6月15日(太陽煌く正午頃、買い物帰りのビニール袋を片手に)★ |
---|
(6月中旬お昼時、ポロシャツが汗滲む肌に僅かに張り付く。初夏らしい気温はお世辞にも心地良いとは云えず、眉潜めながら早足で歩く。右手に握るビニール袋には最低限の生活必需品が揺れる。常日頃から無駄を省く性格はこう云った場でより顕著に表れ、袋の中には菓子類等の余分な嗜好品は見当たらない。街を歩いている最中も一切の目移りなく、帰寮だけを目的として只々真っ直ぐ歩いていたのだが。)…お婆さん。荷物、お持ちしましょうか?(大きな荷物抱えた老婆が歩道橋の階段を登れず四苦八苦している姿が視界に入れば、平素から変わらぬ穏やかな笑み浮かべたまま提案一つ。「あら悪いわねえ」との言葉と共に荷物を受け取れば笑顔で首振り、老婆の歩幅に合わせて歩き出す。其の間、「学生さん?…私にもあなたくらいの孫がねえ…」「あなたみたいな若い人が増えればねえ…、そうそうこの間も…」等と云った世間話に最低限の相槌を打ちながら聞き役に徹して歩道橋を行きの倍以上の時間を掛けて下った。)はい、ここで大丈夫ですか?…無理はしないで下さいね。(階段を降りたところで大きな荷をすっかり機嫌の良くなった老婆へと返却。そうして老婆は加賀美に笑顔と共に「ありがとうねえ」という言葉と飴玉をお返しにくれたのだった。―老婆の背が小さくなる迄見送れば、遅れた分を取り戻すかのように早足で歩き出し、)…自分で持てないのならヘルパーでも頼めばいいのに。(思わず漏れた言葉は先程迄の友好的な姿勢からは正反対。道中、視界の端に見つけたゴミ箱の前でふっと足を止めれば、一度だけ左手に握った飴玉とゴミ箱を見比べるも、結局は躊躇なく飴玉をゴミ箱へと。―して、再び歩き出した加賀美の顔には罪悪感など欠片もなく、変わらぬ笑みが浮かんでいた。) |
9月21日(愛くるしい獣に紡ぐ言葉は静かに其の場に落ちて、)★ |
---|
(ワン!―鳴き声は元気に加賀美を迎えてくれた。何故今自身が此処に居るのか半ば以上理解しない侭、男は気が付けば此の愛くるしい獣の前に居た。何時かの喧騒は過ぎ去った夢の如く、人気のない神社は静かで、唯一の生者である此の犬はいっそ異質の存在のようにすら。片膝着いて伸ばす腕はあの日と変わらず、表情動かさぬ侭静かに、其の毛並みを撫でる。)…お前は、今日も一人なんだね。(語りかける声に同情の色はなく。かと云って突き放す風でもない。淡々と事実を告げるように述べながら、其の毛並みを触る手を右へ、左へ。――クゥン、甘えるような、それとも心配しているような、そんな声が場に響いたなら、僅かに瞬いて。)…俺もね、お前みたいに言葉なんて持たない動物だったら、と思っていた事があったよ。(悲哀はなく、静かながら穏やかに。真に人語を理解しているかのような賢い獣は愛くるしい二つの瞳でじい、と此方を見上げていた。)……でも、俺は人間だし、だからこそ出来る事ってきっと沢山あるだろうから。そう考えられるようになったから。…うん、謝らなきゃいけないな。(ゆうるりと、思いを乗せていけば何故自身が此の場に足を運んだのか理解出来た気がして、納得したように小さく笑った。「ありがとう」と、犬を撫でながら礼を告げれば立ち上がって)また来るよ。今度は食べる物でも持ってくる。…元気で。(と、だけ告げれば、ひらりと手を振り、訪れた際よりも些かすっきりとした面持ちにて其の場を後にしたのだった。) |
10月22日(自室の机前にて。眉間に皺寄せ辞書引く其の姿は、)★ |
---|
(プレゼント【present】[名](スル)贈り物。進物。また、贈り物をすること。「指輪を―する」おくりもの【贈り物】人に物を贈ること。また,その物。進物。プレゼント。れん‐あい 【恋愛】[名](スル)特定の異性に特別の愛情を感じて恋い慕うこと。また、男女が互いにそのような感情をもつこと。「熱烈に―する」「社内―」すき 【好き】[名・形動]1 心がひかれること。気に入ること。また、そのさま。「―な人」「―な道に進む」⇔嫌い。2 片寄ってそのことを好むさま。物好き。また、特に、好色。色好み。「幹事を買って出るなんて、君も―だねえ」「―者」3 自分の思うままに振る舞うこと。また、そのさま。