制作秘話
イサナ 昼神晴一
【コンセプトについて】
最初に思いついたコンセプトは「理想の姿が普通(平凡)であること」。一般的に「理想の姿」と聞くと何かに秀でていたり特殊な個性を持っていたりというイメージが強いと思うのですが、だからこそ「普通の人」(普通という言葉の定義は難しいところですが…)になるのが夢、というのは意外性のあるキャラメイクになるのかなと思いまして。 また、ちょうどイデアルに出会った頃にディスレクシア(発達性読み書き障害/以下、ディスレクシアと表記させていただきます)について深く知る機会がありまして、これを悩みとするのはどうだろうと思ったのが昼神晴一のキャラメイクの始まりでした。
正直なところ気軽に扱っていい悩みではないとも思いましたし、晴一を通して誤ったディスレクシアのイメージを植え付けてしまわないかと悩みましたが、私自身とある作品をきっかけにディスレクシアについて考えさせられ、そういった悩みを抱えている方が居ることを知れて良かったと深く感じたことから、見えにくい障害、それだけではなく、3ヶ月という長い期間を通してそれと向き合う姿を前向きな形で描けたらと思い、キャラメイクを進めました。(ちなみにディスレクシアの症状は人によって様々で、晴一の特徴が全ての方に当てはまるわけではありません。参考にさせていただいた体験談や書籍が幾つかありますが、症状の軽重や組み合わせは人により異なります、と念のため)

【職業・年齢設定について】
悩みの関係上、進学校であるフタコーに通うのは無理、当然教師も無理、となると用務員としてねじ込むのがギリギリかな…という消去法で用務員となり、年齢については恐らくペアさんは学生さんだろうから少しでも年齢が近い方がいいだろうということで若めに設定したのですが、本編が進むにつれて想像以上に幼い感じになってしまったのはイサナの影響が大きかったのかもしれません。晴一は小学校以降うまく子供時代を過ごせないまま身体(年齢)だけ大人になったところがあったので、イサナとして他者との交流を素直に楽しむことを覚えた(思い出した)結果、本来の明るさを取り戻していったのかな、と。

【ペルソナについて】
一番悩んだのがペルソナのモデルについてでした。既に晴一のキャラメイクは概ね固まっていたので、何かの神様、というよりは「親に捨てられた」エピソードを持つ神を探した記憶があります。最初に見つけたのは「ギリシャ神話のヘーパイストス」でした。用務員で工具を扱うことも多いだろうし、鍛冶を司る神とは相性良さそう!大工を志すも図面が読めなくて挫折してそう!と最初は本命候補だったのですが、ヘーパイストスについての記事の中に「主神とその妻たる神の間の最初の子が奇形である点から、日本神話における蛭子神との類似性も語られる。」という一文を見つけてしまい、そこからエビスに辿りつきました。結局エビス(蛭子)を選んだ理由は《記憶の扉U》イベントに記した通りなのですが、不具が理由で親に捨てられたこと、それでも流れ着いた先で神として崇められたエピソードなどが晴一の理想の姿としてぴったりだなと。また、エビスがクジラと関連があるのもモチーフとして素敵だと思い、ペルソナとしてのエビスはクジラの姿にしました。虹色なのはエビスの多面性や可能性を表しているつもりです。

【理想世界の姿について】
キャラメイクの順番としては現実世界の姿⇒ペルソナ⇒理想の姿で、晴一のキャラメイクやペルソナが固まってから最後にイサナが生まれました。最初は現実世界の皆さん(高校生)に憧れて高校生くらいの設定にしようかとも思ったのですが、祖父母が買ってくれたのに一度も着ることのなかった学ランを着て、通えなかった中学時代からやり直したい、という思いから中学生1年生の設定になりました。武器兼相棒の辞書は文字から知識を得るという晴一の夢を具現化したもので、活動の中でも便利に使えて楽しかったです。(本当は活動の度にお話したみんなのページが更新されていくというのをやりたかったのですが、ソロールの数が増えすぎてしまうので断念しました)

【名前について】
ペルソナのモデルがエビスに決まったので「鯨」がつく苗字が良いなと思い、最初は現実世界の方が「昼神」ではなく「鯨臥」だったのですが、いやこれだと正体がばれてしまう…と思い、「エビス」⇒「蛭子」から「ひる」が作る苗字……ということで「ひる神」⇒「昼神」に行き着きました。(そのため昼神温泉の跡継ぎ設定があとから増えました)(余談ですが、晴一には妹と弟がおり、跡継ぎとなる弟が生まれたおかげで完全に用済みとなったのでした)名前の方は、第一子&長男だから「一」のつく名前を。また、日本一の星空を売りにした村で尊ばれる「晴れ」の名を冠した…というPC視点の理由とは別に、悩み的に「曇り・雨」のイメージのPCだったので「晴」なのは皮肉がきいているかな…というPL視点の理由で「晴一」になりました。
そして、現実世界の方で使えなかった「鯨=勇魚(いさな)」を理想世界の名前に採用することに。個人的にとても気に入っている名前です。(裏設定では晴一を引き取ってくれた(母方の)祖父の苗字が「鯨臥」でした)
ラブコール
名簿を拝見した時から柔らかくて暖かい雰囲気に惹かれて、色んな活動の姿を自然と追いかけていた存在でした。中学生らしい無垢な空気感が大好きで、優しくしたい!ずっと幸せに笑ってて欲しい!ロールもめちゃくちゃ素敵すぎる!の気持ちでいっぱいで、直接お話する機会はあまりなくても素敵な気持ちをたくさんいただきました。好きだ〜!
イサナ
ペアの方かな?と思うぐらいに期間通してずっと鵜飼とお付き合いいただき、本当に本当にありがとうございました。初めのイベントでペアを組んでお話しているときに、あっ!イサナはなかなか鵜飼の核心をついてくるタイプだな!と思っていたのですが、お互いの悩みが分かってみると二人ともが何気ない会話の中で核心をつき合っていたような感じがありちょっと奇跡を感じました。本編を読み返すと、自由交流でこんなに深い関係性を築けるのって大変ありがたいことだなあ…としみじみ感じます。悩みの中身が分かってからは、イサナの明るさに子供時代の昼神さんって本当はこんな感じだったんだろうな、とちょっと切なく思ったりもしていました。昼神さんが鵜飼と本当に友達になるために丁寧に言葉を尽くしてくださったのがとてもありがたく、嬉しかったです。鵜飼も言っていますが、PLも本当にありがとうと嬉しいですしか言えなくなってしまいました…笑 まずは卒業後に二人で修学旅行が待っていますし、鵜飼が本当に先生になってフタコーに戻ってこられたら昼神さんともしかしたら一緒に働くことができるのかな?どうかな??と、一方的にわくわくしています。一緒の職場で働くことが叶わなくても、鵜飼は昼神さんとずっとお友達であり続けるので、これからもよろしくお願いします!!
