説明スレッド | |||||
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現時点で2つの任意参加型出店スレッドが用意してありますが、くじ屋やたこ焼き屋以外にも幾つか出店がある設定ですので、出店に関する描写はご自由にしていただけます。
くじ屋スレッドにて得たアイテムは、捨てたり誰かに贈与したりしない限りはイベント後にアイテム一覧に反映されますが、効果は特にありません。 たこ焼き屋にて得たアイテムは、アイテム一覧に反映され、後のイベントバトル時に使用可能の回復アイテムとなります。 また、出店スレッドでのやりとりをペアとの活動内に反映するかどうかはお任せ致します。(当たった景品の話をする、一緒にたこ焼きを食べる、など / 食べてもたこ焼きは無くなりませんのでご安心を!) | |||||
触れられたくない話題 | |||||
タイトルはそのまま、名前はPC名、本文に触れられたくない話題を記入してレスをしてください。 詳細は日誌の補足記事にて。 | |||||
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「加賀美の性格に関連すること」 | |||||
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「当真の外見や振る舞いに関すること」 | |||||
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「利川の人間関係に関連すること。」 | |||||
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「立平の決断力に関連すること」 | |||||
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「玖珂の家族、兄弟に関連すること」 | |||||
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「真壁の恋愛に関連すること」 | |||||
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「児玉の家族に関連すること」 | |||||
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「赤萩の対人態度に関すること」 | |||||
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「上広の身体能力に関連すること」 | |||||
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「糸川の両親に関連すること」 | |||||
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「徳永の親子関係に関すること」 | |||||
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「藤澤の対人距離に関連すること」 |
(祭囃子に背を向けて、白い塊と向き合う其の双眸は果たして何を視ていたか。) | |||||
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――よう、犬っころ。元気にしてるかよ。(此処が本日祭りだという事を思い出したのは本日も少数男子バレー部の”助っ人”として働いた帰り道にちょっと寄って行かないかと提案されてからの事だ。言われてみれば何件かクラスメイトや数日部活を共にした同輩たちから誘いのメールが来ていたような気もしたが、同時に寮の補強作業で一日外に出ているようにと言われた事も思い出しては、此処で断る理由も無いだろうと二つ返事で承諾。部活帰り故に風情もなにもない半袖夏使用の制服にて、今の今まで型抜きに射的にと少しばかり部活仲間と連れ立って楽しんでいた中、視界の端に白い影を捉えてはその足を其方へ向けて、そして話は冒頭へ。喧騒の渦よりやや離れた社の傍ら、提灯の灯りと祭囃子を背に、片膝を付いて足元に擦り寄る人懐っこい白い柴犬の首元を撫でてやる。極偶に、夜の散歩がてらに立ち寄っては常に一人で留守番をしている此の忠犬を構う事もあるのだが、鼻先を擦り付けて餌を強請ってこない所を見た限り、大方今日は此の祭りの客たちに良い物を別けて貰ったのだろう。「リカワ、じゃあ俺食い物買って帰るから。また明日頼むな。」同じように犬を一撫でしてから人込へと消えていく同輩にひらりと片手を振って了解の合図を送れば、ハッと短く、嘲笑にも似た空気の音が唇より零れ落ち、)――… 、(温度の無い低い呟きは、祭りの喧騒に瞬時に掻き消される。其の時頭に思い浮かべたのは何のことであっただろうか。祭りの活気に誘われる事なく、その手は絶えず犬の体を撫でていた。) | |||||
祭って、何か急に雰囲気変わるよね。場所も人も。 | |||||
(喧騒に思わず眉顰め、私服で佇む加賀美の姿は“場違い”を体で表していただろう。―祭などと云う行事の経験は、学園祭の強制的に参加させられる其れ以外では滅多に無く。そもそも、楽しく騒ぐと云う事から縁遠い人間が、暇だからと云って此処に足を向けた事は大きな間違いであったと云えただろう。)…やっぱり、何がそうも愉快なのか分からないな。(やや不愉快そうに眉歪めた侭騒がしい境内をぐるりと一周。地面に向けて落とされた言葉は、喧騒に掻き消えただろう。次いで吐かれた息も同様で。そうして、其の侭足を向けるは、音が届かず休息が取れそうな場。祭という特別な空間に、其のような場を求める事がそもそも可笑しいのだが、如何せん本日一日無理な暇潰しをしていたせいで、新天地を求める気分にもなれないのだ。リズムを刻む大太鼓や、笑い声から遠ざかるように、其れ等全てに背を向けて、歩く。―そうして、社の付近に到着すれば、はて。見慣れた背中と、愛らしい獣の姿。)…利川?(見慣れぬ光景に思わず零してしまった名は、静かな此の場に如何響いたろうか。) | |||||
別物に見える、って?ま、単調な毎日もツマンネエからな。たまには変化も必要だろ。 | |||||
(そういえば寮で生活するようになってから、もう彼是四ヶ月近くになるのか――。祭りの喧騒も次第に遠く静かになり、虚空を見据えてぼんやりと意識の淵に沈んでいた思考も、何処か切なげな鳴き声により目の前の現実へと引き戻される。先刻までの静けさが嘘のように耳には直ぐに人々の声が押し寄せ、直ぐ眼下には、クゥンと何処か心配気に耳を垂らして利川を見上げる白犬の姿。「…んな眼で見つめんなって、」何処か人間の言葉を理解している節のある此の妙に賢き犬には、きっと先刻の呟きも聞こえていたに違いない。まるで利川の胸中までも見通しているような無垢な赤を遮るように、緩慢な動作で持ち上げた腕は犬の頭へと乗せられて。祭りの喧騒を擦り抜けて不意に己の名が耳を掠めたのは、そんな折。反射的に振り向いた先、双眸に映った意外な人物の姿に驚いたように瞬きを数度したものの、直ぐに笑みを携えては呼ばれた名に応じるように、ひらひらと軽い調子で手を振ってみせた。)…ハァイ、かがみん。ナニ、オマエも行き場がなくなってココに来ちゃったカンジ?それとも、…コイツを撫でに来たのカナ?(恐らくは前者であろうと推測しつつも、後者はありもしない話ではあるが、そうであれば面白いなという期待を込めて。コイツ、と犬の頭を今一度ぽふっと叩けば、ワフ!と元気の良い鳴き声が彼の耳にも届く筈。) | |||||
ああ、まあ分からなくもないかな。…日常にも緩急が必要だろうし。 | |||||
(彼と一匹と云う意外な組み合わせに思わず呼んでしまった名はそう意識的な物でも無かったから、声を漏らした後に彼の表情から、そういえば前回のタルタロス討伐で軽く言葉を交わした程度にしか交流のない事に気が付いたのだった。剽軽な彼らしい言葉と仕草に、呼応するように口端を上げ、)行き場がなくなって…の方かな。犬が此処にいることも知らなかったしね。(漸く慣れて来た呼称に笑みに僅かに苦い物を含ませた。然し其れに対して何を言うでも無く肩を竦めて見せながら彼の予想通り答述べ、一歩距離を縮め、白い塊を見遣ったのだった。そうして、余りにもタイミングの良い鳴き声に素直に笑いながら犬の方へと更に一歩近寄り、)利川に懐いてるんだな。…結構頻繁に来てたり?(と、彼と同じように片膝付いて愛くるしい犬を眺めた。そうして、視線は犬に向けたまま、平坦な口調で問う。―祭の姦しさに背を向けて、触る訳でもなく、只々犬を見詰める男の瞳は静かに揺れて。) | |||||
じゃ、そういうワケで俺らの日常にも緩急付けますか。どの屋台から回る? | |||||
(瞳に映った人物とは寮や課外活動云々で交流を交え互いに名を呼び合える間柄とはいえど、一対一で向き合う事は此の数ヶ月の中でもそう無かったように思う。加えてタイプも趣味も全く異なるとなれば、尚更。そんな彼に声を掛けられた事が意外で、寧ろ第一印象では彼は自身のような人間と関わりを余り持ちたがらない人種だろうと思っていたから余計にその驚きが顔に出てしまったのだが、此方としては話し相手が出来る事は大歓迎。予想通りの展開に、打った相槌もまた同じく、)へえ。…ま、俺もコイツが居るって知ったのはつい最近だケドな。なんでも旅行中の飼い主に代わって留守を守ってんだと。(クラスメイトが忠犬だと騒いでいたからどんなものかと思い来てみれば、どうという事もない。――懐いている。そんな聞きなれない言葉に釣られるようにして、チラリと眼下の犬を見遣る。利川の視線に気付いたのかクエスチョンマークすら浮かべて此方を見上げる白は何とも白々しく、小さく肩を竦めた言葉は吐息と共に音となり、)どーだか。コイツが人懐っこいだけだろ、俺たち名前だって知らねえ仲だぜ?……いいや、ぜぇんっぜん。公園で遊びたくなったらたまーに来るくらい?(問い掛けに対して笑み混じりに返すは本気とも冗談とも取れない一言。触れもせず、ただ真っ直ぐに犬を見詰めて動かない視線が何を想ってのものなのかはわからないが、犬もまた不思議そうに彼を見上げて鳴くのだろう。そんな光景を見て、利川の唇から落ちた言葉は―)そういやかがみんサ、夕飯はもう食った?(傍らに同じようにして膝を着く彼を見据えて、ゆるりと首を傾げて問うは何の脈拍もない。) | |||||
俺は別に平凡な日常で良いんだけれど。…だから、行ってらっしゃい、で良いかな? | |||||
…留守を守る、ってその間、餌とか散歩は?よく無事だね。(ぱちり、愛くるしい獣と視線を合わせながら漏らすは、率直な感想。可愛いやら、そういった感情よりも先に湧き出る感心は、どうやら本心から来る物であるようだったが、人によっては皮肉と取る人も在るだろう。―して、何気なく発した言葉に対して、彼と犬の反応を見て)そういうもの?犬とか、あまり触れ合った事がないから、程度が分からないな。…公園で遊びたくなる事なんてあるのか、意外だ。(傍目から見れば会話しているようにすら見えるその1人と1匹の様子を見比べ、瞬きながらそう零した。次いだ言葉に対しての返答は、その割に平坦で、彼の言を信用しているのかいないのか、判別し辛い所だろうか。)……夕食はまだだけど、屋台は俺はいいかな。(唐突な問に、彼を見返し2拍程度の間。そうして、意図を図っての返答は、とんだ勘違いであるかもしれず。とは云え、其の中から半ば逃げて来た身としては、今一度あの中に戻る気は毛頭なく意思表示が大切だと。) | |||||
コレだって平凡な日常の中のヒトコマだろ?偶には脳にも刺激与えねえとダメになんぜ。 | |||||
さあ?ケド賢いからなぁコイツ、ヒトから恵んで貰ったりしてるんじゃねえの。それに飼い主だって少しは蓄え置いてってんだろ。(関係性としては偶に此の場を訪れて構う程度の間柄、彼の其れを皮肉と捉えた所で別段何を感じる訳でもないが、犬を見据える眼差しを見れば言葉に込められた感情の大凡の見当は付くというもの。他人事のように素っ気なく語られた曖昧な言葉は、利川と犬の関係性の薄さを良く良く示してくれる事だろう。)じゃあ触れ合ってみたらイイんじゃねえの?そしたら犬のキモチも少しはわかるカモよ。(折角の機会が巡って来たのだからと、企み顔でひとつそんな提案を落としては、促すように犬の背中を軽く押す。まるで言葉の遣り取りを把握しているかのように聡い犬は一歩前へと踏み出して、彼との距離を縮めたなら、愛くるしい赤い瞳は真っ直ぐに彼を見詰めるだろう。「かがみんだって昔読んだ本とか読み返してみたくなる時あるっしょ?それと一緒。」意外との一言に返す言葉は妙に説得力のあるような、)……そりゃ残念。焼きそばかたこ焼きでも買って来ようと思ってたんだケド、その口振りじゃあ要らねえみてぇだな。屋台のメシってウマイんだぜ、案外。作り立てで、あったけえし。(返答次第では彼の分も一緒に買ってくるつもりであったような口振りで、残念だとこれ見よがしに大袈裟に肩を竦めて紡ぐ言葉もまた、妙に演技掛っていたに違いない。膝の汚れを払いながら立ち上がっては背を向けていた祭りの喧騒へと向き直り、肩越しに今一度彼を振り返る。―― ホントに要らねえの? 端のつり上がった唇は、確かにそう動いて。) | |||||
俺の日常には無いかな。…無駄に人混みに入りたくはないし。 | |||||
…賢いからって、飼い主の気は知れないな。お前は言葉を持たないし、何かあっても仕方がないのに。(犬に向けて唇から漏れた言葉は低く、彼の耳迄届くかどうかは分からないが、先程よりも明確な非難であった事だけは確かだ。次いでやや投げ槍ともとれる彼の言葉に瞬きを一つ。今度は確りとした声で「本当に最近知ったんだな」と今度は彼に向けて放つ。)犬の気持ち、ね。(何処か愉快そうな色すら伴う彼の表情とは裏腹に、静かに落ちた呟きは、皮肉気な、若しくは自嘲気味に。其の割に、一歩近づいた距離に順応するように伸ばす手は素直な物で。ゆっくりと撫でる手に応えるように左右に忙しなく揺れる尻尾に視線を向けながら、「…あまり経験はないけれど、懐かしくなるって事か。」と、納得したような声色で呟く。して、続いた彼の思わせ振りな態度を表情を変えず、常と同じ口端を上げた笑顔のまま見遣っていたものの、ダメ押しのような唇の動きを見て取れば肩を竦めて見せながら、)……俺が行かなくて良いのなら、買ってきて貰えるのは正直有難い。金は出すよ。何なら利川の分も買ってくれば良い。(と、何処何処までも素直過ぎる返答と共に立ち上がれば、ズボンのポケットから取り出す財布、そうして自然と取り出した千円札を差し出す姿は些か厚かましいとも。とは云え当人に自覚は無いようで、一連の動作に惑いはなく。) | |||||
ふぅん、…じゃあ祭りとかそういう行事は参加したコトねぇカンジ? | |||||
……ニンゲンなんて皆そんなモンだろ。口ではアイシテル、大切だなんて言いながらいつだって自分本位でサ。――けどコイツは、それでもご主人がスキなんだろうぜ。(するりと耳に入り込んだ低い呟きに同調するように、しかし彼よりはずっと軽いトーンで言葉が落ちる。けれど其れは果たして犬の心情を思っての言葉だったか――。こうして言いつけをきちんと守っている所を見れば此の犬がどれだけ飼い主を慕っているかもわかるというもので、肩を竦めながら落ちた言葉はやや呆れも含まれる。意外そうな言葉には「だから言ったしょ?」なんてニヤリと笑って肯定を示すのか。)ナニ、犬のキモチなんざどーだってイイってか?もうかがみんってば冷たいんだからぁ。……ワンコ、オマエもなんか言ってやれよ。(歪んだ口元は崩さぬままに、促されるままに犬を撫でる彼を見据えては、何処までも揄姿勢を崩さずに。嬉しそうに尻尾を振る犬へと視線を移して言葉を投げれば、わかっているのかいないのか、ワン!と元気な鳴き声がひとつ落ちて。)ハ、…マジでイヤなんだな。こんな雰囲気滅多に味わえないってのによ、勿体ねえ。…ま、犬でも撫でながら腹空かせて待ってろよ。メシは何でもイイんだろ?(落ちた言葉と駄目押しと言わんばかりに差し出された千円を見て吐き出した言葉は、相変わらず愉快気に。今一度祭りの渦へと視線を向けた後、確認の問いを投げながらひらりと手を振り、彼の返答が返って来るより先に踵を返して場を離れるのだろう。――それから僅か数分後、)おっまたせ〜。ほらよ、たこ焼き。少しは腹の足しにもなんだろ、…で、こっちは余り。(口元に薄い笑みを乗せて彼に差し出すのは勿論、冗談抜きで熱いと言われた方のたこ焼きだ。そしてオマケとばかりに一緒に釣り銭の600円を渡すのだろう。) | |||||
物心ついてからは学園祭を除けば、基本的にはないね。 | |||||
…犬の性なのかな。…まあでも、口が聞ける訳じゃあないから、本当のところは分からないよね。(自身の意見に対してよもや肯定的な答が返って来るとは思っておらず、思わず一瞬の間。然れど異論がある訳もなく、不思議そうに此方を見る犬と視線合わせた呟きは、先程よりもずっと軽い口調で。して、次いだ愉快そうな彼の言葉に、「分からないな、利川は」と肩を竦めて見せようか。とは云え、其の言葉がどちらかと云えば笑み混じりに発されたた事で、皮肉ではない事が伝わるだろうか。)どうだって良いというより、…犬にも気持ちがあるんだよな、と思って。(揶揄を否定する事はなく、また、右手は白い毛並みを撫で続けながら口唇を動かした。視線は揺れる尻尾に注がれ、静かな口調で紡ぐ言葉は、淡々と事実を告げるように。彼の声に呼応するように鳴き声が鼓膜を震わせれば、ふっと漏れる笑み混じりの吐息は、皮肉とも、自嘲とも。然れど微かに穏やかさすら含む其れは受け手によって印象が異なるだろう。)…俺にはその『勿体無い』が分からないな。どうも。そう言ってもらえると有難い。(苦笑気味に声発すも、彼の問掛けが彼自身の行動に因って答を求めて居ない事を理解すれば、犬の方へと向き直り、其の愛くるしい獣と交流を試みるのだ。―して、戻ってきた彼に)ありがとう、助かった。(と、謝辞と共に釣り銭とたこ焼きを受け取れば、器用に釣り銭を財布へと仕舞い、たこ焼きの蓋を開ければ広がる匂いと熱気に僅かに顔顰め、)熱そうだな。(と、一言。爪楊枝でたこ焼きに穴を開けて熱気を逃がした後、口に運んだ。―小さな努力が身を結び、口内に火傷を負う事は免れたものの、涼し気な顔を歪めるには充分な熱量を孕んだ其れは、咀嚼のスピードを速めさせ、飲み込む其の瞬間迄苦しめる事に成功したようだ。顔顰めた侭、「たこ焼きが熱い方が美味しいって言うのは嘘だな…」と一言。して、まさか故意的な物だとは考えぬ侭冷める迄次には手を付けようとせずに只沈黙を埋める為に、)…こういう場所には利川は友達と来ているのだと思っていた。 | |||||
