伍、これからの話の段
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【伍】26日目:自室

(学園長先生から今後の意向についてのお話があってから程なく。自室にて一人書き物をしていた細葉史士郎の耳にネズミの足音が届く。とたとた、二拍空けて、とととととっ。)――どうぞー(元々は矢羽音と文でやり取りをしようという手筈であったが、最初の連絡日に伝達係たる先輩忍者が小松田さんにさくっと見つかった上、学園長先生はじめ先生方も諸々お見通しであるとなれば、徒労を重ねるのもなんともやるせない。ということで、天井裏からの合図に返事をすれば自室に一人ということにしようと早々に諦めたのであった。音もなく部屋に降りてきたベンリナダケ忍者の先輩はどことなく疲れた顔をしていた。いや、自信を無くしているというべきか。もう諦めて正門でさくっとサインをすればいいのに。)お疲れ様です。こちらの文は頭領に。いやあ、もうすぐこことお別れだと思うとなんだか感慨深いですね。(座ったまま身体ごと振りむいて、今しがた書き上げた文を渡す。ぐっと背伸びをしたら凝り固まった背骨が嫌な音を立てたので、ついでに肩も回して解しておこう。間者も楽じゃない。ぐっともう一度背伸びをしてから、改めてベンリナダケの先輩忍者に向きなおす。)文にも書きましたが、忍術学園がうちに攻め込んでくることはまずないでしょう。招待状が届いたと聞いた時は何事かと思いましたが、国盗りや悪事を企てるような組織ではなさそうです。うちも好き好んで戦をしたいわけではないでしょうし……まあ、基本平和主義だから見逃されているんですかね、僕も。(憶測でしかないので報告書には書かなかったが、そうであるなら何も問題はないと言わんばかりに青年は笑む。あとはもう波風立てずに学園を去れば忍務完了と相成るが。僅かな心の機微は苦楽を共にした先輩には伝わってしまったようだ。「このまま帰っていいのか?」と尋ねてきた先輩忍者に、青年の瞳がぱちぱちと瞬いてから、柔く眇められた。)……はい。むしろね、このまま去りたいんですよ僕は。何者か明かすにしても今更どういえばという話ですし。何より、情けのない話ですが、わざわざ嫌われたくないというか。(言の葉は案外切な音に乗る。わはは、と笑って誤魔化しでも消えない感傷に自分で思うのだ。まだまだだなあ、と。)というわけで、スカウトもどうなることやら。いやあ、うちにきてくれないかなーって忍たまは沢山いるんですけどね。体験入学生の方々も一癖二癖粒ぞろいの方ばかりで……――(そうしてしばらく雑談を弾ませてから、先輩忍者はまた天井裏に帰っていった。――のだが、「そういえば伝え忘れていた」と、天井からひそひそ声が響く。曰く「殿と頭領が、帰ってきたら歳の数だけ団子でも食わしてやるかと楽しそうにしていたから、腹を空かせて帰ってこい」と。思わずひっくり返って叫びそうになるのを堪えて、小声かつ勢いのあるなんて器用なツッコミを返そう。)――いや、殿も父上も子ども扱いしすぎだし!!どれだけ腹を空かせていたとて、17本も食えるわけないでしょう?!
* 11/30(Sun) 13:13 * No.3


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