零、歓迎の宴の段
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【零】客間

(案内された客間には両手で足りるほどの子供たち。これから同じ立場で体験入学をしていく同志たちの顔を失礼のない程度に見回して、下座の一角に腰を落ち着ける。程なくして学園長先生によるお言葉が始まったので、人数はもうそろっているのだろう。これからまずは学園内の案内から始まるのだろうか。まじめな面持ちで話を聞きながら、色々考えていたことが、最後に告げられた爆弾発言で全部吹っ飛んでいった。張り詰めていた緊張の糸も爆風に呑まれ、思わず気の抜けた呟きを零す。)ええ……?(もともと下がり気味の眉をもっと下げて、困った顔をしてしまう。実際困ってしまうだろうそんなこといきなり言われたって。)……あ、一芸披露しろとか、そういう趣向なのかな?いや、どうだろうなあ……(あんまりすごそうに見えないすごい学園長の考えることなど、今日初めてお目見えした青年に分かるはずもなし。大きな独り言とともに首をひねって、近くにいた同志の一人に声を掛ける。)あの、出し物ってどういうことなんですかね?まさか、まずは一発かましてみろとかそういう意味じゃないとは思うんですが……。
* 9/5(Fri) 09:19 * No.3

(相棒の一振りとともに後方に座し、今日から学友となる少年たちを見渡した。年嵩の男たちに囲まれてきた弊害か、小さき者は一緒くたに年下に見える。一見落ち着き払ったようでいて、黒目は静かに室内を行ったり来たり。有り体に言えばまあそこそこ緊張していた。)……は?(ゆえに呆れより戸惑いを多分に含んだ疑問符はかの有名な学園長先生が姿を消したのち、たっぷりと間をおいてから落とされた。ありがたい挨拶を真面目にありがたがって聞いていたらとんだ帰結だ。)…出し物、つまり余興をしろとおっしゃるのか。……なるほど?(わからん。咀嚼しようと試みたが唐突な要求の意図は掴みきれぬまま首を傾げた。と、そこに戸惑いの声。)そのまさかかもしれん。……ふむ。剣の道とは異なり愚直な鍛錬、努力ばかりではなく様々な芸を磨くもまた忍びの道と聞いてはいたが…つまり、私たちの実力をはかるのが目的ということか…? なるほどな。(再び生真面目な声が今度は納得をともなって。上に従うは常。多少の疑問は良いように解釈する癖がついていた。)ならば芸でもなんでもやってやらねば。お前はどうだ、何かこれぞという特技はあるか?
* 9/5(Fri) 18:16 * No.6

(隣に座す青年は、随分落ち着き払っているように見えていた。慣れない場で、もしや困惑しているのは自分だけなのかとも思える中、隣の彼も同じように困惑した様子を見せていたなら、少し安心した気持ちにもなっていたのだけれど。)……なるほ、ど?(いち早く現状を飲み下した彼にちょっと置いていかれた気持ちで小首を傾げ。一つ二つ頷き。)……実力うんぬんは兎も角として、何ができる人間がどうしてここにやってきたのかは、学園側としては知っておきたいのかも知れませんね。(なんだか違う気もするが、郷に入れば郷に従え。長いものに巻かれる気持ちで、何となくで気持ちを切り替えて彼に同調してみる。ツッコミを放棄したとも言う。困り顔にゆるりと笑みを浮かべ直し。)特技と言えるかは分かりませんが、的あてならば村一番の精度だと言われておりました。井の中の蛙でなければいいのですが。(まずは苦笑い気味に問いかけに答え。)あなたは剣術……ですよね?実は、立派な長物をお持ちの方だと、密かに気になっていたのです。何処か、道場のご出身ですか?(恥じらいを混ぜてはにかみを作る。ついでに「僕は細葉史士郎と申します」と名乗っておこうか。)
* 9/6(Sat) 13:27 * No.16

