12月20日(14時の10分前、何処となくそわそわしながら待っているのは―)
|
(――唐突に底知れない絶望と選択肢を突き付けられてから、もう一月以上が過ぎた。事情を知る者以外にとっては何の変哲もない日常が続いているだけで、其れは何とも言い難い感覚だけれど、そんな自分も何だかんだと表面上は滞りない学校生活に流されていた。其の最たるものが世界の滅亡とは関係なく訪れるのが学生の心を滅亡させかけるテスト期間。半泣きで必死にテスト勉強をしていると、むしろ世界の滅亡の方が夢なのではないかという感覚に囚われる事もあった。ともあれ憂鬱なテストも優秀で頼もしい同級生たちの助けにより如何にか乗り越え、迎えた本日。テストを終えた昨夜、クローゼットを引っ繰り返しながら選んだ私服。ベルトをリボンで結んだベージュのトレンチコートの下にはダスティピンクのケーブル編みニット、それにグレンチェックの台形ミニ丈スカート。もちろん薄手の黒タイツを履いて防寒もしっかり。靴は歩きやすいように5cmヒールでグレーのファー付きショートブーツ。未だ長めの爪にはピンクと白のフレンチネイルが輝いている。其れを見ていたいがために手袋は嵌めていない。また、普段は下ろしてばかりの髪も緩めのハーフアップにアレンジしてみて。そんな格好で巌戸台駅の広場の辺りをうろうろしながら、白い息と共にぽつりと言葉を吐きだす。)…この格好、ちょっとぐらいお腹出ても目立たないよね…?(なんて自らの腹の辺りにちらっと視線を落としたりもして、彼女の姿が見えるのを待っていようか。)
|
外で待ち合わせするなら、やっぱり春か秋ですね…
|
(藤澤幸の脳内処理に耐えうる許容量を大きく超えた情報量を前に如何にかそれを幾度も噛み砕いて噛み砕いて、少しずつ頭に流し込む作業を行う日々の傍らで、それまでと変わらぬ日常が続いてしまえば思っていた以上に大きな問題と日常の小さな問題が混同する事は無かったのは、それこそ単純構造の頭のお蔭だろうか。無論、重大なそれにも嗜好が思考の道筋を常に示してくれているからでもあるけれど。兎にも角にもクリスマスを直前に控えた時節に並行的に物事を考える事のないそれは目前の試験問題で頭を一杯にして、先日漸くそれから解放されたばかり。今回の手応えとて毎度の如く平均前後を行ったり来たりといった予測が付くところだが、本日ばかりはその頭が占めるものは目前の楽しみに違いない――黒のハイネックの上に膝下辺り迄の長さの茶色と白のチェック柄のワンピースを着て、足元は黒タイツにヒールの無い濃茶のショートブーツ。といっても普段から着ている灰色のダッフルコートを確り羽織り、首元に白のマフラーをぐるぐると巻いている今見えているのは足元だけで、髪型も顔も変わらぬが故に普段と変わり映えのしないそんな姿で駆け寄ったのは、白い息を吐いて待つ彼女の傍。)す、…すみません…お待たせしました(辿り付いたのは5分前とはいえ彼女を待たせたことへ真っ先に頭を下げてから、上げた頭が普段とはまた違った印象を与える彼女の髪型を見れば、少し眦が下がる。クラスメイトの彼女だとか目前の彼女だとか細かなお洒落を見ると未だ参考にという意欲よりも単純に賞賛の其れが湧いてしまう所為か、あまりじろじろ見るのは悪いと思いながらも、)その髪型、とっても可愛いです。服もお洒落で……すごいな、(彼女の姿を見詰めながら最後は最早単なる感嘆として小さく紡いでは感嘆を漏らす。そうして息を吐いてから視界の隅で寒いと嘆く人の影が見えたのならば、思い出したように彼女に視線を合わせて、「行きましょうか」なんて声を掛けるのか)
|
夏は汗だくだくになりそうだもんね…!冬は好き?