…、スゲエな。ある意味。一緒に行く相手がいねぇなら、今度から俺が行ってやろうか? | |||||
違いねえ。ケドそーいう動物関連の本って近年増えてるみてぇだし?いつか犬とか猫とフツーに言葉を交わせる日が来るカモよ。(尤もな言葉には頷いて同意の意を示しつつ、端の上がった唇が紡ぐは本気とも茶化しとも取れる其れ。何処か疲れた様子で肩を竦めた彼の呟きもしっかりと拾い「褒め言葉だね。」と調子よくウィンクのひとつでも決めてみせようか。)そりゃあ生き物ですから。そんなコト言ってっと吠えられるぜ、そのうち。…だからたまーにでイイから構いに来てやれよ、かがみんもこれで”懐かれた”の仲間入りしたワケなんだしサ。(改めて意外そうに、噛み締めるように落とされた音は動物と接した事がないという彼の言葉を思い出せば、其の反応も当然と言えるかもしれない。ふっと場に落ちた吐息も笑み混じりであった所為か然程負の感情も感じられず、続ける言葉は相も変わらず軽快に。数分前彼に言われた言葉を思い出しながら、返す言葉は悪戯な笑みと共に。)そのまんまの意味。…祭り雰囲気も人混みも屋台も、この一時にしか味わうコトが出来ねぇんだからよ、愉しんどかねえと損だろ?(尤も其れは己の理屈であり彼に通用するとも知れないし、疑問符を付けながらも其れは彼に同意を求めるものというより自身に言い聞かせるニュアンスを含んでいたけれど。 顔を顰めて落ちた呟きには内心ほくそ笑みながら、彼の動きに注目しつつ己も爪楊枝を器用に使い中の蒸気を逃がすべくたこ焼きを二つに割るのか。そしてその涼しい顔が少しでも歪むような事があればしたり顔で笑んでみせて、「気に入った?かがみんの為のトクベツ製だぜ、」と愉快気に言葉を返したのだが、)――トモダチ? アハッ、やっぱ俺そういうの多そうに見える?でも実際んな風に呼べるヤツなんて居ねえんだケドさぁ、(何時もなら笑い飛ばせる筈の、なんて事ない言葉だった。けれど突発的に口を突いた言葉は思いの外低く落ち、例の夢の所為で内心酷く過敏になっている事がわかった。しかし軌道修正はお手のもの、直ぐにけらりとなんてことないように笑って見せれば、)俺のコトはイイからサ、かがみんのコト聞かせてよ。聞いたぜ、何でも「ちぐはぐ」なんだって?性格が。ペルソナが変わった仮面付けてんのは知ってっけどサ、そこんトコどうなの?(自身から話題を彼の方へと逸らすべく、ゆるりと首を傾げて問うは何時だか聞いた彼の噂話。この話題、軌道修正となるか否か。) | |||||
遠慮しとく。…根本的に興味が持てないんだ。 | |||||
…そうなったら大変だな。(極自然と唇から吐息のように漏れ出た呟きは、それこそ冗句にも本気にも取れただろう。調子の良い彼の様子には、今一度笑んで見せた。)これだけで懐くのか。…単純明快だな、お前は。(軽快な言葉には平生から浮かべている笑みのみで返答した。その代わりに言葉は、彼ではなく犬に向けて。純粋な驚嘆から発された其れは、呆れた風ではなく、寧ろ褒め言葉のつもりのよう。撫でる右手の動きがより其の獣の温度を感じるよう穏やかな物となれば、犬は瞳細め「クゥン」と甘えた声を出した。其の鳴き声を聞けば、自然と瞳細め、自覚はなくとも常よりも随分と笑顔らしい笑顔を見せ、「たまになら、来ても良いかもしれないな。」と。―彼の持論を聞きながら横に首を振ったは、繰り返しの”理解出来ない”の合図であり、これ以上続けても結論は平行線を辿る事は容易に予測出来るが故に打ち止めにしようという意思表示でもあった。)……それは、愛情が重すぎたな。(特別製と聞いて漸く、故意に因るものだと理解すれば、大きな溜息を落とした後、投げ槍な口調でそう茶化し、残りのたこ焼きを全て几帳面に割っていくのだった。して、只の雑談の種として投げた言葉が、想定外の方向に返って来れば、口を挟む余地もなく。そればかりか、其れは更に想定外の方向へと進んで。)…君には、関係のない話だ。(平生であれば、もっと上手く返す事が出来たろう。何気なくやり過ごす事も、笑って流す事も出来た筈だった。然し此処最近の夢見の悪さから、選択肢すら浮かぶ事はなかった。低く鋭い声音は、拒絶の意思を明確に伝えたろう。其の声が自身の鼓膜を揺らせば、最早取り繕う意思すらも消え、貼り付けたような常の笑みは見る影もなく。一言落とした後、無表情のまま只消化するようにたこ焼きを口へと運び、食べ進めた。例え彼からどんな働きかけがあったとしても、無言の侭其の作業を終えれば「じゃあ、また今度。」と此処で漸く誤魔化すような笑み浮かべ、然し先程の弁明も謝罪も一切しない侭彼に背を向けるのだった。一歩踏み出したところで聞こえた「ワン!」という元気な鳴き声は彼を引き止めるようでもあったが、振り向くことすらせずに。帰り際、乱雑に潰して捨てたたこ焼きのパックが、今日という日の象徴のようだった。) |
(祭りの喧騒を一歩離れて見詰める浴衣姿は、心なしか漫然と―) | |||||
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(日頃の静けさとは異なり賑わいに包まれた神社内。立ち並ぶ出店から聞こえる威勢の良い呼び込みに視線をあちこちへと向けながら、人波を縫うようにして境内を歩く糸川の挙動は珍しく覚束ないものであった。その原因の大半を占めるのはただ一点。寮を出る際に夜長兄妹――主に兄の方の口車に乗せられる形で着てしまった浴衣にある。生成りの地に浮かぶのは青紫の縞と菖蒲模様。きっちり結い上げた黒髪、装飾品はシルバーの帯飾りと日頃から外さないミサンガだけという装いは道行く他の浴衣姿と比較しても地味な部類に入るのだろうが、着慣れなさも相俟って居心地はかなり悪い。ついでに言えば本日は単身で暇潰しに来ただけという、着飾る必要性など全く無かった事実に思い至れば、胸を過る思いは「知り合いと顔を合わせたくない」と――そんな消極的なものに繋がってしまっていた。結果としてふらり、ふらり、自然と人気の少ない方向を選び取った足は隅の稲荷社へと辿り着き)………疲れた。(少し出店を冷やかしただけにも拘わらず、溜息を吐いて零す独り言。いったい己は何をしに来たんだったかと自問自答を始めそうになるが、ふと視線を上げると、丁度近くに店を構えていた綿菓子屋が目に入った。店主と思しき男性が機械の中に割り箸を差し込んで作り上げる雲のような白さに、歓声を上げる親子連れ。何処か懐かしそうに微笑ましい光景を眺めながらも、人の輪からは遠退いたまま、朱塗りの鳥居を背に物思う)…前にこういうお祭り連れてきて貰ったの、何時だったっけ…。(ぼんやりと佇む様子は心ここにあらずといった風にも見えるかもしれない。実際古い思い出を掘り返す注意力は散漫で、仮に誰かが接近してきても避ける事など出来ないのは確かだった) | |||||
“ちゃんと前を見て歩きなさい”って、なかなか難しいよな。 | |||||
(その日その日の行動が気分によって激しく左右する児玉には、半ば強制的に寮から追い出された状況は不満そのものだった。好きな時に寮へ戻って安眠を貪ることも叶わぬとは何とも世知辛い。とは言えその不満は諦めが大いに滲んだそれである為に立ち直るのに然程時間は要さず、やがて暇潰しにと以前から小耳に挟んでいた夏祭りに参戦する程度の好奇心は持ち合わせていた。祭りの喧騒はきらいではないし、値段が割り増しされた定番の食べ物だってもちろん好物である。途中で飽きたら学校で眠れば良いとの思考のもと、朝から着用したままの普段と変わらぬ制服姿にて一人夏祭りに向かった児玉の手には早速わたがしが握られ、指からは紫のヨーヨーもぶら下がっていた。時々なんとなく見知った顔が通りすぎて行く姿を見た気もするけれど、屋台と食べ物に一度夢中になれば他の世界など特に気にすることもなく――やがて人の輪から離れた場所へと進んだ後に。くありと大きな欠伸を零し、うっすらと涙の膜で霞んだ視界の先に一人の姿があることを、気にも留めなかったことが原因だろうか。どんっ、と腕に当たった衝撃が軽いものに感じたのは、衝突した相手が自身より随分小柄だった為だろう。「あ、」ぶつかった後になって間抜けに零した声は、さも今までその存在に気付かなかったと言わんばかりの響きを孕んで、その相手に視線を送る仕草もひどく緩慢としたものだった。)ごめん。大丈夫?(それは誠意の欠片もない言葉だけの謝罪に等しい事で。けれどもその場にて立ち止まり、彼女の様子をじっと見据えるのは、形式上その安否を確認するためだろう。――なんとなくその姿に見覚えがあるのは気のせいか、僅かに頭の中で記憶を探りながら。) | |||||
確かに気になるものがいつも前にあるとは限らないけど……注意しなよ。 | |||||
(夏の風物詩とも言える雰囲気や熱気を好んでいないわけではない。ただなんとなく場違いな気分に陥ってしまうのは、この非日常感に馴染みが薄い影響か、或いは単に一人ではしゃぐことに抵抗がある所為か。下駄の歯で手持無沙汰に地面を擦りつつ、さてこれからどうしようと取り止めのない思考が次なる議題へと移りかけた矢先。予期していなかった方向からぶつかってきた衝撃は決して大きいものではなかったけれど、急に意識が現実へと引き戻された驚きから手首に引っかけていた竹籠巾着が滑り落ちた。咄嗟に膝を折って拾い上げようとしながら、唇を開き)いえ、あたしの方こそぼーっとしてて…。大丈夫です、ごめんなさ……、…、(形通りの謝罪を口にして、振り仰いだ双眸に映る第一印象は随分高い。――否、この高みから注がれる眠たげな視線には覚えがあると、よりにもよって知り合いどころかクラスメイトで同輩の彼と遭遇してしまう間の悪さに一瞬天を呪いかける。しかしここで回れ右をするのは聊か人として問題ありだと判断を下したなら、巾着に付いた砂を払いながら立ち上がって)…児玉君も来てたんだ。こんなところで会うのもなんだか奇遇だけど、お祭りは楽しんでる?(いかにも当り障りのない態度で雑談を振ってみたのは良いが、それにしても先ほどから何やら観察するように見られているのは気のせいだろうか。彼と目を合わせられず綿菓子とヨーヨーの間を彷徨っていた視線は徐々に怪訝な色を帯び始め、やがて耐えきれなくなったかのように一度首を捻ったなら)えぇと…、立ったまま寝てる…とかじゃないよね? どうかした?(流石にそれはないと理解しつつも問う。理由は勿論、よもや気がつかれていないという、その可能性を考慮していなかったからだろう) | |||||
うん。……どうやったら注意出来るかわかんないけど。 | |||||
(半ば一方的にぶつかったような状況に加えてこの体格差である、怪我は負わせてないにしろ彼女の手から落ちたものがもし食べ物であったならば台無しにしていた事は間違いないだろう。相手の対応が寛大であったことが幸いか、軽い謝罪を交わしたところでその会話も幕を閉じると思っていたのだけれど――予想外にも彼女の口から続いた言葉は、児玉を認識した上での世間話だった。やはりこの既視感は気のせいでは無いのか、寸の所で出て来ない存在に悩みながらも軽く頷いて見せて。)楽しんでるよ、食べ物は一通り食べたし。あとでお面屋さんでも見に行こうと思ってたところ。(当たり障りのない会話がそう弾むとは思わないけれど、痒いところに手が届かないようなもどかしい気分を味わっている最中となれば話がお座なりになるのも本人にとっては致し方あるまい。祭りによく馴染む浴衣を纏う彼女は見知らぬ通行人よりよほど目を惹く存在感があった。それが単に見覚えのある人間だからなのか、純粋に浴衣がよく似合っているという事なのかは分からないながらも、なかなか答えの出ない観察は怪訝そうな視線を頂く結果になったようだ。)うーん……。浴衣で雰囲気変わってるのかなって思って。…………。……あ、寝てないよ。(やんわりと否定を下しつつ、正解に辿り着かない観察も一旦中止するとして。先程彼女の視線が自身の手元にあったことを思い出せば、「ヨーヨー、要る?」なんて眠たげな瞳にて問い掛けるのだ。ついでのようにわたがしにもかぶりついて、一息。流れる時間は、どこまでもゆったりとしていた。) | |||||
肯いた意味ないってそれ。常にこう…キリッと神経尖らせたら良いんじゃないの? | |||||
(どうでもいいがあの寮の住人は全体的に縦に伸び過ぎではないか――。彼を見上げてそんな関係ない方向に思考が逸れる程度には、ぶつかられた事など気にも留めていなかった。巾着には落として困るような物は入っていないし、鳥居を支えに出来たおかげでバランスも崩していない。ただ予期していないタイミングでの遭遇だった為、まだ頭が上手く回っていない感は否めないが)ああ、うん、持ってるものを見れば聞くまでもないことだった。……お面。何か目当てのやつでもあるとか?(縁日でお面屋と言えば思い浮かぶのはキャラクターものの其れなだけに、敢えてそこに行きたいとは珍しいように思える。俄かに芽生えた好奇心に少し考えて、ついでに己が今とても時間を持て余している事実を思い出して。「あたしも見物に行こうかな」なんて小さく口に出す姿勢は馴れ馴れしかったかもしれない。見たところ連れが居ないのは向こうも同じようだし、どうせ出会ってしまったなら彼の陰にでも隠れていた方が目立たないかと――そんな打算めいた気紛れは黙したまま共衿の辺りに掌を置いて)雰囲気って…、まさか誰だか分かってないとか言わないよね。いくら寝てなくても、寝ぼけて同級生の顔も忘れましたー…なんてのは怒るよ。(じとり。疑問から疑念へと変わった視線はマイペースな青年を漸くまともに捉えたが、予告している時点でそれほど本気でないのは確かだろう。次いだ問いかけには一瞬きょとんとした後、)いい、遠慮しとく。折角貰っても壊れたり萎んだりしたら少し寂しいし。(軽く首を振って断ったのは貰っても単に扱いに困るからだが、祭りの高揚感ともまた異なる緩い空気がそうさせるのか。物言いは普段より素直である) | |||||
キリッとしたおれ?……アイデンティティ、なくなるんじゃないかな。 | |||||
(お面に関して言及されるとは些か予想外でもあって、ぱちりと大きく瞬いた後に肯定の頷きをひとつ。)目当てってほどでもないけど、おかめのお面置いてるかなって思って。あと、単純に見てるのも好きだから。(同学年のとある彼を切欠として興味を持ち始めたおかめの言葉を引き出しつつも、元から夜店に並ぶ商品を眺めるのは好きだったのだ。生憎と彼女の趣味や好みは知らないながらも、折角同じように見物へ行くのならばと「一緒に行く?」なんて軽く誘いの言葉を紡ぐのは、彼女自身も特に用事が無さそうだと判断を下したからで。単独で回るよりは二人で行くほうが退屈も凌げそうだと、そこまで口にするつもりはないけれど。――じとりとした厳しい視線を受け取りつつ、図星をついた指摘は少し痛いものだった。思考は十分に巡らせた筈だが、どうも人の名を覚えるのはいつまで経っても苦手なもので。)うん、残念ながら。寝ぼけてるわけじゃないんだけど、名前、あんまり覚えてなくて。……怒る?(落ち込んだ様子はないながらも、そろりと反応を窺うように小首を傾げて。同級生との単語から、彼女がクラスでよく目にする女の子だと認識は改まっても、その名に辿り着くにはまだ時間を要しそうだった。 祭りの勢いで購入に走った水風船はやんわりと遠慮されたが、特に残念がることもなく、そっか、と軽い相槌を重ねて。)じゃあおれが寂しくなっちゃうな。いつも買っちゃうけど、結局家に着くと触らなくなるし。ふしぎだよなあ。(人が持っているのを見るとつい欲しくなる、なんて子供染みた思考が薄れる日は果たして来るのだろうか。ぼんやりと思考しながらも、さて何もない所での長居は終いとばかりにくるりと踵を返せば、「行こうよ、あっち。」屋台のほうを指差して、いざなうように薄い笑みと共に彼女を振り返った。) | |||||
…まぁね。もしそんな児玉君が居たら、真っ先に偽物の可能性を疑うと思う。 | |||||
おかめ……それはまた更に意外…。あ…でも、お面がずらっと飾ってある店構えって割と不気味な感じはいいかも。般若面とか狐面なら部屋に飾っても違和感なさそうだし、売ってるならちょっと欲しい。(肯定と共に返ってきた答えに麻呂眉と白塗りのおたふく顔を思い浮かべ、独特の雰囲気を持つ彼と結びつくようでつかない違和感に不思議そうに瞳を瞬かせる。続いた言葉は賛同の意こそ示しているものの、純粋に屋台の並びを好んでいるらしい相手とは異なり著しく偏った趣味の延長であるのは確かだろう。しかし理由が何であれ興味は興味。願ってもない同行の提案に二つ返事で了承し話が纏まったなら、さて喧騒の最中に舞い戻る――その前に。流石に捨て置けない発言に、もう一度彼を見返して呆れたような溜息ひとつ)はっきり覚えてないって言われると怒る気も失せるよね。正直って美徳。……でも結構悔しいから、児玉君が自力で思い出すまで教えないことにする。(彼の口振りを聞く限りではこのままずっと思い出せない公算の方が大きかったが、会話は問題なく成立しているし、無理に名前を覚えさせても仕方がないと思い直す。だからつんと澄ました顔で、付け加えたのはささやかな意地悪だ)いつも買うならまた買えばいいような。…そういうのって旅先で要らないお土産買うのにも似てるけど、思い出を形に残したい人間心理かな。まぁ…ただの無駄遣いで、寂しくなるのはお財布の方かもしれないけど。(貰ったものと買ったものでは意味が異なる気がするのは、まだ少し、一人きりだった時の感傷に流されているからなのかもしれない。意識を切り替えて曖昧な笑みに促されるまま、下駄を鳴らし石畳を踏み出す一歩。大真面目な分析をしながら彼の背を追う足取りは着崩れを恐れて普段より一際遅かったが、見失いようがないぶん逸れずに済みそうなのは幸いだった) | |||||
でしょ。注意力を持ったらおれじゃない気がする。 | |||||
