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[68] From: 糸川綾

To:徳永先輩

本の件、覚えて貰っているとは思いませんでした。

なのでお気持ちだけで……と言いたいのは山々なのですが、読書の秋で分厚い本が読みたかったので、レシピ集に限らず何かオススメってありますか？
先輩の好みを聞いてみたいです。

（返信は急がなくて構いません）

[75] From: 徳永小百合

To:糸川さん

ごめんなさい、すっかり時間が経ってしまったわ。
まずは素敵なお声かけをありがとう。
何が良いか考えたお陰で久しく読んでいない本を手に取れたわ。

それにしても分厚い本、と言うことは糸川さんは普段から読書家なのかしら？
気に入ってもらえれば嬉しいんだけれど…一度参考にしてみてね。

たんぽぽ娘
たった一つの冴えたやり方
レ・ミゼラブル
ファウスト
星の王子さま

単純に好きな本と言うならば一番上の「たんぽぽ娘」
SFらしくなくて甘いなんて言われるけれどヤングの本が好きなのよ。
今は絶版だけれど幸い手元にある本だから興味があったら声を掛けてね。

分厚い本なら真ん中二冊…有名どころだから既に読んだこともあるかしら？
列挙すると重たい本で…ちょっと申し訳ないわね。
でも、椿姫やトルストイの復活も手放せずこちらに持ってきている辺り私は人間の生き様や救済をモチーフにした本に惹かれる傾向があるのかもしれないわ。
読み終わった後に、答えなんてないって理解していて思い巡らす時間だって好きだから。
どちらか、を上げるなら「レ・ミゼラブル」ね。

最後に「星の王子様」って糸川さんは読んだ事あるかしら？
私は小さいころに読んだきりだったんだけれど…年を重ねてから読むほどに何かわかるものなのかもしれないなーって、ね。
だからもししばらく読んでいないなら是非、と言う意味でお勧めするわ。

随分と、長々としたメールになってしまったわ。
糸川さんも是非、普段何を読んでいるのか教えてちょうだいね。
私も君の好みにとっても興味があるから。

[79] From: 糸川綾

To:徳永先輩

いえ、応じて貰えただけでも嬉しいので気にしないで下さい。

読書家…を名乗れるほど手広くは読んでいませんし、短編は短編で好きなんですけど、今はなんとなく長めに楽しめる本がいいなって。
だから徳永先輩に聞いたのは正解でした。

ざっとジャンルを調べた感じではSFと古典文学がお好きなのでしょうか？　紹介して貰った中ではレ・ミゼラブルと星の王子様しか読んだことがなかったです。
ファウストは「時よ止まれ」って、あの台詞だけなら知ってるんですが……どうも歌劇とか戯曲から来てる話は敷居が高いイメージがあるんですよね。読破するのに集中力が要りそうで…。
でも折角の機会ですし、今度商店街の古本屋でも見て来ようかなって思います。
たんぽぽ娘もSFらしくないタイトルで興味がありますし、自力で入手できなかったら読ませて下さい。

あたしの好みは……並べて書くと読後感悪いラインナップになりそうで…。

あ、オススメとは違うんですが、徳永先輩は夢十夜のイメージだなって勝手に思ってました。
第一夜の百合の話。綺麗ですよね。

[85] From: 徳永小百合

To:糸川さん

少しでも糸川さんのお役にたてるなら光栄よ。…単純に長く楽しめる本ならば、児童書も良いんじゃないかしら？最近の子ども向けファンタジーって案外侮りがたいものよ。

お察しの通り。けれど、純文学も読むしミステリーも歴史小説も好き。ようは節操がないのよね…興味を持った題名何かに惹かれて手に取る事が多いのよ。
文体も堅くて、特徴的な物が多いから確かに一見取っつき難いわよね。特にファウストは内容も入って来辛いかもしれないわ。
…何処か引っかかりを覚えてしまう場所が在るなら、一度舞台化された映像を見るのもオススメよ。自分の予想していなかった発見や、想像できなかった細部が描かれているものだから。

あら、内容なんて気にして無いわよ。…と、言うと身も蓋も無いって思われるかもしれないけれど。
こう言う時肝心なのって糸川さんが其の本から何を感じたか…要は好きになった切欠だと思うのよね。
私は糸川さんについても知りたいと思うわ、だから其の一端として、オススメの本を聞けると嬉しいな。
…勿論、無理強いをするつもりはないんだけれど。

こんな夢を見た、ね？…そうね、いつかそんな時が来たら私も百合の花に代わってしまいたい。
…なんて、冗談よ。
個人的には漱石ならこゝろも好きよ。…夢十夜の美しさとは違って考えさせられる本だけれどね。

[104] From: 糸川綾

To:徳永先輩

児童書…。ファンタジーなら某魔法学校とかトールキンの作品群とか一時期かなり読んでいたんですけど、最近はなんとなく遠ざかってました。
確かに巻数の多いシリーズもありますし、ゆっくり読むのには向いているのかもしれませんね。

あたしはどうにも作家やジャンルで食わず嫌いをしてしまいがちなので、そういった偏見なく本を読めるのはいいことだと思います。
……実際、ファウストも苦手意識があるだけですし。とにかく一度活字で挑戦してみて、やっぱりダメなら映像、と覚えておこうかなと。

えぇと、決して無理強いとか思ってるわけじゃなくて。…内容を問わないなら、少しだけ。

桜の森の満開の下
夜長姫と耳男
スノードーム
嵐が丘

上二つは坂口安吾の短編ですね。どちらも残酷なおとぎ話ですけど、紙一重な美しさが好きなんです。
「桜の森の満開の下」は表現が綺麗で「夜長姫と耳男」は最後の場面が印象深いかな…。有名なので既にご存知かもしれませんが。

最近読んだ中で良かったのが「スノードーム」。モノクロの装丁に惹かれて手に取りましたが、中身は切なくてやるせない話でした。
「嵐が丘」はとにかく痛烈といいますか。復讐劇なので気持ちがいい内容ではないのに、それでも読ませる魅力があって、ちゃんと恋愛小説として成立してるところは流石名作だなって。

……百年待たせても徳永先輩なら許されそうな気がします。
こゝろは教科書にも使われてるぐらいですから。夏目漱石は作風が幅広いのも魅力のひとつですよね。

ともかく、オススメありがとうございました。
先輩のおかげで読みたい本も、読み返したい本も増えたので、暫く読書に困らなくて済みそうです。

長くなりましたし返事は気にしなくていいので、機会があったらまたお話させて下さい。では。