|
(――時折ふうふうと息を吹きかけて手を暖めながら、ちょっとくらい寒くとも人を待つ時間は何時だって楽しいもの。今日はまだ返されていないテスト結果はもちろん世界の滅亡や死などの間近に迫った暗く悲しい事には蓋をして、思いっきりはしゃいで楽しい思い出を作ろう。そうして駆け寄ってくる彼女の姿が見えたなら、先ずは走って転ばないだろうかと心配そうな顔浮かべ、)えっ、全然待ってないよ…!大丈夫!私が早く来すぎたんだし、まだ5分前だし…!(広場の時計で時刻を確認すればまだ時間に余裕がある。其れなのに申し訳なさそうに頭を下げる謙虚な彼女にふるふると首と手を振って返した。普段と変わらず丁寧で可愛らしい彼女を見ていると微笑みが零れて。コートの下にはどんな私服を着ているのだろうか―と、つい気になってしまう。目が完全に彼女の見ていた為か、己へ向けられる視線にはあまり気付けなかったようで。)そ、そんなこと…でも嬉しい、ありがとう!でも藤澤さんと初めて一緒に出かけるから、張りきっちゃった。(そんな風に真っ直ぐな言葉を貰うのはもちろん嬉しいけれど気恥かしくもあって、そわそわ視線を彷徨わせながら照れ臭そうに笑う。彼女が来てからは寒さなど忘れていたのだが、声を掛けられたところで現在の季節を思い出す。「行こう!」と弾むように彼女と共に歩き出せば、暫くして「小豆あらい」という看板が見えてくるだろう。そして看板と一緒に表に出ているマスコットをまじまじと上から下まで観察し、)おおー…すっごい、何か甘味処って感じで…和風だ!でもこのマスコットは何処かで見た事あったような…。藤澤さん、分かる?(と首を傾げてみる。だが何処で見た事があったのかは思い出せない為に彼女にも問うてみるのだけど。――其れに何かしらの反応があったならば、改めて店の入り口に視線を投げて。「甘味なら、餡蜜とかみたらし団子あるかなー。」なんて期待に胸を膨らませながら、二人で店の中に入っていくのだろう。)
|
好きです。寒いけど、…なんだかそれも楽しくて。真壁先輩は?
|
いえ、真壁先輩を待たせてしまったことには変わりないので…。…でも、ありがとうございます(時間内とはいえ寒空で待たせた事実が変わらぬのだから下がり眉の割には確と発される声が否を唱えて、続く言葉の声音も堅いものとなろうが、眉間に皺が寄る前に幾らかの間を経てその力みを解いて彼女の気遣いに感謝の言葉を述べると、これ以上後に引かせる事も無くなるのだろう。世辞の類の意識も無く賞賛がそのまま口を衝いて出たものに返された反応には此方もつい微笑が浮かび、彼女の言葉で胸中には喜色に染まる。)そう言ってもらえると、とても嬉し…その、光栄、です。あっ…私は、あまり普段と変わりませんが、今日のことは…すごく、楽しみにしていたので(嬉しいよりもより近い言葉を探しては言い慣れぬ単語が少しだけ片言めいた調子で飛び出せど、細めた双眸と共にその箇所を除いては円滑に音となり。ファッション面で努力の足りない自身の容姿を思い出し慌てて其方への補足も加えることも欠かさずに。――店頭に立てば真っ先に目に留まるそれは彼女とて例外ではないようで、同様に視線を落として懐くものも似たものであるよう。何処か既視感を覚えることには頷きながらも、傾げた小首は答えの無さを示そう)…私も、そう思いながらいつも見てるんですけど…どう、なんでしょう。ああでも、ここは私としては…美味しいと思います(和とは対極の洋菓子の店のあの特徴的なキャラクター等が浮かぶが確信は持てぬが故に、答えの出ないむず痒さを神妙な顔付きで伝える。それでも何度も訪れたことのある店に対しての味に話を移せば、自分の感覚でという限定は置きながらも肯定的な意見を伝えておこうか。)後は…寒いのであったかいお汁粉とかも、良いと思います(彼女の言葉に頷きながら新たな単語を加えつつ店の中に入れば、空いている席にコートを脱いで纏めてから腰かけようか。席に在るメニュー表を彼女が見やすいようにと其方に向けながら、)…今日は、夕飯も何処かで食べて行きます?(と尋ねては、彼女の反応を窺おう。甘い物は別腹を地で行くお腹ではあるけれど、彼女の返答次第で此処で食べる物を調節しようとの意図があっての問いは、彼女の思案の邪魔にならぬよう控えめに)
|
分かる…!クリスマスもあるし年越しそばもお餅も食べられるから大好き!