……狐面はわかるけど、般若面を部屋に飾る女の子はだいぶ個性的だと思うな。おれはね、飾るならシャドウの仮面みたいのがいいな。ないと思うからおかめで妥協するけど、お互い好きなのが見つかるといーね。(人の好みに口を挟むような性格ではないつもりだが、般若面を欲する姿に思わず瞠目したのは彼女の趣味を欠片も知らなかったからだろう。そんな彼女に僅かな興味を抱きつつ軽い感想を述べながらも、それならばと自らの好みを憚らず告げたのは賛同が得られるやもしれないと考えた為に。こうして二人きりで話す機会も今までに無かった気がするのだから、その人となりを知るのも今日が初めてに等しいだろう。優しいような、意地悪なような。どこか掴み所のない曖昧な印象はそのままに、未だはっきりとしない名前に関してはもう暫く頭の中で粘ることにした。)自力でだと難しいかな、学校が始まるまでもまだあるし。……うーん。ヒントは?(駄目元ながらにそう問うてみるけれど、澄ました様子の彼女にそれが通じるか否か。名を知らぬまま会話を続けることなど今まで何度もあったのだから特別不便は無いが、なんとなく思い出したい気分だったのだ。)……どうせすぐだめになるのにまた買うのって、学習できてない気がしてもやもやするんだけどな。まあ、できてないから買うんだけどね。人間って、そんなもんか。(自身の悪循環を正当化するように苦く笑んだまま、一先ず屋台の並ぶ道へと歩み始めたけれど。かこんと鳴る下駄の音で彼女の存在を確認しつつも、隣ではなく後ろに――それも少し離れた場所に気配を感じるものだから、思わず振り返るや否やその華奢な手首をそっと掴んで、引き寄せた。)服。掴んでていーよ、歩くの早かったらひっぱって。(人混みでもそれなりに目立つ大きな背は、同時に人避けにもなるだろうから。近くに居た方が彼女も歩きやすいだろうし、服の裾を掴むくらいならばそう目立ちもしない筈だとの思考のもと紡いだ提案である。選択の程は彼女に委ねるとして、腕を離せば再び前へ向き、先程よりペースを落とした歩調にて歩みを進めようか。――第一の目当ては、宣言通りのお面屋である。) | |||||
だからと言って余所見してると、そのうち危ない目に遭うかもよ? | |||||
暗がりで見るといかにも魔除けになりそうな感じで……え、だめ? シャドウの仮面っていろいろ形があった気がするけど、あれはお面じゃなくて西洋のマスクに近い気がする。カーニバルとか仮面舞踏会とか…うん、被ってるのがシャドウじゃなきゃ雰囲気たっぷりなのに。(人に話したところであまり理解されない。ともすれば引かれる嗜好だけに、日常生活で己の趣味を披露する機会など多くもない。口にしたところで冗談めかして誤魔化す局面が殆どだが、彼の反応はそれほど悪いものには見えなかったから、日頃に比べて饒舌な口がつい率直な感想を滑らせた。これまでふわふわぼんやりとした印象しかなかった相手を前に存外喋れるものだと好意的に受け止めつつ、ヒントを求める声には眉を寄せて思案を巡らせる)苗字は布の材料で、下の名前は――…この柄がそうかな。いずれアヤメかカキツバタ、ってね。(自らが纏う浴衣に咲いた紫の花を指して。意味はよく知らないなりに聞き覚えのある諺で明言を避けたものの、二音を含んでいる時点でそれはもう答えも同然かもしれない。今更ながらの名前当て自体が滑稽なので、彼が思い出せないとしてもそれはそれで構わなかったが)……それ言い出したら縁日全否定になるし、結局買うなら楽しむのが一番だよ。(元より己の意見で悩ませるつもりはなかったのだ。色々と藪蛇だったと苦笑を横目に発言を方向転換して、自戒の意を籠めて歩くことに集中する。しかし中途半端に空いていた距離が手を引かれて一気に詰まると、意外そうに見張った双眸が彼を捉え)掴んだら児玉君が歩き難いでしょ。この格好で来たあたしの自業自得だし、ちゃんとついてくから大丈夫。(厚意そのものは嬉しいと感じているのだが、人に気を使われるとどうにも受け入れる事に抵抗を覚えてしまう。心配される度に口をついて出る"大丈夫”の意地で首を横に振ったなら、ペースを落としてくれたその横に極力並んで歩こうか。やがて頑なだった表情はお面屋に到着すると平素に戻り、木組みに掲げられた豊富なラインナップを見詰め、「おかめも般若もあるね」と傍らに声を掛けた) | |||||
そのときはそのときかな。人生どうにかなるよ。 | |||||
うーん……なまはげみたいな感じ?人避けにもなりそーだね。……西洋のマスク。今度調べてみるかな、ああいうデザイン好きだから集めたくなる。(“魔除け”との言葉には思わず納得してしまうが、好んでそれを飾りそうな彼女には不思議な印象が募ってゆく。それでも好みの傾向は似ている所があるのか、シャドウの仮面と近いものを引き出されては興味深そうに頷いて。何か見付けたら彼女にも見せてみようとすら考えるのは、話の合った貴重な存在として捉えたからであった。)布の材料。……糸?アヤ……ああ、“あやちゃん”って呼ばれてる人、居た気がする。うーんと、(ヒントを元に閃きかけた思考に集中するべく一度口を噤んで、そこからたっぷりと悩んだ後に。「……糸川さんだ」。クラスメイトとして、少なくとも一度は呼んだことのある名を反芻しつつ、すっきり満足そうにひとつ頷いて見せた。祭りとは多少羽目を外しても許されるものだろうから、“楽しむのが一番”との言葉は尤もだった。それもそうか、存外素直に落ちた相槌は肯定の意を示していて、苦笑を引き摺ることもない。――掴まれることで実際に歩きづらくなるかはさておき、先程よりは近い距離にて逸れる可能性も薄れたならばそれで十分だ。折角の浴衣を自業自得と称されるのは少し寂しい気もしたが、そこからは特に何も告げぬままお面屋へと到着した。テレビでよく見るキャラクターと同じように並ぶ目当ての面は少し滑稽にも思えて、「うん。折角だし般若も買おうかな」と品定めを始める表情は少し幼く見えたやもしれない。そうして悩んでいた最中、そこを通り掛かった親子が流行りのヒーローの仮面をひとつ買い上げて行くのを、無意識ながらに視線で追って。――「糸川さんは、」世間話のように紡いだ言葉は、恐らくは素朴な疑問だった。)ああいう風に、親と祭りに来たことあった?お面、買ってもらったりしてさ。(売り切れたお面の元へ視線を遣って。あの幸せそうな親子が、他の人間にとっても普通なものなのか。それが知りたいがための、好奇心のようなものだった。) | |||||
……ならない、ならないから。周りがハラハラするだけだから。それ。 | |||||
人避け、ね。確かに部屋に誰も通せなくなる……どころか出入りする時に中見られただけでも大騒ぎになりそうかな。般若でも仮面でも。(言いながらお面に対して多様な反応を示すであろう寮生たちを想像して、真面目な口調ながらもどこか面白がるように。少しだけ興味があるのは趣味の悪さの表れか。或いは単純に、上機嫌の賜物だったのかもしれないけれど)なんだ、ちゃんと覚えてたんだ。次があったらヒント無しだから、出来ればそのまま忘れないでね。(歩きながら後ろ手に持った巾着を揺らし、沈黙の後の正答を耳にしたなら感心しつつも念を押す。幾ら同学年とはいえ年上に対するものとしては偉ぶった態度とも言えようが、彼の醸し出すゆったりとした空気は差異を忘れさせるところがあった。到着したお面屋で浮かべた表情を見ているとそれは猶更で、此方は迷わず般若と狐のお面の購入し、手渡されたうちの片方――狐面を彼の前へと掲げる。「児玉君に般若とか似合わないよ」なんて一方的に押し付けたのは先の親切に対する礼のつもりか。しかし楽しそうな声と共にすれ違う親子の姿に目を奪われたなら、問いにすとんと表情が抜け落ち)――知らない。(不自然にはっきりとした即答が硬質さを増した声に乗って落とされた。鬼女を模した面で歪みそうになる口許を隠し気丈さを取り繕おうとするが、仄暗い瞳は彼をまともに見返すことが出来ず下方へと。それでも誤魔化すように続けたのは要らぬ詮索を避ける為で)…ううん、一緒に来たことはあったはずなんだ。でももう覚えてないぐらい昔の話だから、どんな風に楽しかったかも…よく思い出せなくって。(それだけ、と他人事めいた調子で事実を連ねたならゆるゆると頭を振る。動揺するでもなく激昂するでもない様子は非常に落ち着いていたが、だからこそ明確な拒絶を含んでいた。暫しの間を挟み、やがて矛先は彼の方へ)そういう児玉君こそ、お家の人とはよく来てたの?というか児玉君の家族って想像できないんだけど……似てたりする?(同じ話題を切り返した理由など特に無く、ただ他愛のない雑談に戻したかっただけだろう。しかしそれが浅慮だったと気付く余裕を、この時の糸川は確実に欠いていた) | |||||
じゃあ、ハラハラついでに助けてね。たよりにしてるから。 | |||||
泥棒が入ってきても安心だし、そういう意味ではいいんじゃないかな。……仮面ならそこまで騒がれることもないんじゃないの?(とは言え、シャドウの仮面と似たデザインのものを飾れば寮生が驚く姿も容易に想像出来てしまった。彼女の楽しそうな口振りから近い未来にそうした現場を目撃する可能性まるやもしれないと、小さく笑みが込み上がる。)うーん。一応クラスメイトだから?この機会に覚えられたらいいんだけど。(多くのヒントを得て漸く思い出せた程度の記憶だった為に、次回はヒントなしと言い切られてしまえば僅かに表情に困惑した様子を残して。それでも今回の会話を切欠に、改めて一人の存在が記憶に残ったのは明らかだった。差し出された狐面だって、その要因のひとつとなるだろう。ぼんやりとした瞳を少しだけ丸めて、押し付けられたままにそれを受け取ればぱちりと一度瞬いた。「糸川さんは、般若も似合いそうだね」――やがて柔い笑みを浮かべながら、褒め言葉にしては相応しくない言葉を穏やかに紡いだけれど。さんきゅ、少し砕けたお礼と共に狐面を額の少し横へと装着すれば、気分は祭りを楽しむただの子供だった。 そんな空気が突然にして張り詰めたのは、何気なく口にした問いが原因だったように感じられた。知らない。その四文字から強い拒絶を感じ取れば、驚いたように彼女へ視線を向けたけれど、その目が合うことは無く。その先に続いた言葉こそ平然としたものだったとは言え、恐らく失言だったのだと、なんとなしに察する程度は出来た。「そっか」、気のない相槌で以ってそこで会話が途切れると思ったものの。少しの間を挟んで鼓膜を揺るがした単語に、ぴくりと指先が硬直した。さあっと心が冷えてゆく感覚は――どこか、覚えがある。)……来たことないな。家族とは。弟いるけど、おれとは全然似てない。(顔が強張る。震えそうな声を抑えるのに必死だった。なんてことのない単なる話題の一つに過ぎないのに、可笑しなくらい動揺している自分に、自分自身が一番驚いていた。その空気から逃れたくて、ゆっくりと吐き出した溜息で僅かに落ち着きを取り戻せば、震えた手をぐっと握り締めて。)――水あめ食べたい。(気紛れな子供が我儘を口にするように。おもむろに、そう呟いた。) | |||||
だめ、無理。あたし呼ばれて飛び出るヒーローじゃないし。 | |||||
学生寮に押し入る泥棒とか狙いが分かんない。それに桐条先輩が居る限りは防犯の心配はしなくていい気もするけどね。……仮面はほら、シャドウと間違えられたりしたら大変でしょ?(流石に似た仮面を持っているからといって攻撃されたりはしないだろうが、あのメンバーではどう飛び火するかも分からない。しかし冗談めいた軽さが滲むのは例え話の範疇故で、ついでに言えば彼とこんなふざけた会話を交わしているのも可笑しくて、久しぶりに誰かと過ごす時間に和やかさを感じた気がする。名前についても困惑気味な表情を引き出せただけで上々だろう。そのまま満足げな視線は高い頭上に据えられた狐面へと。思った通り、浮世離れした彼の面差しによく似合っていたのでこれまた気分良さそうに双眸を眇めたが、やけに柔和な笑顔と共に贈られた言葉に一瞬表情が怯む。それは紡ぐ声音が穏やかでなければとても賛辞とは捉えられない内容にも拘らず、不思議と文句は出てこない)…般若が似合うとか、そんな褒め方されたの初めて。児玉君さ、そういうこと他の子に言ったら怒るどころの話じゃないから、気をつけた方がいいよ。(だからと言って素直に喜べるような可愛げも持ち合わせていないので口を衝くのは一般論。複雑そうに眉を寄せて手中の面の角を弄る様子は照れ隠しにも見えるかもしれないが、実情はどう反応して良いのか分からなかっただけとも言えた。けれど――そんな戸惑いも間もなく冷えていく。普段であれば無難に流せた話。周囲から問われる事も多い両親の話。それを拒んでしまったのは満月の夢に向き合いたくなかったからで、己の態度の異常さへの言及が無かった事にほっと胸を撫で下ろす。それはきっと彼の方も同じだったのだろうと察したのは返答を耳にした直後だった。互いの間に横たわる重苦しい空気に次ぐ言葉を見失いかけるも、此方が何か口を開く前にひらりと話題は翻って)…さっきわたあめ食べてなかったっけ? …あ、でもいいや、考えてみたらあたしまだ何も食べてない。(内心で彼の気紛れに感謝しつつ、「行こ」と指し示す雑踏の向こう側。なんとなく一人に戻る気になれず、さりとて目は合わせぬままぎくしゃくと歩み出したが、彼がついてくるかどうかは自由だ) |
徳永が居て助かった……けど、悪い。あんたにとっちゃいい迷惑だな。 | |||||
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(ぽつぽつと灯りが増えてきた宵の口。賑わい活気づく人々の中、併設された公園のベンチ脇、其処に佇む当真は弱りきっていた)俺がおまえのママを見つけてきてやるから、ここで待ってるんだ。…な?……って、お、おい…(縦に長い体を畳んで目線を合わせた先には泣きじゃくる5、6歳ほどの少年、神社に来る道中で親とはぐれたらしい彼にうっかり声をかけたのが運の尽き。食べ物を与えて宥めつけても彼の口から零れるのは「ママ」ばかりで、仕方なくそれらしき女性を探しに行こうにも、幼子特有の甲高い泣き声に足止めを食らうこと数度、うっかり彼の傍から離れることも出来ずにいた)…まずは、こいつを見ててくれる奴を探すところから…か。(やはり此処には来るべきじゃなかったと頭を抱える姿は数刻前に予期した未来そのものだったが、戻るべき寮の扉を閉ざされた今、木の葉を隠すなら森の中、浴衣を隠すなら祭りの中。寮を出る間際に半ば強引に押し付けられた浴衣も皺一つなく返却予定だったのだけれど、祭りに向かうにはまだ日が高い頃、当真が暇を費やす先など一つしかなく、其処で最愛の人に言われるがまま始まったお披露目会の結果がこれだ。当真の体格にぴったりな濃紺の浴衣に低い位置で巻かれた帯、スニーカーでは不格好だと笑われ履いた無骨な下駄は華やかさに欠け、180の大台を突破した背丈はいつも以上に――当真を見上げる少年の感想は正しい。「ねえお兄ちゃん、ママは?」)だから俺が探しに――…って、……あれは…(人波の合間、ちらと見えた姿は見慣れたもので、本来ならば境内の隅で目立たず時間を潰すはずだったがやむを得ない、見知らぬ誰かに託すよりは少年の危険もなかろうと呼びかけたその人の名は――)徳永! | |||||
迷惑?…謝る事なんて何も無いわよ。寧ろ、私がお礼を言いたいぐらいなんだから。 | |||||
(夏特有の太陽が沈み、零れ落ちた一滴の濃紺が空に染み渡る頃。陽が落ちて尚、萎まぬ藍の朝顔が咲き誇る白地の浴衣を身に纏い、傘と竹籠の巾着を手にした徳永は祭囃子に浮かれる人混みの中、静かに歩みを進めていた。――寮の工事により外出の命を受けた当初は何処かで涼を取ろうと画策していた筈なのに。同期の彼女が手にしていた浴衣を目に留め、不意に蘇った母との思い出が全ての発端か。此処暫く己を苛む夢のせいか、或いは病院から遠ざかっていた故かは知れないが唯一母から受けた教えを想起するには十分で。其の体躯には大振りな浴衣を選び、今では久しく聞いていない母の声を胸に着付けへ興じる事暫し。調節した丈とは裏腹に案の定、手首までを隠す長い袖から滲む幼さは御愛嬌。襟を抜き硝子の簪にて黒髪を結い上げた其の姿は少なくとも高校生では無く年相応に見える筈。いっそこの侭夏祭りに身を投じれば多少は気も紛れるだろうと此処までやって来たのだけれど、)…案外混んでるものなのね。(しだれに結った帯が緩む事はなさそうだが、流石に此の暑さに人混みとなれば否応無く気が滅入る。人の流れから逃れるべく周囲を見回した其の時、己の名を呼ぶ少々低めの声音が耳朶へと飛び込んだ。思わぬ呼び声に瞬きを繰り返すも、聞き過ごす訳には行くまいと下駄を鳴らし人波を抜ければ瞳へ飛び込む青年と見紛う其の姿にぱちり、瞬きが再び一度、)あら、当真さん…こんばんは。何かあった、…の?(想像だにせぬ声の主を視認すると同じく名を紡げば微笑みが零れ落ちる。然し其の眼差しは本来向かうべき彼女を逸れ、自然と涙を零す少年を映し)……――弟さん、では無いわよね。…ひょっとして、(泣きじゃくる少年と血縁には見えぬ二人の姿に導き出された答えはけれど、口に出す事は何故か憚られて。曖昧に暈した言葉の先を確認せんと彼女へ首を傾げた後、幼子を静かに見つめよう。涙に濡れた瞳と目が合った暁には、穏やかな笑みを携え膝を折り、「こんばんは」とゆっくりとした声音でまずは挨拶を告げる心積もりで――) | |||||
お礼?………………ああ、子供が好きなのか? | |||||
(行き交う人々の隙間を縫うように揺れる白い影。呼びかけたのは此方側だと言うのに、いざ目の前に花が咲けば、平生以上に色香を纏う彼女は紛う事なき大人の女性。薄暗い空を背に浮かび上がるたおやかな姿に目を奪われ呆けたのは我ながら情けないけれど)あ、ああ。…実はな――(瞬間揺れた声も察しのいい問いかけに肯定を見せれば、彼女も知る当真へとすぐに戻るはず。そして事の様を一通り説明する傍ら、先程まで乾き知らずだった少年の瞳に光が差したのは、膝を折る動作一つとっても優美に映る彼女の成せる業か。声音も微笑みを象る目尻も口元も、全てにおいて彼女が携えている包容力はなるほど当真には持ち得ぬものだから、打って変わって喜色が浮かんだ彼の顔にも納得がいく)…というわけだ。悪いけど、少しの間こいつを見ててくれないか?(厄介事に巻き込んでいるという自覚はあれど、母親に近いものを感じ取ったか、彼女の登場に落ち着きを見せ始めた彼の様子を見ればこれが最善策なのは明確な事実。すぐさま一人行くことはしないけれども、彼女が是と答えれば当真は再び賑わう灯りの下へと向かうはず。――とその前に、重要な事があった)…で、だ。そろそろ名前教えてくれないか。(恥じらいも無く袖を捲りながら問うたのは、少年の名。Tシャツに半ズボンというありふれた少年像、少し気弱げな顔立ち以外にこれと言った特徴もなく、せめて名前くらいはと思うもので。すると、尋ねた当真よりも彼女の事が気になるのか、少しばかり彼女をじいと見つめたのち、「…ゆーた。」と小さく名を零す姿は当真のお役御免を物語っており、これには流石に苦笑が隠せなかった)…ったく、ガキのくせに色気づいたか、あんたがママに似てるのか……まあいい。礼なら後でなんかするから、こいつを頼む。(果たしてこの依頼、彼女は引き受けてくれるだろうか。もし首が縦に振られれば謝罪を重ねてひとまずこの場は彼女に任せるだろうし、横に振られれば万策尽きたとばかりに少年を抱えてでも事態の前進を目指すのだろう) | |||||
勿論、子どもは好きよ。…でも其れ以上に偶然でも君が声を掛けてくれた事が嬉しくて。 | |||||