「―なだけ遊ぶ」「どうとも―にしなさい」4 ⇒すき(数寄)――辞書をなぞる指は止まり、大きな溜息を一つ。)…馬鹿か、俺は。こんなところに答があるのなら、とうの昔に理解している。(机に肘付き頭抱える姿は、年相応だったか。加えて、視界に入るは机に置かれたサイの人形。)普段だったら、…(恐らく、一考の余地も無かったろう。限りなく高い確率で屑籠の中に在っただろう其れとメッセージカードを掌に乗せればつん、ともう片方の人差し指で突く。―不要な物は容赦なく捨ててきた。其れに込められた思い等分かるまいと決めつけて。理解しろと強要する其れ等はいっそ不快ですらあったのだから。だと云うのに。)何でかなぁ…。(そもそも、誕生日を親以外が祝うと言う行為事態余り理解出来ないで居た。物品と薄っぺらい言葉の交換、其れはまた自身へと返って来る事だけを期待した、自尊心や見栄の為の物だと理解していたから。―けれど、だとすればこの気持ちは、何だろう。)嬉しい、とか、返したいとか、そういう…。(そういう気持ち、だったのかな。―だとすれば、本当に酷い事を言ったのかもしれない、したのかもしれない。)俺は全く勝手で、…救えないな。(謝罪する術も持たず。頭を掻いて吐き出す言葉は、然し言葉の割に些か憑物が落ちたように。掌の上のサイの頭をとんと一撫でして、メッセージカードと共にそうっと机の上に置いた。必要最低限の物しか無い机の上、愛らしい木の人形は異彩放つ。寒色が占める部屋の中、ダッフルコートの上に置かれたボルドーのマフラーもまた。――嗚呼でも、嫌じゃあない。) |
確証となる記録について |
---|
>幾月修司
言葉で聞くだけでは、矢張り完全には納得出来ない性分なので。宜しければ今回の大型シャドウを全部倒せば”影時間”や”タルタロス”も消えるという仮説の確証となる記録、見せて頂けませんか。 |
―― |
おや、僕に何か用かい? …なるほど、そういう事か。 構わないよ。だが、記録は映像でね、此処では難しいから……そうだな、僕の部屋に来てくれないか? |
―― |
>4階 理事長室 これが、僕の言っていた確証となる記録だよ。 >幾月はディスクを取り出し、機械にセットした。 >! >スクリーンに映像が投射された。 >…… >映像の中の研究員 『この記録が…心ある人の目に触れる事を…願います。 ご当主は忌まわしい思想に魅入られ、変わってしまった。 この実験は…行われるべきじゃなかった! もう未曾有の被害が残るのは避けられないだろう… でもこうしなければ…世界の全てが破滅したかも知れない! この記録を、見ている者よ、誰でもいい、よく聞いて欲しい!! 集めたシャドウは大半が爆発と共に近隣へ飛び散った。 悪夢を終わらせるには、それらを全て消し去るしかない!! 全て…僕の責任だ…。』 >……。 >映像は止まった。 これは、10年前…あの事故現場に居た科学者によって残された、事故の様子を伝える唯一の映像だよ。 彼は岳羽詠一朗…当時の主任研究員だ。実に有能な人物でね…だが、彼も気づくのが遅かったんだ。実験が間違いだと気づいた時には……だから彼は死の間際に自らの罪を告白し、我々に可能性を託して逝ったんだ。まさに、彼の命と引き換えに残された記録だよ。 そもそも実験の失敗により飛び散ったシャドウが”影時間”や”タルタロス”を生み出したんだ…なら、彼の言う通り、元凶である12の大型シャドウを全て倒すしかないだろう?それこそが僕らの果たすべき役目であり、君らが見事にやり遂げてくれたことさ。 …どうだい?まだ気になる事があれば付き合うけど、全ては終わったんだ。宴に戻るなら早い方がいいと思うよ。…今夜は特別課外活動部最後の夜なんだからね。 |
―― |
…確証、って言うにはやっぱり少し薄い気がするけれど、前よりは納得しました。これ以上はないのでしょう?なら帰ります。…見せて頂けて良かったです。有難う御座いました。 |
―― |
>加賀美は去っていった…。 …加賀美君、君は少々疑り深すぎやしないかな。なら、君の言う確証とはどんなものなんだい? ……だから子供は嫌いだよ。もっと餓鬼は餓鬼らしく、素直で従順でいればいい。そうすれば少しは可愛げがある。 …なんてね。すべてはもう終わったんだ。今更疑問を抱いたところで遅すぎる。どうせ君らに残された時間など僅かなのだから、少しでも長く、いい夢を見た方が利口というものさ…。 |