ほお……的当てか。それも村一番とはかなりの腕前じゃないか。(放っておくと不機嫌そうに見える三白眼をわずかに見開き、眼差しの圧をやわらげた。目立つところのない大人しげな少年に見えたが、どうやら見かけによらないらしい。敵を侮ることなかれ、とは忍者のみならず武芸者にも通ずる教え。ゆえに芽生えた感心を素直に差し出しながら、)ああ。(短く首肯。それから相棒を褒められれば「わかるか」と喜色の滲んだ声を重ね、)こいつは父上から賜ったなかなかの代物でな。(わかりやすく眦を下げた。)私は栗栖理助。歳は十四。私が言うのもなんだが、父は東ではそれなりに名の知れた剣豪でな。剣術を極める傍ら、とある城で剣術師範をしている。いずれ私も父のようにと剣の修行に励んでいたんだが、貴き御方の命により東からはるばる忍術学園にやって来たんだ。(こと、父と剣術のこととなるとよく回る舌が、)そういうお前は……(と言いかけて、せっかく教えてもらった名を紡ごうと言葉を切るも続きはもごもご。身内の話にすっかり緩んでいた心が先刻までの緊張を取り戻し、)…ほそば、ししろう……………(重々しく呟いたのち、じろ、と幼顔を見つめて押し黙る。一見すると年下に見えるが立場は同じ。しかも初対面。忍たまのいろはどころか友人づくりの正解がわからず眉を寄せ、)……その、姓か名か、こういう時はどちらで呼ぶのが適切なんだ? 敬称はいるのか?(声をひそめて問う。)それとも親密度によるのだろうか。(ひどくまじめくさった顔で。)
* 9/7(Sun) 10:42 * No.20

(大人びた相貌がするすると色を変え、素直な言葉を吐き出すのを、小さく頷きながら聞く。饒舌さからも尊敬の念はよくよく見て取れて、何も関係のないこちらまで微笑ましくなってしまいそうだ。)立派な方々なのですね。……失礼に当たったならすみません。あなたがあんまり嬉しそうに語るので、つい勝手を言いました。(悪気なく零した一言が、あんまりに身勝手で余計な感想に思えて、慌てたように小さく首を振って訂正を。)いやあ、僕も少し似たような経緯でして。尊敬する父に頼みこまれ押し切られと言いますかなんというか。(曖昧に笑んで、身内話を打ち返そうかと開いた口が、曖昧に止まる。唐突に張り詰めた緊張の糸にとっさに身を正した。)はい……(これまた唐突に重苦しく告げられた名前につい返事。なかなか出てこない続きに首を傾げ、)はい?(今度は同じ返事を違った調子で返す。しばしの沈黙を経て、無理やり落ち着きを払った。気を抜くと文字通り微笑ましさで微笑んでしまいそうだったからだ。)立場や歳や、まあ仰る通り親密度によるかと思いますが、あなたと僕は同じ体験入学生同士なので、好きに呼んでもらって構いませんよ。敬称もご自由に。(まずは、然りと考えを告げて。少しだけ笑みを露にする。)ただ、僕個人としては、名前で呼んでもらえると嬉しいです。せっかくこうして、同じ機会を得た者同士ですからね。仲良くしてもらえればと。……あとそう、歳も一緒ですし。(思い出したように付け加えて、コホンと一つ咳払い。)折角ついでに、出し物も一緒に考えてくれると嬉しいのですが……どうかな?理助くん。
* 9/7(Sun) 23:18 * No.23

いや? 失礼なことなど何もないぞ。(挟まれた一言は謝罪を要するものではなかったので不思議そうに片眉を上げ、年上相手に恐縮でもしているのだろうかと結論づければ「気にするな」と。彼は随分と気遣い屋らしい。それでいて控えめな笑みを絶やさず会話を成そうとするあたり、社交性もあるようで。)………。(己と違って。同年代との初めましてから始まる一連の流れとやらがわからない。誤ったところで笑うような少年ではなかろうが、しかし。意を決して問うた結果、)……じ、自由…?(一番難度の高い返答を寄こされ、あからさまに「困った」という顔をした。一般例があればそれに倣うが早いと思っていたのに、やはり様々な条件を踏まえて最適解を探る必要があるという。彼の場合は何でもいいと言ってくれたがつまり選択肢は無限のまま。)ぬ……(だが失意に陥ったのも一瞬のこと。やわい笑みとともに救いの手が差し伸べられれば小さな黒目がぱっとかがやく。)そ、そうか。ではししろうと呼ぶことにしよう! 歳も同じならば気遣いも不要だな。うん。もちろん出し物についても協議しよう。………………………ん?(差し伸べられた手にしがみつくのに必死で聞き流していた言葉が、ややあってから脳に巡る。彼は「理助くん」と言った。それに、)…同い、年?(呟いたのち、たっぷりと間を置いた。それはもう失礼なほどに。言うほど身長差があるわけではないものの、自分と比べると随分と華奢に見える体。)………栄養が足りていないのか?(屈強な男たちに慣れた目に哀れみを浮かべ、気の毒そうに眉を寄せた。ごそごそと懐を探っては小さな包みを取り出して。)ほら、ひとまずこれでも食え。(中身は長旅の供、クルミ入りのビスコイト。ちなみにほんのり甘くてめちゃくちゃ硬い。)
* 9/8(Mon) 23:18 * No.28