昼神晴一(イサナ)
かなり特殊な形で邂逅を果たしたこの縁に感謝が尽きません!イデア・ルームでは年少組に位置するであろう、明るくて素直で一生懸命でかわいいイサナと先んじて出逢い、アイリーンのお姉ちゃんキャラも相俟ってそれはもう可愛がりたくなっちゃうようなそうするのが当然と思えるような魅力に惹かれる男の子でした。そんなイサナを通して昼神さんのバックボーンを知ることになった際には、本当に固唾を飲む想いで……長い年月で幾度も打ちのめされてきた過去を知れば知るほど胸が苦しくもなりましたが、最後には自らの足で立つ道を選んで歩み出す姿を見せていただいた時には感無量でした…!特殊ペアに自ら名乗りを挙げ、PCとしても立場上は手を差し伸べる側の筈でしたが、そんな昼神さん及びイサナの姿に受けた影響は決して小さなものには留まらず、PLとしてもPCとしてもとても大きな時間でした。イサナのことはお姉ちゃん視点でかわいいと見てましたが、でもそこからお話出来るようになった昼神さんも可愛いんですよね〜!柔らかな雰囲気+童顔+目線が近いこともあり、佐々礼も口には出しませんがちょっとどこかで思ってます!(笑)鵜飼くん含めた3人で絶対絶対会いましょうね!!と思いつつ、佐々礼も鵜飼くんもどちらも昼神さん好きすぎて横並びの時「鵜飼くん 昼神さん 佐々礼」の順になりそうじゃないですか?挟むな挟むな。数年後二人もお酒飲めるようになった時に一人だけ年確される昼神さんください。閑話休題。昼神さんも佐々礼もお互い不器用なところがある分、緊張や不慣れとかも含めて素直に色んな気持ちを伝えあえるのが嬉しくて、これからもっともっといくらでも仲良くなっていきましょうね……!卒業後も末永く友達になっていってください〜!
昼神晴一(イサナ)
このお二人は他のペアとは異なり、現実世界での接点がない状況で昼神さんのシャドウが登場した展開でしたが、その展開が個人的に心に刺さりました。お二人の関係性は、現実世界では縁もない、現実世界での姿もお互い知らない、理想世界だけの繋がりのみ。それでも、友達になりたい想いは確かにあり一歩を踏み出せた。現実世界で佐々礼さんと昼神さんのはじめましてのシーンを読んで、理想世界の存在には意味があったと確信するとともにイデアル様の醍醐味がここにもあったのだと一人で感動してしまいました。鵜飼さんの存在感も一味添えていて、佐々礼さんにとっても昼神さんにとってもなくてはならない人が、ある意味、二人の関係を三人へ広げる未来をつい妄想してしまいます。三人でどんな話をするのだろう、どこかに遊びに行ったりするのかな、いずれにしてもお三方にとっての楽しい日々を願わずにはいられません。
昼神晴一(イサナ)&佐々礼笑子(アイリーン)


BEST SCENE * イサナ
 イサナ&アイリーン 
【ラビリンス探索】 6/21(木)
* No.60
放たれた矢は見事命中、体勢を崩したシャドウに止めを刺すのはこれまた彼女の役目かと思いきや、「一緒に」の誘いに舞い上がって夢中で辞書を振るった総攻撃。気づけばシャドウは消滅していて、)すごいすごい! ぼくたちで倒せちゃったねアイリーン!(彼女のテンションを映し返すよう高らかに勝利の宣言を。)って、それもフラグだよ!!(しかし彼女が急に口を噤んだ理由を理解すればさっと顔が青くなる。流石に連戦に耐えられるほど経験値は積んでいないが、)……あれ?(予想に反して其処に現れたのは二つの鏡。あの日拾った召喚鏡の欠片とも違うようだが、これははて。)なんだろこれ?(拾い上げたそれが特殊効果を持つアイテムとはこの時はまだ知らぬまま、とりあえず一方を差し出して。)でも出てきたのがシャドウじゃなくてよかったね!(無邪気に微笑むもすぐにハッとあることに気づき、)ってこれももしかしてフラグかも…!?(慌てて手中の鏡を床に落とす一幕も。そうして行き過ぎた心配性が笑いの種と化したのち、緊張感に欠けたおしゃべりをお供に探索を再開するのだろう。)
終始わきゃわきゃした感じと二人して感情の波が忙しい様子がずっとかわいくて、特にこのイサナの情動の流れの素直さがきゅんとします。
【Event4】パン食い競争をしよう 
* No.175
わかるわかる…! なんでかなあ、あと一歩ってところで口からこぼれちゃって……うーんぼくもエビスみたいにおっきな口だったらよかったのに。(隣からもれる嘆きに頷くも、ここまで来たら半ば意地。猫じゃらしに飛びかかる猫のごとく。しかしゲームみたいで面白いかもなんて前向きな気持ちは時間とともに疲労に変わり、やみくもに飛び跳ねることも減ってきた。数を打っても当たらぬならば、慎重な一発を極めたい。暫し休憩兼シンキングタイムと構えて深呼吸。周りの音がさっきよりもクリアに聞こえた。そんな時、不明瞭ながら歓喜に満ちた声がして、)アイリーン、成功したんだね…!(其処には万国旗を背景にした素敵な笑顔。クロワッサンをくわえたお姉さんの図はなかなかシュールで、しかしカメラマンなら間違いなくシャッターを切りたくなるだろう。とはいえ最高の被写体ごっこでもあるまい。すぐに走り出さない彼女の意図も伝わったなら、思わずつられて笑みがこぼれ、)よーし、ぼくもやってやる!(気力の灯が再び勢いを取り戻す。今度こそ。伸び縮みする紐の動きは不規則で、運ばかりに身を任せては上手く行かない。ならばパンを食らいつく場所を変えたらどうか。小さな口でパン全体を捉えることを諦めて、例えばそう、)……ぁうっ…!(袋の端を狙うとか。齧りつくように触れた其処を精一杯引っぱると、ぽろっと紐からパンが落ち。)…ふぁっふあ…!!(見事チョココロネをゲットしたなら彼女に負けじと満面の笑みでピースサイン。それから改めて位置につき、よーいドン! 雷管の代わりにアイコンタクトを使ったので若干イサナのフライング気味だが、足の長さを考慮してプラスマイナスゼロとしたい。さあさあ残り15メートル。残った力を振り絞ればぎりぎり駆け抜けられる距離。勝負の行方は果たして──。)
エビスみたいにおっきな口、っていう空想の内容がかわい〜!!
