深那莫の女豹と名高いカリスマギャル――が親友のモブギャル、天内粧子。所構わず座り込み、ぺちゃくちゃと話し込んでは大笑いする不良生徒である。風紀委員会への所属は罰ゲーム、茶華道部は茶菓子目的とスクールカースト上位者らしい傲慢な振る舞いが多い。目上の人間に対しても不敬な言動が目立ち、友人たちと保健室を訪れては養護教諭「すばぷよ」にダル絡みしている。態度は大きいが肝っ玉は小さいため、タイマン勝負は受けないし申し込めない小物っぷり。幼稚部から双鏡学園に在籍しているエスカレーター組で、優しい両親、気の置けない親友と一緒に順風満帆な人生を歩んでいる幸せ者である。やたらと自信に満ちあふれ、やたらとポジティブに物事を考える傾向にあるが、挫折知らずの心は角砂糖より脆く打たれ弱い。そうした繊細な一面が功を奏してか、誰かのスキャンダルで盛り上がるよりも誰かの恋バナで盛り上がりたい雑輩に過ぎないのだけれど、そうは問屋が卸さない。親友は“いたずらっ子”だ。ちょっとだけ陰口を叩いたり、ちょっとだけ物を隠したり、ちょっとだけ無視したり。遊び以上いじめ未満の悪戯は贖罪の羊をじわじわと蝕んでいくのに、親友の悪戯を止めたいと強く思うのに、卑怯なモブギャルは今日も彼女の隣で笑っている。そもそも親友を悪戯好きにしたのは他でもない天内粧子本人だ。初等部の頃、お気に入りのボールペンを友人に貸した。誕生日に買ってもらった特別なボールペンだった。しかしボールペンは友人の不注意によって破損。悲しさのあまり号泣していたら、情け深い親友はハンカチを差し出しながら言った。「粧子が可哀想!」「ねえみんな、アイツのこと仲間外れにしようよ」――あのとき「そんなことしなくていいよ」と一言でも言えたなら。きっと親友は悪戯の味を覚えなかっただろう。あの子が不登校になることもなかっただろう。飼い犬を散歩に連れ出すとき、テレビで流れている『美少女戦士ジュエリア』の再放送。間違いを犯した友人に正々堂々と物申す美少女戦士ルビーの姿が眩しくて仕方なかった。彼女の勇気が羨ましい。彼女みたいになりたい。臆病者の願いは愛犬のみぞ知る。
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