おれはかくれんぼ強いよ。ちょう強いから。 |
(沈み始めた意識の外で、ぼんやりと声が聞こえた気がした。その響きはまるで自分の名を呼ばれているかのように感じたものだから、気のせいだろうと予想しつつも気怠そうに瞼を持ち上げ――それと同時に、続いた声ははっきりと耳におさまる事だ。賑やかな声、なんとなく見覚えのある顔、初対面ではなさそうな口ぶり。けれども生憎とその正体は思い出せなかった。)……ねむいけど今起きた。おはよう。ベンチで寝るのは固いからやだな。(頬杖をついたまま不機嫌そうに見える彼女を見下ろして、眠たげな声をその場に放つ。けれどもその両手に下がった袋の存在に気が付けば、「あ」と一瞬にして目が覚めたかのように声を漏らして。腰を持ち上げひとっ飛び後に無事ジャングルジムを降りたなら、そのビニール袋めがけてつかつかと歩み寄るのだ。)これなに。食べ物?(料理するの?――表情の色のなさは変わらずとも、やや好奇に満ちたその問いは確かに彼女へ向けられた。そういえば今更腹が減って来た気もする。その瞳は明らかに、“おすそ分け”を狙っているようなものだった。) |
ジャングルジムでの鬼ごっこ〜。私それちょう弱いよ。オススメ隠れポイントとかない? |
起こしてごめんっ、おっはよー!降り…え、(出かけ際には天高く位置していた太陽も鮮烈な橙色に色を変え位置も地平線へと近づくころ、張り上げた声は彼の元へと通ったらしい。未だ深く刻まれた眉間の皺は彼の背に位置した橙に起因し―つまりは眩しさに顰めっ面呈しながら、眠たげな声への返答は顔と反して明るいものだ。降りておいでよと声発した直後だったか、天辺から軽々と飛び降りたその様に思わず「おお〜!」と漏らした感嘆の声に続き、)児玉くんちょー運動神経良いね。チア向いてっかも。うん、こっちは買い物でね服とか買ってね、こっちは晩御飯とかの材料とお菓子とかね、買ってきたよ。(交互に紙袋とビニール袋を持ち上げ本日の収穫を報告する声は楽しげに、見上げた瞳に映る色には思い当たるフシがあった。にいと口端持ち上げ笑み呈し、持ち手を手首へ通した左手は人差し指一本を立て、右手に引っ提げたビニール袋を背後へ移動させて)さて問題ですっ。今日私が買ってきた材料で、何を作るでしょうか!ヒントはね、2日目がオイシイ定番もの!正解者にはシュークリームが贈呈されま〜すっ。(首を傾げ返答を仰ぐべく視線向けて、) |
うーん。隠れポイントっていうか、どれだけ気配を消せるかかな。 |
チア?男にもそーいうのあるっけ。(ジャングルジムから降りた途端振られた言葉に緩く首を傾げるも、男にとっての本題はそれに続く単語だった。その手荷物から買い物帰りだとは一目瞭然であるけれど、肝心はその袋の中身。服に関してはうんうんとお座なりな相槌を重ねて、次いだ“晩御飯の材料”と“お菓子”には興味津々といった様子にて耳を傾ける。そうして彼女が子供のような笑みを浮かべた後に告げた問題には、呆気にとられたかのようにぱちりと瞬いた後に――やや真剣に思考を巡らせるのだ。)二日目が……わかった、カレーライスだ。間違っててもシュークリーム半分くらいは贈呈してほしいな。(少ないヒントから浮かんだ料理名を口にするも、シュークリームとの大きな景品のお陰で正解か否かが気になって仕方が無かった。とは言え不正解であったにしても、実際に今晩彼女が作るであろう料理自体にも興味があるのだから然程気にはしないだろう。)何か作るなら、おれも手伝おっか。たまねぎ刻むのとか得意だよ。(半ば一方的な押し付けではあるけれど、そうして手伝いを申し出る事によりつまみ食いを狙う計画が頭の中で出来上がっていた。) |