【Event6】12/15(土) 
* No.204
(所詮彼女が助けに来たのは“イサナ”なのだ。かわいい弟分の正体が大人にもなれず子供でもいられない出来損ないだと知ってなお、その心が一分も変わらぬはずない。ゆえに願った。理想の姿のままの別れを。首がどちらに振られても、影が嗤うと知っていながら。)……っ、(臆病者の願いを跳ねのけた駄々に息を呑む。声の大きさがそのまま決意の固さを示すよう、凛とした音が紡ぐ言葉。──はじめこそ、彼女の言う“イサナ”とは幻想のことであった。この世界には虚構しか存在しない。それでも、姿かたちも能力も、全てが偽物だったとしても、だからこそイサナは創られた理想の存在で、ならその理想を描いたのは?)……おれだ。(我は汝、汝は我…イサナはおれで、おれはイサナ。ぽろと剥がれ落ちた鱗が光る。流れゆく勇魚の欠片。人は苦しみの渦中でもがき苦しむさなかより、希望の光が見えたときにこそ泣くのだろう。──ひらめいたあの日の光景。天高く、澄み渡った秋の空。あの時も、きみはぼくを待っていてくれた。あがく少年の横を一人駆け抜けていくこともできたろうに、一緒に走ることを選んでくれた。)……おれも、いっしょに行っていいの…?(きみのもとへ。一度は剥がれた鎧を再びまとった強いきみ。美しき純黒。淀みない黒が広がる其処に、手を伸ばしてもいいのだろうか。──遠く、影が揺らめく。「おめでたいやつ。また期待なんかして」「いいか、奇跡なんて起きないやしない」「拾うのは容易い。捨てるのはもっとだ」言葉で心を掴んで揺さぶる。)行けるかな。……アイリーン、ぼくも強くなれると思う?(きみのように。揺れる声は頼りなく、けれど揺さぶられながらも青に手をつき、膝をつき、身を起こして深淵を映す真円が、彼女の姿をようやく真正面から捉えてひかる。)
イサナ君の、おれ、の呼称に昼神さんが重なって、希望がみえて、その後の表現が美しくて、涙が零れそうになりました。こちらもまたイデアル屈指の名シーンだと思います!
顔を上げる、前を向く、という物理的な意味合いも精神的なニュアンスも混ざるこの描写は、本当に輝きを纏ってるかのように感じましたね…!!
* No.209
ありがとう、アイリーン。……っていっても、何から話したらいいのかな。(“知らない”誰かに自分の話をするのは初めてだ。紐解いた記憶のページのどこから読み上げたらいいものか、迷った末、歩み寄ったのはお気に入りの勉強机。まずは一番わかりやすい部分を見せようと、引き出しから取り出したルーズリーフに鉛筆で字を書いていく。『口 八 日 一 ネ 日 | 日 青 一』一文字一文字思い出すようにゆっくりと。ぽろぽろと剥がれていくイサナの欠片が紙面に黒い染みを作っていく。不思議なことに文字を連ねる右手はもう、理想のイサナのものではなかった。)……とりあえず、自己紹介から初めてみるね。これ、ぼくの本当の名前。……読める?(おそるおそる差し出したそれは書き順もバランスもめちゃくちゃ。知っている簡単な字や線を組み合わせてなんとかそれらしくした文字はかろうじて漢字の形を成しているが、とても中学生が書いた字には見えないだろう。ひらがなやカタカナもおぼつかない子が習ってもいない漢字を使って初めて自分の名前を書いてみせたような、そんな出来栄え。世の中にごまんといる雑な字を書く大人のそれとも少し違う。利き手とは逆の手で書いたなら納得してもらえるような。)へたくそでびっくりしたでしょ。………ぼくね。漢字がほとんど書けないんだ。読むのもそう。ほんとはひらがなもカタカナもちょっとあやしい。知ってる言葉なのに文字にしたら間違ってることだらけで、たった一行の文もすらすら読めない。(自分の話をするのが苦手なのは単に知られたくないという気持ちばかりが理由ではない。自分の状況を説明する言葉が社会にきちんと存在すると知ったのは小学校を卒業する頃。だが、差し出した説明を正しく理解してもらえることは少なかった。懐疑的な視線。怠け者が生み出したでらためのように扱われることも多く、ゆえに彼女にも端的なラベルを見せることはしなかった。まずは「出来損ない」の理由から。彼女の反応が過去の記憶と重なることはないと信じていても、こぼれ落ちる言葉の端が時折揺らめく。)
怠け者だとかそういった言葉が昼神さんの印象にあまり結びつかず、記憶の扉などに「???」となったりもしていたのですが、ここから始まる吐露にとても驚いたことは記憶に新しいです。人が普通に出来ることが出来ない、というだけでコンプレックスには充分なのに、それに付随する周りからの扱いも見えてつらく……実在の障がいであることもあり、かなり言葉を選ぶため頭を悩ませた思い出もありつつ、大変衝撃を受けていました。
* No.215
(記憶の海を潜るほど水圧に一枚、また一枚と鱗が剥がれて癒えない傷があらわになる。傷つけられた日々は遠い記憶ではなく今なお目の前に横たわる現実であり、だからこそ昔話の続きを影に奪われても止めることはできなかった。彼女の答えが知りたかった。──結果は“世界”が謳うものと変わりなく、失意に落ちたため息と視線。けれども後者はすぐに引き上げられた。はっと顔を上げたのは、彼女が知りえるはずのない言葉を耳にして。)…な、んで。(例えば影が纏う作業着をヒントに職業を想像することは難しくない。しかし彼女のそれは確信に満ちて、まるで少年の向こう側に本当の姿を見ているような口ぶりだった。驚愕の分だけ見開いた眸が悲しげに揺れる長い睫毛を、懸命に言葉を紡ぐ唇を、其処に存在する彼女の向こう側を見つめてしばし沈黙が二人の間の帳となる。もしも昼神晴一を知っているのなら。そうして喉奥につっかえていた靄を影が吐き出してくれたなら、一番の本音は引き継ごう。)──できなくても仕方ない。できないことは気にせずできることをがんばろうって……おれが怠け者じゃなく障がい者だってわかった途端、そんな風に納得して諦めてくれる人も居た。…ほっとしたけど、全然嬉しくなんてなかった。だって諦めてほしかったわけじゃないんだ。(単にラベルを貼り替えるのではなく、ただの昼神晴一を見てほしかった。)本当のおれを知ってほしい。読み書きができないおれはおれの一部で全部じゃないから、…知って、そのうえで、認めてほしくて………誰かに、好きになってほしかったんだ。(口にすると随分と幼稚に響いた欲は顔も知らない相手に語るには過ぎたもの。けれどアイリーンも、その向こう側の誰かも笑わないでくれると信じていた。やっとたどり着いた心の海の奥底で、ちいさくひかる希望を掴みとり、)……今話している “きみ”が誰かはわからないけど、最後まで、こんな話を聞いてくれて、…おれをわかろうとしてくれて、ありがとう。うれしかった。(息を吐く。大きく息を吸うために。)だから、よかったら、……“おれ”と、友達になってくれませんか?(友達の作り方は辞書には載ってなかったが、わからなくとも好きになってもらうための第一歩は自分で踏み出すしかないのだろう。いろいろとステップを飛ばした長い自己紹介を経て、ゆっくりと、けれど怯えず右手を差し出す。
イサナとアイリーンなら自然とできることでしょうが、昼神さんとまだ彼には見えていない佐々礼という状態で対峙している場面ですので、昼神さんにとっては猶更軽くはない一歩にグッときました…!
