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記憶の扉 I

怠け者。嘘つき。出来損ない。小さい頃に貼られたレッテルは濡れたシャツのようになかなか脱ぎ落すことができない。──落胆。苛立ち。憎悪が日ごと埃のように薄っすら積もり、徐々に誰の目にも明らかになる。

「もっと一生懸命やりなさい」「ずるをするな」「どうして皆と同じようにできないの」

なぜ。どうして。それは好奇心を満たすための問いではなく、答えられない子を詰るための合図に過ぎない。
* 7/26(Fri) 00:39 * No.2
記憶の扉 U

「お前みたいな子、産まなきゃよかった」

歴史を遡れれば子を捨てる親は少なくない。たとえば『古事記』。イザナギとイザナミは子である蛭子命(ひるこのみこと)を葦船に乗せ、島から流して捨ててしまった。理由は「わが生める子良くあらず」とあるのみで、蛭子命がどういった子であったかは不明だが、「良くない」から捨てられた。それだけは明確な事実である。だが、蛭子神が流れ着いたという伝説は日本各地に残っており、蛭子神はそののち海を領する神となって崇められた。また、漂着物を蛭子(えびす)神として信仰する地域も多く、「良くない」ものの象徴だった神はいつしか「良い」ものの象徴となる。今では福の神と呼ばれるほどに。

(どんな疑問にも答えてくれる相棒のページを捲り終え、あるはずもない「めでたしめでたし」を呟き辞書を机の上に置いた。)──なるほど。だからきみがぼくのペルソナなんだね。(我は汝、汝は我…エビスはイサナ、イサナはエビス。)……ほんとうに、きみみたいになれたらよかった。( “苦を知らず ”堂々と泳ぐ巨大な勇姿。幸福と強さの象徴。ひとつの色では表せない多様性と可能性を秘めたきみ。好奇心に突き動かされ、果てしない知の海を泳ぐきみ。)イサナみたいに、なれたらよかった。
* 8/18(Sun) 22:15 * No.14


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