高度?なテクだね……。それって喋んないようにするとかは当たり前すぎ? |
男子チア。……ってどっかで聞いたことある気がするよねー?私も詳しくないんだけどさっ。(とまあ返答は簡単に、突如始まったクイズゲームの返答待つ間は丹唇擦り合わせ目を細めるといった双眸で、流れた沈黙のなか瞬きを前にしてその笑みは深まるばかりである。天を向いた一本指をゆらりゆらりと左右に動かしながら、発された答えは勿論、)おっ。正解〜!やっぱカレーは2日目がオイシイ!って言うよね。一回作れば結構保つかなって考えると楽だな〜って思うし、あとはカレーって失敗しないじゃん?(両手を垂直にしぶら下げた袋を肘まで移動させたうえ拍手を送ったのは些か大仰に見えるかもしれない。)え、ホント?ちょー助かる!じゃあ帰ったら一緒につっくろ〜。てか児玉くんいつも自分で料理とかしてんの?(保つから楽だの失敗しないだのと並べてはいたもののさほど慣れぬ料理には時間がかかる。願ってもない申し出にパンと両掌合わせて目を輝かせるも、即時浮かんだ素朴な疑問を向け如何を問おう。)あ、てか立ち話も何だし、シュークリーム食べたいしベンチ座ろーよ。あれあれ。(視界の端に映ったベンチ指差して、一足先に移動終えては片側に紙袋、膝上にビニール袋を載せ目当ての菓子を探すべく袋の中をまさぐりがてら、彼の動向を見送ることとして。) |
うん、当たり前すぎ。……ていうか、誰に向かって喋るの? |
男子チア……。おれは聞いたことないかも。やっぱりチアはガールでしょ。(男子と言えばチアよりも、熱気に満ちた応援団が浮かぶものだから。率直な感想を零しながらもクイズの正解を待つ目には僅かに期待の光が宿り、そうして送られた拍手には満足気に口元で笑んで見せた。)よかった。すげー苦労してる感じの拍手だね。……普通に作ってたら失敗はないけど、アレンジとかで色々混ぜまくったらたまにすごいマズいの出来るよ。冒険はあんまりよくないかも。(器用に拍手をして見せた彼女に対してもくすりと笑みを落としつつ、苦い体験談を織り交ぜるのは“失敗したカレー”の味を知っている為だろうか。とは言え普段通りに作れば問題は無いだろう、手伝いの範囲でも足を引っ張る事は無さそうだ。)普段は外食だけど、たまには作るよ。カレーなら手作りの方が美味しいし。そっちは、料理はお手の物?(きっちりと材料を買い揃えて来るあたり期待が出来そうだと、同じく質問を返そうか。して彼女の指し示したベンチへ場所を移し、その隣へと腰を降ろせばふと思い出したようにポケットの中を軽く漁り、)そうそう、おれもあるよ。お菓子。(そんな言葉と共に取り出したのはいちごみるくのキャンディ二粒。たべる?小さな問い掛けと共に、片方を彼女へと差し出す事で。) |
ですよね〜…。………ほら、えと、一緒に隠れたりとか近くに隠れてる子に…? |
ねね、ここにチアガール居るよ。ポンポン持って応援しちゃうよ。児玉くん部活とかやったことは?(歴は浅いが所在を主張するごとく人差し指を己の胸元へ向けながら、ふふんと口角持ち上げて告げる様子は得意げだ。そういえば今は部活入ってなかったんだっけと、幾度か耳にした情報を思い出し疑問は過去へと遡る。だってあんまり軽い身のこなしじゃん?と付け足しがてら、)下に置くのはちょっとヤダかなって思って……へへ。アレンジってどんなの?カレーにハチミツとかりんご入れて〜みたいな?(微笑みに対し照れ隠しの笑みを付しつつ、無難を愛し(勉学を除いては)教科書に従順な女であるから、アレンジや冒険との単語には興味津々だ。