* No.229
……きっとそうだよ。途中式なんて決まってないから、辞書にも載ってないんじゃないかな。(正解は一つじゃないなら、こんなイレギュラーな始まりがあってもいいだろう。床に落ちっぱなしの相棒を拾い上げて、そっと表紙を撫でてみる。さざれえみこ。次にその名を引いたとき、なんと書いてあるかを楽しみにして。)ありがとう。…実はおれも、一人居るんだ。友達になれたらいいなって思っている子。(だから彼女の友達と、脳裏に思い浮かべた“彼”と四人で会えたらいいな、なんて、まさか共通の人物を思い描いているとはつゆ知らず、嬉しい予想外の答え合わせはそう遠く未来だろうか。いずれにせよ今にけじめをつけなければならぬと向き合った先、波間に消えた闇が再び希望の光に姿を変えて心の海に消えていくのを静かに見つめた。『我は汝、汝は我…我はエビス、大海を渡り、人々に希望をもたらす者なり』――いつか自分も希望をもたらす側になれたらいい。)……うん、大丈夫。(もう、大丈夫。そう微笑みかける笑顔はイサナのそれに戻っていたが、)ありがとう、アイリーン。(それは改めて彼女に感謝を伝えるため。)帰らないって言ってくれて嬉しかった。それと、アイリーンが「うるさい」って叫んだときね。シャドウに言ったんだろうけど、でも、あの言葉でぼくの眼も覚めたんだ。(あの時心に吹いた一陣の風の名はアイリーン。彼女のように自らを取り巻く心無い言葉を、心に巣食う弱さを吹き飛ばせたらと願い奮い立ったときのことを思い出して、「だからありがとう」ともう一度。)……あ、いきなり逃げちゃったから、みんなも心配してるかな。(それから思い出したのは扉の向こう側に残してきた仲間の存在。まだ其処に居るとは限らないけれど、きっと彼らも待っていてくれるのではないかと期待したのは上向いた心の証左。)…全部は話せなくても、ぼくががんばったこと、みんなにも伝えておこうと思うんだ。だからいっしょに帰ってくれる?(みんなの元へ。現実の世界と理想の世界。そのどちらの絆も大切にしたいから。甘えるように差し出した右手は今度は握手用ではなく。
一人称が『ぼく』に戻ったのと握手用でない右手の甘えはかわいいイサナであり、それでいて現実と理想にそのどちらもと付随させてくれる部分には昼神さんが得た進展と躍動を感じつつ、というどちらの視点でも喜ばしくも幸せなシーンでした!!逃げ出した描写から始まったイベントがみんなのもとへ帰るところで締められたのがまた好きな場面です。
 イサナ⇒ジャガ 
【Event7】ジャガとの思い出
* No.13
ジャガ――『イサナの仲間で、友達。不思議バケツを被っているが周りは見えるしスタスタ歩く。小さいけれどしっかり者。論理的な思考が得意。名前の由来は好物のジャガイモから。イサナに相棒と仲間の違いを教えてくれた。』――うん、ちゃんと覚えてる。
第一印象は不思議な子。落ち着いた話し方だし顔も見えないし、何を考えているんだろって。でも、大事なことを教えてくれた。きみのおかげで見えなくてもわかることがたくさんあるって知ったんだ。普段はわかりやすいからつい相手の顔を見ちゃうけど、見えなくてもジャガの気持ちはちゃんとわかった。表情の代わりに声の高さ、喋る速さが変わったり、黙っているのが一番の証拠だったり。本当は面倒見がよくてやさしくて。常に誰かのことを考えてる。ぼくみたいにおしゃべりじゃないけど、短い言葉の中にこめられたきみの気持ちを探すのが楽しかった。この世界で最初に仲良くなった、大好きなぼくの友達。そろそろ”相棒”になれたかもって思ってたけど、うぬぼれすぎかな? ……だからきみが、…きみがうかいくんだって知ってびっくりしちゃった。でも、すごく納得。どっちの世界でも、ぼくは――おれは、きみに救われていたんだね。
相棒になってるよー!!!ということを期間中にお伝えできなかったのが心残りでした。イサナはジャガの相棒だし、昼神さんは鵜飼の相棒だよ……。最後の一文に泣きました。あと全体的にイサナのEvent7の書き方(最初に辞書の書き方でその人物の定義を持ってくる)がとっても好きで、天才の発想だ!と思っていました。
BEST SCENE * 昼神晴一
 昼神晴一&佐々礼笑子 
12/17(月):放課後 用務員室前 >昼神さん
* No.59
おれだってもうアイリーンには気軽に甘えたりできないかも、だけど、……だいじょうぶ。笑ったりしないよ。(苦笑は拭いきれぬまま、けれど念押しには任せてくれと二つ返事で頷いた。理想の世界に現実が滲むこともあるだろうが、だからと言って生まれるのは気恥ずかしさであって気まずさではないはずだ。それだって嫌な気持ちではなく宝探しみたいな気分に違いない。彼女たちを繋ぐ根っこを見つけるのは、あるいは見つけられるのはきっと楽しい未来。穏やかに流れる時間はあっという間で、彼女の問いに忘れかけていた現実を思い出す。)あ、うん。実はさっき午後の仕事が一段落ついて、ちょうど休憩に入ったところだったんだ。(突然の再会に気をとられていたけれど、よくよく考えると室内に女子生徒と二人きりというのはまずい状況かもしれなかった。幸い今は誰も居ないがもう少ししたら事務長も戻ってくるかもしれない。壁にかかった時計の針に目を遣れば少し慌てて、)校内で話しかけてもらうのは全然問題ないんだけど、さすがにここでおれたち二人きりってのはまずいのかも。変な誤解されても困るし……って、そういうとこ気が回らなくてごめん。(名残惜しいが交友を深めるのは次の機会に託すとしよう。生徒とちょっとした立ち話くらい“普通”の範疇なのかもしれないが、万一のことがあってはなるまい。そうして出入り口の扉に手を伸ばすも、ふと大事なことを思い出す。)あ、でも帰る前に……よかったら、連絡先交換しない?(ポケットから取り出したのは最近頻繁に触れるようになったスマートフォン。)えみこちゃんさえよければ、これで連絡できたらうれしいなって。(彼女と再会できたら真っ先に頼もうと思っていたこと。以前なら文字を打つことも読むことも苦痛でしかなかったけれど、思い出が記録に残る喜びを知ってしまった今だから。)それで、できたらまた会えたらうれしい……んだけど、どうかな?