(夕飯は何がいいと問うてきた母に、何でもいいと返して叱られる父を何度も見てきた。何も選ばないことは時に相手を余計に迷わせることになり得る。彼のように真面目な性格であればそういう可能性があるだろうと自分の希望も付け加えてみたが、予想は大当たりだったようだ。)まあ、あまり考えすぎなくて良いと思いますよ。…………うん?(困り顔に光が灯れば、こちらもほっと胸を撫で下ろし。この調子で一緒に最初の難題を何とかしていきたい、とそう思っていたのだけれど。不自然な間に首を傾げる。なにか気にかかることがあっただろうかとか。それともいきなり名前で呼ぶのは気に障っただろうかとか。様々な懸念が頭を巡るが、予想しなかった聞き返しに体が強張る。)え、うん、……14歳、同い年になる、かと。(妙な緊張感に冷や汗をかきながら彼の言葉を待つ。そりゃもうギチギチに神経が張り詰めていたものだから、憐れみとともに差し出された小さな菓子に呆けた後思わずずっこけることになる。オーバーアクションで畳に打ちつけた後頭部が痛い。)ええ……?僕、そこまで幼顔に見えるかな……いやまあ、いいんだけど、こっちの話なんだけど……。(起き上がった後菓子はありがたくいただいて。後頭部を擦りながら齧ったそれは甘くて硬くてちょっぴりしょっぱい気がした。平生の青年であったなら南蛮菓子に遠慮の一つや二つ見せていたところだが、この度ばかりは「ありがとう、理助くんって面倒見がいいね」と遠い目をすることしかできず。あと菓子が硬くてひと欠片がなかなか飲み込めない。口の端でふやかしつつ、行儀は悪いが場繋ぎのために淡く口を開こう。)もうどうせなら、体格差を活かした出し物をするのもいいかもしれないね。あなたは僕くらいなら軽々持ち上げられそうだし。勿論斬ったり投げたりも捨てがたいけど……理助くんは、何か思い付いてる?
* 9/9(Tue) 20:11 * No.31

なぜ倒れる。やはり腹を空かしていたのか?(はて。盛大にずっこけた彼の後頭部を心配しつつ、言わんこっちゃないという顔をする。よもや己の所為とは思うまい。ぶつぶつと声が聞こえても言葉として戸惑いが届くことはなく、代わりに差し出した菓子を口にする様に「ああ、遠慮はいらん。それは若様が旅に出る私を気遣ってくださったものなのだ。」とにこにこと。丈夫すぎる歯を持つ男には丁度よい菓子も普通の少年には硬すぎるから、「お友達が出来たらこれをあげなさい」と言われたもっと食べやすい南蛮菓子が荷の中に幾つかあったことはすっかり忘れたまま。懸命に硬すぎる菓子をふやかして食べる様子すら、貴重な南蛮菓子を少しずつ味わっているのだろうと満足そうに頷く始末。心配事も失せたのちようやく本日の議事に話題を移し、)いや、剣技以外に披露できるものなどないと思っていたのだが、……うむ、二人でやれば演目の幅も広がる。おもしろいかもしれん。(てっきり出し物は一人ずつ行われるものと思っていたが、誰かと行うことを禁じられた覚えはない。)しかし、体格差を生かして…というのはなかなか難しいな。無論お前を担ぎ上げるくらいわけないが……(ならばと腕組み思案した末、)ああ、ではこういうのはどうだ?(閃いた。)私が肩車してお前を担ぐ。お前は私の上から的当てをする。つまりは流鏑馬のようなものだ。……流鏑人か?(咄嗟の思いつきにもほどがあるが、彼の腕前次第では十分人目を引く演目になろう。)あるいは、お前が投げた物を私が斬ってやってもよいがな。(それもまた二人の呼吸が揃わなければ難しかろうが、成功すれば大歓声は必至だろう。)他にもやりたいことがあれば言ってみろ。やれることはやってやるぞ。
* 9/10(Wed) 15:24 * No.36