聞いたことある程度のアレンジ方法をたとえに出しながら例を問いつつ、)普段は外食って……もしかしなくても児玉くんお金持ち?バイトしてるとか?私はね、そこそこだと思うよ。めっっちゃくちゃ美味しいのも作れないけど、そんなに失敗しないみたいな。レシピ見ながら作るしブナンなカンジ。(カレーは外箱に作り方書いてあるしねと引っさげたビニール袋の中を指差して。そうしてまさぐった袋の中から無事2つがパッキングされたプラスチックの小箱を手にしたらば、ばりんと音立てつつ隣に位置した彼へひとつ差し出しがてら、)お、わたしいちごみるくの飴ちゃんスキ〜。食べる!交換こね!(差し出されたそれを受け取り、ひとまずはスカートのポケットへ滑らせ、上からポンポンと二度叩き所在確認といこう。片方のシュークリームをつまみながら思い出したような一言は、)これね、カスタードと生クリームのツインシューなんだよ。私はツインシューでパイシューのがスキなんだけど、その辺は一応カロリー考えたよね。 |
……オススメ隠れポイント行っても、それじゃ見つかるかな。 |
……あ。チアなんだ。ポンポン今は持ってないの?あれ抜け毛すごいよね。部活はしてないけど、おれ体は結構やらかいよ。(チアガールと言われてまじまじと彼女を見詰めるが、実際その姿を想像出来た訳でもなく認識のみ改めておくに留めた。過去の部活歴は無いながらも昔から柔軟性に優れた体だけは自慢だと、小さな微笑みは少し得意げに。定番のアレンジには軽く頷きながら、ふと声のトーンを落としてこそりと最後に囁いた理由は推して知るべし。)はちみつはいつも入れてるかな、りんごはそのまま食べたいけど。ちょっと冒険するなら、コーヒーの粉とか野菜ジュースとか入れるのもあるよ。……でも、紫の野菜ジュースはあんまりよくない。(そんな苦い過去を振り返りつつも、料理の話を人とするのは随分と久しい気がして柄にもなく上機嫌は続く。率直な問いに対しても紡ぐ言葉に迷いはなく、堕落した生活を自覚した開き直りは中々に問題だろうけれど。)うん、そこそこお金持ち。スネかじって生きてるからね。普通に作れるならいいな、これからどんどんうまくなりそう。……何か多く作りすぎたりしたら、おれにもちょーだいね。(レシピに忠実なものが作れるなら、経験を重ねていく内に料理上手になりそうだと今のうちから期待を寄せておくとして。 “交換こ”にしては随分と価値に差がありそうだけれど、飴玉を受け取った彼女を満足気に見た後にこちらもシュークリームを受け取って、短いお礼のあとにまずは一口――かぶりつく、その前に。突如として振られた女の子らしい言葉には、ちらと視線を寄せて、うーんと一考のちに。)普通のツインシューのがお値段も控えめだしね。……でもおれもパイシューのがすきだから、今度はそっち食べよっか。チアがんばったら、カロリーもすぐ消費できるよ。(女の子だなあ、なんて感想は心のうちに秘めながら。今度こそ大きなそれにかぶりついて、僅かに頬を緩ませた。) |
………。隠れマントみたいな、そういうのあればいいのにね。ムテキだよ。 |