(本来ならば違和を覚えて然るべき性差滲む装いも彼女が纏えば随分と様になる物だ。――抱いた内心の感慨が形を成さずして胸に秘される事と相成ったのは、無に固定されがちな相貌へ不意に滲んだ色彩が余りに物珍しかったから。芽生えた好奇心に背を押され、心中探らんと思考を巡らすも非常事態にも程近いこの状況下で己が意思を尊重す図太さを此の女が持ち合わせている訳も無く。いつしか消え失せた彼女の一面をそっと心に留め、明確な其の説明へ耳を傾ける事暫し。話が進むにつれ気付けば引き結んでいた唇を今一度、微笑に換装したならば深い頷きを返して)私で良ければ勿論、喜んで。…当真さんって案外世話焼きなのね。それとも、義理堅いのかしら?(少年と視線の高さを合わせた今、見上げる彼女に向ける何気ない問い掛けにも惜し気無い賞賛を。おまけに腕とは言え惜し気無く素肌を晒す姿と憎まれ口に、相当手を焼いたのだろうと予想立てれば肩まで揺らして笑みを噛み殺す体たらく。――尤も続いた言葉に一時表情は途絶え、口許彩る三日月には繕い切れぬ憂いの念が滲むのか。とは言え、即座行動に移しかねぬ彼女の様子を見て取ればそんな表情も掻き消え、彼女の足取りを阻害せんと伸ばした指先は浴衣の袂を少しばかり引く筈で、)ちゃんとお名前言えてえらいわね、ゆうた君。私はね小百合って言うのよ。…ねぇ、ゆうた君。ゆうた君のママはどんな服を着てたかな?私と、似てる?(言葉以上に静止を求む眼差しを彼女に注いだ後、解放を齎せば役目を終えた掌が続いて向かうは少年の頭。慈しむように小さな頭を撫ぜる傍ら己が名を告げたなら、今では涙の引いた瞳を覗き込みかみ砕いた問をゆっくり重ねるだろう。――やがて答が得られたなら再び三白眼を静かに見据え)この人混みじゃ、この子の名前と子どもを探している母親なんて条件付けだけじゃ大変よ。…本部に行けば迷子センターもあるでしょうけれど、…大丈夫?(彼女の依頼は手放しに享受するも、何か策があるのかと問う眼差しは疑問と懸念を宿して。「大丈夫よ」なんて少年に語る姿は変わらず穏やかな侭、残された片手は小さな掌を握っていた) | |||||
……理解できない理由だな。…けどまあ、…なら良かった。 | |||||
(数多居る浴衣姿の女性の中から吸い寄せられるかの如く瞳に彼女を映した時、その名を呼ぶことを躊躇わなかった。それは何故か。多分、彼女こそ今一番自分が求めている人間だと瞬間的に悟ったからだろう。そしてやはり、彼女は頷くのだ)……別に、そうでもないさ。ただ、子供は一人じゃ何もできない。弱いしな。…だから誰かが助けてやんなきゃならないだろ。それが今回は俺だっただけ、(「助かる。」簡潔に漏らした感謝の後、おそらく賛辞のつもりであろう問いに曇らせた瞳はほんの少し、遠くを映して本音とも照れ隠しとも取れる言葉を返すけれど、沈黙に費やす時間は無い。彼の名をようやく聞き出してからは鋭さの欠けた目元と揶揄うような口調すら見せたものの、当真は確実に急いていた。足を止められ、その理由を尋ねる間もなく彼女の意図を汲んだその時までは)…それもそう、だな。(大人しく二人のやり取りを注視して得た新たな情報を手に、彼女の疑問には素直に頷いてみせる。自らの言葉に煽られたか、余計な感傷に浸るべきではないと頭を振って焦りを飛ばせば、)確か、境内の奥…おみくじの直ぐ近くに係のテントがあったはず…とりあえず、そこに行く。(新たな提案を一つ。彼を助けてやれるのは、そう、当真だけではないのだから)…と言うか、なら、そこまでゆうたも連れて行くか?母親見つけて連れ戻るより手間はないし……徳永が居るなら、多分こいつも泣かないだろ。(握られた手の大きさの違いはそれこそ母と子のようで、無意味に其処で停滞した視線を送る双眸の上で眉が動く。けれども名をつけ難い感情はすぐに波を引き、彼に声をかけるのだ。「一緒に行くか。」と。すると、掌の温もりに安堵を覚えたのか、「お兄ちゃんとお姉ちゃんといっしょなら。」泣き声の勢いは何処へやら、小さな声は変わらずだったけれど、おずおずともう一方の手を差し出して言われてしまえば、それを払う手は当真には無い。彼女と比べ荒れた大きな手がぎこちなく小さな柔肌を包めば、2票の賛同を3票に変えるべく、)…だとさ。 | |||||
個人的には、今後もこうして当真さんとお話出来ればもっと喜ばしいんだけれど。 | |||||
……、…――でも、…そうね、当真さんのように当然のことを当然のように出来る人って中々いないと私は思うわ。(恐らくは何気なさを以てして紡がれた言葉が耳朶に打つ程、胸へ去来した疼痛は何故だか次第に増すばかり。一度は開いた唇も脳裏を過った記憶の奔流に邪魔されては、声も出せずただ淡く六つの音を象るのみ。けれど指先から伝わる確かな幼子の温もりに細い吐息を零せば飲み干した感情に再びそっと蓋をして。何気なく帯を撫ぜ湛えた笑みを深めたなら「えらいわね、当真さん」なんて、少年へ向けたと似通った調子にて冗談交じりに今度こそ手放しの賛辞を送るのだ。とは言え現今に於ける優先事項は間違いなく少年に違いない。意識が彼へ傾けば小声ながら齎される情報へ丁寧に頷き返し、更に少しずつ簡単な問を投げ掛ける。予期せぬ幼子との触れ合いに自然、何時にも増して和らぐ雰囲気は何処か彼女とは対照的な侭。出揃った情報に彼の母親像を思い描きつつ代替案への賛同を示さんと口を開いた、のだけれど、)……あら、(声を発するより早く返る少年の申し出に、そして彼女に包まれた小さな手に。不意に目前へ広がる想像さえ適わなかった光景に驚きで占められた胸中へ、小さく灯った泣きたくなるほどの幸福感が少しずつ、少しずつ、溢れるように満ちて行く。)えぇ、行きましょうか。…どうやら私一人じゃ役不足みたいだから三人いっしょに、ね。(三人一緒ならと紡いだ少年の様子に微笑ましげな眼差しを送れば迷わず投ずる一票が満場一致の採決を下すのか。先頃まで涙に濡れていた彼の頬をそっと拭い、袂を押さえて立ち上がれば人の少ない箇所を通りゆっくりとした足取りにて先ずは境内を目指すのか)ゆうた君、なにか気になるものがあったらすぐに言ってね?…勿論、当真さんも。(子を探し求める母を思えば真っ直ぐ目的地へ向かうべきと知りながら、然れど少年へ穏やかに諭すのは彼の気が少しでも紛れる事を祈る故。付け添えた彼女の名に揶揄いの意図は存在せず、至極当然とばかりの響きが滲んでいた) | |||||
…守れない約束なんて出来ない。…あんたも明日には気が変わってるかもしれないし、 | |||||
…あんた、俺のことまで子供扱いしてるだろ。(彼女はよく笑う。人を褒める。慈愛に満ちたその眼差しはきっと全ての者に等しく注がれていると知りながら、一時でも彼女の庇護下に身を委ねたような気になったのは似ていたからだ。からかうなと一蹴出来たはずなのにそうしなかったのも、全て。それでも幼子に向けたものと同じ賛辞を送られた際には、多少の抵抗とばかりに拗ねたような言葉に苛立ちと呆れを被せた誤魔化しを。――どうせ互いの意識はすぐに足元の彼に吸い寄せられ、その話題は間もなく過去に変わるのだけれど)…よし、(少年を軸に結ばれた三人はゆっくりと歩き出した。目的地の間には出店が並び、当然歩みを進めれば進めるほど人は増えるもの。小さな彼に負担をかけぬようにと繋がれた方の肩を下げれば、自然と体は内向きになり、また、彼を守るようにその身を寄せながら)平気か、ゆうた。(再び耳を劈くような泣き声を披露されては困るという建前をきちんと胸に抱き、気が緩むとつい柔くなりがちな言葉尻を切り上げて問えば、二人の大きな柱に支えられた少年は左右の腕の先を見上げて頷き、彼女の気遣いにも素直に笑顔を見せるものだから、「…子供は単純でいいな。」なんて皮肉を零す口調にもやはり柔らかさが滲むのだ)…で、徳永は俺がお面つけたり綿あめ食べたりしたがるとでも思うのか?(先程の子供扱いの延長だろうか、あるいは彼女のことだから本心かもしれない、逡巡の結果はこの通り。どうとでも受け取れとばかりに投げ返したつもりだったのだけれど、「お面…ぼく、お面みたい!」思わぬ方面から反応が返ってきた)…お面?…ああ、(彼の視線の先には、灯りに照らされた般若、おかめ、犬、猫――バラエティ豊かなお面の数々。そのまま視線をずらしていく、何かが当真の琴線に触れたのだろう、思わず「あ、」と漏らした声は、心なしか嬉しそうな響きを携えて) | |||||
誠実ね…守れる約束なら良いのかしら、例えば今度晩御飯をご一緒しましょう、とか? | |||||
そうねえ、年下扱いはしてるかな…。(同学年に所属する彼女へ改めて歳を尋ねた覚えは無いけれど勝率の高い可能性に賭けては慣れぬ足取りに注意する故、半ば無意識のうちに世間話染みた調子で呟きを。――先程一人で歩んだ頃はただ億劫なだけであった人混みも時を共にす二人と歩む今となっては活気溢れる人波と、脳裏に過る感情は些か好意的に変化して。おまけに少年を庇う彼女と、呼応して向けられる大きな瞳のコントラストが生む愛らしさは筆舌に尽くし難く、画質の良いカメラが欲しいなんて思考が心中を過る程。「素直で可愛いわよね。」と、柔らかな皮肉を言い換えるが如き感想漏らせば言葉に代えて捧ぐ微笑みと、再度絡め直した指先に籠める力にて承諾の意を少年へと伝えたなら、)まさか、……お面を付けて綿あめを頬張る当真さんの姿を見たいとは思っているけれど。(即座に告げた否定に添える常の笑みとはかけ離れた真摯な面持ちが然し長続きする訳も無く。一拍の間を置き、緩む雰囲気と同じくして口許に浮かぶ三日月には一転、少しばかり悪戯めいた響きが滲むのか。渡りに船とばかりに下方より聞こえるすっかり元気を取り戻した声に「折角だからみたいわよね」なんて、示す同意の矛先はさて、何処を向いているのやら。二つの視線が交わる先に飾られたお面のラインナップを眺めれば最後に赴いた夏祭りとの相違にしみじみと時の流れを噛み締めて。感慨に浸るも束の間、不意に届く跳ねた声音にはたと我に返ったならそれとなく横目で伺い辿る彼女の視線の先。大まかな位置を確認しては暫し様子を伺った後、屋台の店主へ目配せをして、)……さぁ、二人とも。どれが良いか決まった?(さも当然の流れとばかりに紡いだ問いに彼女が上手く流されてくれるか知れないが、緩めた巾着から取り出した財布を手に静かに首を傾げ二人の反応を心待ちにし、) | |||||
そうだな。……加えて、俺が守りたいと思う約束なら。 | |||||
(裾が揺れる度、濃紺の天を二羽の白い燕が飛ぶ。ジャージ姿に比べれば不自由な足元も、歩調の遅い彼らに合わせるには丁度良いとゆっくりと進もう。男女の間ではしゃぐ幼子、傍目には仲の良い兄弟か、はたまた――なんて、他者の目にどう映るかよりも、当真が胸中に抱いた温かな何かが現実で全て。皮肉の裏側に隠した本音を見事に言い当てられ、「そうとも言う…かもな。」なんてばつの悪さをその顔に浮かべながら、普段あれほど遠ざけていた彼女との距離の近さも一夜限りの特例と片付けることにして)……誰がやるか。(今度こそ揶揄いのニュアンスを確実に拾い上げれば、 “不機嫌”の文字を顔に貼り付けるが如く結んだ唇、刻まれた眉間の皺は深い。が、唐突に湧き上がった少年の提案で流れは一変。加えて無意識に漏らした声を聞きつけられれば、危うく母親と子供二人の図が完成するところで)また馬鹿にしてるだろ…だから、俺はお面なんて(「いらない。」と続ける予定はまたしても少年の悪意ない言葉に遮られ、「ぼく、フェザーマンRがいい!ホーク!」その声にぴくりと反応したのは、先程まで当真の視線を釘付けにしていたそれの名を紡がれたからで、更に「お兄ちゃんはね、コンドル!お姉ちゃんはスワン!」と続いた言葉には、当真だけならず彼女も驚きに沈黙を費やすことになるのではないだろうか)……。(のち、無言のままとりあえず一人分の硬貨を店主に渡し、ホークのお面を彼の頭に付けてやる。やったやったと喜ぶ彼の姿は実に可愛らしいが、問題は二人に向けられたきらきらとした瞳。おまけに店主の追撃「ほら、お兄ちゃんとお姉ちゃんの分だ。」差し出されたコンドルとスワンのお面)………おい、どうするスワン。(まさかの追加二人分の指定には隣に困惑の視線を送るが、どうせ被らされるならば彼女も道連れにしてやるとばかりに語尾に付け足したのはもはや諦めの証拠。と、眼前のそれを欲する内なる心の現れか) | |||||
……じゃあ、もし君が私の立場だったらどんな約束を提示する? | |||||
(不可思議な現実を日常と解してから早四ヶ月。同じ屋根の下に住まえど特別課外活動部と言う枠組みを除けば特段の接点を持たぬ彼女と和やかに会話を交わす等、初めての経験に相違無く。先頃、寮を出るまで予想だにしなかった巡り合わせと夏祭りの雰囲気に平素と比べて随分と気分が高揚していたものだから。返る言葉以上に心中を物語る表情に己が失言を悟れば穏やかさばかりが滲む表情も変化し、自然と眉尻は僅かに落ちて。どうしたものかと巡る思考が最適解へ辿りつくより早く、無邪気に響いた少年の一声が滞りかけた場の空気を掌握す。)ごめんなさい、冗談が過ぎたわね。…でも、歳を重ねて色々な物を背負うほど、過去へは戻り難くなるから、…其の気が在るなら童心に帰っても良いんじゃないかしら、って……?(己とまた異なる反応示す其の背を押さんとしたお節介な言葉は仲間と判じた筈の少年が齎す主張により半端に途絶え、語尾には疑問符のおまけつき。突如降って沸いた予想外の展開は徳永を凍りつかせるには十分で、自分より早く立ち直った彼女がお面を買い求めた事によって我に返る程。「よ、く似合ってるわよ、ゆうた君。」と、紡ぐ賛辞は純粋な感想か、其れとも大人の狡さ故か。何れにせよ、眩しく輝く幼子の瞳に加えて突き出された二つのお面に退路を断たれれば些細な抵抗を示す事も適わず、)あ、……あら、コンドル。小さな子どもの夢を守る事もヒーローの使命でしょう?(先頃まで注視して居た彼女の心中に渦巻く二つの感情を判別しきれぬ侭。余裕めかして取り繕いコンドルとスワン、二つのお面を買い求めたなら其の片割れを先ずは彼女へ差し出した。――思い返せばお面を手にする事さえ、徳永にとっては初めての経験で。彼女がお面を身に付ける姿を見守ったなら、押し殺し切れぬ羞恥に駆られ誰か知り合いがいないかと周囲を確認した後、髪型を崩さぬように注意しつつ漸く向き合ったスワンのお面を躊躇いがちにゆっくりと被る筈で) | |||||
…とりあえず、今日の借りは返す、だな。 | |||||
(数時間前、いや、数十分前だってこんな未来は想像出来なかった。頭を抱える未来は見えても頭にお面を付ける未来なんて)…今日は厄日か?(ぼそりと低音で響いたそれは今回ばかりは彼女の心中と一致したはずだが、二人揃って購入する羽目になったお面の片割れを代金と交換に彼女から受け取れば、お面で顔をすっぽりと覆うように。その姿は少年に比べひどく滑稽だったが、表面上は余裕の滲む彼女も何時になく揺れた言葉の端々から動揺は伝わるし、恥ずかしいのはお相子のはず。とは言え、変に顔が見えるよりはいっそ表情を隠せて丁度いいとすら思えたのは完全なる自暴自棄だ)…どうだ。これで満足か。(この手のお面は視界が悪く、完全に顔を隠した当真には眼下ではしゃぐ彼の姿もよく見えていなかったけれど「うん!」と力強く帰ってきた反応に免じて不条理を呑み込むことにした。それに幼き頃に憧れた戦隊モノのお面、今更欲するほどではなかったけれど、あの日の自分には手の届かなかったものがこうも容易く買えてしまうことに時の経過を感じながら、案外この状況を楽しんでいる自分に気がついたなら、お面を上にずらして滅多に見られない彼女の姿を拝んでやろう。ついでに「似合ってる。」とお返しとばかりに悪戯っぽく口元を歪めて)って、ゆうた、ばか、走るな!(が、フェザーマンRになった余韻に浸る間もなく彼に手を引かれれば、二人は再び進み出す。迷子である悲しみは吹き飛んだのか、自然に“次”を探し始めた小さくとも勢いのある少年と着崩れを厭わないコンパスの長い当真、浴衣姿の彼女との距離は自然と開くが)ったく、はぐれたらどうする。ちゃんと徳永………おねえ……スワンの手も握っとけ。(なんとか彼の手を引いて止まれば、乱れきった足元を直しながら彼女を振り返った。それから彼女の元に戻った彼が真っ先に告げたのは「ごめんね。」だとその表情から察することが出来たが、その後かろうじて聞こえたのは「あのね、ぼく、次は――。」その先は距離の離れた此方までは届かず。果たして次なる行き先は?) | |||||
……………ちなみに、具体的には? | |||||
(いつか彼女と心が通じ合ったなら――胸裡に宿った傍から奇しくも叶った願いは然し夢破れるまでもまた早く。窺い見た彼女と言えば吹っ切れたとばかりにお面をしっかりと被っていて。思い切りの良さに一抹の感嘆さえ抱きながら、手中に収まったスワンと睨み合う事暫し。今ならば被害も最小限で済むと言う打算の上で意を決せば成り行きに身を任せ。握った手の温もりを頼りに周囲から見えぬようほんの少し膝を折り、漸く彼と視線を交わし)ゆうた君、これで良い……、…?(上機嫌な少年に掛ける筈の問は予期せず響いた悪戯心に物の見事に封殺された。喜色満面の少年とは裏腹に、彼女の言葉に生じた麻痺が全身を支配して。恐る恐る狭い視野に其の姿を納めれば滅多に出会えぬ表情に喜びを見出す事も侭成らず、「…と、当真さんっ、」と不満げな声がお面の下から零れ出る。紅潮した頬を思えばお面を外す訳にも行かず、致し方あるまいと肩の力を抜き――刹那、想定外の引力に強く絡めた指先は自ずと緩み、呆気無く遠ざかる二つの影。くらり、視界は揺らぎ縫い留められた足を動かす術さえ忘れたように立ち竦んだ果て、彼の謝罪を受け我に返ればお面を取り払い小さな身体を強く強く抱き締めて)もしも、…ゆうた君になにかあったら私、わたし、……お願いよ、ゆうた君。絶対に手を離さないと約束して?私の手も、……ママの手も。(お面を外し、伏せた表情が彼女に見えなければ其れで良い。次に顔を上げた時には何時もの微笑みと共に小指を彼と絡め一時の約束を結ぶのだ。「私も、離してしまってごめんなさい」と囁く傍から紡がれた願いを耳にすれば解放した肢体に代わって強く握る小さな手)さぁ、当真さん…運試しとでも行きましょうか。(真っ直ぐ目指すべき境内奥を横目に先ずは削がれた興を取り戻さねばなんて大義名分を振り翳し、少年の望みを暗に示して向かうは仕事熱心なくじ引き屋。「おじさま、この子と…折角だから私たちも、」と承諾を得る心積もりで彼女を見やり其の反応を確認したならば先ずは幼子と次いで徳永がくじに其の運命を託し、) | |||||
……なんか、あんたの役に立てることなら。買い出しとか、荷物持ちとか… | |||||