|
ほんと?ありがとう!そんな事ないよ…!でもコートの下はどんな服なのかも気になってる…!(同じく言われ慣れぬ単語を受け取れば、照れはしても満更ではない様子が分かりやすい。其の後の補足については首を振りながらもちゃっかり本音を紛れ込ませて。通常比で減らしてきたお腹を軽くぽんぽん叩き、いざ目的地へ。――如何やら彼女も似たようなデジャヴは感じているらしいが、正体までは分からないらしい。とはいえ本日の目的はマスコットの徹底調査ではなく彼女と楽しく美味しく食事を楽しむ事だ。)…だよね、やっぱり何処かで…。ま、とにかく美味しければマスコットはあんまり関係ないよね!藤澤さんのお墨付きなら安心だよ。(神妙な面持ちにつられて己も妙に真剣な顔になり、ずっと店先に出されているという事は取り敢えず問題も出ていないのだろうと解釈して。味の心配は今日まで全くしていなかったが、彼女の一押し発言により心配どころかまだ見ぬ甘味等への期待値がぐんぐん急上昇。)うんうん!甘くて暖かいお汁粉恋しいねー、飲みたい…。(彼女の絶妙な一言によりリアルに想像されたほかほかのお汁粉が、真壁の絶対食べるものリストに新たに追加された。己もコートを脱いで近隣に置いたのだが、顔を上げてすぐに目を奪われるのは彼女の服。)あっ、可愛いー!そのワンピース、柔らかい雰囲気で…藤澤さんっぽくて、すごく似合ってるよ!(目を大きく見開き、感動したように彼女の格好に暫く見入った。寮では見ても部屋着のようなラフな格好の方が大半の事もあり、彼女のお出かけ用の私服を間近で見られた事に舞い上がってへにゃりと顔が綻んで。其れからメニューを見られたなら、視線は其方に移るだろう。)まずは抹茶の餡蜜、みたらし団子、お汁粉、他には…そうだ、藤澤さんのお勧めとかあれば教えてくれる?(と食欲に完全降伏でメニューを嬉々として目で追いつつ、常連らしい彼女に質問してみたり。其の後に続いた提案には名案と言わんばかりに瞳輝かせて大きく首肯。)いいねそれ!そうしよう!甘いもの食べたらお夕飯も絶対食べたくなるもん…!この辺りだったら、はがくれとかわかつとか海牛とか…かな?(そう指折り数えて知っている夕食に適しそうな店を片っ端から挙げてみるのだけど。しかし先に口にしたメニューからも先の見通しが甘いのは明らかだ。)
|
食べたい物ばかりで…気付いたら食べてばかりいるのが冬ですよね。
|
あ、ええと、でも、お墨付きとまでは……その、先輩のお口に合うことを願います(店の味を不安視する気は無いが、自身の感覚が判断基準のそれを太鼓判を押して勧める自信は無く、ぼそぼそといまいち頼り無い声を小さく零す。――空調の利いた店内でふと動きが止まったのは想定外の言葉が届いたが故に。)冬にお汁粉は欠かせな――……い、いえ、これは…いっぱい食べれるようにって……先輩に比べたら全然…あるものを着ているだけ、…で。でも、その、…ありがとう、ございます。……あ、その…今、気付いたんですが…もしかして、その爪って私があげた…?(量を食べる事を踏まえての服装の選択は着目される事を意識しておらず、況してお洒落を意識してとは言い難い服選びに口籠り、僅かながら視線が泳ぐ。然れど、否定した儘で口を閉ざすよりも彼女がくれた言葉ならばと感謝の言葉を紡ごうか。私服に注目される面映ゆさについ下げた視線が、彼女の手元ある色彩に漸く気付いたのならば顔を上げて尋ねよう。)夏ならところてんとかも好きなんですが……今はわらび餅とか。あ…一気に並べるより少しずつ頼んで行きませんか?