やっぱりこのスレッドはどこかぎこちなさを纏っているんですけど、理想世界で紛れもなく築いた絆があるのを感じられてきっと現実でも大丈夫って思わせてくれるシーンで好き〜!この状況を宝探しみたいなって表現してくれるの最高すぎませんか??でもイサナが甘えてくれないのはアイリーンは寂しがっちゃうな…。
* No.61
よかった……ありがとう。(感情が突っ走ったときの恥じらいは痛いほどわかるからこそ純粋なる感謝の微笑のみ湛え、余計なことは言わずに慣れた手つきでアプリを開いた。そうして『佐々礼笑子さんと友達になりました』とLINKSのお墨付きをもらえたならば、漢字変換もできなかった頃に登録したひらがな四文字が彼女の画面にも表れるだろう。──新たな海が横たわる。LINKSにおいては二人目の友達のトーク画面。最初のあいさつは何が良いだろう。真剣に画面を見つめる彼女もはじめの一歩を悩んでいるのかと思いきや、連ねられた気遣いにはっとする。)…えっと、ひらがなとカタカナならだいじょうぶ。でも、漢字があっても読み上げ機能使って聞けば結構わかるよ。あと、スタンプも絵だけならいいんだけど、文字が入ってるやつだと小さくて読めなかったり、読み上げに対応してなかったりするからかえって文字の方が助かったりする、かも……けど、個人的にはスタンプはかわいくて好きで、…あ、うん。おれ読むのも返事打つのも遅いから、長かったり急ぎだったりしたら電話の方がありがたいかな。(自らあれこれ口にすると面倒な注釈めいて躊躇ってしまうのに、一つ一つ教えてくれと言ってもらえるとひどく気が楽だった。と同時に、こんな風に伝えたらよかったのだと改めて知る。必死に隠して苦労するより、その方が彼との会話ももっと楽しかったに違いないと気づかされ、滲む画面に視線を落としたまま最後に「ありがとう」と静かに紡いだ。)……うん、(それから扉を隔て、生徒と用務員。傍目には正しい距離感に戻った二人。大きな瞳がこちらを見つめる。多くを語らないまっすぐな目は時に誤解を生むけれど、着実に友達への一歩を踏み出した今なら其処に浮かぶ光が未来だけを見つめていることがよくわかる。赤みを帯びたブラウンに映る自分もまた同じ顔をしているからだ。)またね。えみこちゃん。(だからさようならの代わりに約束の言葉を贈り、去り行く背が見えなくなるまでぎこちなくも手を振った。次に会う時はどちらの姿だろうかと期待しながら。)
察して自己判断する、というのは佐々礼にとって苦手分野なので、直接全部聞き取りした場面をこういう想いで受け止めてくださるの有難いですね……そして昼神さんとのやり取りの中でちらほらと鵜飼くんの姿があったり、お二人のやり取りの中で佐々礼を思い出してくれるのも、その全部が大好きです。
12/25(火):放課後 用務員室前 >昼神さん
* No.112
(お土産なりプレゼントなり、自分では買わなかったであろう誰かの気配がするアイテムはそれだけで特別な気分にさせてくれると知っている。寂しかった家にまたひとつ増えた温もりを腕に抱きながらはにかんで。)…そう? …じゃあ、似合ってるところ、そのうち見せられたらいいな。(ぬいぐるみチックなふわもこルームシューズが似合うと言われたなら成人男性としては苦笑が先に来るべきところだろうが、真実これを気に入ったこともあり、好意を素直に受け取ることに。本当にいつか彼女を家に招くことがあるのなら、件の湯呑みを見せたいな、と朝晩の食卓の供を思い出しつつ。)……なら、よかった。(ドキドキの終わりは安堵にて。もしも気に入らなかったとしてあからさまに態度に出すとも思わなかったが、自然な表情の変化にほっと一息。作り笑顔が苦手なのはこちらも一緒。お互い嘘がつけない不器用さが真実の証左になるのが嬉しかった。クッキーに込めた意図も無事に伝わったなら「わかる? おれもそう思って選んだんだ。向こうで雪遊びとかしたかったな、と思って」と不思議な小部屋が現れなくなった世界の話を添えて。そしてやわらかな眼差しに宿るアイリーンの気配を見てふと思う。「ああ、でも」)…向こうでできなかったことは、こっちでしなさいってことなのかも。さすがに雪が降ってくれなきゃできないけど。(理想の世界で起こったことは皆現実の世界ではありえないことばかり。けれど今、それはもう“ありえない”ことではないのかも、と。)実はおれも、はじめて手帳買ってみたんだ。…おれもね、書きたいこといっぱいできたから。えみこちゃんとのことも、向こうの世界のことも、色々。……ちょっと前までは“書きたい”なんて絶対思わなかった。ペンを持つたびに手が震えて怖かった。……でも、今は、書けるようになりたいなって、思うから。(だからこっそり買ったのだ。彼女とは表紙違いのお揃いのダイアリー。海を模した青い表紙。ブリーチングするクジラが描かれた構図を気に入って。)忘れたくないから、全部残しておけるように。(下手くそでもいい。どれだけ時間がかかっても、まずは今夜、今日の日のことを書いてみるつもり。)……だからもっと書くことが増えたらうれしいな、って。……ので、その…これからも、末永く、よろしくお願いします。(年の瀬の挨拶ではないから来年も、とは言わなかった。それはいつか、もう一人の友人に言われて嬉しかった言葉だった。小さく下げた頭を上げれば、恥ずかしそうに視線を揺らしながらも最後にはブラウンの瞳をただただ見つめて。)
柄のチョイスがかわいいし、デザイン違いだから露骨にならないお揃いがよすぎるし、昼神さんが前向きな想いで文字に書いて残そうとしてくれるのが嬉しいし、という三拍子の幸せの贈り物でした!
2/14(木):朝 用務員室前 >昼神さん【2】 
* No.184
(2月14日という日付と彼女の来訪の理由とが結びついたのは、差し出されたきれいな包みを目にした時。無理やり視界に飛び込んでくる文字情報がないせいか、そんな文化を共有する相手が居ないせいか、街で見かけるチョコレート菓子の割合が増える時期、程度の認識だったのが去年までの話。そんなことより久しぶりに友人に会えると浮かれていたせいもある。そんなこんなで「ともちょこ」という単語は聞いたことはあるが変換に一拍を要した。ぱち、とまたたき、のち、)ありがとう。(贈り物をもらったら礼を言う、という反射の方が先に出た。もちろん嬉しい気持ちに嘘はないので受け取った包みを大事そうに両手にのせたなら、「もしかして手作り? すごい」と既製品とは異なる趣のラッピングをまじまじと眺めつつ、「おれ、女の子からチョコレートもらうのはじめてかも」と感慨深げに。もちろん「友」と名のつくそれは先日渡した親愛のクッキーと変わらぬものであるとわかっているので照れはなく、ただ彼女の手間暇と思いやりの具現に目を細め、大事に食べるね」と締めくくれば、)……そっか。いよいよだね。じゃあ、合格発表が終わって色々落ち着いたら……その時は、これのお礼も兼ねてお祝いさせてもらおうかな。(続く“これから”の話に対し、励ましの代わりに明るい未来の約束を。受験を知らない自分にはその苦難がどれほどのものか想像もつかないが、彼女という人を信じることならたやすくできた。新しい約束は忘れぬよう、さっそく手帳に記しておこう。そして卒業、という単語にもう一人の友人の存在が閃いて、)あ、ついで…って言ったらあれだけど、おれも笑子ちゃんに話したい事いっぱいあるんだ。なんだったら一緒にお祝いしたい相手が居てさ。その子も今年3年生で。(彼とも春休みに合格祝いをと話していたから、二人を引き合わせるならその時だろう。)前に話した、おれが、友達になれたらいいなって思ってた子。や、本当はもう友達だったんだけど、……あのあと、ちゃんと友達になれたから。笑子ちゃんに紹介していい? それで、笑子ちゃんのことも紹介したいな。(あの夜崩壊する塔で露になった現実は姿ばかり。こちらの世界での二人のお付き合いを知らぬが故に感動の再会をもくろみながら笑みを浮かべた。まさかの事実に自分の方が驚かされるとも知らず。──鏡の中に置いてきた相棒ならとっくに更新済みの事実に大騒ぎする春の日まであと少し。ちょっといい店の個室で改めて『自己紹介をしよう』なんてお題から始まる一幕もあるのかも。
鵜飼くん昼神さん佐々礼で三者三様に全貌を把握出来てないゆえのすれ違いが面白いのと(笑)同時に、交わした話題から未来へと繋げてくれるのが幸せな一幕でした。紹介したいと思ってくれるのもちゃんと友達になれた報告してくれるのもうれし〜!