……ああ、(多少の着崩れは残したまま、合わせの乱れを整えたなら彼らの元に近寄る間で気を持ち直そう。少年をきつく抱きしめた彼女の姿に蘇る光景は今思い出す必要のないものだ。声も表情も見えない距離で良かった。その思いが二度目の心中の一致とも知らず、再び二人を繋いだ唯一の存在に導かれて向かうは)…やる気だな?まあ、さっきよりは色々とマシか。(どさくさに紛れて外したお面を紙袋の中に滑り込ませ、代わりに取り出した硬貨を店主に渡せば見守る二人の運命。まずは少年の小さき手に導かれた答え――結果、彼の手に渡るは缶ジュース一本であったが、「四谷さいだぁ!」と喜びの声が上がったならばそれは当たりと言えるのだろう。「良かったな。」と彼の頭をくしゃりと撫でながら、続く彼女が手早く引き抜いたくじの結果を待てば、運命の女神が空気を読んだか)…すごいな。このタイミングでそれを引くか?(思わず漏らした感嘆の声、をかき消さんばかりの歓声が下方から湧けば、此処で空くじでも引こうものならバツが悪いにも程がある。手中で篩にかけられた結果、残ったくじが“当たり”の名を冠した景品と交換されたなら、平生のしかめっ面によく似ていたが僅かに緊張した面持ちは解かれ、人知れず安堵の息を吐き、)…ってか、イチコロは死語だろ…。(店主の煽り文句に突っ込みながらも確かに煌びやかな装飾を施されたそれは無骨な当真の手には不釣り合いで、隣で幼子の手を引く白魚のような指にこそ相応しいと感じれば)だ、そうだけど。……どう、イチコロ?(ごく自然な流れで差し出したそれはプレゼントというよりは”要らないからやる”に近いニュアンスを携えており、加えた軽口も相まってもし彼女も首を横に振るならば、ひとまず紙袋の中でお面と共に時を過ごさせるだけだが、さて) | |||||
そうねえ…買い出しは一緒の方が楽しいし、荷物を持つなら半分ずつの方が嬉しいわ。 | |||||
あら、当真さんは先程も随分と楽しんでいたご様子だったけれど?(袋に消え行くお面を視線で追い、拗ねた調子で紡ぐ問には業とらしさを滲ませながらも表情と言えば穏やかな侭。幼子が手にしたくじの行く末を見守る最中仄かに浮かんだ緊張も、喜びに満ちた様子の少年と彼を撫ぜる其の手の持ち主を目にすれば然したる間も無く掻き消える。取り戻した安穏の時は先にも増して心地よく、自分が引いたくじの結果が例え外れだろうと頓着する気概は何処にも無かった筈なのだが)空気が読めてる、と言う事にしましょう。ゆうた君にとっては大当たりに違いなさそうだもの、…それとも当真さんにも、かしら?(反射的に零れた己へ向ける励ましの弁が物語る複雑な思いに遠くを見つめる姿は現実逃避其の物か。けれど、先にも増した歓声は徳永の思考を切り替えるには十分で。受け取った人形に過去として処理したお面の一件を想起すれば、はたと其の記憶はお面を目にした彼女の姿に行き当たる。少年と彼女、二人を交互に見つめるに合わせゆらゆらとフィギュアを揺らしつつの問い掛けは何処までも悪戯に。頑なな横顔を見据え、心待ちにする煽った結果はどうやら成功らしいと漏れた吐息に察すれば差し出された景品をそっと覗き込み)ふふ、…でもとっても綺麗じゃない。(華やかな景品への率直な賛辞は生憎店主へのフォローとは成り得ぬが、紛れも無い当たりだと少年に伝える事は叶うだろうか。「当真さんも大当たり。」と彼に添える言葉は酷く楽しげに。万華鏡の説明も必要かと思考を巡らせていた矢先、不意に差し出された景品と軽妙な調子に数度瞬きを繰り返した後、目を細めるも戸惑いがちに彼女を見上げ)いくらイチコロだからって、こんな行きずりの女を射止めてどうするの。……本当に、頂いて良いの?(所作の意図こそ測れども心中に宿る躊躇の念は根深くて。然し厚意を無駄には出来ぬと言葉遊びを呈し再度意思を確認せんと首を傾げたなら碧眼は静かに紫の瞳を覗き込み) | |||||
……………それであんたの気が済むなら、 | |||||
(ぼんやりとした予測の中の彼女なら、変わらず揶揄いの一つでも平素と違わぬ表情に包んで返すか受け流すはず。しかし予想外に困惑を浮かべた碧色を視界に入れれば、思わず瞬かせた目を居心地悪そうに下方に逸らし)…どうもしない。誰にやっても同じなら、行きずりのあんたでもいいってだけ。(先程の軽口を本気にした訳ではなかろうが、冗談めかして押し付けるような強引さもなければ、躊躇に満ちた確認の問いにも短く肯定を示すのみ。口説き文句の添え物として渡すには女と女、そもそもの前提が間違っていたのだから、不要な品となるくらいならば似合いの彼女が使ってくれればと思っただけの行動は然したる意味を持たず、持たぬという事にして、彼女の選択がどちらに転んでも何事も無かったかのように少年の手を引くのだろう。――それからどれほどの時間をかけたのか、ようやく出店の誘惑を振り切ることに成功すれば)…すみません、(約束通り彼女の手を確と握った彼のもう片方の手を空にして、おみくじ横、係員らしき男性に話しかける。「あの、迷子が…――」彼を指差し事情を話せば、「ああ、その子のお母さんなら、」声の弾んだその先は聞くまでもなかった。直後、もう二度と聞くまいと思った泣き声は安堵の証拠。振り返れば彼女の手を離れ駆け出す少年とそれを抱き留めるまだ年若い女性)……、(となれば、二人の関係を問う口は無いとばかりに「よかった。じゃあ、俺はこれで、」男性への会釈もそこそこに踵を返し、彼女の元へ)…今日は助かった。お役御免だ。(擦れ違い様に告げた言葉は一方的な響きを有し、これ以上の同行は必要無いと。そして彼女の横をも通り過ぎ、来た道を戻る足が望むは一刻も早くこの場から消えること。彼女の反応次第では急く足取りを緩める未来もあるが、それが叶うのも人波に身を隠した後でに違いなく) | |||||
勿論よ、……一度で済むか保証はしないけれどね。 | |||||
(支払うべき対価を望まれず、何気なくして贈られた無償の品に来す狼狽は困惑にも似て。長らく注ぐ視線の先、不意に途絶えた紫が燻ぶる情動を揺さぶれば虚空で静止していた指先にて施された細工を辿った後、漸く手中に万華鏡を収めるのだ)それじゃあ、…有難く頂戴いたします。(ほんの少し頭を垂れて気恥しげに微笑み零せば闇夜に浮かぶ提灯頼りに鏡の世界を覗き込む。くるり、くるり。回す程に浮かぶ新た表情も一度過ぎ去れば二度とは戻らず、美しき情景を焼き付け消え行く姿は宛ら流れる時にも似て。鏡像の世界より舞い戻れば「ありがとう」と再度謝辞を零し肩を竦め)なんだか男の子っぽい所作がとても様になってたから、少しドキッとしちゃったの。その浴衣も随分と着こなしているし……勿論、女性的な浴衣だってお似合いになるとは思うんだけれど。……ごめんなさい、当真さんは女の子なのに変な事を言ったわね。(乱れた心を秘匿し、彼女を煙に巻かんとして添える言の葉は揶揄と賛美の狭間で揺らぐ。先頃と変わらぬ調子で紡ぐ冗談めいた調子が齎す結末など予測さえ適わぬ侭。浴衣から覗く骨格に長身では補い切れぬ、同性らしさを微かに覚えながら、胸中にて噛み締めるは少年が彼女へ向けた今となっては違和滲む其の呼称。彼女の体格や装いを鑑みれば致し方無い幼子の判断を訂正する機会には恵まれぬ侭、涙交じりの声音と再び遠ざかる小さな温もりが知らせる別れを悟ったなら、重なる二つの影を見守るのみ。少年へ綴られる母の声は己が零した仮初の言葉とは似ても似つかぬ愛慕が滲み、言いしれぬ寂寥感に再び疼痛が胸を刺す。係員へ自らも礼を向け、近付く足音に其の姿を見据えるも呆気無く過ぎ去りし其の影に微か瞳を細め)幸せな夢を、…見ていたみたい。(穏やかな一時に別れを告げ、零す囁きは何処か遠く。伏せた瞼の裏に描いた情景を飲み干して、現へ回帰す双眸は人混みに身を投じる彼女の姿を追いかけた) | |||||
……………約束に幅を持たせてくるな。詐欺師か。 | |||||
(白く細い指先が宙を彷徨った後、ようやく華奢な細工と重なった。それは想像に違わぬ静かな美しさを湛えた画。その手に収まる為に作られたのかと思うほどにぴたりと嵌った万華鏡は当真の手中に居た時よりもきらきらと。そんな彼女を映す瞳もまた幼子の如く煌きを帯びて、音もなく動いた唇が象った“きれい”は素直にこぼれ落ちた)……いや、(しかし、夢幻の如き時間は形容の通り呆気なく崩れ去り、当真の本意を顧みれば賛辞として受け取るべき言葉は今、小さな棘となる。“男”には決して必要のない、“女”を前提にしたそれは夜毎迫り来る悪夢に揺れる心には深く突き刺さり、――その後、何を口にしたかはよく覚えていない。ただ、抜けない棘だけがじわりじわりと違和を生んでいた。二本目の棘は涙する母と子の再会。子は母に愛され、母を愛す。一番大切なものは――。楽しい時間は終わり現実を見ろと言わんばかりに突き付けられた警告は足を急かした。背後に自分を追う気配を感じながらも人波に紛れ、出店の並ぶ道から逸れた人気ない空間に踏み込むまでは進め続けた歩みがぴたりと止まったとき、振り返った其処には彼女は居るだろうか。居れば、苛立ちに塗れた瞳の周りを朱に染めて、僅かに震えた声が紡ぐ)…ごめん。付き合わせたくせに、勝手だった。(思えば今宵振り回し続けた彼女に送る最後の言葉が先のものではあまりに非礼だったと詫びる姿は母親に叱られまいとする子供にも似て、実物に反して小さく見えるか。して、俯かせた顔をひとたび彼女に向けたなら、やはり、棘が痛む)…今日はありがとう。……あんた、本当に誰にでも優しいのな。ゆうたと居るときもまるで本物の母親みたいに見えて……きっと、あんたもちゃんと母親から愛されてるんだろうな…(戸惑いを隠す為に回る舌が感謝と賛辞の間に自らの羨望をも滲ませた事を失言と捉える心もあったが、何か喋らねば沈黙の隙間を縫って彼女の当たってしまいそうな自分が怖くて、つい取り留めもなく続けた言葉は些か冗長に響くか) | |||||
どうぞ、詐欺師で構わないわよ?…君と共に過ごす時間が少しでも増えるなら。 | |||||
(歯切れの悪い返答に込み上げた不安に己が言葉を反芻すれば芽生えた悔恨が胸中を覆えど謝罪さえ紡げずに。当然の如く訪れた別れの時に平素成れば掛けるべき声も今は上手く繕えず。其れでも、押し殺せぬ名残惜しさが勝り、追った背中は何処か小さくて。彼女より遅れ足を止めたなら、久方振りに交わした視線が其の変調を感じ取る。不意に耳朶打つ声音を受け其の胸中へ安寧を齎さんと浮かび上がるは常の笑み。揺さぶられた心中は彼女を慈しむにはまだ足らぬと訴えて、先頃まで幼子の手を引いた指先は彼女を抱き締めるに代わって俯く頭をそっと撫ぜるのか)謝る事なんて何も無いわ。当真さんは自分が望む通りに振る舞って良いの、…少なくとも私の前では、ね。それに、君達と過ごした時間が楽しかったから、せめてもう少し当真さんと一緒に居たくなってしまって……勝手について来たのは私の方よ。(例え伸ばした手が振り解かれようと、最大限の受容と共に心の揺らぎを取り除かんと穏やかな口調だけは変わら無い。――然し、異なる意を孕み二度、耳朶を打った母親と言う其の単語に当たり前の所作は刹那の内に瓦解した。剥がれた笑みを纏う余裕もなく、伸ばしていた指先で新た覆うは怜悧さ滲む己が瞳。あとは小さな吐息を漏らし、何時ものように反芻した思考を受け止める筈だったのに。胸に深く突き刺さる刃と悪夢に蝕まれた此の身は上手く自分を制御出来ず、)光栄だわ、……――でもね、幾ら頑張ったって紛い物からは模造品しか作れないのよ。(再会果たした親子に芽吹いた思いは憧憬、羨望、そして嫉妬。親が子へ抱く思慕の深さを介せど、自嘲ばかりが込み上げて。押し留める事適わず、零れ落ちた言葉は彼女さえ切り裂くように。脳裏に反響す己が声に漸く我に返り、震える指先にて唇を抑えるも時すでに遅く。些か歪ながら、其れでも微笑みを携えれば彼女から距離を取り)ごめんなさい、少し頭を冷やしてから寮へ戻るわ。…今夜はありがとう、…気を付けて帰ってね。(急いた気持ちに蓋をして、自然を装い頭を下げ出会った時とは裏腹に迷わず祭りの賑わいへ飛び込めば其の足取りは人波に飲まれ呆気無く潰える事だろう。分不相応な夢は破れ目を背け続けた現に引き戻された今、胸に抱いた万華鏡だけが今宵、彼女と過ごした一時の幸福の縁となり――) | |||||
一度きりだ。……もし二度目があるとすれば、それはあんたの腕次第だな。 | |||||
(頂に触れた温もりはどこまでも優しく、慈悲深い微笑み、耳を打つ甘言が想起させるのはやはり、焦がれてやまないあのひと。嗚呼、彼女はなんと柔らかく、心を暴くのかと)…なら、よかった。(惹かれる心はしかし、叶う事はない。沈黙の代替として並べた言葉達の中で何かが彼女の心の奥深く、繊細な其処に傷をつけてしまったと気づいたときにはもう遅かった。――離れていった指先が白い残像となって見えたのはそれを惜しんだ当真の心がそう見せたのか)…っ……(あのひとに重ねた姿が今度は自分と重なって、“紛い物”“”模造品“どちらも聞き流すには鋭利すぎる響きが当真を突き刺した)――……ああ、(そのまま返す言葉も無くようやく吐き出したぎこちない二音は生温い夜の風に流されて、気づけばまた一人に戻って”しまった“、なんて、愚かしくも元々無きものへの喪失感を抱くほどに幸福な時間の後に訪れる孤独は大きなコントラストを生み出し、)……………そうだな。叶わないから夢なんだ。(一夜限りの宴はおしまい。二度目は、もうない) |
(不機嫌そうな面持ちで下駄を鳴らし、歩く浴衣姿一つ。) | |||||
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(一歩、また一歩。からん、と下駄を鳴らして神社へと歩む足は重かった。祭りに行くつもりはなかったというのに寮を無理矢理に追い出され、しかも強引に浴衣を着せられては不機嫌になる他なかった。普段から女物の服を着ていても、女物の浴衣はまた勝手が違う。着崩すことも敵わない、着苦しい日本の伝統だ。生成りを縦になぞるように滲む薄緑のストライプに咲くのはオレンジの薔薇、アクアグリーンの蔓と同色の帯が腹回りを締め付ける。編み込みされた纏め髪にリボンバレッタを添えて、夜だからと化粧はいつもよりも濃く乗せられた。平たい胸も浴衣姿では目立たず、いつにも増して少女に見えるだろう。人で賑わう神社の入口を見ると大きく溜息が溢れるけれど、引き返したところで行く場所はない。仕方ないと歩み出した足が境内へと踏み入ると、)……へえ。結構、賑わってるんだ。(響く祭囃子に、定番の出店。紛うことなき祭りである。久しく、こんな空気から遠離っていたような気がする。人混みが流れると、玖珂もまた其の一員と成り果てるだろう。下駄の音は喧騒に消えて、行き着いた先とは、)りんご飴。一つ、下さい。(声と人差し指で個数を示し、巾着から取り出した財布から小銭を渡して林檎飴を一つ受け取る。───でも、手渡されたのは二つ。「お嬢ちゃん、かわいいからおまけだよ!持ってけ!」「え、別に僕は、」 断る間もなく二つは玖珂の手に握られ、背を押されて振り返れば満足げな店主の姿。戻すことは、出来ない。出店から離れた神社の片隅、其の両手に握られた林檎飴の片方を如何すべきかと思案したところで、此処に一人で来ている玖珂には方法は見当たらず。浴衣姿で両手に林檎飴の少女の姿は滑稽にも見えるだろうかと、落ちた溜息一つは神社の空気に溶けてゆく。) | |||||
不満なら私服で来れば良かったじゃないか。 | |||||
(──嗚呼、気が進まない。眉間に皺を寄せ下駄を鳴らす赤萩は、着慣れた紺色無地の浴衣にシンプルな塙模様が入った黒帯を飾り、不似合いな場所にやって来ていた。夏と云えば祭。その位の風情は持ち合わせていたけれど、まさか自身がこうして寮から追い出され、足を踏み入れることになるとは、全く以て予想だにしていなかった。この学校にやってきてから、気の進まない事態に展開することがあまりに多すぎやしないか。耳に届くは活気のある祭囃子。目に映るは華やかな提灯の灯り。そして、辺り一帯、賑やかな喧騒に包まれている。今にも頭痛がしそうだったが、来てしまったからには致し方無い。時間を無駄にしたと考えるのも何だか損をしているようで解せない。いっそ人混みに紛れながら、何か食料でも調達して帰ろうかと悩んだ挙句、列に並んで焼きそばを購入するのだった──けれど。その熱気に気圧されて、調達ミッションは中断。半ば気分を悪くして、逃げ込んだのは人気の少ない神社だった。)………気持ち悪い……。(どこか寄り掛かる所がないかと、さ迷わせた視界の片隅に、不意にひっそりと佇む少女の姿が映り込む。しまった、人が居た。ぴくりと筋肉が収縮したものの、どこか見覚えのあるその相貌に、じわじわと疑問が生じていく。まさか。)………玖珂愛…?(──こんなところで、こんな訳の分からない状況で。平素は必要以上の会話をしない同寮生に声を掛けてしまったのは、熱に中てられた所為だろうか。それ以上の言葉が思い付かず、何とか絞り出した言葉といえば「………何故、女装……」彼の装いに対する、随分と滑稽なコメントであった。) | |||||
夜長に着せられたんだよ。……赤萩さんは?浴衣、自分で着て来たの? | |||||
(喧騒の中で糸を手繰り寄せるように記憶を辿ってみても、祭りなんて行事に嬉々として参加したことなんて指折り数えたって大した数にはならない。其れを思えば滅多に味わえない此の状況も新鮮だろうけれど、半ば強制的に放られて一人きり訪れたことを思えば、本日幾多の溜息が吐き出されたかは知れない。行き場もなく掌に留まる林檎飴に目を遣っては口を尖らせ、誰か知り合いでもいれば押し付けられるのだけれど───耳に届いた声の主に視線を向けて思うのは、林檎飴には殊更似つかわしくない相手ということ。)僕が女装なんて、いつものことだと思うけど。(彼の唇から零れ落ちた言葉に対するは、至極当然のように言い放つ異端な発言。異性装に対し怪訝な目を向けられることには慣れたもので、其れに対する受け答えも然り。祭囃子とは結びつかない彼の登場は玖珂にしてみれば意外の他なく、喧騒から外れた一角での言葉の遣り取りは余所余所しくもあろう。一応「りんご飴食べる?赤萩さん」と尋ねてはみても、其の回答は何となく予想出来てしまう。ある種の秘密を共有し、一つの箱の中で生きる。其れは大層不思議な関係で、寮生との関係だって壁が高く深いものじゃなかったけれど、彼は尚更。だからだろうか。「ねえ」と唇から落ちた言葉。何となく、一つの疑問を呈してみたくなったのは。)赤萩さんってさあ……僕のこと、あんまり好きじゃないよね。(世間話のように投げられた唐突な問いは、真っ直ぐに彼へと放られた。元々自分が人に好かれるような人間とは思ってはいない。然し此の距離感は一層、其の現実の認識を強める。右手に握られた林檎飴に唇が触れ、特有の甘みを口に含んでは猫目を彼に向けた。) | |||||