(嬉しそうに主人を語る様を見れば、これ以上文句をいうのも野暮というもの。青年は青年で己の切り替えの早さは美徳であると認識している。もごもごとふやかす菓子の中に木のみの香ばしさを感じれば「これ、おいしいね」と小さく笑ってみせ。彼の考えを相槌を打ちながら聞いていく。わかりやすく閃いた!の顔を見れば、今度は楽しそうに笑みをこぼしてしまうんだろう。)それは確かに、面白そうだね。よく思いついたもんだ。(彼の提案は自分にとっては利しかないが。そこでいったん言葉を切って顎に手を置き考えこむ。折角の業物を置いてけぼりにするのも気が引けるし。あ、と今度はこちらが閃いた。)二人でやるから演目は一つ、って言われたわけでもないだろう?流鏑馬、流鏑人?が終わった後に剣技もやろうよ。まずは僕があなたに支えてもらって的当てを披露し、次にあなたの剣技を僕が手伝う。どうかな?(一つにしなさいと言われればそれも仕方ないが、それは言われてから考えればいい。ようやく菓子を飲み込んで、にんまりと唇に弧を描く様は、まるで悪戯小僧のそれ。)演目の切り替えに手間取れば中だるみするだろう。僕は理助くんの背から勢いよく飛び降りて、あなたが斬り伏せる標的を投げる必要があるし、理助くんは理助くんで、僕を支え切った上で刀を構えて準備しないといけない。難しい出し物になると思うけど……どうする?(男児たるもの難題に取り組みたくなるもの。そう思いつつも安牌を取りがちな青年ではあるが、この場かぎりは気持ち優先させてみたくなった。なによりの理由は、)ま、僕が理助くんの剣を見たいだけ、でもある。(これに尽きる。)
* 9/11(Thu) 15:17 * No.39

なに? 両方を…?(こいつは驚いた。彼こそよく思いついたものだと瞬いたのち、おかしさが込み上げてきてくつくつと喉奥を震わせた。どうかと問われれば無論、)上等だ。やれるとわかりきったことだけを成してもつまらん。若様も常日頃から様々なことに挑戦せよとおっしゃっているしな。(答えは是と決まっている。爛とひかる瞳を見返しては大きく頷き、)…ふむ、一つ一つの演目を成功させるのは勿論のこと、演目の繋ぎまでも気が抜けないということか。まるで二つの演目をもって一つの余興。ならば観客どもに息つく間も与えぬ妙技を見せてやらんとな。……ふふ、欲も過ぎれば身を亡ぼすが、しかし度胸は大事だ。一発どころか二発かまして私たちの力を見せつけてやるとしよう。(相棒の柄に指をかける男の口元もまた、彼と揃いの形をしていた。)さて、そうと決まれば早速練習だ。挑戦とは無謀であってはならないからな。宴までの予定は知らんが、どこか広い場所を借りることはできるか聞いてみよう。(やる気も十分。すっくと立ち上がれば当然のように彼の手を取り、一足先に乞われた剣を見せてやろうと勢い込んで。――して、こののち幾ばくか準備の時間を得ることが叶うなら、互いの技を見せ合うかたわら新たな会話も成されただろう。そのうちの一つが、)ところで、ししろう、とはどのような字を書くんだ? ちなみに私の名はこうだ。(地面に棒切れで書いた「栗栖理助」は、とめ・はね・はらいがきっちりとした几帳面なでかい文字。対して彼の書く文字はどんなだろう。またしても意外な一面を見ることになるか否かはさておき、忍術学園に来て初めてできた友の名として「細葉史士郎」の名はしっかと胸に刻まれるはず。)
* 9/12(Fri) 13:40 * No.41

あっはは!あなたもなかなかやんちゃ坊主みたいだ。(それが悪いとは一つも思っていない口ぶりと表情で、楽しそうに細かいところを話し合っていく。二発きっちりかましてやるためには綿密な計画と練習が必要だろう。年甲斐もなくわくわくしている。目立つ行動はあまり得意ではないが、共に取り組む仲間がいるならその人を最大限活かそうとしたがるのは性分であった。その為に目立ってしまうならまあ吝かでない。それに彼とは気も合いそうだ。挑戦に対する見解は概ね一致していて、大きく頷いたなら早速場所を探しに立ち上がろう。手を取られれば流石に驚いたが。)……まだ幼子だと思われてる?いや、あなたは昔からこうして誰かに手を引かれて歩いていたのかな。(なすがままに手を引かれながら、眉を下げた困り顔で落とした呟きはあたっていても外れていてもまあどちらでもよかった。振り払うほどのことでもない。──さて、彼の剣技に大きな拍手を送り、青年は青年で存外身軽な調子で飛んだり跳ねたり投げたりを披露した辺りか。徐に記された名前に小さな笑みを吐く。何とも彼らしい字だ。)理を持ち助ける、かな?あなたらしくていい名前だね。僕の方は、──(棒切れを乞うて地面に書いた「細葉史士郎」は特に特徴のない、ただ丁寧に書かれていることはわかるような、そんな文字であっただろう。字体とともに脳裏に刻まれた「栗栖理助」の名の隣には、「真面目で良い子」と記される。恐らくこの印象が覆ることはないだろうと、未だ始まってもいない体験入学の終わりを思い描き、自分で呆れてこっそりと背筋を伸ばした。まずは、目の前の余興がつつがなく終了することを願おう。)
* 9/13(Sat) 21:09 * No.43


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