 昼神晴一&鵜飼倫央 
7/25(水):放課後 生徒指導室前【10】
* No.2
(制服と同じ色味の生地、アクセントカラー、それからロゴ。双鏡学園の関係者だと一目でわかるよう作られた作業着は不審者扱いされないためには大変有効である一方、小柄な青年には良いことばかりでもなかった。遠目から見た後ろ姿は小間使いにちょうどいい下級生に見えるらしく、教師に呼び止められることも多々。大抵振り向けば勘違いに気づいてくれるので抱えるのは少々の気まずさだけで済むものの、断り切れない性格ゆえに時たま面倒事に巻き込まれることも。用務員という名前からして、誤解が解けたところで雑用係として扱われることも少なくなかった。──用務員室へ向かう途中、2階の廊下で呼び止められたのは職員室にほど近い場所。嗚呼またかと理解は早く、自分以外に振り返る者の気配がないことを確認してのち、)えっと、おれですか?(今日は何を頼まれるのやら、と振り向いた先、予想外に瞬いた。)…え、迷子?(そこには学園案内のパンフレットから抜け出たような好青年。体格からして高学年のようだけれど、道に迷うということは意外と大きな1年生?)…や、進路、指導室……ってことは、やっぱり3年生?(驚きのあまり思考の続きが口からもれた。だったらだったで変な話だと思ったが、自分のように地図が読めない類の人間は少なくない。状況の整理がついたらついたで困ったように眉を下げて、)悪いけど、おれも行ったことなくて……(力になれないこと詫びるさなか、「あ、でも」と思い出す。)なんか、指導室って名前の部屋がいくつかあった気がする。ちょっと待って……(そして地図を探すより先に記憶をたどる。過日、校内を案内してくれた事務長の声を再現するようにぶつぶつと呟く姿は、お目当ての段を一発で思い出せなくて九九を一の段から数えだす子のように。)たしか2階…にもあったはずだけど、きみが此処で迷ってるってことは、この階のは違った?
ここの描写におや?と思ったのですが、具体的な悩み内容にまでは考えが至らず、絶妙なぼかし具合に昼神さんPL様ってすごい!!!と思っていました。
12/26(水):夕方 瑠璃浜鑑台駅付近 >うかいくん 
* No.85
へえ…うかいくんちいさい妹居るんだ。 でもわかる気がする。だからかな……面倒見がよくて、話し方が穏やかな感じなの。(一人ではなんてことない道中も友を傍らに置くだけでこんなにも楽しい道行きとなる。彼にも妹が居たと知れば些細な共通点ながら嬉しくなり、一方で微笑ましい兄妹仲とは縁遠い身では共感より憧れに似た感情を抱くばかり。「クリスマスにごちそう食べてプレゼントもらって、って仲良しで理想的な家族って感じだね」相槌に羨むような音が少し滲んだかもしれない。)…あ、そっか。(そしていまさらの事実を思い出す。)うかいくん、受験生だった……。そうだよね、そうだった…。(呟くさまは一度目は心底うっかりという風に。のちに恥じるように語尾が消えた。彼が3年生である事実もそれこそ出会いのきっかけも覚えていたが、それが受験と結びつかないあたり己の過去が浮き彫りになる。とはいえせっかくの気遣いをむげにすまいと「ごめん」をすんでのところで飲み込めば、)…うん。おれも海が好きだから、提案してもらえてうれしかった。ずっと行きたかったけど、一人じゃなかなか行けなかったし。(もう一つの楽しみを思い出す。彼と見る海は荒んだ心を慰め、この背を押してくれるだろうか。──辿りついた駅のバスターミナルにちょうどやって来たバスが一台。動く車体に光る文字に目は追いつかず、停留所の看板を見たとて一読で理解は難しい。)うかいくん、海浜公園に行くの、あのバスでいいのかな?(だが、今は独りではない。彼を頼ればいいのだと思えば勇気を出して問うてみる。『海浜公園行き』と明示されたそれが停車して数秒後、ようやく『海   行き』の部分だけ読み取れた。)
来年からクリスマスは鵜飼家で過ごすのはどうですか?というか昼神さんのご事情全部把握してたら今年のクリスマスも家族団欒に混ざってもらえたのに…!!!とPLが地団駄を踏みました。
* No.95
はは、本当に娘を持った父親みたい。(そんなものはフィクションの知識でしかないけれど、遠い未来を心配するさまは愛娘を溺愛する父親像みたいでおかしかった。そして今更ながら彼のファーストネームを知り、その事実にもまた驚く。「みちひさ、くん」思わず繰り返した音から想起したのは「道」。「ひさ」は何だろう。いつまで経っても覚えられない「鵜」の字より難しい漢字だろうか。)…おれ? ああ、うん。妹と弟が一人ずつ。(しかし疑問を呈す前に新たな問に答えれば、ひとつ前の話題は流れていった。兄弟の有無なんてよくある話題だ。事実の伝達に感情をのせる必要なんてなかったのに少しばかりトーンが落ちる。それだけで兄弟仲は彼とは真逆と伝わるだろう。だからと言って気を遣わせたいわけじゃない。ただ自分を教えることを躊躇いたくない。それは彼も同じなのだろうか、「不良受験生」の次は「好きな子」と来た。ぽんぽんと渡される新たなワードにまごつく心。反応が追いつかなくてえ、だのへ、だの相槌未満の音がこぼれて、)…そ、そっか。うかいくん、好きな子居るんだ。……彼女?(恋の話なんていかにも友人同士らしい話題に浮つく一方、縁遠い話題すぎてちょうどいい反応がわからない。慣れない単語を口にしただけで気恥ずかしさが頬に浮かんだ。そんな道中を経て、)え、…あれ、見逃したかも。(彼に導かれるままバスの中。未だ緊張はするけれど傍らの安心感ゆえ座席の背もたれに寄り掛かるくらいの余裕はあった。窓の外を示す指先には雑多なビル群。駅前の賑わいはもはやモザイクのようで一つ一つを判別することは難しい。レストランの看板とて言われればあんな色だったなと思い出せたが、幸福の文字を見つけることは叶わなかった。)おれは、イチゴ使ったデザートとか食べたいな……友達、が好きらしくて。(美味しかったら彼女を誘う口実になるだろうとまでは言わなかったが、呟きに混じる期待と思惑。)…その子、最近できた友達なんだけど、…いや、厳密には友達になり途中なんだけど、もっと仲良くなりたくて。……もし仲良くなれたら、いつか、うかいくんのことも紹介したいな、と思ってて……(どうかな、と問う代わりに彼を仰ぐ目があわく揺れる。)