夜長も悪ノリが過ぎるな。抵抗しなかったのか。……僕は和服は慣れているから。 | |||||
(地元の祭だ。冷静に考えてみれば、クラスメイトや学校の人間に会う可能性も低いとは言えない。だからこそ内心では密かに、そういった連中の目に留められないように気を配っていた心算だった。ただ、彼と邂逅してふと気付くのだ。自身が思い描いていた"クラスメイトや学校の人間"に、"彼ら"が含まれていなかったことに。──平素は必要以上には関わらない。必要な時だけ、行動を共にする。同じ日に同じ事件に巻き込まれ、今や同じ目的を持って生活をしている奇妙な関係。然しその関係を寮以外の日常空間に持ってくると、ここまで異質な空気が流れるものなのかと、赤萩は少したじろぎながら。)……浴衣まで、とは思わなかったんだ。(彼の言葉に正直な心情を吐露すれば、一定の距離を保ったまま、難しい顔で眼鏡を押し上げる。彼との邂逅は、最早不意打ちのようなものだ。先程の気持ち悪さが吹っ飛んでしまった代わりに、彼に対する何とも称し難い意識が胸裡に渦巻いていく。まるで"形だけ"かのような問いかけに、「甘いものは好きじゃない」と定型句を返せば、視線を彼から左へと逸らした。そして、さらりと、さも何でもないように耳朶に届いた言葉に、赤萩の視界は静かに揺れる。向けられた目を此方が見返すことは無い。顔を彼の方へ、目線だけを下へ向けては、僅かな沈黙の後。) …………分かっていて尚、口にする意味はあるのか。(落ち着いた声音で、そんな疑問を返した。今まで陰口を叩かれたことはあれど、こんな風に面と向かって指摘してきた人間はいなかったものだから。少しだけ心の紐も緩み、)…本音を言えば、理解し難いだけだ。人好きをしないのは、別にキミに限ってのことじゃない。(まるで何でもないように、会話を続けるのだろう。) | |||||
抵抗したって無駄でしょ、夜長相手に。……似合ってるけど、なんか意外かも。 | |||||
(物理的な距離と心理的な距離が必ずしもイコールで繋がるとは限らない。然し、玖珂と彼の場合は其れだ。定規で測った距離が其の侭、心に反映される。決して近くない。寧ろ遠いだろう。不思議な秘密を抱えた日々が春に始まって漸く夏を迎えたけれど、共に過ごした時間が互いの理解と関係を深めるわけじゃない。互いに知らないことは多い。知らない方が良いのかもしれない。聡明な狼の本能は其れを感じ取って、線を引く。勿論今だって線を消したわけじゃないけれど、でも、其の線を爪先だけ踏み越えそうな位置にはいる。きっと互いに紡ぐ言葉は、傍目には刺々しいものだろうけど。)むしろ浴衣だけ男の格好なのもおかしいんじゃない?それにさあ、(「無理矢理着せられたにしては、意外と似合ってるでしょ」 なんて冗談粧した言葉は彼に通じるか否か。祭りの人波に目を遣り、林檎飴を舐め乍ら落とした言葉は幾らかくぐもっていて、未だ成熟しない少年を思わせる。彼の回答は予想通りで「確かに、苦手そう」と単純な印象を口にすることになるだろう。玖珂と彼の視線は交わることはない。然し、言葉の遣り取りだけは確りと行える。其れは年頃の高校生にしては堅苦しい口調だったけれど、───本音が含まれるとは意外なものである。「へえ」と彼の言葉に小さく零せば、数秒の沈黙の後に唇は言葉を落とすべく開かれる。)……生き辛そうだね、赤萩さんって。……まあ、僕も人のことは言えないだろうけど。(目を見ることは敵わなくとも、其の双眸を猫目が捉え続けることは止めない。玖珂は線引きする人間だ。知られたくない、だから知ろうとしない。そうして見えない手で耳を塞いで生きている。異端者に好き好んで近付く奴はいないし、必要以上に人と関わることもなかったけれど───だから、思う。「息苦しくない?そうやって生きるのって」 小さな疑問。其れは跳ね返るボールか、突き刺さる刃か。) | |||||
そうやって周りが甘やかすから余計に……いや、いい。茶道は和装で行うからな。 | |||||
(「キミが女性ならば、"似合っていた"かもしれないな」──冗談めかした彼の台詞にすぐさま返すのはこんな言葉。深く関わってこそいないけれど、彼の姿は如何しても、決してジェンダーやセクシュアリティといった問題に真剣に向き合っているようには見えないのだ。ならば何故こんな装いをするのか、赤萩には何処までも理解がし難くて、返す調子は何処となく冷たい音を孕んでしまう。対照的に林檎飴に口を付けるその姿は、余りに自然ではあるものの矢張り、何処か違和を禁じ得なくて。「りんごを飴にする意味が分からない」と零した声は彼まで届いただろうか。そうして交わした二言、三言。緩んだ心の紐から表れたのは、隠しようのない居心地の悪さと、先刻の気分の悪さだ。何故、先程本音なんて吐露してしまったのだろう。もし、最初から全てを隠し通せていれば──彼の一言が、こんなにも胸に突き刺さることはなかっただろうに。)…………(息苦しくない?頭の中で何度も再生される台詞。生き辛い。けれど、生き辛くてはいけない。近頃よく見る夢が脳裏に浮かぶ。嫌だ。掻き消そうとすればするほど、胸裡に渦巻く闇が大きく揺れて、赤萩は唐突に、歪に、笑みを浮かべるのだった。)………それを聞いてどうするんだ。僕も同じだなんて、簡単に言って。(馬鹿にしているのかとでも問いたげに。途端に饒舌になった赤萩は、妙に低い沸点を隠しもせず、冷たく重い声で彼の言葉を撥ね退ける。もしもあともう少し、赤萩のコミュ力が高ければ──彼と社会の生き辛さをしんみりと語りあえたかもしれないのに。続ける声は、引っ込みの付かなくなった言葉の欠片だ。)…良かったなキミは。そんな装いを許してくれる親や兄弟がいて。(脳裏に浮かぶ、自身の両親と兄弟。半ば皮肉と自嘲を込めて、眼鏡のブリッジを押し上げる。落ちる影はどこまでも、暗い。) | |||||
まあ、そりゃ和装だろうけど……赤萩さんってこういう場所、苦手そうだと思ったから。 | |||||
(“もし女性だったら” 其れは一つの仮定で、何よりの正論だった。玖珂の性別と装いの差異に対する言葉へ反論することはなく、「まあ、ご尤もだろうね」と小さく笑う。異端であること、其れが好まれないものであることは理解していた。罵倒されるのにも慣れた。構わない。でも、オレンジリップに濡れた唇が噤まれた下で玖珂が何を思うかなんて、誰にも分からないことだった。彼との遣り取りには「それを言っちゃ終わりでしょ」なんて、ほんの僅かな和やかさもあっただろうけれど───触れてはならない部分に土足で踏み入るような物言いは二人の間に小さな穴を空け、元からあっただろう亀裂を明確なものにしていく。遠くに聞こえる祭囃子がやけに現実味を帯びて、薄明かりに照らされて見えた彼の笑みは、酷く歪んでいるように思えた。地雷だった、と自覚するには遅い。尤も、其れを後悔するような部分は持ち合わせていなかったけれど。)……べつに。聞いてみただけだよ。どうやったって自分以外の人間と関わらなきゃ生きていけないような世界で、そんな風に人に対して神経質になるのって疲れるんじゃないのって思っただけ。……それだけだよ。(そう、其れだけ。真ん丸く縁取られた猫目が彼を見据えて、彼に言う。偉そうに言えた立場じゃないだろうに、彼の饒舌にも負けず唇からは言葉が零れ落ちる。互いに分かり合うには、互いに何かが欠落していた。些細な言葉は毒を吐くのに似ていたけれど、少しの間を置いて彼から掛けられた言葉に、一瞬だけ時が止まったように思う。ぴくりと眉が動いて、林檎飴を握る掌に力を籠めた。彼から逸らした双眸は足許を捉え、そうして今一度彼を見る。)……いるわけないよ、そんなの。(水滴が水面に落ちて波紋を描くように、小さく言葉は落ちた。吹き抜ける夏の風が冷たく触れて、吐く息を震わせる。一拍置いて開いた唇は、何を紡ぐか。)両親が、こんな格好を許すような懐の深い人間だったら。兄貴が、こんな格好を軽蔑するようなありふれた人間だったら。………僕は、こんな格好、してなかっただろうね。(自嘲のように吐き出した小さな笑いは、力なく闇に溶ける。両親を思う。兄を思う。相反する二つの存在に唇を噛んだ。いつだか見た夢が脳裏を過っては振り払うように頭を左右に振って、)ごめん。変なこと言った。……今の、忘れて。(濃紺が足許を見た侭、消え入るような声は彼に届いただろうか。) |
(下駄から離れた片足を揺らし、ぼんやり見つめる先には―) | |||||
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(祭りといえば屋台。真壁は例に漏れず賑わう屋台に舞い上がり、無節操に見て回った。白地に柔らかな色味で蝶々と牡丹が描かれた浴衣の帯は夜みたいなネイビー。下駄の鼻緒はピンクでちょっとしたポイントに。髪はするりと結い上げ、藍色の花の髪飾りを挿した。其れらの品は母親が夏には祭りもあるかもしれないからと妙な勘の良さで送りつけてくれたもの。折角あるのに無駄にしては意味がないと友人などに手伝ってもらいながら着たものだ。そして祭り会場で真っ先に狙ったりんご飴を早々に平らげた後、気さくな屋台のおじさんに感化されて焼き鳥も購入。其れも食べ終え、流石に暫くはお腹を休めよう―と思いながら、近くに設置されているごみ箱に食べ終えた串を投げ入れる。)うーん、思ったよりも動きにくい…屋台で食べ過ぎたせいかも…。(腹を擦りながら普段よりも随分ゆったりした速度で少しずつ足を前に出していく。何気なく視線を投げたさき―たこ焼き。腹を休めるのはあれを食べてからでもきっと間に合う。そんな理屈をこじつけ、目当ての屋台に向かおうとした――が、問題が起きた。足が少し痛い。そこそこ賑わう中で立ち往生すれば迷惑になるのは明白。たこ焼きの誘惑を何とか振り払いながら神社の石畳のところまで出来るだけ静かに歩き、其処に到着すれば力が抜けたようにすとんと腰掛ける。そしてするりと下駄から少しだけ足を抜けば、痛みは格段に楽になる。早く避難してきて正解だった。)…小さい頃のお祭りよりも、ちっちゃく見える気がする。(と連なる屋台を思い出しながら呟いた。背丈の違いもあろうが、あの時のお祭りはどんなに小さな規模でも大きく見えた記憶があった。けれど成長した証拠なのだろうから、其れに気付いた時の気持ちは悪いものではなかった。下駄から開放された片足をゆらゆら揺らしながら、真壁の瞳は光が集まる屋台を何となしに見詰めるのだろう。) | |||||
お祭りってすげぇ楽しいねー。君はなにか思い出でもあるの? | |||||
(お祭り。待ちに待ったこの日。高揚していく感情を抑えつつも見渡した光景の面白さときたら――傍らにかわいい女の子がいないという悲劇すら忘れられる程だ。そんなお目出度い男の姿といえば、当然のようにこの場に合わせた特別仕様。若芽色に赤と黄の格子を薄ら乗せて、暗緑の帯には一羽の小さな梟が密やかに佇んでいた。平らな雪駄を引っ掛けながら、ふらりふらりと人混みに揺れる。平生は中央にて分けられている前髪は無造作に後ろに撫で付けられて、普段とは異なる雰囲気を醸していることだろう。而して肝心の本人はといえば見慣れぬ風景に綻ぶ顔を隠さず、無邪気に屋台から屋台へ足を動かして子供のように祭りを堪能しているのだから、ある種、宝の持ち腐れというものだ。尤もそんな状態ですら、例えば屋台で並ぶ前後の人間。女性同士で来ているらしい見知らぬ彼女らに気軽に話しかける程度のことはしてみせるのだけれど。お陰でいつの間にやら二人の浴衣姿の女性を連れ立って回り始めたお祭りは一層、上広にとって楽しさを感じられるものになっていた。屋台で得た物を手に語らう彼女らはそれなりに年上のようで「今日来れて良かったね」「ねー。私達明日も仕事なのよ。もうほんとにあの上司――」。――会話が段々と仕事の愚痴へ移っていく点も流石社会人といった所か。無論、笑顔を絶やさず続いた相槌。「あっもう帰んなきゃ」「愚痴つき合わせちゃってごめんね?」最後に彼女達の笑顔と、序でにメールアドレスを加えた報酬を受け取れば再び一人になったこの状態。一旦休もうと座れる場所を探していた際に、視界に濃桃色を捉えれば迷いなく足は其方へと向かって行き)ねえ君、こんなとこでどうしたんですかーって、…アレっ。……香澄さん?(目を瞬かせながらも見下ろした先には見覚えのある女性が一人。光を背にしたお陰で、やや着崩した胸元は薄暗闇の影に青白い肌を浮かせて)えっ、本当にどうしたのよ。そんな座り込んで…、……足。痛めたのか?(浴衣姿の彼女の中でも取り分け目に付いた素足。屈み込み、足と顔を交互に見つめる双眸には心配の色を滲ませていた) | |||||
とりあえず食べてた…あ、かき氷落として泣いた事かな? | |||||
(ぼうっとしていると自然に考えてしまうのは前に見たリアルな夢の事―思い出しても気持ちが落ち込むだけだと分かっているのに。自らの指に視線を遣れば、ネイビーに金のラメで夜空もどきのシンプルなネイルをした長い爪。ある意味のお守りみたいなものだ。そして視線は更にそっと下に落ちて、温もりの感じられない灰色に落とされる。この辺りは祭り会場に比べて薄暗い。こんな暗さも結構好きだなと取りとめのない事が次から次へと頭を流れて行く。――そんなところに、低い声が降ってきた。ゆっくりと視線を其方に向けると、)あ、私はちょっと休んでるだけで――…ひっ、ひえっ!?(ぼんやり思い巡らせていた上に暗闇で油断していた事もあり、反応までに数秒の間が空いた。真っ先に視界に飛び込んだ青白い何かに冷や汗が背を伝い、小さく肩が跳ねる。目と口は真ん丸に見開かれた間抜けな表情で、おまけに素っ頓狂な声まで上げてしまった。だが、よくよく正体を確認してみれば―其の声の主は見知った人であった。)……あ、…上広くん?上広くんだよね?しかも浴衣だ…!髪もすっきり!似合ってる、すっごく…!色も可愛いー!(彼が同学年の仲間と気付けば一気に安堵の表情が浮かぶ。髪型も服装も普段と違うものだから、思わず疑問符が付いたけれど。そして見慣れない華やかな浴衣姿に安堵は一足飛びで笑顔へ。そして沈みかけた気分を塗り潰すように明るい声を上げた。)ううん、大丈夫!そんなに痛めてないし、ちょっと休んだらまた動くつもりだから。ありがとう…!(心配そうに屈み込む彼に焦った顔で首を左右に動かして笑い、礼を告げる。そして「…だけど、如何して此処に?お祭りはもういいの?」と尋ね返そうか。) | |||||
はは…かわいいな。出店って普段より美味しく感じるものね。不思議なコトに。 | |||||
(甲高い悲鳴は何に対するものだったのか。やや驚いたように少女を見つめながらも一先ずは謝罪を一つ。「ごめん、驚かせちゃった?」クスクスと混じる笑い声はその言葉に準じた感情よりも、彼女に対する面白味の方が色濃く滲んでいた)おー当ったり。…はは。ありがと。似合ってる、ね…かっこいい?…褒めてくれて嬉しいぜ。因みに落ち着いたオトナの男がコンセプトなのよー。どう?(並べられた賛辞の言葉に単純ながら機嫌良くウィンクを飛ばす様に、口にした単語の印象を彼女が無事受けるのかはさて置き。喜びと茶目っ気に満ちた男は歳相応の青年らしさを覗かせつつも、ふと気がついたように少女に視線を留め、)あぁ…先越されちまったけど…香澄さんも、浴衣、すごく似合ってる。…かわいいな。やっぱり浴衣で髪あげてンのは色っぽい…、上品な色気っつーの?…うん、やばいよ(薄ら弧を描いた唇。伏した双眸。下瞼から歪んだ目尻の際をなぞる淡い紅色は、偶々お祭りに行くと話した知人女性から半ばイタズラのように描かれたものだ。屈み込んだまま背を丸め、下から覗き込むように少女の顔を見つめる諸々の仕草は少なからずその風貌に似合うものになりつつあったが――、へにゃり。告げられたお礼に緩む頬はすっかり何時も通りで)…そっか。慣れない履物は危ないからなァ。女の子は男に比べて肌も弱いし心配…、ん?…あー、女の子がこんな所で一人でいるなんてどうしたのかと思って、……つい。来ちゃった。…元々一人で回ってるみたいなもんだったからさ、(「あくまでナンパではないんだぜ?」気の抜けた緩やかな微笑に付け足した言葉の信憑性は、上広の性質からして決して高くはないだろう。「君もお一人?」然し、抜け目なくも、次いだ言葉によって深く思案されることを避けんとするのだ) | |||||
すっごく分かる!普通に食べたらもっと味気ないし、お祭りパワー…? | |||||
(何故か驚いた様子の彼に思わずきょとんとしつつ、謝罪するのは真壁も同じ。「ごめん、私も一瞬オバケかと思った…。……けど、そんなに笑わなくても…!」悲鳴の理由を馬鹿正直に白状するも、笑われる事には納得がいかないといった声音だ。)いつもと雰囲気違うから迷ったよー。もちろん、かっこいいよ!可愛さもあるからもう最強だね…!…そうだね!穏やかで優しい大人って感じがする。(問いかけには迷う事なく満面の笑顔で即答し、片手で小さくガッツポーズ。真壁から見た彼の印象も彼自身が口にしたコンセプトとあまり大差ない様子。)ありがとう…!そんなに褒められると照れちゃう…!こんな時ぐらいちょっとでも色気出してみたくて…成功してるみたいでよかったー。(暗闇に慣れた目で彼の顔を見て、其の目尻に描かれる紅は最初こそ何かと思ったがお茶目な悪戯っ子みたいで彼にぴったり。そんな相手に大袈裟にも思えるほどの褒め言葉を頂いてしまえば、照れたように指先を遊ばせる子供っぽさは欲しがる色気を遠ざけるように。)うーん、下駄を甘く見過ぎてた気がする。何か申し訳ないなー…大した事ないのに来てもらっちゃって。上広くんが一人?珍しいね…!(彼の言葉に「分かってるよ」と軽く笑って頷きながら、其の言葉に疑問は抱かなかったが―人気者の印象が強いのか少し驚いたように目を見張った。続く言葉に軽く首を上下させ、)うん、友達に誘ったら勉強するって断られちゃったから一人で回ってたんだ。りんご飴も焼き鳥も美味しかったよ!(ついでに屋台の感想も付け加えておこう。) | |||||
食べ物は美味しいわ女の子の浴衣姿は可愛いわ、お祭りパワー凄すぎじゃね? | |||||