シャドウについて |
---|
>桐条美鶴 別に、君が全てを知っているとは思っていない。…少し情報を整理したいから、その話相手になって欲しいんだ。…知識量も加味すると桐条さんが一番適任だと思って。良いかな? 夜長―…違うな、”デス”、か。彼らの言うことを一先ず全て信じるとして、彼らの言う”滅び”は全ての人類が影人間化すること、なんだろう?だとすると、”ニュクス”はその力を持っているという事になる。…これまでの定義で行けば、”ニュクス”は強大な力を持つシャドウ、という事になるよね?…なら、そもそもシャドウって何なんだろうか。…今まで、影時間に現れて人を襲う、謎の化物だと思ってきたけれど、2か月前、俺の中から現れたアレも、分類すればシャドウなんだろう? …もう少し早く、真剣に考えていれば良かったな。 |
―― |
…実は、その事で新たにわかったことがある。幾月が消えた後、理事長室を探ったところ色々と見つかってな…。私自身もまだ整理しきれていないんだが、よければ聞いてほしい。 シャドウ…我々はそれを、影時間にだけ現れ、そこに生身で居る人間を襲う”怪物”だと考えていた。しかし、これは桐条の研究が未完成だったが故の誤解。…実際は、人間の潜在無意識下に封じられている”ニュクス”の精神の一部だったんだ。 残された資料によると、人間の潜在無意識下にある精神の一部…それは、人々が自分の暗部を見つめる事を止めたとき、制御を離れて宿主の体の外へ迷い出る…そうして実体化したものがシャドウ…という事らしい。 今まで、影人間はシャドウに襲われ精神を”喰われた”存在だと思っていた…だが、そのシャドウこそが、喰われたと思っていた”精神そのもの”だったんだ。だから抜け出たシャドウを再びその身に戻すことの出来た君らはこうして健在し、それが出来なかった赤萩や立平は一時影人間となった…。 そう、君の言うように2か月前…皆の中から現れたシャドウを見て、私は初めて今までの定義に疑問を抱いた。…しかし、シャドウの正体が何であれ、この戦いが皆を救うことに繋がるという考えは変わらなかったんだ。現に、大型シャドウを倒すことで影人間は回復していったしな。 ……まさか、救うどころか全てを終わらせるきっかけとなるとも知らずに…我ながら、あんな大人の言うことをただ真に受けていたなんて情けない。 |
―― |
…シャドウはニュクスの精神の一部であり、人間の精神一部…。だとしても、シャドウを倒すことがその人間の精神を壊すんじゃなくて、戻すことに繋がっていたのなら、少しは救いがあるかな。同時に、ニュクスとやらにも力を戻していた、って事にもなるんだろうけれど。…一応、そこはそういう解釈で良いんだろう? 終わったことをとやかく言っても仕方がないよ、悔いて対策を打てるような物でもないのだし。 ただ、その、”ニュクス”についてなんだけど。……どうにかする方法とか、無いのかなと思って。シャドウを倒すことが出来るように、ニュクスに立ち向かう事は出来ないんだろうか。 |
―― |
…ああ。人々から抜け出したシャドウは他の独立したシャドウと合体し、大型シャドウとなっていた。つまり、私達は奴らを倒して消滅させた気でいたが、実際はシャドウの集合体を分解していたに過ぎなかったんだ。 そうして行き場を失ったシャドウは本来の宿主の無意識下に戻り、残る独立したシャドウ…”デス”の欠片としてのシャドウだな、そいつらは君達を媒介として君達の中に居たという子供…夜長達と一つになっていった、ということらしい。 …生憎、その答えは私も持っていないんだ。倒せるものなら立ち向かうべきだとも思うが…しかし、彼らの言葉は真実なのだろう。…認めたくないがな。それに、私もこれ以上君達に戦いを強いるつもりはない。君達の決断を後押しするつもりもな。無責任だと思うかもしれないが、私も正直参っているんだ…。 |
―― |
…うん、成程。大分現状の整理が出来たよ、ありがとう。何だかんだ混乱していたみたいだ。 別に俺は君に全てを求めている訳ではないから、無責任だとも思わない。…そもそも、人間なんて大体が無責任な生き物だと思うしね。 少し、休んだ方がいいんじゃないかな?俺は俺でもう少し考えてみるよ。色々と聞けて良かった、ありがとう。 |