(彼女の並べたメニューに浮かんだままに並べる羅列は総量を考えずのもの。甘い物は別腹を地で行くお腹にとって何ら問題は無いけれど、折角の一人での食事ではないのだから、談笑しながら時間を掛けて食べるのもまた甘味の良さかと、注文する前に申し出てみようか)…ここはコラーゲンたっぷりだというラーメンを食べにはがくれでしょうか(気持ち良い程の快い返答に喜色が滲んで笑みを浮かべては、女子という点を意識した候補を挙げてみよう。コラーゲンが何に効くのかいまいちよく知らないけれど。こうして何処へ行こうかと話すだけでも楽しくて、丁度良いところで店員を呼び止め注文を挟みながらも、そんな笑みの絶えない楽しいひと時にひとつだけ伝えておこう)先輩とこうやっておいしい物を食べに来れて……楽しいです。誘ってくれて、…ありがとうございます(嬉しいだとか来れて良かったとも言えるけれど、"楽しい"の言葉を声に出して伝えよう。距離を縮めれば増すその情動が決して消えた訳ではなくとも、それを知っても尚自分を誘ってくれて、こうして笑い合ってくれる彼女と過ごす時もまた楽しいで占められているのだから。大切に、温かな彼女へ感謝の言葉を伝えよう。勿論、その楽しさが露な微笑みと共に。)
|
そして春には魔の身体測定が現実を突き付けてくるんだよね…!
|
だよね!……あ、分かる!食べ終わった後にお腹ぽっこりは怖いもんね…。…ううん、そんな事ないよ!藤澤さんが着てるから、そのワンピがもっと可愛く見える!あっ、そうなのー!藤澤さんから貰った大事なマニキュア!こんなに絶妙に可愛いピンクってあんまりなくて。勝負時とか大事な時には必ず塗ってるんだ。(学校や寮以外での彼女の姿を垣間見られた事が嬉しくて、まだ注文前だというのに気持ちが高まる。そして手元について指摘を受けたなら、ぱっと輝く顔が分かりやすく正解を告げるだろう。手の甲を彼女に向ける事でよりアピールしながら、元に戻した後には自らの爪先で輝くネイルを愛着深そうに目を細めて見遣った。其れを贈られた日の事も鮮明に思い出せる。)ところてん…あれ、つるっとしてるから暑くてもどんどん食べられちゃうよね!あ、わらび餅もあったか…忘れてた。そう…だね!お腹膨れてきたら二人で半分を分けあいっこするって事も出来るし!(更に食べたいものが上乗せされ、お腹の容量は完全に後回し。けれど己が最初に考えていたより何倍も魅力的な彼女の提案があれば歓喜して一も二もなく大賛成し、まずは少し冷えた体を暖めるべくお汁粉から頼もうと。)いいねー、女子のご飯って感じ…!はがくれに決定だね!コラーゲンってお肌ツヤツヤ効果だっけ?毎日食べたらどうなるんだろう…!(コラーゲンは美容に効果があるらしいというだけで女子気分が上がる単純な思考故にうっとりしながら。ベタというくらいの女子の王道を行く彼女とのお食事プランが楽しくて仕方がない。彼女の注文の後に手始めのお汁粉を頼み、其れを待っている間に、)私も!藤澤さんのおかげですっごく楽しい!こちらこそ、一緒に来てくれて本当にありがとう!……あのね、ところで。藤澤さんのこと、幸ちゃんって…呼んでもいいかな?(嬉しさが溢れんばかりの笑みで感謝を受け取り、そして新たに己からも楽しい時間を共有できる事への感謝を返した。其の後にそっと付属させた本日の密かな目標はさり気なさを保てたか否か。――数分後、注文の品が其々の前に置かれたなら「来たね!いただきまーす!」と即座に手を合わせて。)んー、甘い!温かい!柔らかい…!しあわせ…。(原型分からぬほど相好崩して落ちそうな頬に手を添え、其の甘味に舌鼓を打とう。一人で来ていたら、きっとこれほど美味しくは感じられなかった。)