笑子さんと昼神さんと鵜飼の組み合わせ、穏やかに時が過ぎていきそうでとても良いです。ペア組の妙で三人でひとかたまりのような関係性が築けたことを大変嬉しく思っています。
* No.105
軽い気持ちで問うた「彼女?」に返ってきたのはイエス代わりの最上級の惚気だった。)…わあ、(思わずこぼれた感嘆を手のひらで受け止めたのち、)…大好きなんだね。その子のこと。(今度は赤い頬を両手で抑えた。こちらが恥ずかしくなるくらい真摯な言葉は愛にあふれ、恋に浮かれているようで、冬なのに彼の周りだけ春のよう。)うん、ぜひ。うかいくんが好きな子なら絶対すてきな人だろうから、おれもいつか会ってみたいな。(もちろんそれを揶揄する気持ちはなく、むしろ幸せのお裾分けをもらった気分で微笑んだ。まさかイチゴが好きな彼女と彼の恋人がイコールで繋がるとも知らぬまま、)いいね。そしたら3月の終わり頃かな。うかいくんの合格祝いにしよう。(口にしてからはっとする。受験の前から「合格」だなんて言葉を出すとかえって縁起が悪いのだろうか。その口調からどうやら進学に憂いはないようだが、念のため「卒業祝いかな」と言い換えた。そして「受験」「卒業」いずれも彼女に当てはまることと気づけば、)ありがとう。紹介したい子も今年3年生だから、卒業式が終わったら……春休みとかに集まれるといいのかも。(彼女も彼と同じく勤勉なようだから笑顔で二人の合格を祝うことができるだろうと想像すれば、楽しい予定がまた一つ。最近買ったダイアリーの活躍の気配に頬が、気が緩む。だからこそ、)……え、(本日の本題。その核心を突くような彼の問いに反応が遅れた。停車を告げるアナウンスが流れるなか、間の抜けたまたたきを繰り返す。)…えっと、(言い淀んだのは彼の好意を否定するためではなかったが、)…お、おります。(うまい言葉が見つからなくて、そのまま降車の波に乗るように立ち上がって先に降りた。人波に流されるままバス停の少し先まで歩き、その後ようやく振り返る。)実は、今日、うかいくんを誘ったのは、……その、…ちゃんとした友達、になりたくて。だから、うかいくんの思う友達ならもうなってるのかもしれないけど、おれのなりたい友達なら、…これから。(恐怖と期待を綯交ぜにした心臓がうるさくて、想像以上に近い波音が緊張に震える声を時折さらう。それでも傍に来てくれるなら辛うじてこの言葉は届くだろう。)…おれの話、聞いてくれる?
そうなんです佐々礼笑子さんって本当にすてきでとっても大好きな人なんです。関係性が定まっていないので迂闊に彼女と言えないなと思っての返答だったのですが、惚気と取ってもらえて本当によかったです。最上級のという言葉がつくところがまたいい。頬を両手で抑える昼神さんが少女のようでこんなにかわいい成人男性がいるんだ!!!と思いました。
* No.122
(後ろからついてくる声音が不思議そうに響く。けれど訝しむ音ではなかったことに安堵して、もう少し深度を上げて話してみようと砂に描いた三つの形。)うん。そう見えるよね。うかいくんはすぐこれが二重丸と三角と正方形ってわかるだろうけど、おれは毎回それを探り当てる感じ。……たとえばこれが「うかい」って音を示すとして、「うかい」って音をおれは知ってるし、君の名前だってちゃんとわかってる。でも、二重丸と三角と正方形がなかなか「うかい」に変換しない。(『◎』を指さす。)これを見ながら、うーん見たことあるけど、多分「う」かな? って感じでさ。で、次のこれを見て今度は「か」かな? じゃあ次は……なんてやってうちに最初の二重丸はなんだっけ? って、子供のころはひらがなですらそんな感じで。だから文章なんかになると今どこを読んでるのかわからなくなったり、漢字はほとんど読めないから全然意味がわからなかったり。(順に指を滑らせながら、幼い頃を再現してみる。障がいという言葉を使わずに、できるだけ自分の目から見た世界をわかりやすく伝えたかった。ただそれだけのつもりだったのに、降る声の硬さに気づいてはっとした。)……ち、(違う、と否定しかけて、しかし彼の問いに間違いはないことに気づいて口を閉ざした。)…うん。大変だったよ。(そして今度は肯定の言葉とともにゆっくりと立ち上がる。トートバッグについてしまった砂を払ったのち中からスマートフォンを取り出せば、もう慣れた動作を幾つか行ってからLINKSの画面を開いて見せた。音量ボタンを上げると「リンクス」と女性の声がする。二本指でのスクロール。ダブルタップ。煩雑で慣れない動きは疲れるし、今でもミスが多いけれど、)でも、きみが思ってるような苦労じゃないよ。今は便利な時代だよね。文字はこうして“聞く”こともできる。(吹き出しをタップすれば「楽しみがあるので勉強がはかどりそうです」と彼が送ってくれたメッセージが読み上げられる。)面倒だけど、面倒だな、嫌だなって気持ちよりも、いつも早く読みたくてうきうきした。きみが送ってくれた言葉の意味が知りたくて、知ったら今度は返事がしたくて、今までだったら絶対に諦めてたことができた。……それにこれなら字を書かなくて済むし、予測変換も便利だしね。…大変だけど、それ以上に自分の言葉を文字にするって楽しいな、すごいなって気持ちにもなれたんだ。(いちいち記憶の中から「う」の音を『◎』に変換して、その形を思い出しながら紙にのせる作業より一文字二文字打ったら勝手に続きを教えてくれるスマートフォンは偉大だった。もちろん打ち間違えれば誤字も脱字も多いけれど。)だからね、おれは今日までおれと話してくれたうかいくんにありがとうって言いたいし、これからもよろしくねって言いたいんだ。これからもずっと一緒に居たいから、ちゃんとおれのこと知ってほしくて。(だから今日は誘ったのだと、文字よりも多弁な口は想像以上にすんなりと自らを語ってくれた。)おれは字を読むのが苦手で、書くのはもっと苦手です。だからメッセージもいいけど、たくさん話したいとき、これからは電話してもいいかな? それで電話じゃ足りないときは、こうして会えたらうれしいな。
識字障害という言葉を使わずにこんなにわかりやすく昼神さんの今までの苦労を描写できるPL様がすごいよ……。
* No.132