(――釣りあがる口角。彼女の意にそぐわないものだとは分かっているけれど、“オバケ”。たったその一言。然れど如何にも抑え切れない笑いは先程よりも大きく、無機質な石畳に反響した。「怖がらせちゃってごめんよ」「でもオバケはいねぇと思うな」二度目の謝罪と、あからさまな少女への揶揄も笑顔に紛れて)…ほんと?……んふふー…かっこよくて可愛くて優しそうとか俺マジで完璧すぎっしょ。…つってぇ調子乗っちゃうから、そんなイイ笑顔で褒めないでちょーだいな。…って俺が言えた台詞じゃねぇな。…でも照れてる香澄さんかわいいし、もっと褒めたくなっちまう……ん〜、これから俺が何回かわいいって言うかカウントものだなこりゃあ…(自分のことを棚にあげるとはよく言ったもので、結局紡ぎ出すのは彼女への賛辞ばかり。素直な言葉と笑顔を見せる彼女の歳相応に可愛らしい動作を見れば、厄介な性質だと自覚していながらも緩んだ頬は、元より硬くはない唇ばかりも無条件に緩ませてしまうのだ。「もう少し言動もゆったりのんびりにしたら、もっと色気が出るかもな?」。あくまでも少女に向けて付け足した言葉はこれぞ余計なお世話というもの)…大したことないなんてことはねぇよ。たかが靴擦れでも女の子が怪我するの俺はイヤだし…、…そんなこと知ったこっちゃねぇか(へらり。零れたのは口にした個人的な主観を誤魔化すような微笑み。「…ひとりもね、たまにはね」。少女から窺い知れる自分に対する印象は強ち間違いでもなく、付与した言葉は曖昧ながら、彼女の言葉に同意して)そーなのねって、はは…食べ物ばっかりか?じゃあ、もし君の足が大丈夫なら、これから一緒に回らねぇ?…俺、かき氷が食べたいな。 | |||||
気持ちも盛り上がるし、食べ過ぎも元に戻し…てくれたらもっと嬉しいんだけどね! | |||||
(「もー笑いすぎだよ…!…そんなの分からないよ、だって夜の神社だし…。」そう不満げに主張するもしもの可能性は漫画に影響されたものだろう。)ほんとほんと!たしかに…パーフェクトボーイだね上広くん…。えー、自分から訊いてきたのに?本当の事だし調子乗りすぎなければ怒られないと思うよ?いや私はもう十分もらったから、残りは別の人とかに…!うっ、それは有難いけど何かすっごく恥ずかしいし数えたくない…!(彼の口から紡がれる甘い賛辞は慣れない事もあってかもうお腹一杯の状態。きっと顔も嬉しさと照れで情けないにやけ顔になっているから、あまり見られたくないところ。大体、褒めるところなら彼の方が両手で数えても足りないほどに多くある気がしたけれど。追加された助言にきょとんとしながらも「…ゆったりのんびり…?…こ、こ〜んな…感じ〜?」本人は至って真面目に試した動作はまるでロボットの下手な盆踊りのように微妙な動きなのだから色気の欠片もなくいっそ不気味である。)そんなことないよ!其処まで思ってもらえるのは嬉しい事だし…名前の通り優しいっていうか、思い遣りのある紳士なんだね。(彼の言葉にふるりと首を振り、小さく笑みを返す。そのように他人の痛みを考えられる事は凄いと思うから、否定する理由は何もない。曖昧に隠された言葉に微量の違和こそ感じたかもしれないが、有耶無耶のうちに次の話題へ進む。)他のも見ようと思うんだけど、気が付いたら美味しそうなものばっかり注目しちゃうんだよね…。いいね、一緒に回ろう…!私もかき氷まだ食べてないんだけど、いちごのシロップまだ残ってるかなー。(彼の言葉に食欲は簡単に復活し、足を下駄にしっかり入れて立ち上がり、彼と共に祭り会場に戻るとしよう。そして其の道すがら、)そういえば、上広くんが運動してるところってあんまり想像つかないんだけど…運動は好き?(女子としては羨ましい彼の肌の白さを見て、前から気になっていた事をふと思い出し―他愛もない質問の一つとして何気なく尋ねてみるのだが。) | |||||
あー…俺は太らねぇからなあ。ちゃんとカロリー計算して食べなきゃね? | |||||
イイだろ。香澄さんがかわいいから笑ってンの。…あは。だーめ。俺はお調子者って誤解されやすいけど、意外と照れ屋さんなんだもん。つか、今は君と一緒に居るんだから、君を褒めンのは当たり前よ。女は耳で惚れるって言うし。そのカウントが二桁になる位には、俺に惚れてるかもな?…ま、寮の奴らは俺も含めてかっこいいし。俺達も引越してから結構経っただろ。だから、どーなの。好きな人とか…恋愛、してる?(其れは女性との会話で大概が有効的に通ずる恋愛の話という手段を、何時ものように、何気なく、口にしただけ。計算にも満たない会話と話題。たったそれだけ。彼女の動作を硬すぎだよと笑って、今までの穏やかな空気を乱すつもりもなくて、けれど、次第に変わり始める空気は、自分のものか、彼女のものか)やさしい、かぁ。そう。ありがと。…俺の名前は、多分、やさしいって意味ではねぇんだけどな。でも、やっぱり、そう言われンのはうれしいよ。…優しいのは君の方かもな(優しい。紳士。思い遣りがある。どの単語も、ドキンと胸が高鳴る。頬が緩む。それと同時に、単純な自分に苦笑が浮かぶ。言葉とは裏腹に心から嬉しいとは思っていないような、そんな曖昧な笑顔を彼女に向けるのは何処か忍びなく、自然と逸らした視線は未だ変わることのない眩い祭りの光へと移って)しかも殆どが美味しそうに見えるから困ったもんだよなぁ…翌日、体重計に乗るのがやべぇ…。あ、いちご派?俺は宇治金時〜。食べさせ合いっこしようぜ(歩き出す彼女を一瞥した後、やや狭めた距離は何かあっても対処出来るようにとの思惑から。段々と人気を取り戻し始めた周囲を横目に、折角だから手でも繋がないかなんて言葉を口にしようと思った途端、 開きかけた唇がゆっくりと、閉口する)ん?…んー……すき…きらい……じゃなくて、…ニガテ。かな。…うん。あー…ほら、あの、俺ってさァ…よくコケたりするし、さ(先日も深夜に寮の自室で派手に花瓶を落としては響き渡った盛大な音を寮生に謝ったばかりだ。そうでなくとも、白い肌に際立つ絆創膏を四肢に貼り付けている様は日常茶飯事であり――、だから、だから彼女はそんなことを口にしたのだろうか。何も今でなくてもいいのに。けれど、その思いは彼女に告げるべきではないものだ。 笑顔を浮かべる。何時ものように。笑う。「ドジだから、俺は」。その呟きは祭りの喧騒に紛れることもなく、妙に低く、掠れた声音で、零れ落ちた。“仕方のないことだから”。―――付け足した呟きは、不自然な程の微笑と一緒に、) | |||||
その体質羨まし過ぎるよ…!私、計算苦手なんだよね…。 | |||||
私には可笑しくて笑ってるように見える…!…そうなの?意外だけど、それも可愛いと思うよ?あ、たしか男の人は目で惚れるんだっけ?私は五感全部で惚れるものだと思ってるんだけど。えー、そうなったら如何しよう――……え、……?……っ、……してないよ。してない。してないの。(三重にも重ねてしまった不自然な否定。ほんの数秒―顔面から血の気が引いたのを、見られてしまったろうか。口許以外は笑っていない歪な笑みも、微かに震えた声も。いくら普通に振舞っても簡単に綻びが出る。あまりの脆さに笑えてしまう。世間の女子なら喜んで食いつく話題に作った笑みが引き攣っていくのが分かる。出来るものならしたい、でも一方で其れを心底恐れる気持ちもある。しない方が幸せだと先が見えてしまうからか。平素なら作り笑いで受け流せるものが引っ掛かったのは―嗚呼、きっと全て変な夢の所為だ。)…優れているって方の意味かな。違うよー、上広くんだって。(そんな他愛もない話の笑い声が何処か上滑りしているのは、情けなくも前の話題が尾を引いているから。早く元に戻さなければと焦りが更に墓穴を加速させるだなんて皮肉なもの。)でも現実と向き合えるだけ偉いよ…!私なんて暫くは体重計から逃走してるし…。和風だね、そっちも美味しそう。食べさせ合いっこ…!?私そういうの慣れてないよ、大丈夫…?(けれど彼の思わぬ言葉に驚き、あたふたしたのは何の演技もない素の反応。この調子で何事もなかったように戻れるか―そう思ったが、次の彼の言葉で先に墓穴を掘ったのは自分だったのだと気付く。)……あ、そっ…か。変なところ打ったりしたら大変だし、気を付けてね…?(何が悪かったかは分からない。でも確実に彼の敏感な部分に触れてしまったのだと悟る。笑っているけれど笑っていない、其の顔は自分が作ろうとして失敗したものによく似ている気がした。恐らく言い慣れているだろう台詞が酷く重く響くのは―きっと、彼には軽くない事だから。「…完璧じゃない方が、ちょっとドジなくらいが…親しみやすいと思うよ、…きっと。」そんな言葉が気休めにもならないのは百も承知だが、他に言葉が見付からなくて。本当は笑っていられない現実ごと目を背けるように、目を遣った先には)……あ、あっち!かき氷のお店あったよ!(と指差し、更に緩められた速度で屋台の方向へ向かって行こうか。) | |||||
あー…手帳とかにカロリー書いてくだけでも結構効果あるみたいよ。 | |||||
(幾重にもなった否定の言葉に生じた違和感。失敗した。漠然とそう感じる。瞠目した双眸が、伝播する少女の動揺を阻むように瞬きを繰り返す。「そうなんだ」饒舌な上広にしては珍しく、相槌を一つだけ。適度に少女の言葉に言葉を返しながらも、ぼんやりと曇った瞳が宙に泳いで)ん……まぁ現実逃避ってすればする程、いざ現実と向き合う時に辛いからな。…ん?大丈夫だって〜俺は慣れてるから、…それにどうしていいかわかんねぇで迷ってる香澄さんも、かわいいだろうし(軽々しい微笑もナンパな発言も確かに何時も通りだ。けれど、ピリと走った空気の亀裂が、その何時も通りをも破壊する。――それはきっと彼女の所為でも、自分の所為でもない。お互いに一歩、踏み込んだだけ。持ち得ない地図の先。その一歩が断崖の絶壁に通じていたことなんてわかる筈もないのだから。“仕方ない”。でも、その一言で終わらせるにはあまりにも鋭利に彼女の言葉は胸を抉った)……うん。ちゃんと気をつけてるつもりではあるンだが注意が足ンねぇのかなァ…。はは、親しみやすいね。ありがと。確かに…とは言い切れねぇけど、その発想はイイな。…参考にするよ(然して普段と変わらなかった筈の微笑に、少女が微かな反応を見せる。俺は笑えていなかったのか。なら、もっと笑ってみせるしかない。その思考回路がそもそも間違っているのだとは思わず、カラカラと零した笑みが仄かに乾いていく。そんな中、指差された方向に先程まで話していた話題の屋台を認めれば、彼女と共に其方へ歩み寄るのだろう。「いちごでいいんだっけか」緩やかな彼女の足取りを追い越して、徐に問いをかければ手にした巾着から財布を取り出す。彼女の答えが違うものに変化しているのならば其れを、自分の頼もうとしていた物と併せて購入して)…はい。奢り。今日はありがとな。かわいい子とお祭り回れて楽しかったよ(彼女が拒もうとも無理やりに手渡すと同時に浮かべた笑顔は今度こそ、紛れもなく自然なものだった筈だ。――さ、食べさせあいっこしよっか。紡ぎ出した言葉もどこか悪戯っぽく、何だかんだで始終浮かべられた笑顔は別れ際まで続き、彼女と別れる直前まで、消えることはなかった。――帰り際、同じく祭りに来ていたらしい友人が出会い頭に言葉を放つ。「上広?目赤いけど泣いてたの?」――ばか。ただの化粧だよ。掠れた声音は、胸に刺さった小さな棘を滲ませていた。誰に伝える訳でもなく、) |
ねーねーさっちん、今日花火やるかなー?なくっても手持ち花火とかやりたくない? | |||||
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(先日のやり取りに則り隣部屋をノックしてから数十分。日が落ち茜色に染まった道は未だ暑苦しいが、神社へ向かう道すがらに挟んだ「それにしてもあっついねぇ」の一言にすら愉悦滲むのは目前に迫った祭りへの期待は勿論、隣を歩む彼女の存在ゆえ。談笑に笑み絶えぬ道中ではカランコロンと大仰に下駄鳴らす毎に濃桃の地に大柄の牡丹の赤白が散る浴衣と揃いの巾着がゆうらりと揺れ、そのたびアップスタイルを飾るかんざしにあしらわれた鈴が涼感を呼ぶだろう。だんだんと強まる祭り囃子の音、涼し気な鈴の音、話し声と賑やかに目的地へ辿り着きその第一声といえば、)うわー!これぞ夏!ザ・祭り!って感じだよねー!?いやーアツいね!(並ぶ屋台を前にして発した感想は捻りもなければ面白みの欠片もないが、裾元お構いなしに駆け出しては振り返り一声。右へ左へ奥へ手前へと向けられる視線は忙しなく、その度に美味しそう!だとか楽しそう!だなんて艶やかな唇で弧を描く。戻るか何らかの動きをして彼女と肩を並べたらば、祭り囃子で賑わう周囲に負けじと発する声は平時に比べて大分大きく、)ねー!チョコバナナもあるし、焼きそばもたこ焼きもかき氷もあるよー!こんだけあると迷っちゃうよねー!?さっちんこれはゼッタイ食べたい!とか、最初にしたいこと食べたいものあるー!?(ひとまずは選択を委ねるという常套手段に出た。) | |||||
今日は…わからないけど…うん、手持ち花火なら寮で皆で出来そう。 | |||||
(黄昏時を迎えても身に触れる暑さが変わらない時節。夏の風物詩たる装いに神社で待つ催しや隣の少女の存在を思えば、暑さを厭うことさえ夏を味わう物種となるようで「かき氷が美味しくなるね」なんて言葉を返しながら下駄の音が二人分響く。常と変わらぬ髪型と紺地に白の流水紋と萩が泳ぐ浴衣に芥子色の帯を結んだ姿で華やかな濃桃の隣。ノックの音を歓迎しながらも歩いているうちに足が迷うように半歩後ろか隣に並ぶか曖昧な位置取りをしながら、神社迄の道程を歩んで行く。お祭りへの期待感や高揚感とも異なる楽しさが胸中に沁みるのは、彼女が楽しげであることが何よりの要因足り得ることは微笑に秘めて、日頃と異なり活気溢れる神社に駆けだした少女の後を慌てて追えば手に提げた藍色の巾着が揺れた)…うん。とっても賑やか。お祭り気分満載で、…おいしそうな匂いもするし…アツいですねえ(祭り独特の音。屋台の機械の音や行き交う人の声や辺りで鳴る様々な音が醸す空気に目を細めては、賛同して返す声に躊躇は微塵も無い。彼女の傍へ追い付きがてら冗談染みた口調で彼女の調子に合わせてみたりして、微笑は絶えない。状況だけで充分に楽しめてはいるけれど、定番揃いの屋台の面々から選ぶのは何時だって迷うもの。問われた問いに応えるように視線を辺りに散らしたのならばソースの香りに惹かれながらも、)私は…ええ、と……焼きそばかたこ焼きは食べておきたいけど…でも、持ち帰っても食べられそうだから……その、最初は、軽めからが良い…かな、って。…チョコバナナとか。ちょっと喉乾いたら、かき氷、みたいな……もちろん、お互い好きな物を好きな時に買うとか…立平さんの見たい所優先してもらっても、全然(思案で下がった眉と共に主張する程の意思は無くとも問われたからには軽めからとの提案をおずおずと。飲食が主だった屋台故にお腹の具合も其々異なるだろうからとのそれではあるが、基本的には彼女に何か意思があれば其方に委ねることに何ら異論は無くそれを告げては目を細め――ふと、丁度彼女の背後辺りで視界に入った屋台に視線が彼女から其方に移り、)……それとも、…二人で運試し、とか…? | |||||
わーい!さっちんはどんなのが好き?私ね、ねずみ花火から逃げんのちょースキ。 | |||||
ホントホント!お祭りってあっついし人多いから動きづらいけど、この雰囲気は毎年味わっとかないとね。いやあ、夏ですなあ……。あ、てかさ、やっぱさっちんてば浴衣ちょー似合うよねー!華やかな色もきっと似合うけど、紺色がビシッと似合うのは美人さんならではだもん。でね、その三つ編みもカワイイけど、くるくるっと丸めてお団子に〜とかって簡単アレンジしてもイイなって、今思ったよ。こりゃナンパとかされないように気をつけなくちゃだね。(肩を並べた賛同には首肯を重ね、彼女の穏やかな面持ちは誘い水となり女の笑みを呼ぶ。喧騒に紛れた声は届きづらく、ぴんと張り詰める裾元が歩幅を制し、軽装とは言え着物に滲む汗は不快感を煽り―と実際全部が全部楽しいとは言えやしないが、この全てを踏まえてこそ祭りというものだ。黄昏時の陽光の眩しさと懐古心とで細められた双眸は遠くを見つめながら、小さなちいさな呟きは喧騒へ紛れよう。賑いに耳慣れし始めた頃、並ぶ彼女に向き直って放つ賛辞は本日何度目か知れないが、袖を捲り「撃退任せて!」と調子付いてみたりして――そうして、思い切りボリュームのつまみを捻った声への返答には十分過ぎるほどの答えが得られたから、顔面に呈すは素敵な提案への喜色半分、とてもじゃあないが選択し得ぬ肢の多さに戸惑い半分。眉寄せあちらこちらと行く末定まらぬ視線に、下弦の月を象る口許とちぐはぐだ。)んーーー確かに最初がっつり食べちゃうと後でもういいやってなっちゃうもんね。なるほどだ、さっちんさすがー!とりあえず軽い物からで、……もうこうなったら、チョコバナナとかき氷、先に目についた方食べよっ。その時先に目についたものが私の食べたいものだっ(決断力は皆無である。控え目な物言いに反し魅力的な提案に有難くも乗った上で運に身を任せることとして、それじゃあと歩を進めようとした頃のこと。喧騒に紛れながらも確りと拾った声は目に輝きを宿し―そうして彼女の視線を追った。)ちょーー面白そう!空くじ少なめだってさ、なんか面白いものもらえるかなー!?私ね、結構運いい日と悪い日差がデカイんだけど、今日はさっちんと一緒に来てるし完全無欠のナナミだよ。やろやろ!(手招きしがてら屋台へ近付いたなら、視線はくじ箱へ釘付けである。) | |||||
ねずみ花火って…あ、熱くない…?へび花火…じゃ、ないよね…? | |||||
……そんなことは――…あ、……ありが、とう。それにお団子のことも……その、今日の立平さんの髪こそ可愛いくて、…やっぱり、すごいな。ええと、折角だからお団子も…また、機会があったら…してみる、ね(下がる眉と共に導き掛けた否定を呑み込んでは、実際の自分の姿が如何であれ目前の彼女が紡いでくれた言葉ならば有り難く受け取らせて貰おうと、躊躇いがちの感謝を微笑を描いた口許で紡ぐ。彼女発案の髪型も然り。外も中も洒落っ気を欠いた頭には斬新で素晴らしい案として届き、彼女へ贈る賛辞の方がずっと流暢に言葉は出てくるもの。下げる必要の無くなった眉が上がり細めた目許で袖捲りを映せば、自身へのナンパを否定する小さく零した前半部分の独り言が彼女に届かなくとも「…すっごく頼もしい」とふっと微かな笑みを交えて彼女の調子に合わせ返す声は届くように声量を上げた。)あ、それなら順番に色んな物が…食べられるね。その…どっちが出てくるか…少しドキドキも、するし…また、別のお店を見つけることも…あるかも、しれないから(彼女の決め方を楽しむ要素のひとつとして認識したのならば、先に待つ出店を想い声音には高揚感も滲むもの。全てを見て周った訳では無いのだから今直ぐに決める必要とて無いのだと、賑やかな人の向うに目を向けようとして捉えた先に――新たな提案。彼女のくじ屋に対する積極的な反応と手招きに頷いて自身も歩みを寄せれば、店主の声に小さく思案の声をひとつ)なら…空くじもある、のかな。でも、何が貰えるるんだろうね…楽しみ。ふふ、完全無欠かぁ…私も今日は運が良いと、いいな(完全無欠なんて言葉が隣から聞こえれば空くじを引き当てる不安よりも前向きな好奇心の方が刺激されて、つい笑い声を零しながら巾着へと手を伸ばし中の財布から小銭を取り出そう。彼女が先に引くようであれば譲り、特に何かしらの意思を感じなければ自分が先に。どちらにせよ小銭を渡す際に掛ける声は変わらない)1回分、お願いします。(そうして箱の中に入れた自身のくじの結果はといえば――) | |||||