今は持ってない!すずらんテープで作ったポンポンね!抜け毛マジスゴイよね!前にさ、ふわっふわにしたくって櫛で梳いてたらもうすんごいの。櫛が細〜いすずらんテープだらけになっちゃったことあるよ。へー、身体やらかいんだ!じゃあそだな、立ちブリッジとか余裕?(彼の言う状況に覚えあらばそうそうと強く首肯重ねながら、体験談を織り交ぜた饒舌な語り口調は身近な話題故か。感嘆の声漏らし足先から肩先まで視線泳がせつつ、好奇を織り交ぜた問い向けながら、)ふむふむ。はちみつとりんごと、コーヒーの粉!野菜ジュース!?マジか知らなかったー!……紫の野菜ジュースってぶどう味のやつだよね?へー……そっかぶどうはダメか。スキなんだけどな〜…(指折り数えつつ素材繰り返すが、耳慣れぬ2つを繰り返す様からは分かり易い感嘆が伺えよう)アハハ。高校生はまだほとんどみんながスネかじり虫〜だよっ、私もスネかじり虫。うん勿論!児玉くんに味見してもらって料理の腕上げるとしよう、児玉くん好きなご飯はなんですかっ。(想定外の文言に軽い笑いを付しながら、続く表現は耳に残る某メロディに乗せて。企みめいた笑み深めながら了承すれば、マイクを模った左手を彼の口許に寄せながら)それね。カロリー高いものは大抵オイシイよね。ケーキとかさ。ハンバーガーとかもね。……うん、児玉くん優しい……私ダイエット頑張るよ……(同意示すよう数度頷きながらシュークリームに向ける視線は恨みがましげな其れだが、彼に続いて齧り付いてはおいしいとの感想を伴に破顔呈した末、「明日からね……」と。続けた一言は弱々しい。) |
ムテキだけど、結局何もない所に声だけ聞こえて来たらさ。ブキミだよ。 |
そうそう、そんなやつ。あれって櫛で梳くのも楽しいけど、抜けるとほんとに切ないよね。……立ちブリッジはしたことないかも。開脚して床にぺたってくっつくやつとか、すごい得意。(地味だけどね。最後にそう付け加えつつ、立ちブリッジはまた別の機会にでも挑戦しようと暇潰しの候補として頭に入れておいた。)コーヒーの粉はわりと有名だと思うけどな、味がまろやかになるとかで。失敗しない程度に試してみる?(折角カレーを作るのならと、新たな提案を出したのは彼女の反応が新鮮だった事にも起因している。それから単純に美味しいものが出来た際の反応も見たかったからだ。実際に挑戦するかは勿論おまかせだけれども、緩く笑んだ児玉が比較的乗り気であるとはその表情から察しやすいだろう。)……っはは。いいな、スネかじり虫。あんなかわいいものでもないけど。好きなご飯はね、いっぱいあるよ。丼ものとか、定番ならオムライスにハンバーグとか。麺類もすごい好き。魚はあんまり。(覚えのあるフレーズに思わず破顔しながら、かじり虫を肯定して。差し出された手に向けてはあまり参考にならない複数の単語を告げるけれど、最後に零した“あんまり”はどちらかと言えば避けたい部類に入るものだった。とは言えどんな料理でも恐らく嬉しい事に違いは無いだろう、その機会が本当に訪れることをそっと期待しつつ。)……うん、確かに。ハンバーガーとかさ、おれてりやき風味が好きだから、尚更カロリー高くて。ファミレスのメニューでカロリー表記とか見るとさ、たまにびっくりするよね。(特に体型を気にした事は無いながらも、自身の摂取カロリーに瞠目した過去を幾度か経験していた為に。同意を重ねるついでに「残飯処理ならいつでもするから」と励ましになりそうにない上に児玉しか得をしない余計な一言を付け足して。けれども女の子のダイエットは基本的に意志が弱いものなのか、定番の“明日から”のフレーズに苦笑したのは言うまでもなく。さて彼女がシュークリームを食べ終わった頃合いにごちそうさまと一言添えて立ち上がれば、その流れで食材の入ったビニール袋を持ち上げて。)ダイエットは明日からだし、今日は美味しいカレーいっぱい食べよ。(そんな誘い文句と共に軽く笑みを浮かべ、彼女も立ち上がるよう促そう。さて、二人で作るカレーの味は果たしてどうなるものか。久し振りに、心が弾む心地がした。) |