|
前日に悪あがきしてみたり、朝食を抜いてみたりする日のことですね…。
|
……ありがとう、ございます(使ってくれているだけで十分に嬉しいのに勝負時や大事な時との言葉を聞けば、畏れ多いような感情が湧くのと同時に二重の意味で喜びが湧く。単純にそんな大事に用いて貰っている事とその色が今日彼女の爪を彩ってくれていることが例え勘違いであれ嬉しくて、他にも浮かんだ言葉は沢山あった筈なのに、結局はいつものシンプルな感謝の言葉を小さく紡ぐ事しか出来ず。目許に掛かる前髪を無意味に触れては「私も貰ったお箸愛用してます」と如何にか付け添えて。)ええ、今日は急いで食べる必要もないので。あ、分け合えば…一人の時よりも倍の種類を食べれるかもしれませんね(現実的な量が何であれ、こうして理想の計画を語ることもまた楽しみ方のひとつ。彼女の提案に名案とばかりに目を瞠ってから細めては、このメニュー内のどれだけを食べることが出来るか胸を膨らまそう。)……ツヤツヤがテカテカになったりするんでしょうか?それとも何かこう…フェロモンがどばっと出たり(スキンケアに疎い頭は単純に効果を積み重ねた結果を擬音で表現しては微妙そうに眉を寄せて、続く言葉は最早連想ゲームのような発想を特に躊躇も無く口にして。自分自身の注文も最初は彼女と同じお汁粉とわらび餅の注文をしてから伝えた言葉。一方的なもので済む予定のそれに返る言葉があり同じ楽しさを共有することが出来ているのならば、思っていたよりもずっと温かくて心地好い感情が心を包むよう)今度は私に誘わせてくださいね。色んな美味しいお店の情報を掴んでおくので。…!…もちろんですよ。私も香澄先輩って呼ばせて貰っても良いですか?(また告げそうになる感謝の代わりに今度はと次に繋げる言葉を許可を得る形以外で伝えよう。元から呼び名に拘る性質ではないけれど距離が縮まったような気がする呼び方の変化に笑みで肯定すれば、己も同様に問いかけようか。手元に届いたお汁粉は白い湯気を放ち温かさを伝えてくれる。やわらかい小豆の甘味を味わう彼女の反応を見つめてからその表情に安堵したように自分もお椀に手を伸ばそう。ほんとうに、あったかい。)……あったまりますね。外が寒かったからこそ余計においしくて……あ、よかったら一緒にどうぞ(甘味とこの時間が齎す幸福感に浸りながら、共に届いたわらび餅をも彼女に差し出しては、他愛無いひと時を続けよう。)
|
出来るだけそーっと忍び足で体重計に乗ろうとしたりするよね…分かる…。
|
(本日何度目かになるお礼には言葉の代わりに笑顔を返し、これからも其のネイルは使いきっても同じものをリピートするのは間違いない。其の上、己が贈った品の報告を聞けば「わ、使ってくれてありがとう!」だなんて既に柔くなった頬は光栄さに緩む緩む。)うん、ゆっくりじっくりいっぱい食べちゃおう!甘いものとラーメンは別腹だもんね。倍…!もうメニュー全制覇出来るかも…?(傍から見れば無謀と言われて当たり前の事さえ出来そうな気持ちになってくるのだから、二人のパワーはすごいのだ。)パワーアップした…!テカテカ…すごいパワーアップ感が…!フェロモンなら、色気とか女らしさが手に入るのかな?いいね、私もどばどば欲しい!(果たして実際テカテカになって手放しで喜べるかは別にして、何だか凄そうな響きに片手で頬に触れながらうっとり。