伍、これからの話の段
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【伍】27日目:自室

(時は瞬く間に過ぎ去っていく。それを実感したのは、ある手紙が届けられた日のことだった。同室の友人がいない時間に文机に手紙を広げる。)…よかった。(ほっと胸をなでおろす。以前に出会った姫君と思い人は、無事に落ち着く先を見つけたようだ。噂に忍術学園に入るという話を聞いたらしい彼らからの手紙を読み、安堵の息をつく。それは同時に、いくらかこの騒動が落ち着いたことを示していただろう。もうじき忍術学園における体験入学も終わりが近づいている。半ばひと時の仮宿としての所属ではあったがーー)……、(忍たまの友を広げて、指を滑らせる。幾度も開いたページには開き癖がついて、指先の痕跡も残っている。多くの学びがあり、友と出会った。失い難い出会いであった。)……執着しては、いけません。(煩悩や執着は良くない。己の手にあるものは必要ならばいつでも自然に返すべきで、一つの場所に固執するべきではない。偉大なお方の後を追い、仏道へと戻ればよい。ある程度の知恵をいただいた今なら、誰に頼らずともこのまま生き延びることはできるだろう。なにも難しいことではないのだ。元に戻ればよいだけだ。――だけ、なのだけれど。)御仏よ…お導きを。(数珠を手で押さえ、祈りをささげるように目を伏せる。――嵌め殺し窓の向こうから声がする。子供たちがはしゃぎまわる暖かい声だ。はたと気が付いたように瞬いて、ふと笑った。やや間を置いて、空色の巾着を懐から取り出し、手の数珠を外し、その中に入れる。この声が御仏の導きであるなら、仏道ばかりではなく忍道への門が開かれたのもまた、きっと御仏が数ならぬわが身に与えた慈悲であろう。青空を眺め、緩やかに微笑み、巾着を懐に戻す。わずかに目を伏せた後には、男はいつものように微笑んでいた。手紙を大切にしまい、立ち上がって子供たちのほうへとかけていく。)
* 11/30(Sun) 00:40 * No.1


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