(波間に届く素直な本音と気遣いと。その複雑な胸中を想えば可哀想なことをしたとも思う一方で、それは彼が自分を想うからこそ。その事実を嬉しく思うどうしようもない男がここにも一人。)…だいじょうぶだよ。…むしろ、うかいくんも、どうしようもない奴でよかった。(反省と後悔と喜びと自己嫌悪。いずれも馴染みある感情だったからちいさく笑いながら首を振る。)ありがとう。……うかいくんにね、こんな話したらどうなるかなって不安だった。やっぱりちょっと怖かったし、きみはやさしいからきっと色々悩んじゃうかな、とか……でも、不思議と、面倒くさいって思われたり、同情されたり…これで疎まれておしまいにはならないだろうな、とは思えたよ。(そして穏やかなまなざしを見つめ返した。文字が読めないのを“見えにくい”のだと思いこんだ幼少期の名残か、見たいと思ったものをじいと見つめるくせがある。)おれはこんな自分のことが大嫌いだったから、別に自信なんてなくて……でも、うかいくんの言葉は信じられたから。(彼が紡ぐ「これから」は希望があふれた明るい音だ。その瞳に映る己も自然と笑えているはず。)…ね、これもらってくれる?(そうしてずっと抱えていた重荷を下ろしたのち、紙袋を差し出した。中には細長い小箱がひとつ。深いグリーンのリボンを外せば、中には”スケルトンタイプの万年筆”が入っている。「遅くなったけど、湯呑みのお礼」と言いつつも、本当はクリスマスプレゼント兼気の早い進学祝いの気持ちも込めて。早く開けての気持ちで再び送った視線の意味を敏い彼なら気づくだろう。──ぼんやりと、こんなやりとりを前にもしたことがあると思った。しかし誰と? その答えを思い出したのは箱が開かれる前か後か。いずれにせよ、臆病な心が顔色をうかがうようなことはせず、)おれね、こないだ人生で初めて手帳とペンを買ったんだ。その時に見つけたやつでさ……すごくきれいだったし、…うかいくんとお揃いだって思ったら、使いたい気持ちになれそうだから。(今までペンは回すものだった自分が初めてほしいと思ったそれは、ガラス細工のような透明のパーツでできている。中にカラーインクを入れるのにおすすめと聞いて、サンプルと同じ海の色のインクも買ったのだと付け加える声は弾んだ。)
昼神さんと鵜飼がこれまで育んできた信頼のかたちが見えてとっても好きなところです。こんなふうに思ってもらえるなんて本当にありがたいなあとしみじみ感じました。
1/25(金):夜 自宅 >うかいくん【0】
* No.154
(“いつか”が今日になったのは12月28日だった。決意の夜が明けた翌日。眠り続け、会話すら交わせなくなって久しい祖父が静かに逝った。商店街の皆は年を越せなかったことを悲しんでいたが、医者はこれでも持った方だと言っていた。まるで何かを待つように、今日という日を選んだようだとも。──本当ならすぐにでも友人たちに連絡をとりたかった。二人との浅からぬ縁について話したかった。けれども平穏が崩れ落ちたのは向こうの世界ばかりではなく、通夜に葬式、近所への挨拶や遺品整理だのなんだのと慌ただしく過ぎていく日常に流されるまま年が明け、十年近く会っていなかった両親と顔を合わせたことすら激流の一部として心を通り過ぎていった。今思えば彼らと会うのは恐ろしかったはずなのに、いちどきに多くのことがありすぎて呆気にとられてしまったのだろうか。ようやく一息つけるようになってはじめて実感がわく。『鯨臥』と書かれたこの表札も早く外さなければ。見慣れた文字の形から視線を外して扉を開ける。)ただいま。(しめ縄の代わりに玄関に貼られた紙の字は読めない。ただ、それが祖父の死を示すことだけを知っていた。だからといって悲嘆にくれて泣き暮らすこともせず仕事に復帰し、忙しない一月も終わりかけた頃。意図せずさぼってしまった日記代わりの手帳を開くと、真っ白なカレンダーに唯一目立つ丸印を見つけてあ、と思う。)…えっ、もう25日!?(それから慌ててスマートフォンを手に取った。長らく放置していたので充電はとっくに切れていて、もし誰かから連絡をもらっていても通知のランプは光らない。とはいえ家電ではなくこちらに連絡をくれる相手は限られていて、その唯一の可能性である二人は不義理を責めはしないだろうから、何かあれば正直に事の次第を伝えて謝ろう。時間が許すならば電話で直接。起動したそれの画面が以前と変わらぬようならそれはそれで。いずれにせよ、ゆっくりと文字を打つ。まずは一行。そして少し悩んでから、もう一行。その後思いついたように家を飛び出し、)──……じいちゃん、ばあちゃん。今日はね、おれの友達の誕生日なんだ。(ダイニングテーブルに並んだ写真の前に、買ってきたばかりの大福を置いて笑う。)その子、ばあちゃんと同じでいちご大福が好きなんだって。じいちゃんが好きな豆大福も。(手を合わせて拝んだりはしない。ただ、以前のように話し続けた。彼との出会いから今に至るまで。どんなふうに自分が彼に救われたか。それからもう一人の友の話も。)だからかな……おれ、じいちゃんまで居なくなったらどうしようってずっと怖くて不安だった……はずなんだけど、今、思ったより平気でおどろいてる。…もちろん寂しいし、今でも仕事終わりについ病院に行きそうになるけど、…でも、じいちゃんたちが死んじゃって悲しいって気持ちと同じくらい、…ううん、それ以上に考えることがいっぱいあってさ。仕事のことも、生活のことも、…友達のことも。……生きるの、前よりずっと忙しくて、楽しいよ。(死を悼み、生を慶ぶ。どちらも大切な人を想う、人生に必要な時間だと思えるようになったのはたった半年の夢のような時間のおかげ。もうすぐ春が来て、きっともっと楽しくなるだろう。もしかしたら鏡の世界で別れてしまった彼らとも再び会えるときが来るのかもしれない。淹れたての緑茶を啜りながら、湯呑みに描かれた塔を眺めて未来を想う。寂しさに寄り添うように穏やかに時が過ぎていく。二つの世界が一つになって、世界が広がった後のある夜の話。)
昼神さんのお祖父様の容態がずっと気がかりで、退院してご自宅に戻られるのかな?と思っていたところにご逝去を知ったので昼神さんが独りぼっちになってしまったのではないかと冒頭に心を痛めたのですが、雑事やお仕事に流されるように日々を送る中で鵜飼の誕生日がある種の区切りのように機能していて、本当に良い文章を読ませていただいた気持ちになりました。自Cの誕生日をこんなふうに使っていただけるのがとてもとてもありがたいです。昼神さんが孤独になることはこの先絶対にないと思うので、これからも生を楽しんで一緒に生きていきましょう。昼神さんが幸福に過ごすことのお手伝いをこの先ずっとさせてください。