連想ゲームのような発想も楽しく、元よりそのようなイメージもあるのだからまだ少し先のラーメンに店主が困りそうなほど高めの期待を寄せるとしよう。)もちろん…!藤澤さんがリサーチしてくれるお店も楽しみ…!いつでもどこでも遠慮なく誘ってね!……いいの?やった、嬉しい。私の事もぜひそう呼んでね、ありがとう!(彼女の言葉に感動に由来するものか目を輝かせ、体を乗り出さんばかりに喜びを露わにし、次の約束へ繋がった事に舞い上がる。そして親しみを込めた呼び名の許可だけでなく彼女からも申し出があれば嬉しさは二倍三倍。見えない先への不安は消えやしないが、楽しみが一つ増える度に持つ事が難しい希望も膨らむ。――小豆の甘さと白玉の歯ごたえある絶妙な柔らかさを何度も咀嚼するように大事そうに味わい、そして同じく味わう彼女を見たら、元の美味しさが何倍にもなって返ってくる気がした。)お汁粉は冬に味わうのが一番美味しいもんね。……え、いいの?じゃあ一つだけ、有難くいただくね!(次は自分の注文したものをお裾分けしようと思いながら、差し出された餅をわざと恭しく受け取って口に運ぶ。わらび餅は汁粉と素晴らしくよく馴染んだ。そして其れをあっという間に食べ終えてしまえば「次はどれ頼もっか?」とメニューを目で追いながら、彼女と手分けして少しずつ目ぼしいメニューを注文し、普段よりものんびりと制覇していく筈。)
|
冬に続き春は春でおいしい物が沢山あるから……大変ですよね。
|
まだ2時過ぎですから。全メニューを制覇したって夕飯時にはまたお腹が空いていますよ(後日の体重計の問題は頭から除外して語る未来はきっと非現実的でも、実際に叶うか否かなどどちらでも構わないのだ。きっと途中でお腹がいっぱいになったって沢山食べたねと彼女とならば笑い合えるだろうから。)どばどばなんて、先輩にはもう十分備えてると思います。あ、でも…女性フェロモンには豆乳っていうのは前に聞いたことが、…あったような。豆乳ならわかつにないかな(十分に可愛くて女性らしい印象があっての意見を真顔にて大きな頷きと共に訴えた後、不意にフェロモンの単語で触れた知識はよく知られた情報だろう。豆乳には些か和の印象が有る為か定食屋の名前を出してみたのもまた連想ゲームのような話の影響だろう。意味が無くとも他愛無くて取り留めの無い会話を楽しみながら、)はい。…と言っても、すみません。先輩に対してはもう全く遠慮無しの状態になってしまってます。事前に、先輩の好きな食べ物があったら教えて貰っておこうかな。でも、先輩とだったらバイキングとかに食べ放題なんてのも楽しそう(予想以上の好感触に嬉しそうに笑ったのは藤澤の方。彼女に対してあの日以降はつい躊躇や遠慮を欠いている自覚が有ればこそ苦笑を滲ませて小さく詫びを入れて、それから何時だって不確定な未来に対しての話を交わそう。変わる呼称にも抵抗は無くこの日の内に口に馴染んでしまうだろう。)いえ、ひとつだけじゃなくても良いので。…香澄先輩の直感に従うのが吉ですよ、きっと。(そうやって時折食べ物を交換し合ったり、頼む物に悩んだり。美味しい食べ物と共に楽しい会話を交わしながら過ごしていれば、日の入りが早いこの季節はあっという間に空も暗くなってしまうのだろうか。青空が紺色に染まっても月が輝き星が煌いている中で彼女と二人の食事はもう少し続いて行く――テストから解放されたばかりの寒空は身体に堪えて不確定な未来が頭を悩ませても、こんな細やかで特別な日常があるからこそ時に力を抜くことが出来て、感じる楽しさが前を向く為の糧として培われて行くから、幸せは絶えない。)
|