熱い!危ない!それで騒ぐのが楽しい!でも線香花火でしみじみすんのもいいな〜… | |||||
うんっ。きっと似合う絶対似合う!てかせっかく同じクラスなんだし休み時間とかにさ、パパ―っとやっちゃうってのも良くない?どう?……ホント!?照れるな〜嬉しいなっ。あのねこの髪型はね、ちょっと気合入れて頑張ってみましたー!コテで巻いて〜アップスタイルにして〜ってね。(終着点を定めかねていた一語には僅かに首を傾げつつも、控え目な礼が結びとなれば返答は満足気だ。勉学においては有効活用されぬ脳内回路もこの時ばかりは働き良く、我ながら名案だとばかり自慢げに提案を。ポンパドールで晒す額こそ平生と変わらぬものの、右サイド上部で揺れる毛先の螺旋をして如何程の気合いがこめられたかは推して図るべし。見返りを求めるが故の洒落っ気ではないが、努力の甲斐ありと有難く賛辞を受け取りがてら首元に位置する毛先を指に巻きつけ唇が半弧を描く。)ドキドキだねー!もうここはうちらの運に任せることとして、……ね、今通りかかった人ね、りんご飴とクレープ持ってた。ちょー美味しそう。(――と、決定もそこそこに隣の芝生は青いを体現しつつ、くじ屋に身を寄せたらば”今日の私は完全無欠”こそ体現させるべく手首に引っ提げた巾着を広げた。彼女に続き「私も一回分で!」と小銭を渡すまでは手際よく、くじ箱へと腕を突っ込む勢いこそよかったのだが。)空くじはイヤ、空くじはヤダー…………ってさっちんすごくない!?え、え、ちょーカワイイー!大当たりじゃない!?よかったね、さっちん今日は絶好調だー!よーっし、私も!なんかカワイイの来いっ!(遺憾なく発揮した優柔不断により箱の中を手探る時間の長いこと長いこと。指先で触れるくじの数々へ意識を向けつつ呟く声はうわ言のごとき其れだが、店主の声に牽引され向けた双眸がテディベアを捉えたらばその愛らしさに声を弾ませた。彼女に肖るべく掛け声を伴ったくじの結果は、) | |||||
あ…ちょっと、わかる…かな? 線香花火は…締めに、欠かせないね。 | |||||
(また学校が始まったらと返す顔に困惑は無く彼女の提案に躊躇いも見せずに頷いては、今後に細やかな楽しみがまたひとつ増えた。掛ける手間と時間がそれだけ彼女の彩りとなっている事は洒落っ気に疎い頭にも伝わろう。自分では再現する事は出来ぬであろうその髪型を改めて見詰めながら、大した言葉では無いが浮かぶ感想をそのまま唇に乗せて)うん。それに、その簪も…とっても、似合ってる。今、誰か知ってる人に会ったら…「立平さん可愛いでしょ」って、…私が自慢しちゃいそう(着飾った彼女の姿を見るのが自分だけでは申し訳無いという感情を冗談めかした変換を成して言葉にすれば、真顔で一度頷きを。常日頃の言動と釣り合わぬとしても、それだけ夏祭りという場に少なからず高揚していればこそ。――新たに出た単語に咄嗟に疾うに過ぎたであろう人影を視線で追ってしまってから、相変わらず誘惑の多い環境に眉を下げれど、語る声には楽しげな色。)りんご飴に、クレープ……やっぱり、見ると食べたくなっちゃうな(旺盛な食欲に頭が染まるのを抑えては、引いたくじの結果――店主の声に瞬きと共に受け取ったのは、愛らしいくまのぬいぐるみ。当たった嬉しさよりも予想外の代物への驚きを滲ませつつ、次いで意識を向けるは彼女の結果。)テディベア……う、うん。びっくり。………あ、立平さんも人形…!クレーンゲームってことは、非売品…かな?……その、二人とも当たって、良かったね(自分よりも長く手を入れていた彼女の手に渡った人形に関しての知識は薄くも、稀少そうな代物であり楕円の黒い瞳と全体のフォルムを見れば彼女の望んだ可愛い代物ではないだろうかと、喜色を滲ませた声音で声を掛けよう。人形を覗き込むべくより近くへと近寄ろうとした足が躊躇を覗かせたのは一瞬で、それを契機に思い出したように軽く店主に頭を下げると、足先は次なる屋台の方に向かせながら)立平さん、その…結構慎重に、選ぶんだね…?さっきの…くじ、とか。屋台も(口許の微笑は絶えず先程の彼女のくじを選ぶ際の様子に触れたのは、何とはなしに。他愛無い雑談の一種の心算で目に留まった点に触れたにせよ、日頃は斯様な点には特に言葉にすることはないそれを口にした辺り何処か浮かれていたのかもしれない―) | |||||
線香花火、終わるとき切ないよね。大抵私の線香花火って短命なんだよ〜……グスッ。 | |||||
や〜だもう嬉しい事言ってくれちゃうなさっちんたらー!そういやクラスの子とか寮の誰かに会えるかな。会ったら隣の美女自慢して〜写メ撮って〜(雰囲気に心沸き立ち酔い痴れた脳髄はすっかり出来上がり、彼女の腕元へ数度打ち付ける掌は照れ隠し3割嬉しさ7割。指折り数える希望願望は増加の一途を辿りつつ、こうした笑み絶えずのやり取りに耽るこころは、対人関係の深まりの実感にある。――して、彼女に肖った掛け声の有効度といえば、)うわーー!!ヤッバイ!ちょー―カワイー!店主さんありがとー!うんうんっホント当たり引けてよかった、大満足!帰ったら部屋に飾ろっと。そういえば私、部屋にでっかいテディベア居るから、今度その子と、この子にも一緒に会いに来てね。(念に念込め手繰った運命の糸は途切れてはいなかったらしい。店主に告げられ景品を手に取るや否やの叫声は喧騒をも掻き分けた―隣の彼女と店主には一撃食らわしたかもしれない―に違いないが、口早に店主へ礼告げた後、愛くるしさ満点の人形を揺らしがてらの誘致に続けた「やっばいね、お祭りちょー楽しいね。」、興奮は醒めやらず。だった。)………あはっ。あのさ、私って優柔不断じゃん?でね、よくこーゆーのウザいって言われるんだ〜。ごめんね、さっちんもウザいなって、思った?(カラン、―――コロン。くじ屋を背に再び人混みへ紛れ始めてからというもの、一定の拍を刻み続けるも一際大きな足音を最後に喧騒に掻き消えた。常ならば寧ろ自ら笑いの種と出来ていた類の問いだった。陥れようとの意図が見えたわけでもなく、正当な経緯の結果、自然と口を出た問いであることも重々承知している。それでも自嘲じみた、音だけの短な笑いが付されたのは、それを契機として軽薄ながらも悲観的な文言を並べたのは、ひとえに過去に敏感になっていたからに他ならない。半歩ほど遅れて反芻した文言のあてつけがましさに随した「……あ、ごめ、」の一言は喧騒に消え、)………えーっと、そうだ!私に特別そうだって思ったわけじゃないんだけど、さっちん私に気ぃ使いすぎじゃない?もっとフランクに!フレンドリーに、ラク〜に絡んでくれてもいんだかんね。ナナとかななみんとかって呼んでくれるのでも!(居た堪れなさに窮したか、慌てて続いた音の小手先感といったら他に無かろう。二重に墓穴を掘る運命になるとは、”完全無欠”も荒唐無稽の夢だ。) | |||||
手が…動いちゃってる、のかな…?長く保たせるのは、大変だよね。 | |||||
(想定を上回る彼女の声に目を瞠ったのも一瞬のことで、声に現れる喜色が伝染するように細める目許。彼女の大満足との声を聞いて自身にも満足気な微笑が宿り、視線を落とした手元の其れにも本来以上の価値が付加されるよう。順じて幸運への仄かな嬉しさが胸にも沁み渡り始めてはこのひと時に笑みは絶えぬ)でっかいテディベア…楽しみ。ぜひ、…お邪魔させてもらうね。立平さん…は、…ぬいぐるみ、好きなの?(特別強く興味を懐く対象とは異なっても"でっかいテディベア"の単語は幼い頃に懐いたような好奇心を擽るようで微かに上がった声音が嬉しい誘いに諾を紡ぐ。それから、先程の反応と部屋に既に存在するというテディベアから浮かんだ問いもひとつ。楽しい、その言葉を共有するのは己とて変わりはしないのだから心からの頷きを返して、――とまる。止む音に呼応して止まる足は同じであれど彼女を見詰めた瞳に焦燥が過るのは、届く言葉や表情を生み出したのが自身の発言に因るものであればこそ。下がる眉と共に慌てて挟む否定も、)……お、もわないよ。思って、ない。その…そういう意味じゃ…、……なくて(結局は碌な言葉も出ては来なくて半端に口を噤むそれが、何の効果となるだろう。少し前と孕むものが異なる笑みを見詰めたまま、言葉を探せば探す程に数秒でさえも時間がこの場を澱ませるよう。謝罪の言葉さえ発せずにいれば聞き損ねた彼女の言葉に首を傾げた直後、折角空気を変える筈の言葉にテディベアを掴む力が、僅かに増した。これが生き物でなくて、よかった。)――そんなことないよ(顰めるように歪めた顔と乾いた喉で短くも淀みなく飛び出した言葉は感情を伴わず。それが予想以上にずっと冷淡に響いた気がして、一呼吸後に意識的に微笑を浮かべては、付け足しの作業。気遣いなんてものじゃ、ない。)……ちがう、よ。あの…遠慮してる訳じゃ、…ないの。…うん。その…だ、から…そうだ、…呼び方。立平さんが良ければ、ナナちゃん、って…よばせて貰っても、いい…かな?(首を振って思い出したような呼び名の提案も、現状では何処か空々しく響いてしまうのを意識せぬようにして。力が籠ったままの手も下がった眉も半歩下げた右足も戻らぬけれど、少し前の空気を取り戻さんと笑みを思い出し描こう。ただしい楽しさを保てる距離で。) | |||||
かも。私じっとしてんの苦手なんだよね…今度は動かないように気をつけます! | |||||
うんぜひ!あ、そだ。あやちんも呼んで2女会とかするんでも楽しくない?夜くっちゃべってお菓子食べんの。絶対楽しいよ〜。……ん〜………、ふつう?相当気に入って一目惚れしたー!って子だけは連れて帰っちゃうよん。(喜楽を行動の原理とする女の実働は至極明快である。色好い返事とその反応をしてすべらかに唇を割った提案をはまさに喜楽を思うがのみ、両の口角を引き上げ目を細めた面貌でゆるやかに首を傾ぐ良さげでしょ?には許諾願いをも覗えるだろう。”好き”か”嫌い”かの天秤にかけかねて言い淀んだ答えは”どちらでもない”と、人差し指を口許に充てがったお陰で音すら曖昧に発されよう。―――――。焦燥の色濃い瞳に、滑り落ちた文言の重大さを知った。音質さえ明るいが仄暗い本意を秘めたたった一言が胸の家で反芻して、うまく笑えない。焦燥に震える唇がうまく発せない「ごめん」「違う」は喧騒が打ち消えたのを良しとして紡いだその場凌ぎの問いのゆくえは、)え?(そんなつもりじゃなかったとは後の祭りだが、話題転換を図った問いかけはその実責任転嫁を強いてしまったのかもしれなかった。肯定否定何れであれ静穏であった音がその時ばかりは揺るぎなく耳殻を打ったものだから、そしてそう発した容貌に明確な乱れを見たものだから、短な返しは聞き返しでなく喫驚を表していた。ドクンと大きく脈打った心の臓が、ながいながい間、続きを待つ。)あ、えと、…………そっかっ。もちろんだいかんげーい!だよっ、好きなように呼んでくれると!嬉しいですっ!(掠れた喫驚。呆然と半開きにした口、動作途中で固まった表情態勢と晒した不格好は追随した意と提案とにほどよい緊張を取り戻す。応答はぎこちなく声も裏返ったが、明るすぎるくらいが今には丁度いい。「あ、りんご飴!はっけーん!今日は先にりんご飴だったね!」――鼻と目と先の屋台を指し、行こうと手を引く腕は幾分遠慮がちであるが然し、この夏祭りを後味の悪いものとして共有するのは不本意だ。夜の帳が下りる夏のとある日、確信するのはただひとつ――彼女とたどる運命に、暗さは要らない。) | |||||
そう考えると何だか…我慢比べみたいだね。線香花火、って。 | |||||
にじょ、会…?あ…糸川さんと立平さんと夜までお喋り…うん、賛成。ケーキとか…は、夜だから……でも、おかしとお喋りだけでも…十分、楽しいね。……そう、なの?なら、そのテディベアは…お気に入りなんだね(遅れた略称の理解も後に続く内容で解消されれば、お決まりの微笑と共に快諾を。新たに加わる名前があれば尚のこと計画は魅力を増して、秘めた不穏も安堵に消され何処と無く声も弾もう。予想と異なる曖昧に聞こえた中間の回答に僅か視線を彼女に注げど特別な疑念には至らず、ならば彼女の部屋のそれには特別であるのだという解釈が表情を和らげた。――意図せぬ意味で伝わる言葉の訂正は早ければ早い方が良いのに、動揺が邪魔をすれば不必要に手間取って、場を悪化させるのが常。適切な楽しさのみで成立する筈の空間を崩す契機となった言動と、指先に籠る力が見ない振りをしているそれを呼び起こしては、退いた半歩が浮かれた頭を戻す。親愛が募れば募る程に比例して増す衝動を消すには、適切な距離を置いての対処すべき――と。)なら……これからは、ナナちゃん、で(乱した空気の代償を彼女の表情に知れば、過敏なそれが罪悪感を芽生えさせるけれど。今は。退いた足に反して申し出に甘える形で呼んだ彼女の名前。反省も嫌悪もそれよりも、取り戻すべきは、楽しいひととき。利用するように変えた呼び方に微かな痛みが孕めど、口許は弧を描いたまま崩れることはなく。明るい声に含まれるものには気付かぬ振りをして、彼女の後を追おう。引かれた手はされるがままに、自らは決して彼女に触れず、距離を縮めず。あかい林檎が並ぶ屋台に向いながら「ついつい買っちゃうよね、りんご飴」なんて他愛無い話を口にして。あかいあかいりんごが並ぶまえで微笑みを、それを口にするのはきっと自室に帰ってからになりそうだけれど――そうしてそのまま今日一日を楽しさで締め括れるように、明るいものを絶やさぬように。綺麗な夏の思い出となりますように。) |
8月16日 | |||||
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>境内には出店が並び、訪れた客で賑わっている。 よっ!お二人さん!くじ引いてかない?ここに来た思い出にどうだい?うちは空くじ少なめだよー! >箱の底に三角くじが溜まっている… □上にあるくじを引く □底にあるくじを引く □かき混ぜてから適当なくじを引く □適当に掴んだあと、手に残ったくじを引く ―――――――――――――――――――――――――――――― くじ引きに参加する人は、本文にくじを引く動作(簡単に)+選んだ選択肢を明記してください。参加を確認次第、随時このスレッドに結果レスが付きますが、さらにレスをする必要はありません。 | |||||
参加 | |||||
んー、こういう時は直感に任せるが勝ち、ってコトでっと(手を箱の中に入れ、最初に指先に触れたくじを引き抜いた)
□上にあるくじを引く | |||||
結果 | |||||
おーっと!おめでとう!いや、うちで当てるたぁスゲぇ強運だな、兄ちゃん! ほれ、商品の”ガネーシャ貯金箱”だ!それ使っていっぱい金貯めたら、来年もまたうちに来てくれよな! >”ガネーシャ貯金箱”を受け取った。 | |||||
参加 | |||||
んー、こういう時は直感に任せるが勝ち、ってコトでっと(手を箱の中に入れ、最初に指先に触れたくじを引き抜いた)
□上にあるくじを引く | |||||
結果 | |||||
おーっと!おめでとう!いや、うちで当てるたぁスゲぇ強運だな、お嬢ちゃん! ほれ、商品の”テディベア”だ!お嬢ちゃんみたいな可愛い子に当たってコイツも喜んでるよ! >”テディベア”を受け取った。 | |||||
参加 | |||||
折角だから、良いもの当たればいいわね。(とは言え意識は少年に傾いた侭、触れたくじを手早く引き抜き――)
□上にあるくじを引く | |||||
結果 | |||||
おーっと!おめでとう!いや、うちで当てるたぁスゲぇ強運だな、お姉さん! ほれ、商品の”フェザーマンRの人形”だ!コイツは全身40箇所可動で色んなポーズが取れるってぇ優れモンだぜ!良かったなあボウズ! >”フェザーマンRの人形”を受け取った。 | |||||
参加 | |||||
当たりが当たりって呼べるかが問題だけどな…。(くじの塊を掌いっぱいに掴み、引き抜く間際にぽろぽろと落ちていくそれらの中でひとつ、最後に残ったものを――)
□適当に掴んだあと、手に残ったくじを引く | |||||
結果 | |||||
おーっと!おめでとう!いや、うちで当てるたぁスゲぇ強運だな、兄ちゃん! ほれ、商品の”カレイドスコープ”だ!いいモン当てたなあ、こりゃ女の子にプレゼントすりゃイチコロだよ! >”カレイドスコープ”を受け取った。 | |||||
参加 | |||||
大丈夫今日の私は絶好調…完全無欠………。カワイイの来いカワイイのこーいっ!!(ブツブツと念じること数十秒。くじ箱の中をおもいっきり手弄った後、掛け声と共に引き抜いた)
□かき混ぜてから適当なくじを引く | |||||
結果 | |||||
おーっと!おめでとう!いや、うちで当てるたぁスゲぇ強運だな、お嬢ちゃん! ほれ、商品の”フロスト人形”だ!そいつ欲しさにクレーンゲームに通う奴が現れるくらいマニアには堪らない代物だよ! >”フロスト人形”を受け取った。 |
8月16日 | |||||
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>境内には出店が並び、訪れた客で賑わっている。 お、お客さんお客さん、やっぱり夏祭りといったらたこ焼きでしょ! ほっぺたおっこちるよー!買ってかない? ―――――――――――――――――――――――――――――― オクトパシーのたこ焼き(たこは入っていませんが、アレと呼ばれるものが入っています)を買うことができます。本文でたこ焼きを注文してください。(簡単に)一人1パック(400円)まで。レスを確認次第、随時このスレッドにレスが付きますが、さらにレスをする必要はありません。 | |||||
購入 | |||||
たこ焼き…1つ。青のり、おかか多めにマヨネーズ大盛り。 | |||||
販売 | |||||
あいよー!ちょーっと待ってね。 >……。 ハイお待ち。オマケしといたから、そっちの顔のそっくりなお兄ちゃんと仲良く食べな! >”謎のたこ焼き”を手に入れた。 | |||||
購入 | |||||
ドーモー、繁盛してる?やっぱ鉄板モノは匂いに惹かれちまうよなーってワケで、たこ焼き二つヨロシク。ア、ヒトツはスゲエあっつあつのヤツで頼むわ。カワイイ連れのおクチの中にちょっとしたサプライズをしてやりてえなって思ってサ、熱ければ熱いホド喜んでくれると思うんだよねぇ。 | |||||
販売 | |||||
あいよー!ちょーっと待ってね。 >……。 ハイお待ち。リクエスト通り、こっちのは口の中がヤケドしちゃうくらいあっつあつにしといたよ!ほんと、冗談じゃなく気をつけないとヤケドしちゃうよー。 >”謎のたこ焼き”を手に入れた。 |